参院選で大敗した民主党。ワシントンではこの結果はどうみられているのか。20年以上日本の政治を研究してきたアメリカン・エンタープライズ研究所日本部長のマイケル・オースリン氏に聞いた。
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版(以下WSJ日本版):参院選で民主党は大敗した。その理由は何か。
マイケル・オースリン氏:昨年の選挙の時の約束を守らなかったのが大きな理由。菅直人首相だけではない。鳩山由紀夫前首相も小沢一郎前幹事長も「クリーンな政党」になると約束したが、そうならなかった。今回の結果は、この一年間の国民投票だったとみている。
民主党の敗北は菅首相が消費税問題の扱い方を間違えた結果だ。財政問題を取り上げたこと自体は正しかった。今日の日本にとって最も重要な問題の1つであり、避けて通ることのできない問題だ。財政赤字の削減は不可欠であるにもかかわらず、誰も妥当な提案をしていない。
菅首相が、当面の税率は自民党が掲げている10%を参考に取りまとめたい、と突然言い出し、民主党のチャンスを潰してしまった印象を受ける。世論調査には、国民がある種の増税を覚悟していることが示されていた。 菅首相に具体的な考えがあるようには見えず、単に慌てて下した政治的決定のように感じられた。これは鳩山前首相に常につきまとっていたのと全く同じ問題だ。鳩山氏は突然、新しい政策を発表し、この政策に基づいて行動することが求められた。
こういったことは、強力な競争相手が存在しない状況で行われてきた。今回の参院選は、事実上、民主党政治の是非を問う選挙であった。前回の選挙で民主党が自民党を脅かしたように、ほかの政党が台頭してきたわけではなかった。民主党のこれまでの政権運営に下された審判といえる。民主党政権1年目の政策遂行に、国民がはっきりと否を突き付けた格好だ。
WSJ日本版:ワシントンは選挙結果をどうみているか。
オースリン氏:率直に言って「しかたがない」というのが一般的な見方だろう。日本と同じようなとらえ方だ。有権者の懸念に対応できず、さまざまな外交政策や国内政策で一貫性のある方針を示すことができないという悪循環が存在する。そうなれば当然、米政府は同盟国が頻繁に取り上げるグローバルな経済改革や政局不安などあらゆる問題で日本を頼りにくくなる。
ワシントンの立場からすると、この件については何もできることはないというのが正直なところだろう。この「しかたがない」状況は何度とな繰り返されている。ワシントンから見る限り、一貫した政策を提起するだけでなく、実行する能力があるという意味で、小泉純一郎元首相のような人物の登場をワシントンは5年間待ち続けている。
個人的には、安倍晋三元首相は比較的一貫性のある方針を持ち、優れた(国内ではなく)外交政策を提起していたように思う。だが実行能力が欠けていた。福田康夫や麻生太郎といった元首相らの方針は一貫性がなかった。就任からわずか1カ月にして選挙で大敗を喫した菅首相は、鳩山前首相と同じ間違いを犯した。
したがって、日本が自ら事態を収拾し、実行能力のある強力なリーダーシップを擁立するまで何もできることはないというのがワシントンの見方だ。期待されているとはいえない。今回の選挙の結果、日本の政治体制に、何らかの対応が必要な不安定要素がかなり存在することが明らかになったからだ。
WSJ日本版:今後の日米関係の行方は。
オースリン氏:対中関係には懸念と疑念がある。そのため米国が重要な価値を共有する同盟国に頼ろうと考えることは当然の欲求だ。
ワシントンの多くは、中国との関係はせいぜい技巧的なものにすぎないと考えている。そういった関係であっても築ければ幸運だ。一方、アジア最大の民主国家であり、世界第2位の経済大国である日本と協力することに全く違和感はない。むしろそれができないことは不満につながる。わたし自身、ワシントンは日本に「背を向けつつある」と感じてはいるが、それは単にワシントンが現時点でほかに選択肢がないと考えているからではない。日本政府の準備が整っていないのだ。