きょうのコラム「時鐘」 2010年7月17日

 人間国宝に認定される二塚長生さん、中野孝一さんに共通するのは、最初に選んだ道からそれたことである。二塚さんは画家をあきらめ、中野さんはグラフィックデザインの仕事から転じた

分かれ道で、足が止まる。黒澤明監督の映画「用心棒」も、そんな場面で始まる。主人公は傍らの枝を拾って空高く投げ、落ちた枝が指す道に歩み出す。映画の素浪人なら、気楽な枝の占いで済む。生身の人間は、そうはいかない。悩み、戸惑い、決断する

画家、デザイナーの道からそれたはずなのに、二人の仕事を評する人の言葉は興味深い。二塚さんの友禅は、白線の文様で自然の美を絵画のように表現する。中野さんの蒔絵は、時代を映す優れたデザインが美を生み出す。いったん二つに分かれても、はるか先で一つにつながって太くなる。そんな道も確かにある

「どこへ行ったらいいのだろう」と、分かれ道で大概悩む。決めた後も、戻ろうかと、歩みが鈍ることがある。若いときも老いてもなお、そんなためらいを抱く

厄介な時代だが、やはり選んだ道を進んでみようか。二人の朗報に元気をもらって。