地上波のテレビ放送の完全デジタル移行まで1年余りとなった。地上デジタル放送への対応を促そうということから、番組映像を横長にし、上下に黒い帯が入った「レターボックス」画面へ、アナログ放送が移行した。
テレビの購入者にエコポイントを与えたり、生活保護の受給世帯などに簡易チューナーを無償配布するなど、地デジ普及のための支援施策がとられてきた。しかし、5日から始まったアナログ放送のレターボックス化については、これまでの施策と違っており、嫌がらせではないかという指摘も行われている。
アナログ放送の映像は横と縦の比率が「4対3」だが、そこに「16対9」のデジタル放送サイズの映像を映し出すのがレターボックス化だ。
映像が表示されない上下の部分には黒い帯が入り、デジタル化への対応を呼びかけるテロップや問い合わせ先の電話番号が表示される。4対3の比率のテレビでは、番組を映し出す部分がこれまでより小さくなったため、見にくくなったと感じている人も多いに違いない。
総務省によると、地デジ対応受信機の世帯普及率は83・8%(今年3月現在)で、目標を上回っているという。それなら、レターボックス化の必要はないようにも思われる。
ただ、普及率の中にカウントされている家庭であっても、家にあるすべてのテレビが対応済みというところは、まだ少ないに違いない。
経済的に厳しい世帯に地デジ用簡易チューナーを無償配布する支援事業では、今年度124万世帯への配布を計画している。しかし、5月末時点の申請は19万世帯に過ぎない。
エコポイントの期限は年末で切れる。アナログ放送の停波となる来年の7月24日までに、地デジへの対応を進めてもらわないと、停波に反対する声が強くなりかねない。
実際に、アナログ放送の停波を延期した国もあるが、そうなると、停波後の電波の再配置も延期を余儀なくされ、電波の跡地を利用する形で予定している携帯端末向けのマルチメディア放送などの開始時期も遅れてしまう。
そうした心配もあって、地デジへの対応を促すため、嫌がらせと受け取られても仕方がない措置までとったということなのだろう。
しかし、テレビを買い換えてもデジタル放送を見ることができない人もいる。地デジに対応していない集合住宅や、地デジの電波が届いていない地域に住んでいる人たちだ。
レターボックス化による効果がどの程度あるのか不明だが、受信できない視聴難民を出さない施策にも全力で取り組んでもらいたい。
毎日新聞 2010年7月9日 東京朝刊