きょうの社説 2010年7月17日

◎人間国宝に2氏 工芸王国石川に盤石の厚み
 石川県内から蒔絵(まきえ)の中野孝一氏、友禅の二塚長生氏が人間国宝に決まり、陶 芸、染織、漆芸、金工、木竹工という伝統工芸の主要5部門に、過去最多となる9人の人間国宝がそろうことは、多彩な技が受け継がれてきた工芸王国石川の盤石の厚みを一層際立たせる栄誉と言えるだろう。最高峰の陣容が名を連ねる芸術文化の薫り高い石川の風土をあらためて誇りに感じる。

 中野氏は、工芸界の重鎮・大場松魚氏の高弟であり、同じ蒔絵で師弟がともに認定者に 名を連ねることは、伝統の技の継承という点でも、「王国」をアピールする快挙であろう。静的なイメージの強い漆芸の世界で、流れるように線描を駆使する中野氏の作風は、多面的な器の面白さを生かして、動植物を自在に遊ばせる躍動的な筆致で異彩を放つ。

 木村雨山氏以来の県内友禅作家の認定となる二塚氏は、従来の花鳥風月と一線を画し、 伝統の防染糊(ぼうせんのり)を使って鮮やかな白線を浮き上がらせ、大自然の水の流れなどを一種抽象的な文様の中に昇華させた。着物の着こなしを意識し、肩の線や腕の振りも考え抜いた構成は、使われてこそ魅力を増す用の美の原点を示すものと言えよう。

 2氏の仕事は、いずれも孤高の輝きを放つが、伝統の技で新しい時代の工芸の道を切り 開こうとする姿勢は、いま石川を代表する伝統産業が、おしなべて景気低迷の逆風にさらされ苦境に立つ中で、現代のニーズに合った斬新な商品開発や、新たな方向性を模索する業界の制作現場を力づけるものとなるに違いない。

 もちろん、頂点に立つ人が多くても、すそ野が脆弱では未来はない。日本伝統工芸展の 入選者は、人口100万人あたりで言えば、9年連続で石川が1位を続けているが、昨年は県内からの入選者の実数が17人減って76人となり、2005年から続いた都道府県別入選者のトップの座を東京都に明け渡す結果となった。

 人間国宝の数は、その後に続く陣容の豊かさと比例するものでなければならないだろう 。巨匠山脈を受け継ぐためにも、中堅若手の一層の奮起を期待したい。

◎地方の財源確保 消費増税に頼るのは安易
 全国知事会議が緊急声明のなかで、消費税の引き上げを強く求めたのは、先の参院選の 結果を考えても違和感を覚える。現行5%の消費税のうち、1%は地方消費税であり、全体を引き上げれば地方分も増えるという理由だが、消費税増税は地域経済に大きな影響を与え、住民の間でも根強い反対の声がある。個々の知事の判断を超え、地域の幅広い理解が欠かせぬテーマである。

 安定的な財源で自治体の財政基盤を強化したいという思いは理解できるが、今は消費税 をあてにせず、6月に閣議決定された地域主権戦略大綱を具体化し、国からの税源移譲の道筋を確実にしていくのが先決ではないか。

 参院選では、歳出の徹底した無駄削減や国会議員の定数削減、歳費カットなどのテーマ でも論戦が展開された。みんなの党が躍進したのも、「増税の前にやるべきことがある」という明確な主張が支持を得たからだろう。知事会は、国以上に行財政改革を徹底してきたことを数字を挙げてアピールしているが、改革の余地はまだあると思われる。

 全国知事会議では、参院選で国会の「ねじれ」が生じたことを受け、重要な法整備や施 策を調整する与野党の協議機関設置を求めることで一致した。さらに国の出先機関改革へ向け、都道府県に設置している公共職業安定所(ハローワーク)については、2012年4月から地方に移管するよう求める方針も決まった。

 鳩山政権時代は、地域主権改革が「一丁目一番地」と位置づけられていたが、菅政権に 代わり、その優先順位は明らかに後退した。権限や財源移譲についても、中央省庁の間で、地方に任せて大丈夫なのかという「受け皿論」が強まっている。知事会が議論をリードし、改革をやり抜く覚悟を示すことは極めて重要である。

 知事会は、国と対等な立場で協議できる場の法制化を求め続けてきた。臨時国会で地域 主権関連3法案が成立すれば、知事会の役割や提言は一層重みを増す。住民の声や地方の実情を政府の政策に適切に反映させてもらいたい。