女子2人の「閉じた関係」AERA7月13日(火) 11時17分配信 / 国内 - 社会中学3年生の女子2人が示し合わせて、火を放った。一体、何があったのか。── 現場の周辺で取材を進めていると、同級生の男子が、 「いいやつだったよ」 と言いながら、殺人容疑などで逮捕・送検された2人のうちの1人、A子(15)の小学校時代の卒業文集をみせてくれた。 「私の大切な友達」 そんなテーマで書かれたA子の作文にはこうあった。 《私の大切な友達はたくさんいます。(中略)いろいろな話をしたり、もちろん恋の相談もしました。(中略)中学校でもよろしくね》 A子の両親はブラジル人で、A子も国籍はブラジル。一部報道ではA子も「日本語が苦手」と伝えられていたが、この男子によれば、ペラペラ。人なつっこい小学生だったが、やがて、多感な年頃になり、中学では周囲の心ない言葉に心を閉ざしていった。 ■唯一の心許せる間柄 「外人、ブラジルへ帰れ」「くさい。同じ空気を吸いたくない」 などと言われることがあった。 登校しても職員室やトイレ、下駄箱のそばにいることが多く、今年5月の北海道への修学旅行でも、自由行動だった小樽では教師のそばから離れようとしなかったという。 唯一心許せる間柄だったのが、同じく殺人容疑などで逮捕・送検された日本人の友人で、宝塚市内の同じ公立中学3年のB子(14)だった。2人は小学校は別々だったが、地元のこの中学では1年と2年のとき同じクラスで、仲よくなった。ともに家庭が複雑で、いわゆる「母親の連れ子」という共通した境遇の悩みもあってか、今春3年生に進級して別のクラスになっても関係は途切れなかった。 そんな2人が互いの両親殺害を計画し、実行にまで移してしまったのは7月9日未明。警察の発表した逮捕容疑によると、家族が寝静まったのを確認した上で、まずA子が携帯電話でB子に連絡し自宅へ招き入れた。そして、2人でバーベキューで使ったことがあるゼリー状の着火剤を階段と壁に塗り、さらに火の回りをよくしようと階段下の辺りに毛布を置いて、火をつけた。これが午前2時半ごろだ。 次に2人は、500メートルほど離れたB子の家へ。B子の家は3階建て。2階の台所にあった食用油を台所付近にまいて、着火を試みたがうまく引火しなかった。 ■前日に最終スイッチ その際、B子は寝ていた自分の兄弟を起こし、逃げるよう伝えている。当然のことながら兄弟は驚き、その騒ぎに気づいた母親が目を覚まして宝塚署に通報。A子の方も自ら「家に火をつけた」と110番通報していたこともあって、午前3時45分ごろ、駆けつけた宝塚署員に2人は身柄を確保された。 2人は軽装で、B子の持ち物はキャンディーだけ。捕まるのを覚悟し、逃走までは計画の中に入っていなかったらしい。 また、A子の自宅からB子の自宅に移動する際に、2人は包丁を1本ずつ持っていた。警察によると、B子は「その包丁で両親を刺すつもりだったが毛布にくるまっていてできなかった」と供述しているという。 火が回ったA子の家では逃げ遅れた家族3人のうち、母親(31)が全身火傷で死亡した。死亡した。父親(39)と、小学生の妹(9)も重体だ。 警察によると、2人はそれぞれ「口うるさい」などと両親への不満を述べており、親を殺害するためにお互いの家に火をつけることを約束していたことなどを供述しているという。 また、朝日新聞の報道によると、2人は事件直前の8日、B子の両親から生活面の乱れなどについて注意されたという。 危うく難を逃れたB子の両親は、事件後、報道陣に対し、このときの様子について、 「厳しいことも言ったが、明日から頑張れと励まして、納得してくれているように見えた」 と話したが、前々から「殴るし、うざい親」と周囲に話していた娘たちにとっては逆効果だった。双方の「両親殺害」へのスイッチが最終的に入ってしまったとみられるからだ。 