ドイツ西部オーバーハウゼンの水族館「シー・ライフ」のタコ、パウル君。サッカーのワールドカップ(W杯)で8試合の勝敗結果すべてを的中させ脚光を浴びたが、その能力とは--。【小松やしほ、中山裕司、ベルリン小谷守彦】
パウル君は2歳のマダコで、ドイツ戦7試合と決勝を的中。確率は256分の1と高い。米アップル社製の高機能携帯電話「iPhone(アイフォーン)」のアプリケーションソフトにも登場。AFPによると、ソフトを開発したブラジルの企業は「映画か演劇か、ピザかすしか。迷ったらタコに聞いて」と述べる。
すっかり有名になったパウル君だが、ドイツでは当初、イカと報じられたほど、タコは縁遠い。ドイツ最大の大衆紙ビルトは「タコには九つの脳と三つの心臓があり、右の最も上にある腕を好んで使う。吸盤は4万個。青い血液が流れ、生涯独身生活。小さな物の中にも隠れ、墨を吹いて逃げる」と紹介。琉球大学理学部の池田譲教授(頭足類学)は「タコの脳は一つだが、パーツを分ければ九つとも数えられる。心臓は二つのエラ心臓を含めれば三つ。血液は透明だが酸素に触れると青くなる。人間のように同居はせず生涯独身とも言えるが、吸盤4万個は多すぎる」。非常に賢い動物と考えられ、オーバーハウゼン水族館の広報担当、タニヤ・ムンツィヒさんは「タコの知能は3歳児ぐらいという研究者もいる。イルカほどとは言わないが賢い」と誇らしげだ。
同館は世界で24の水族館を運営するシー・ライフの系列店。タコ占いの開始時期は不明だが、系列のベルギーの水族館が最初だ。
ドイツの各店では、今回のW杯をPRに活用しようとイカナゴ占いやウナギ占い、タツノオトシゴ占いなども行われた。オーバーハウゼン水族館は08年のサッカー欧州選手権でも8割的中させたパウル君を抜てき。飼育員が差し出すブラシにつかまって遊ぶなどの「芸」も披露していたためだ。しかし12日、パウル君は高齢を理由に「普通のタコに戻る」と占い活動からの引退を表明。同館でセレモニーも行われた。
タコは本当に賢いのか。マダコの目は丸いレンズと網膜があってよく発達。ふた付きの透明なビンに餌を入れると、ふたを開けて中の餌を取ることはよく知られる。
横浜市の水族館「八景島シーパラダイス」は15日、パウル君人気にあやかりマダコの展示を始めた。飼育員の安部奏さん(37)はマダコの能力について「形や色なども区別できると思われる。例えば餌にするエビやカニなどに似た赤色やえんじに反応するのでは」と話す。「それよりパウル君が二つある餌の一つしか食べない、食欲を抑える能力が注目される。うちのタコなら、いくらでも食べてしまう」と自制心に驚く。
自宅でマダコ2匹を飼う東京海洋大学客員准教授でタレントのさかなクンは「飼育員との間にすごい信頼関係があったのでしょう。信頼関係のないすし屋からマダコが脱走した話はよく聞く」と話している。
毎日新聞 2010年7月16日 11時08分(最終更新 7月16日 12時49分)