「日本発、先端医療開発の最前線」

日本発、先端医療開発の最前線

2010年7月9日(金)

「iPS細胞」がもたらす医療革命

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 主力薬の特許が2010年前後に相次いで失効し、後発医薬品にシェアを奪われて収益が激減する「2010年問題」。多くの日本の製薬会社は、バイオ医薬や抗体医薬といった次世代の医薬品へのパラダイムシフトに乗り遅れ、かつてない危機に立ち向かおうとしている。

 その一方で、次世代をリードする可能性を秘めた先端医療技術の芽は確実に存在する。この連載では、2010年7月5日号の特集「武田も揺るがす『2010年問題』」の連動企画として、世界の先頭集団を走る日本発の先端医療技術を取り上げる。

 第2回は、人の皮膚などの体細胞を様々な組織や臓器の細胞に分化する「iPS細胞」の研究で知られる、京都大学iPS細胞研究所の取り組みである。iPS細胞は、創薬や再生医療などへの応用が期待されている。2007年にヒトiPS細胞の作製を発表して脚光を浴びた山中伸弥・iPS細胞研究所長を先頭に、どのようなイノベーションが起きていくのかを紹介しよう。

 世界をあっと言わせた最先端の研究の中心地が、1200年以上の歴史を持つ京都の地にある。京都大学のiPS細胞研究所だ。

 「iPS細胞」とは、人の皮膚などの体細胞に特定の遺伝子を導入することで、様々な組織や臓器の細胞に分化する機能を持った多能性幹細胞である。簡単に説明すると、皮膚から採取した細胞に手を加えて培養することで、皮膚や臓器といった人の組織や器官に成長させることができるのだ。

 このiPS細胞の第1人者が、京大のiPS細胞研究所で所長を務める山中伸弥教授である。2007年にヒトiPS細胞の作製を発表して脚光を浴び、その後も創薬や再生医療などへの応用を念頭に研究を続けている。iPS細胞の技術が確立することで、いったいどのようなイノベーションが医療の世界に起きるのか。

病気のメカニズムを解明、創薬に応用

京都大学iPS細胞研究所の中畑龍俊・副所長(写真:京都大学 iPS細胞研究所)

 まず1つが、病気の原因解明につながり、創薬に応用できる可能性だ。例えば遺伝性疾患の場合、患者から作製したiPS細胞を患部と同じ組織に分化させ、病気にかかっていない人のiPS細胞の分化プロセスと比較する。

 すると、どの段階で異常が起きて病気になるのかが分かる。病気の原因が生育環境なのか、遺伝的な理由なのかなども見えてくるのだという。患者の体内から採取するのが難しい組織であっても、iPS細胞から分化させれば手に入れることができるので、生体検査が可能になる。

 こうして疾病が発生する原因やメカニズムが分かれば、治療法や治療薬を開発する道が開ける。iPS細胞研究所副所長の中畑龍俊教授は、「実際にiPS細胞が創薬に結びつくことが分かってきた」と意気込む。

 例えば、脊髄性筋萎縮症(SMA)という筋肉が働かなくなる難病は、運動ニューロンと呼ばれる筋肉の動きを支配する神経細胞が機能しなくなることが原因とされている。この運動ニューロンの機能不全を抑制するには、抗てんかん薬のバルプロ酸が効果を示すという。

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 「なぜバルプロ酸が効くのかを解明できれば、より効果の高い薬を作ることができるはず」と、中畑教授は言う。このほか、パーキンソン病やアルツハイマー病など、これまで治療が難しいとされてきた病気の治療法も、iPS細胞によって糸口が見えてくることが期待されている。

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日本発、先端医療開発の最前線

昨年の新型インフルエンザの流行で明らかになった国産ワクチンのお寒い供給体制。突然の輸入に中小主体の国産メーカーは対応できず、海外から緊急輸入する事態を招いた。輸入品がなければ立ち行かないのは、ワクチンだけではない。医療の現場で使われる医療機器の大半も外国製だ。国内製薬会社がひしめく医療用の医薬品でも、海外の製薬会社の製品がシェアを伸ばす。どこを向いても輸入品頼み。それが医療大国ニッポンの現実だ。だが、この国にも次代の医療の主役となり得る技術の種が芽吹き始めている。そうした先端医療開発の最前線の現場をリポートする。

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