小栗旬、苦労の分だけ充実感「シュアリー・サムデイ」で監督デビュー

「小出恵介ありきで、やっていった部分がすごく強い」と語った小栗旬監督

　１７日に封切られた映画「シュアリー・サムデイ」で監督デビューした俳優の小栗旬（２７）が本紙のインタビューに応じた。同映画は小栗が１０代の頃から「いつか、きっと（＝シュアリー・サムデイ）」と温め続けていた青春群像劇。構想から始動まで９年余りを要した。監督・小栗が、撮影にいたるまでの苦悩、体重を８キロ減らしながら奮闘した撮影期間中、今後への思いなどを熱く語った。

　映画を撮ることは長年の夢だった。小栗は「漠然とだけど、１０代の頃から自由に映画を撮ってみたい気持ちが強かった」。構想から９年余り、タイトルにある「いつか、きっと」の思いを胸に秘めて過ごしてきた。

　０４年頃から原案を書き始め、０５年末に渋谷の居酒屋でフジ系「ハングリーキッド」で仕事をした「電車男」「花ざかりの君たちへ～イケメン♂パラダイス～」の脚本家・武藤将吾氏に依頼。夢への一歩を踏み出す。

　「最初は『２０歳で人生が変わるとして、再び性別を選べるならどうする』という性転換装置の話だったけど、武藤さんは『性転換の話でひたすら持っていくのは厳しい』と。それだったら、僕の高校時代の仲間（とのきずな）の話をベースに、信頼する武藤さんの考える青春映画を作って下さい、とお願いした」

　撮影は０９年７、８月の２か月間。道のりは険しく、苦難の連続だった。石田三成役を演じたＮＨＫ大河「天地人」を終えたのがクランクイン３日前。合間をぬって、限られた時間の中でロケハン、衣装合わせなどを行ってきたが、スタートラインに立つ前に疲労こんぱい。同２日前にはプロデューサーに「本当にすいません。やめさせてもらえませんか」と“泣き”のメールを送ったほどだ。

　「初めてなのに、何でこんな過酷な状況で撮らなきゃいけないのか。頭の中の整理もついてない。集まってくれた皆に示しがつかない。だったら、このままやめてしまった方がいいと思った」。ギリギリの精神状態では「完ぺきな準備ができたからって良い作品になるわけでもない。準備不足で、違うエネルギーが生まれるかもしれない」と開き直るしかなかった。

　撮影中は「毎日揺らいでいた。本当に大丈夫なのか、このままでいいのか。家に帰ったら自問自答していた」が、役者を不安にさせまいと、現場では一切弱音を吐かなかった。一度もベッドで寝られず、体重も８キロ近く減少。「この映画のためにいろいろな人の思いがあって、多くのキャスト、スタッフが動いてくれた。やると言ったからには、最後までやるしかない」。責任感だけが小栗を支えた。

　演出には俳優としての経験をフルに生かした。主演映画「クローズＺＥＲＯ」シリーズの三池崇史監督（４９）は影響を受けた一人。「うまく演じられない役者には『全然、焦らなくていい。これを撮るために来てるんだから』と。実際に、僕がかけてもらった言葉をかけましたね」

　苦労が尽きなかったぶん、得たものも大きかった。「役者の世界の仕事が好きだ」と再確認できたことは財産になった。「好きな職業に就けている人はめったにいない。こうして映画を撮らせてもらえたのはありがたいし、本当に幸せだなと思う」

　出来栄えは「いろいろな評価があると思うけど、それはそれで受け止めたい。ただ、評価されるためではなく、観客に楽しんでもらうために作った」ときっぱり。この経験を糧に次回作につなげていくつもりだ。

　「チャンスがあれば、どんどん撮っていきたい。何となくこんな話にしようと、今、情報を集めて走り書きさせている段階。自分で脚本も書きたい。その時が来るまで温めておこうと思います」

　◆小出が器のデカさ絶賛
  「小栗監督はこの日、主演の小出恵介（２６）、小西真奈美（３１）らと東京・丸の内ピカデリー１で行われた同映画の初日舞台あいさつに出席した。信頼する小出から「３年前、目黒の飯屋で初めて台本を見せてもらった。これだけ素晴らしい作品に仕上がったのは、旬の人柄、人としての器だと思う。自信を持ってほしい、お疲れさま」とねぎらいの言葉。最後は、登壇者全員からサプライズで胴上げされた。

　◆小栗　旬（おぐり・しゅん）１９８２年１２月２６日、東京都生まれ。２７歳。１１歳で児童劇団入団。９６年ＮＨＫ大河「秀吉」で石田三成の少年期を演じる。０２年「羊のうた」で映画初主演。０８年日テレ系「貧乏男子　ボンビーメン」で連ドラ初主演。代表作はドラマ「ごくせん」「花より男子」、映画「キサラギ」「クローズＺＥＲＯ」、舞台「カリギュラ」「ムサシ」。主演映画「岳―ガク―」が来年公開予定。趣味は野球、音楽観賞。身長１８４センチ。血液型Ｏ。

　◆シュアリー・サムデイ　文化祭復活のため、学校を占拠した高校３年生の巧（小出）、京平（勝地涼）、秀人（綾野剛）、和生（鈴木亮平）、雄喜（ムロツヨシ）。はったりのはずの爆弾が誤爆し、責任を取って中退を余儀なくされる。３年後のある日、巧の前に初恋の女性（小西）が現れたのを機に、退屈な日々が一転。５人は大きな事件に巻き込まれていく―。