いったい、菅直人首相は参院選の大敗をどう認識しているのだろう。政府は政治主導に向けた目玉として掲げていた国家戦略局構想を事実上断念、現在置かれている国家戦略室を「知恵袋」的なシンクタンクに格下げする方針を固めた。
国家戦略室については官房長官との役割分担などをめぐる問題が表面化していた。だからといって昨年の衆院選であれほど強調していた公約を参院選で十分説明もせず変更するのであれば、有権者への背信に等しい。政治主導の理念も後退させる変節と言わざるを得ない。
「政策調整はせず、シンクタンク機能に重点を置く」との仙谷由人官房長官の説明に、耳を疑う思いである。民主党は衆院選マニフェストで首相直属の「国家戦略局」を置き、官民の人材を結集して政治主導の予算編成や国家ビジョンを策定することを明記していた。
ところが政権交代が実現すると法整備は進まず、準備段階として国家戦略室が置かれた。戦略室は内閣の基本方針の企画立案や総合調整にあたるとされたが、官房長官らとの役割分担がうまくいかず、権限に法的な裏付けもなく、なかなか機能しなかった。そんな中で戦略室の機能縮小は構想の事実上の断念である。
最大の問題は、方針転換が民主党政権が掲げる政治主導の理念後退を意味することだ。首相や仙谷氏、玄葉光一郎政調会長らが協議し予算編成に向け調整するというが透明性に乏しく、実態は財務省を中心とする官僚主導になりかねない。調整機能を持たない戦略室の「知恵」が生かされる保証はない。
菅内閣は政権発足以来、党政調を復活させる一方で官僚との協調路線を打ち出している。民間人や政治家も含めた政治主導を目指すなら、何らかの枠組みの構築が不可欠なはずだ。政府内調整や党側との協議を円滑に進めたいからといって、司令塔機能をなくすのでは本末転倒だ。
参院選で首相が有権者にはっきりと説明していなかったことも問題だ。むしろ民主党の参院選公約では国家戦略室設置を実績として掲げ「経済運営や税財政の基本方針を決定しています」とアピールしている。投票直後の転換に理解は得られまい。
官僚や党との関係をめぐり、鳩山内閣が混乱したのは事実だが、自民党政権時代の運営に回帰しては、行政の無駄撲滅や地域主権改革など到底、実現しまい。菅内閣の改革マインドの後退を国民は厳しい目で見ているはずだ。このままでは、みんなの党の渡辺喜美代表が言う「菅直人さんの草の根の冠が取れて『官』内閣」との批判通りになりかねない。格下げ方針を撤回すべきである。
毎日新聞 2010年7月17日 2時35分