エクシアさん いち
私はお姉様に殺された。
体をくれを言われて問答無用で殺された。
ふざけんなばーかー! お姉様の嘘吐きー! と泣いたところでどーしょーもない。
とはいえ、私は『イノベイド』だ。男と女がどっかんどっかんヤり合って出来たのではなく、人工的に作られたヒトというヤツさ。
そんな私の意識はコンピュータのメモリの中に存在する。『ヴェーダ』と呼ばれる超すげぇ人工知能の中だ。何が凄いって、私達の様な作られたヒトは記憶や意識がそこに記録される。肉体が死んでもヴェーダに書き戻され、新しい肉体で復活出来る。表の世界の宗教家とかビックリよね。
でも私が表に出られる事はもう有り得ない。お姉様は新しい肉体を得られる様便宜を図る、などと言ってくれたけど、そのお姉様はそんな申請を出す前に死んでしまって、更に自意識を削られて『ハロ』に押し込められて、申請もテッタクレもなくなったからだ。
つまり私は誰からも忘れられた。
美味しい物を食べたかった。綺麗な服も着てみたかった。恋もしたかった。
でもみんな駄目。
ニートの如く情報の海を眺めるだけ。空しい。寂しい。
ところがある日、私は『引っ張られた』。
あるデータをちんたら覗いていたら、そのデータごとある何かにダウンロードされてしまった。そこは『モビルスーツ』のコンピュータだった。
名を『エクシア』という。
ところで私のいた組織は『ソレスタル・ビーイング』という。世界の揉め事に喧嘩売りまくって争い事をなくそうという、無茶な集団である。そのために何百年もかけて準備をしている真っ最中なのだ。というか既にヴェーダが世界を裏から牛耳ってまっせ。後は表でどうするかなのだ。
で、その表の先兵となるのがモビルスーツ。通称『ガンダム』。そして私がいるエクシアなのだ。
そして私は今のところヴェーダに戻れない。結論を言えば、エクシアが破壊されれば私は本当に死ぬ。更に死ぬまでの間、こあんなカーボンのカタマリに閉じ込められた私は、ヒトらしい事なんて何も出来ない。
踏んだり蹴ったりだよチクショー!
ただエクシアを建造して整備するヒト、イアンさんは私を大事にしてくれた。でもメカとして愛されているだけだ。イアンさんは何も悪くはないけど。
死にたかった。こんなに寂しい思いをするなら、訓練でも実戦でもいい、さっさと壊れ、いや死んでしまいたい。
ある日、いやその日か、ある少年が私を見上げていた。
運命の相手に出会った、私にはそうとしか思えない目で彼は見上げていた。
音声を拾ってみると、彼はどうやらエクシアの『ガンダムマイスター』らしい。つまり私に乗るヒト。
ダウンロードされた個人データによると、彼の名は『刹那・F・セイエイ』。
それから、私と刹那の訓練の日々が続いた。
興味本位で人事記録を覗き、刹那のプロフィールを読んでみた。軽くヘコんだ。
中東の小国クルジス生まれの彼は、レジスタンスに騙されて両親を殺しレジスタンス行き、騙されたと知り組織に反抗するも返り討ちに遭い、最前線で使い潰された日々、自分以外全員戦死した戦場から帰還したとこをソレスタル・ビーイングにスカウトされ今に至る。
何だこれは? 何で彼はここまで死んだ方がまだマシなボロ雑巾にならなければならなかったのだ? 彼の体は生傷どころじゃない。弾痕は軽く4ダースはあり、性的な面でも酷い目に遭っていたのは検査で判明している。神とやらはサディストのクソヤローか? 綺麗に死んでニートになった私の不幸なんて甘チャンもいいところだ。
しかも周りからの評価はあまり芳しいとは言えない。特にイノベイドのメガネ君が「何でこんな適正も低いヤツが選ばれたのだ?」と公然と言ってくる。正規・予備引っくるめたマイスター達の中では力量は低いのは、残念な事に事実だ。
でも私は知っている。マイスターの中で彼が一番ガンダムを大事にしてくれる。イアンさんの「大事」とは違う、信仰とか憧れとか信頼とか、そういった何かがゴッチャになって私に伝わってくる。
いつしか私は、刹那と共にいたいと思うようになった。
あぁそうか。これが恋なんだ。
運命の日はやってくる。ソレスタル・ビーイングが遂に宣戦布告するのだ。
そのためにはまず、私含めた各ガンダムが表舞台に乱入してキルキルぶりを見せつける。そして創設者の声明を全世界に流す。
大気圏からダイブるる私と刹那。彼は全く落ち着いていた。何度も訓練していたからだけではない。起こりえるべき事として心の準備が出来ていた、そしてガンダムといるという信頼がそうさせているのかもしれない。嬉しいじゃないですか。
そんな私はステルバンボー! と無駄にはしゃいでダイブしてました。彼に知られると恥ずかしいわ。
やって来ましたA.E.Uの新型モビルスーツお披露目会場。乱入してもぼるスーツフルボッコするのが私達の任務。
それにしても表の世界のモビルスーツはこんなレベルなのね。表のモビルスーツは空くらい飛べるけど、それは航空機的な次元での話。こちとら、アニメの格闘家みたいな重力ガチ無視飛行だ。はっはっはざまーみろ。
尤も、これの前の世代設計したのってイアンさんなのよね。飛べない物を飛ばして、ソレビに身を置いてからは更にすんげぇ飛ばし方を追求したヒトだ。曰く、「人形を無理矢理ぶん投げてるようなモノ」だってさ。だから空力特性の良い飛行機型に変型するガンダムも用意してあったり。
それはそれとして、目の前に構えてるモビルスーツ、の中のヒトが恫喝しまくって斬りかかって…
刹那はとっとと解体しました。いじょ。あぁあっけない。
これが、私と刹那の初陣。
私は彼といつまでも飛んでいく。
(おまけ)
エクシアの整備中にデータログから謎のポエムを発見したイアンは、見なかった事にした。
あとがき。
ゼロ魔の方が遅々として進まなかったので、ムシャクシャして30分で書いた。後悔する気は全くない。
あとステルバンボーは、昔、某號!なロボット漫画に登場した素敵なロボット名。というか誤植。さすがに双葉文庫版では直ってた。