——さっそくですが、大佑と黒の隠者達について。これはバンドではなくソロプロジェクトということになるんでしょうか?
はい。基本的にはソロなんですが、ただ普通に「大佑」として動くのでは、私としては物足りないと申しますか。
——どうしたんですか、その口調。
あ、あの、ある種の設定というか(笑)。できれば「(笑)」のマークも少なめでいきたいと思っているんですが。とにかく従来以上に、ここでは世界観というものを打ちだしていきたいんです。今まではいわゆるロックバンド然としたライブを目指してきましたけど、そうではなく、ある種ショウとしての要素も含んだものを。歌うときの姿勢みたいなものについてはずっと変わっていないんですが、演出とかにこれまで以上に重点を置いていこうと考えていまして。
——スタッズの活動停止後、ソロプロジェクトでの始動というのは、活動形態の選択肢として最初にあったんですか?
そうですね。また新たにバンドを組むとかそういうカタチではなく、とにかく一度、自分自身の世界観というものを完璧に打ちだしておくべきだろう、と。そのためにはソロのほうが好都合だと考えたんです。ステージ衣装ひとつをとっても、私自身がコントロールしたかったですし。
——なにがなんでもバンドという形態にこだわりたい、というタイプの人たちも、この世界には多いですよね?
ええ。でも私の場合は……たとえば蜉蝣時代を例にとれば、バンドをやりたいというよりも蜉蝣をやりたかった。スタッズにしてもそれは同じことです。バンドうんぬんではなく、それがスタッズだからやりたかった。そんな自分としては、今、ここで第三のバンドをイチからはじめようという気持ちにはなりにくいところがありました。バンドという成り立ちになると、その人数ぶんの色というものが混ざってくることにわけじゃないですか。というか、そうでなければ意味もない。もちろん私自身、そういった部分を求める場合もあるわけですが、今回はまったく混じりっけのないものを求めてみたかったんです。
——ある意味それは、エゴの最優先ということ?
たしかにそう言われてしまえばそれまでかもしれません。でも、私はバンドがいやなわけではないし、純粋に今、「自分だけの色」というものを打ちだしてみたかったというだけのことなので。
——自分がソロプロジェクトに取り組むときっとこういうものになる、という予測は最初からできていたんですか?
どんな色のものになるかは、正直、定かではありませんでした。ただ、絶対におもしろいものになるはずだという漠然とした思いはありましたね。そこから徐々にカタチにしていって、ライブを実際にやってみて……そのうえで改めて思うのは、世の中から「カッコいい!」と言われることよりも「おもしろい!」と言われるようなことを私はしたがっているんだな、と。曲がいいとか見た目がカッコいいとかではなく、おもしろいと言われたい。そこから人々を引き込んでいきたいんです。
——絶対におもしろいものになる。そんな自信はなにに起因していたんでしょうか?
よくわかりません。実際、それをずっと持ち続けていて。しかしそこで、バンドとして動きだそうとすれば、「ほか全員のメンバーたちあっての自分」という立ち位置での考え方に、どうしてもなってしまう。そうならざるをえないのではなく、自然にバンドの一員としてのモードになってしまうんです。当たり前のように、バンドとして打ちだしたいことを具現化するための材料でしかない自分になれてしまうというか。しかし今回は、そうした漠然とした自身を糧にしながら、全面的に自分自身を出していきたいと考えたんです。それができる最後のチャンスかもしれないと思いましたし。
——ある意味、蜉蝣でもスタッズでも、100%の自分を出しきれていなかった。そういうことでもあるわけですか?
そうですね。もちろん出し惜しみをしていたつもりはないし、ほかのメンバーたちに遠慮をしていたわけでもない。しかし、そこで100%の自分を出してしまうと、バンドとしてのバランスがどうしてもくずれてしまう。そんな思いが私にはあったんです。良くも悪くもバンドの枠の中に自分が取り込まれた状態でなければいけない。そう考えていました。居心地がいいとか悪いとか、そういったことではないんです。実際、蜉蝣もスタッズも、私にとってはとても楽しい空間でしたし。
——なるほど。そして去る4月6日、このプロジェクトでの初ライブがあったわけですが、とても「たくらみ」のニオイを感じるステージでした。大佑さん自身としては、もくろんでいたことが実践できたんでしょうか?
