きょうの社説 2010年7月19日

◎南砺里山博 地元住民の参加も重視を
 南砺市全体を博覧会場に見立てて里山の魅力を発信する「南砺里山博」が、24日から 初開催される。あす20日にはプレイベントも開かれる。2年前の東海北陸自動車道の全線開通によって北陸の新たな「玄関口」となった南砺市は、仏・ミシュラン社が刊行した観光ガイド本で三つ星評価を得ている世界遺産の五箇山合掌造り集落をはじめとする豊富な観光資源を有しているだけに、さらなる誘客に大いに期待したいところだが、それと同じくらい重視してもらいたいのは地元住民の参加である。

 里山博のモデルであり、同じく24日に初日を迎える金沢市の「かなざわ・まち博」に は、毎年大勢の地元住民が参加している。普段は見過ごしてしまっているようなまちの魅力を、楽しく歩きながら再発見できる機会として、多くの住民に受け入れられ、支持されているからこそ、まち博は10年以上も続いていると言っていい。里山博でもぜひ受け継いでもらいたい部分である。

 どんなイベントでも、継続や進化の原動力になるのは地元住民の盛り上がりであり、住 民から見向きもされなければ、いずれは観光客にも飽きられてしまうに違いない。10月末までの100日の会期中、里山博の熱気を持続させるためにも、南砺市や開催委員会の関係者には、開幕後もより一層、住民に対する参加呼び掛けに力を入れることを求めておきたい。

 南砺市は2004年11月、富山県内の「平成の大合併」の先陣を切る形で城端、平、 上平、利賀、井波、井口、福野、福光の8町村が合併して誕生した。以来、5年以上を経ているとはいえ、まだ一体化への途上にある。地元住民が楽しいイベントを通じて、旧町村の垣根を越えて歴史や文化、自然に関する知識を深めることは、融合を加速させる有効な手だてにもなる。里山博を、住民の「ふるさと教育」の機会としても活用してほしい。

 会期の前半は夏休みと重なっている。せっかく多彩なプログラムが用意されているのだ から、地域の将来を担う子どもたちにも積極的に参加を促したい。

◎改正移植法施行 救急現場の充実が急務
 改正臓器移植法の施行で、本人意思が不明でも家族が承諾すれば、15歳未満の子ども を含めて脳死での臓器提供が可能になった。1997年の法施行以来、臓器提供は86例を数える一方、移植を待つ人は約1万2千人に上る。法改正は提供者を増やし、移植医療を定着させるのが狙いである。

 だが、法的に臓器提供条件が緩和されても、狙い通りにドナー(提供者)が増えるとは 限らない。共同通信社の調査では、全国の臓器提供施設で子どもに対応できるのは13%にとどまっている。子どもの脳死判定が大人以上に困難であることや、脳死判定から臓器摘出に至るまでのドナー管理が現場に大きな負担を強いるため、準備が積極的に行われているとは言い難い面がある。家族が臓器提供の判断を迫られるケースで、その説明や心のケアをどうするかといった問題も生じている。

 改正法が昨年7月に成立した背景には、世界保健機関(WHO)が海外渡航移植を制限 する動きがあった。国内で移植数を増やし、海外に頼らないシステムをつくることは大事だが、そのためには脳死患者と向き合う救急医療の体制充実が急務である。移植医療も、救命治療が尽くされたという信頼感があってこそ成り立つ。国も現場任せにせず、家族のケアに当たるスタッフの増員を含め、手厚い支援策を講じてほしい。

 日本では「脳死は人の死」という概念が十分に浸透せず、臓器提供の意思表示カードを 所持している人は1割程度にとどまっている。個々の死生観は決して法律で割り切れるものではないが、無関心層が多いのも実情だろう。これからは政府の啓発活動が一層問われることになる。

 スーパーやコンビニなどで新たなカードの配布が始まった。運転免許証にも更新時には 提供意思が表示できる記入欄が設けられる。家族がつらい決断を迫られるケースを想定すれば、本人意思を明確にすることの意味はこれまで以上に重くなる。改正法施行を、一人一人が臓器提供や脳死の意味について考えるきっかけにしたい。