参院選後の日本の政治課題とは/永久寿夫(PHP総合研究所 常務取締役)Voice7月16日(金) 8時37分配信 / 国内 - 政治◇日本の未来を切り開くカギは、政党のガバナンスを正すことにある 今回の民主の敗北について「消費税での事前の説明不足が大きな要因だった」と菅総理自身が説明しているように、消費税率アップへの唐突な言及、さらにその内容が批判の強まりとともにブレたことが敗因となったのはたしかであろう。しかし、消費税率アップ自体に有権者が必ずしもレッドカードを突きつけたわけではない。ある調査では増税も止むなしとする人が半数を超え、マニフェストに消費税率10%と明記した自民は議席を大幅に増やしている。 民主の主たる敗因は、政権奪取以来のガバナンス、すなわち政権運営や党内統治能力の低さにあるのではないか。誰が、何を、いかに決め、どのようにやろうとしているのか、それがよく見えないのが民主党政権である。「小鳩」政権と揶揄されるほど決定権の所在が不明瞭であった。トップ2人の政治とカネの問題をはじめ、普天間問題、高速道路無料化、ダム建設中止、に関する迷走など、どれも説明責任を十分に果たしていない。ダブル辞任で期待感を回復して選挙に臨んだのに、マニフェストを大幅に変更した理由を示さない。挙句の果てに、マニフェストに書いてもいない消費税率アップという「公約」である。疑心暗鬼は国民の間に一気に広がった。 枝野幹事長や安住選対委員長はもとより最高責任者の菅総理に対しても引責辞任を求め、小沢氏返り咲きを期待する声すら上がっているが、ガバナンスを改善しなければ意味はない。「官僚主導」と自民のガバナンスを批判し、国家戦略室や行政刷新会議を設けるなど「政治主導」の新たな政権運営ビジョンを示した民主ならなおさらだ。うまく機能しないから責任者をすぐに替えるというのでは、自民と同じではないかと、多くの国民を失望させるだけだ。民主がなすべきは、改めてマニフェスト変更の説明を行ない、やるべきことを再確認し、菅総理のリーダーシップのもとで結束し、一体的なチームとして邁進すること、つまりキッチリとしたガバナンスの構築ではないか。 改選第一党となった自民の谷垣総裁は人差し指を掲げて「いちばん」をアピールしているが、自民の勝利は何も有権者が政権を再び担わせたいと思ったからではなかろう。ガバナンスの悪さで言えば、自民は先輩である。小泉総理以降、1年そこそこで総理をコロコロと入れ替えるにとどまらず、そのたびに説明も十分になさぬままマニフェストを方向転換していった。それが野党転落の要因だったはず。あれから1年足らずで、その体質が変わったと言えるだろうか。自民は自身を「洗濯」できたのだろうか。汚れたままの服にもう一度袖を通したいとは思わない。自民は民主に対する失望の受け皿になっただけであり、 小躍りしている場合ではない。 恐れるのは、自民がこの勝利に悪酔いし、党再建のあり方をこれでよしとすることだ。一方がダメなら、もう一方。是非はともかく、これが二大政党制のメリットだ。しかし、ガバナンスを見ると、どちらの党もダメなのが現状である。自民のマニフェストは与党時代に比べると、はっきりものを言うようになったが、大小さまざまの政策を束にした単なるリストという感は否めない。これを一定のビジョンのもとにメリハリをつけ、実行プランを提示するとともに、説明責任をキッチリ果たす指導体制を確立することが求められる。それが再び与党として復活する必要条件ではないか。 参院選初参戦にもかかわらず、みんなの党が2ケタの議席を獲得した理由の1つは、民主も自民も言うことが似たり寄ったりで、しかも時間とともにその言葉が変わっていくのに対し、連立には加わらないという点も含めて、その主張、彼らのいう「アジェンダ」が昨年の衆院選からまったくブレなかったところにあると思われる。ただし、その主張すべてが支持されたかといえば、そうとも言えない。かつて民主も叫んでいた「増税する前にやるべきことがある」というのは正論だが、みんなの党に投票した人でも増税は避けられないと思っている人は少なくないはず。民主に対する不満の受け皿になったという意味で は、自民とあまり変わらない。 ただし、みんなの党が異なるのは、民主政権が過半数を得られない場合、キャスティングボートを握る可能性があるため、民主の政策に現実的に影響を及ぼすことを期待して投票した有権者も多かったのではないかという点である。つまり、民主の「大きな政府」志向に対するストッパーの役割を果たすのではないかということだ。結果的に、政策の行方を左右するカギを握ったわけだが、使い方によってそのカギは、ガバナンスの脆弱な民主や自民に対するクサビともなり、政界再編の起爆剤として機能する可能性もある。政党のガバナンスを立て直すには民主も自民もガラガラポンで政界を大再編するしかない、と有権者が判断したと読むのは考えすぎだろうか。 今回の参院選の結果をまとめれば、「民主の敗北、自民の勝利、みんなの躍進」となるだろう。国会はまたしてもねじれ状態となり、未曾有と言われる危機が続くなか、わが国の政治はいっそう不安定な状況に置かれることとなった。これは政党のガバナンスの悪化という、わが国の政治の根本的問題が導いた結果である。かりに見かけだけの安定が達成されていたとしても、これが解決されない限り、日本の迷走は終わらない。逆に言えば、政党のガバナンスを正すことこそが、政治の機能回復につながるのであり、いかなる政策を実施するにせよ、成功の前提となるということだ。この試練を乗り越えてこそ、日本の未 来は拓かれる。解決すべき問題が露呈したことを、むしろ幸いであると思いたい。 【関連記事】 ・ 菅流『第三の道』で経済成長は可能か 松野 由希 ・ 新たな市場の創造で、いま高級品が売れている 金子哲雄 ・ 「無原則なバラマキ福祉」が経済破綻を招く 池田信夫 ・ 「いま財政再建」は正しいか? 若田部昌澄 ・ 松下幸之助の夢・これが理想的な国家だ 佐藤悌二郎
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