2010年5月19日
日本のギリシャ化招く消費税増税
今夏の参院選を前にして、消費税増税を政権公約(マニフェスト)に盛り込む動きが民主党、自民党内で目立ってきた。ひところは、選挙前に増税路線を明確に打ち出すことは選挙戦での敗北を意味するとされタブーだったが、「財政危機」が喧伝される折、消費税増税を打ち出せば財政再建に責任を持つ「責任政党」をアピールでき、「心ある有権者」の支持を得られるとの判断からだ。しかし、果たして、そうだろうか。
まず、野党・自民党の原案は、(1)デフレ脱却と経済成長にあらゆる政策手段を総動員する(2)消費税を増税(ただし、税率の引き上げ幅と時期は不明)するとともに、法人税の実効税率を40%から20%に引き下げる−などである。これは、自公前政権時代の緊縮財政・金融緩和のポリシー・ミックスを予想させる。一方、連立与党の「かなめ」である民主党は、反主流派の影響が強い参院選マニフェスト企画委員会(委員長・仙谷由人国家戦略担当相)が、次期衆院選後に消費税増税を含めた税制抜本改革を行うことをマニフェストに盛り込むことを決めた。ただし、最終的には、鳩山由紀夫代表や小沢一郎幹事長らによる政権公約会議での最終決定になるが、両氏が率いる民主党内主流派では緊縮財政路線に対する警戒感が根強いようだ。
消費税増税と言えば、橋本龍太郎政権が1997年度に「財政構造改革路線」を大々的に打ち上げ、消費税率を3%から5%に引き上げる(約5兆円程度の増税)など総額11兆円規模の超緊縮財政路線を採用。バブル崩壊不況後初めて、96年度に実現しかけた内需主導型の景気回復を頓挫させ、翌98年秋の平成金融恐慌を招いた実績がある。その二の舞いを踏むことはないのか。
消費税増税の第一の問題点は、その負担が付加価値税(VAT)を導入している欧州諸国と比べ、わが国では極めて重いことである。欧州諸国で付加価値税の標準税率が最高のスウェーデンでは、同税率は25・0%。これが、わが国の消費税率は低過ぎるとして日本経団連などからの引き上げ要求のひとつの根拠になっているが、実は国税に占める付加価値税収入の割合は18・3%にすぎない。わが国では、消費税率は5%ながら19・4%とスウェーデンを上回っている。
これは、欧州諸国がインボイス方式を採用しているため、軽減税率など複数税率を採用することが可能になっているからだ。消費税制度を改革せずに欧州諸国並みに税率の引き上げを強行すれば、国民の負担は耐え難くなるだろう。消費税制度を改革するとしても、増大する社会保障費を賄うためには標準税率を欧州諸国以上に引き上げる必要が出てこよう。
第二の問題点は、消費税増税のシミュレーションを行っていないことだ。日米・世界モデル研究所の宍戸駿太郎所長が、経済・産業・人口動態を同時に予測できる経済分析モデルとして、財務省が作らせた内閣府モデルより精度が高いと評価されているDEMIOSの予測によると、「消費税率を毎年1%ずつ上げていく場合」と「初年度に7%に引き上げる場合」のいずれの場合でも、名目国内総生産(GDP)は着実に縮小し、7年後以降は400兆円を下回る。当然、税収も激減し、財政は破綻しよう。日本はギリシャ化する。
第三の問題点は、ギリシャ財政危機に伴う国際金融不安の再燃で、世界的に景気二番底懸念が再浮上していることだ。消費税増税にはタイミンクが悪いことは明らか。民主反主流派の案も自民案も、背後には財務省がいる。橋本龍太郎氏(故人)は後年、「大蔵省に騙された」と述懐しているが、財務省は未だにその過ちを認めていない。積極財政による経済活性化と税収増による財政再建を目指している民主党主流派と国民新党が連携して、官僚依存の政治構造を国民幸福本位のものに抜本転換できるかが、鍵を握る。
(ポン太)