関西では4年前にも、全国屈指の進学校に通う男子高校生が自宅に放火し、母と弟、妹の3人を焼死させる悲惨な事件があった。医師の父親から学業成績が下がると暴力をうけるなど、「逃げたい一心だった」と男子高校生は供述していたが、今回、何が2人をそこまで追いつめていったのか。 ■『OUT』の舞台と… やはりカギは「孤立」だ。 2人が住む兵庫県宝塚市は「宝塚歌劇団」や手塚治虫記念館で知られる大阪至近のベッドタウンだが、この10年余りでブラジル人の出稼ぎ労働者とその家族が急増している。 増加のきっかけは、コンビニ商品の「ざるそば」などを作っている製麺会社が1990年代末、阪神競馬場そばに移転してきてからだという。 最近では、世界的な不況の影響で自動車関連の仕事が減った愛知などから、ブラジル人が市内に流入。市によると、韓国・朝鮮籍(2239人)は別として、中国籍(369人)と肩を並べるほどの328人で、第二勢力にまでなった。その多くが先の製麺会社などで働いている。 古くから住む住民は言う。 「外来(ブラジル人)の人たちは、親の世代は日本語がしゃべれない人が多いから、もともと住んでいる『地の人』との交流はない。外来の人は古いアパートに住んで、自転車で食品工場へ通勤しているよね」 24時間体制で稼働する弁当工場に、多数の外国人労働者。桐野夏生のミステリー小説『OUT』の舞台設定とシンクロするような風景だが、企業によってはフットサル大会を開いて親睦を図ったり、地域でも語学サポートを実施するなど、「共生」に力をいれている。 事件が起きた地域に詳しい市議会関係者によると、ブラジル人が多い東海や北関東の製造業が盛んな地域を先行事例として、外国人と共に過ごしている地域の取り組みを研究している最中だったと言い、こう悔やむ。 「子どもの世代になると日本語がうまい子も結構いるが、慣れない土地でストレスはたまっているはず。今回の事件もサインを見逃さないでいれば、また事態も変わっていたのではないか」 ■子犬だけ直前に避難? 外国人労働者の家庭の場合、外で働く夫は日本語が上達していくのに対し、社会との接点が持ちづらい妻は長く日本に住みながらも地域住民とまったくコミュニケーションをとれないケースが少なくない。 A子の家もそんな家庭だった。母親は来日して10年以上たつのに、日本語はまったくと言っていいほどわからなかった。 外との交流がないから、ストレスの矛先は、家庭内、とりわけA子に向かった。近隣住民によると、毎日のように、ポルトガル語と日本語が大きな声で交錯する家族ゲンカの様子が聞こえてきたという。 さらに、学校の説明などによると、A子は、父親から頭を叩かれたり、暴力をふるわれたりすると、教師に繰り返し訴えていた時期がある。中1の冬には、帰宅した後ふたたび学校に戻ることが3週間ほど続いたこともあった。「自宅に帰ると、また殴られる」などと話すため、学校が間に入り、家族と話し合いをしたこともあったという。 そんなとき、母親の再婚でやはり家庭に居場所がなくなったというB子と仲よくなったらしい。B子はピアスをあけ、茶髪だったときもあって、目立った存在。「ブラジル人」としていじめられていたA子とともに、学校では浮いた存在と見られていた。そうした周囲の視線が2人を、凶行まで計画させるような「閉じた関係」に追いやったのかもしれない。 ちなみに、B子が小学校の卒業文集に書いた将来の夢は母の仕事と同じ「ペットの美容師」トリマー。一方、A子の方も犬が大好きで、家には柴犬の子犬を飼っていた。事件後、この子犬の姿がない。家族殺害の放火前、A子はこの子犬だけは知り合いの家に「避難」させていたという情報もある。 編集部 大重史朗、諏訪満里子、藤生 明 (7月19日号)
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