いや、まだまだですね。楽曲的な部分でも演出の面でも、まだまだできることはあると感じました。ただし、現時点でやれることがあれだったのではないかという自覚はあります。
——その名の通り、黒を基調としたダークなステージング。ブラックメタルめいた側面すら感じさせられる部分もあった。蜉蝣にもドロドロとした混沌はともなっていましたけど、あそこまで暗黒サイドに振りきれてはいなかったと思うんです。
そうですね。当時はやはり、売れたいとか、人気が欲しいとか、そういったいやしい願望がどこかに少なからずあったと思うんです。しかしそれが完璧に消え失せた瞬間があの日のステージにはあったというか。正直、そういったことについては「もういいや」という感覚になってしまったんです。実際のところ、これくらい長くやっていれば、メジャーと契約するとかそういった話が持ち上がったことも過去には幾度かあったんです。しかしそういった話が持ち上がるつど、タイミングが合わないとかなんとか、都合の悪いことが持ち上がってきて。結局は常に、オトナたちの都合のいいように使われ続けてきたんです。いわばボロボロの娼婦のようなココロとカラダになってしまっていた。そこまで堕ちた末に、「もう、生きたいように生きよう」というところにたどり着くことができたんです。
——娼婦が本来あるべき生き方を見つけた、と?
はい。この世界には定説のようなものがいくつかあるじゃないですか。たとえば売れてくるにしたがってメイクが薄くなっていくとか、一般的なことを歌うようになるとか。そういった、決まりきった流れというものがある。そうしたものがはびこる中、現在の私は「絶対にメジャーになんか行きません宣言」をしたいくらいの心境でありまして。
——はははは!
いや、笑いごとではなく。もう本当にこれからは、一般の人たちからけむたがられるようなことだけをやっていこうと決心した次第なんです。しかしけむたがられるということは、どこか気になるところが確実にあるということ。ものすごく好かれるか、ものすごく嫌われるか。そのどちらかでありたいんです。そしてそれほど極端なことを実践し続けていけば、最終的には音楽界を自分が牛耳れるのではないかと思っていて。
——結局は人気者になりたいんじゃないですか!
いやいやいや、そういうことではなく。仮に結果として絶対的な存在になることができた場合には、その瞬間にやめてしまう、みたいな。そんなスタンスでありたいんです。
——とはいえ、こうして地表で活動している以上、「人気なんかまったく欲しくない」とまで言ったら嘘になると思うんです。でも、人気を獲得するために世の中の流行りに合わせたことをやってみたところで、たかが知れているという現実もある。
まったくその通りですね。だからこのプロジェクトの根源にあるのは、いわば一般の人たちだとか芸能界みたいなものに対する、私なりの復讐心だと思っていただければ。本当に最近、そんなことばかり考えているんです。
——芸能界的なものに憧れを抱いたことはないんですか?
一度もないとは言いきれません。ただ、やはり私には向いていないというか。以前、いわゆる芸能人ばかりが集うようなパーティに顔を出したことがあるんです。あまり気が進まなかったんですが、何度も誘われていたんで、一度くらいは参加しないと悪いだろう、と。しかしもう、私にとっては、そのパーティの会場にいる全員を撃ち殺したくなるような空気感だった。初対面の者どうしが作り笑いで乾杯したり、肩を組んだり、「ちゃん」づけで呼びあってみたり。年の差も性別も関係なく、ものすごく必要以上にフレンドリーな空間がそこにあったんです。そんな中、素性の知れないR&Bの女性歌手かなにかが近寄ってきて、「カッコいいじゃーん!」とかなんとか軽口を叩きながらワイングラスを当ててきたんです。もはや、戸惑うばかりでした。そのとき私は、思わずつぶやいていましたね。「ここは日本だぞ」と。本当に、一刻も早く帰りたくて仕方がなかった。まるで居場所がないという状態でしたね。
——そのときに「向こう側」への憧れが完全消滅した、と。
ええ。以前は少しばかり、淡い願望を抱いていたこともあったんです。少しは私も浮かれた気分を味わってみたかったというか。酒を飲むなら西麻布で、みたいな(笑)。しかし結果、その夜を機に、そういったうわついた世界というのに対する嫌悪感がいっそう強まることになったんです。少しだけ抱いていた願望が、そのとき音もなく消えてしまいました。
——カケラほどではあれ抱いていた「浮かれたい願望」というのは、たとえば「あのバンドがあれだけ売れているのなら、俺たちだって」的な感情に起因していた部分もあるのでは?
それはあえて否定せずにおきます。でも今はもう、売れなくていいと思っているんです。私のCDを買うくらいならばGReeeeNとやらのCDでも購入していただければ。このご時世、お金は有意義に使うべきだと思いますし。
——なるほど。では掲載ページ数も減らしておきましょうか?
あ、いや、勘弁してください。調子に乗りすぎました(笑)。