目に映る、果てしなく続く白。
こんな事を唐突に言い出したら、コイツ何言ってんだ?みたいな目で見られるだろうから、少し説明しようか。
バイト先のコンビニでレジ打ちをしていた時の事だ。
急に覆面の男が入ってきて、金を出せと言い出したもんだ。まあ、所謂コンビニ強盗だよね。
ふ、嘗めるなよ。俺は大の格ゲー好きだぜ? とか思ってたんだが、警察が来てパ二くって錯乱した犯人に刺された。
あ、これは死んだ。ドス、ザク、スイーツ(笑)
ここで目覚めて、今の状況に至るという訳だ。
……あれ、俺もよく分かんなくなった。
まぁつまりは、俺は死んじゃって天国行きを待ってる訳だ。
そうと分かれば、もう一回寝よ。おやすみ。
「あぁ、貴方で最後ですね? 寝てないでこちらに来てください」
我の眠りを妨げるのは誰だぁ、と起き上がってみると、明らかに『私、天使です』って姿をした人が立っていた。
まぁ天使、だよね。頭の上に輪っか有るし、翼有るし、白い服だし。
安直すぎる? 馬鹿言うな。天使はこの姿が基本だろ、常識的に考えて。
「さ、呆けてないで行きますよ」
「行くって、何処にですか?」
「行けば分かります。手を」
手を差し出されたので、恐る恐る握ってみた。
色白だなー。肌スベスベだし、流石は天使様ですね。
あれ、でもこの天使様、性別は?
男……だったら、俺は男に欲情した変態ということになるんだろうか。
「着きましたよ」
ちょっと自分に絶望して、頭を抱えていた俺に、天使様の声が掛かった。
頭を上げると、今から面接します、みたいな部屋に居た。
「さ、席に着いてください」
「あ、はい」
促されるままに、目の前の席に座る。
と言うか、なによここ? まさか面接する訳じゃない、よね?
面接とか、高校入試で直前に内容を全て忘れた俺には、軽くトラウマものだぜ。
「既に気付かれているでしょうが、今から貴方の来世について話したいと思います」
おおう、面接キタコレ。
と言うか来世だって。今流行りの転生フラグか?
「ここは、人が天国と呼んでいる地へ進む者を、細かく選定する場です」
「成程、よく分かりません」
「――なら相槌を打たないでください」
サーセン。反省してます。
「続けますよ? 貴方は、我々が定めた基準で天国行きとなりました。なので、こうして私が貴方の前に現れたのです」
ほう、よく分からんが、俺は天国に行ける訳だな?
それは有難い。地獄に行って、賽の河原で石積みはごめんだからな。
「こうして話している間も、貴方の魂を見させて頂いてます」
「イヤン、恥ずかしい」
とてつもなく冷たい目で見られたので、少し自重する。
俺は基本的にヘタレで小市民なのだ。
「……ふむ、貴方はとても臆病なのですね。だから他人に必要以上に干渉しない」
これって人権侵害じゃないか?
あ、俺死んでたか。
「ですが、特に際立った部分も無い。上に行くほどの人徳も持ち合わせていませんね。
貴方は、第三階層に行って――――」
「ちょっと待った!」
俺を丁寧に罵倒していた天使様の言葉を、若い男の声が遮った。
それは悪戯小僧のような、無邪気な声だった。
だが、天使様の反応は違った。声の主を畏れるかのように、直立不動になる。
そんなに恐ろしい人が来るんだろうか?
「ふはははは! 俺様、降・臨!! そら、畏れ敬えー!!」
……なんだろ、ただ痛々しい人にしか見えないぞ。
でも天使様は跪いてるし、何者?
「へい、少年。君は平凡がつまらないと感じた事はあるか?」
「いえ、別にないですが――」
「素晴らしい!!」
俺が言い切る前に、大音量で重ねてきた。とても耳が痛い。
「日常に何の不満も無い人間が、いきなり非日常へ飛び込んだらどうなるか、君には体験してもらうぞ!」
意味が分からねぇ。
この人、頭大丈夫だろうか?
「さあ、下界には『善は急げ』という言葉も有る事だ。今すぐ行ってもらおうか!」
「……へ?」
言ってる事が分からないままに、話はとんとん拍子で進んでいたようだ。
なんて暢気な事言ってる場合じゃない! やめて、俺は天国に行きたいんだ!!
「でも、そう簡単に死なれても困るから、不死身にしとくぞ」
嬉しくないわぁぁぁぁ!!
はっ、そうだ、天使様、貴女なら俺を助けてくださるはず!!
「……頑張ってください」
頼りねぇ!! そのサムズアップはなんなんだチクショー!!
「じゃ、行ってらっしゃーい」
「恨んでやるーーーー!!」
足下に真っ暗な穴が開き、俺は重力に逆らわず落ちた。
あぁ、これなら地獄行きの方がマシだった…………。
転生したら強くなる主人公が多かったから、弱くしてみたかった。
次の話で主人公の弱さが語られるれる、かも。
処女作なので、作者の妄想が続く限りは書いていきたいと思います!