知事「断腸の思い」 早期決着迫られ決断

(2010年7月16日付)

 「断腸の思い」―。民間種雄牛の救済を求め、国と真っ向から対立していた東国原知事が15日、姿勢を転じて種雄牛所有者に殺処分受け入れを求めた。

 国との協議決裂以降、着地点が見いだせないまま児湯地域の移動・搬出制限解除、さらには県全域の制限解除が不透明となる事態に。「県民生活に影響が出る」と強まる声に、知事も「部分解除」を条件に決断せざるを得なかった。ただ、種雄牛所有者は「殺処分を受け入れるかどうかはまだ決めていない」と話しており、問題の決着は16日以降に持ち越された。

 種雄牛6頭の所有者である高鍋町の薦田長久さん(72)に殺処分を要請した知事は、その後、県庁に戻って会見。「安全宣言するためには6頭の殺処分しか選択肢はないと伝えた。断腸の思いで、国の判断による殺処分に理解いただけないかと申し上げた」と淡々と語った。

 「私の中で(児湯地域や県全体の)制限解除、非常事態宣言解除は非常に重要。県民生活全体にかかわることだから」とする一方で、「ベターなのは国による抗体検査で種雄牛を救うことだ」と述べ、国の方針に今でも納得できない本心ものぞかせた。

 知事へ早期決着を求める声は日増しに強まっていた。15日に急きょ知事と会談したJA宮崎中央会の羽田正治会長は、宮崎日日新聞社の取材に対し会談の内容は明かさなかったが、「全体を見て何をしないといけないか、ということだ」と述べた。

 また、牛や豚を殺処分されたワクチン接種農家などから、不公平感を訴える声は根強かった。児湯・西都地域の牛・豚の生産者部会代表11人が13日、種雄牛の殺処分を求める要望書を県に提出する事態にまで発展した。

 さらに、県庁内からも制限解除の見通しすら立たない状況が、多方面に及ぼす影響を不安視する声も。ある県幹部は「制限が解除がされなければ、経済がストップし、商売できない日が一日一日延び、大きな損失が出る。多くの県民が生活苦に陥ることになる」と話した上で、「これで国の代執行となれば、法律を守らない、公平公正な判断をしない県と見られ、(国からの)予算も最低限しか付かない恐れすらある」と国との関係悪化を心配した。

 薦田さんは15日、代理人弁護士と宮崎市内で打ち合わせ。その後の取材に対しては何も答えず、代わりに弁護士が「今週中は提訴はしない。本人は悩んでいるが、明日までに態度を決める」と話した。

【写真】種雄牛殺処分要請について「断腸の思いだ」と述べ、悔しさをにじませる東国原知事=15日午後、県庁