闘魂列伝I相撲編 327号の目次   粗食のすすめ

こちら仙台まる秘情報局

Report1:向山地下に眠るナゾのトンネル

327号6面・大学

 ある晴れた日の昼下がり。その日も局員は、いつものように惰眠を貪っていた。そんな平和を、一本の電話が打ち壊した。局員のタカハシがのっそりと起き上がり、不快な面持ちで受話器をとった。電話は、局員のスズキからのものである。

 「あ、もしもし、タカハシさんですか?え、ボスは寝てるって?相変わらずですねぇ。あ、そうそう、噂によるとですね、向山の地下にトンネルらしき長い穴があるらしいんですよ。そんな話聞いたこともないし、向山住人の僕としてはぜひ調査してみたいのですが…」とのことである。電話を受けたタカハシは、深い眠りの中にある局長のナカムラ、通称ボスを叩き起こし、スズキからの電話の内容を伝える。

 局内では無類の低血圧を誇るナカムラは、少々苛立ちながら、しかしまんざら興味が無いでもないように、タカハシの話に耳を傾ける。「なるほどな…。いつもは使えないスズキだが、今回の話は面白そうだな」そう言うと、ナカムラは早速調査部隊を結成し、調査に乗り出した。

 そうそう、我々について説明するのをすっかり忘れていた。我々「こちら仙台マル秘情報局」は、仙台の穴場スポットを、実際にその地に赴いて調査し、読者の皆さんに周知することを使命とする組織で、新聞部編集長の下に今年六月をもってめでたく結成された。

 …と、我々の説明はこのくらいにして、話の本筋に戻ろう。

 調査部隊のメンバーは、ナカムラ、タカハシ、スズキの三人である。というか、これで局員はすべてであるというのは絶対に秘密だ。この三人のうち、ナカムラとスズキは広瀬川沿いで聞き取り調査を行い、タカハシは資料室で調べることにした。

 ナカムラとスズキが聞き取り調査を始めて二時間ほど経ち、スズキが「もう帰りたい」と漏らし始めた頃、突然ナカムラの携帯が鳴った。

 「ボ、ボ、ボ、ボス。つ、ついにそのト、ト、トンネルのものと思われる情報をにゅ、にゅ、入手しました。」興奮のあまり、電話口のタカハシは極度にドモっている。

 タカハシの話によるとこうだ。そのトンネルはとても古く、使用目的は不明であるが、追廻から愛宕神社周辺にまで伸びる巨大なものである。追廻側の入り口は封鎖されているが、愛宕神社側の入り口は今でも開いている可能性がある、ということであった。

 すぐさまナカムラとスズキは愛宕神社に車を走らせた。そしてタカハシも程なくしてそこに到着した。

 早速三人は周辺の調査を始めた。しかし、トンネルの入り口らしきものは見つからず、スズキが「もう帰りたいよー」とぼやき始めた、ちょうどそのときである。うっそうと茂る草木の中から、大きな穴が不気味にその顔をのぞかせた。

 「こんな薄気味悪いところには入りたくない」とでもいったような顔をしたスズキを横目に、使命感に燃えるナカムラはトンネルに向けて歩き始めた。タカハシも進み始めたものであるから、スズキも仕方なく、といった様子で彼らのあとを行くことにした。

 入り口に立ち、内部をのぞいてみるがまるで何も見えない。壁に触れると、ところどころ苔むしており、足元には泥が深く堆積していた。しかし三人は意を決し、ゆっくりと歩き始めた。夏だというのに、トンネルの中はとてもひんやりとしており、手元の温度計で十六度だった。

 トンネルに入ってから一時間くらい経った頃、突然スズキが大声を上げた。

 「あ、あ、足が抜けないよぉ!」

 ナカムラとタカハシがスズキの両手をつかみ、スズキを救出した。この様子だと、この先もかなり危険だ。安全を第一に考え、先に進むのはよそうとナカムラは提案し、タカハシもそれに同意した。スズキが満面の笑みを浮かべた。「やった」スズキは心の中でそうつぶやいた。

 帰りはスムーズで、行きの半分の時間で入り口にたどり着いた。と、そこには、見知らぬ老人がこちらを向いて佇んでいた。

 「どうであったかのぅ。君らはなかなか勇気のある青年だと見た。よろしい。教えてしんぜよう」そういうと、こちらの心理がまるでお見通しであるかのように、老人はトンネルについて語りだした。

 このトンネルは、八十年以上も前に作られ、名称を「仙台愛宕下水力発電所導水トンネル」という。その名の通り、水力発電のため水を川から引くために使われた。発電所は愛宕神社の周辺にあったが、建造の約十年後には操業が停止された。トンネルの総延長は約一・四キロメートルである。トンネルには、主抗のほかに、五つの横坑がある。標高は、上流の竜の口渓谷側が約二十四メートル、下流の愛宕山側で約二十三メートル、落差は一メートルに満たない。トンネルは発電所の操業停止から現在まで、一切使用されておらず、今後の具体的な使用計画も立てられていない。

 老人の話を総合すると、大体こんな具合だ。

 本件について興味のある方は、当情報局までお越しください。場所は、新サークル棟三二〇(新聞部内)です。そして、当情報局で調査してほしいものがあれば、ぜひ相談にお越しください。

※この「仙台愛宕下水力発電所導水トンネル」に関する情報は、すべて事実に基づいています。


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