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高齢化:「65歳以上7割」の町 25年後、誰が支える

住民の大半が70歳以上の持倉集落=群馬県神流町で、本社ヘリから西本勝撮影
住民の大半が70歳以上の持倉集落=群馬県神流町で、本社ヘリから西本勝撮影

 埼玉、長野両県にほど近い群馬県神流(かんな)町。恐竜の足跡が日本で初めて見つかったことで知られる同町が将来、もう一つの「日本一」になることが分かったのは08年暮れだった。

 町の人口は現在2532人。1285人は65歳以上で、いまも高齢化率が5割を超す「限界集落」だが、国立社会保障・人口問題研究所が同年12月に発表した推計は衝撃だった。2035年には町の人口が920人余りに減少。14歳以下はわずか25人前後、15~64歳の働き手が約250人に対し、65歳以上は650人と7割を超え、高齢化率日本一となる。1人の働き手が2.5人もの高齢者を支える社会が四半世紀後、存在し続けられるのだろうか。

 長野に抜ける国道462号から林道に入り車で30分。町北西部の山あいにある持倉集落は、雨戸を閉め切った空き家も目立つ。「昔は山の斜面一面が畑で80人近くいたときもあった」。隣村から嫁いで50年のキヨエさん(75)=仮名=が教えてくれた。現在は8世帯12人ほど。大半が70歳以上で半数が1人暮らしだ。キヨエさんも1人暮らしで町を出た子どもから同居を勧められたが、住み慣れた集落を離れるつもりはない。「私たちの世代で集落はおしまい」

 町中心部の国道沿いには役場のほか、食堂や民宿、食料品店が並ぶが、シャッターを閉め切ったままの店も。山間部の集落から「都」と呼ばれ栄えた昔の面影はない。中心部に住むハルキさん(78)=同=は、ため息をついた。「勤め先は役場か農協ぐらい。若い衆は町をどんどん出ていく」

 川崎市の会社員、イサムさん(43)=同=は高校卒業後、町を出て20年以上がたつ。妻(40)と小学生の子ども2人、妻の母親と5人暮らし。70歳を超えた両親は町に残る。「家族を養える仕事が故郷にはない」とイサムさん。両親に介護が必要になっても仕事がなければUターンもできない。

 町の高齢者の多くは「動けなくなれば施設に入る」と話す。しかし、受け入れ施設は圧倒的に足りない。

 町唯一の特別養護老人ホーム「シェステやまの花」を7月上旬の昼過ぎ、マサフミさん(85)=同=が訪れた。短期入所中の妻マチコさん(88)=同=は「一人では下着も上げられないのよ」と話す。長期入所者は定員いっぱいの50人で入居待ちの高齢者は45人。要介護認定3のマチコさんも長期入所したいが要介護度の高い人が優先され、マチコさんは20人待ち。「子供は町外にいるが彼らには家族もいる。同居は考えていない」。マサフミさんは口を固く結んだ。

 施設の人材確保も大変だ。従業員60人中15人は「神流町と周辺」以外からの通勤。遠方からの通勤者は年々増える。介護財政への不安も募る。ホームの今井牧仁事務長は「神流はほとんど国民年金受給者。個人負担は増やせない。国・自治体の財政も悪化している。無策のままでは手遅れになる」と話す。

 神流町の現実に、いずれ多くの市町村が直面する。65歳以上人口が40%超の自治体は05年時点で51だが、35年には東京都練馬区など753に急増。現在の市町村の半数近くに達する。ほかに大阪市西成区、北九州市門司区などの大都市圏も4割を超す。

 過疎、高齢化問題に詳しい高崎経済大学の西野寿章教授は「神流町は若者の雇用や介護の担い手を町の外に求められたが、日本全体が神流町化した時、逃げ場はあるのか」と指摘。国立社会保障・人口問題研究所の小池司朗氏も「今後は都市部の高齢層の医療、介護を若い世代が支えきれるかが深刻な問題になる」と警鐘を鳴らす。

毎日新聞 2010年7月17日 22時40分(最終更新 7月17日 22時59分)

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