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2010年7月14日(水)付

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中パ核協力―NPT骨抜きへの道だ

こんなことが現実になれば、核不拡散条約(NPT)のほころびが一気に広がりかねない。NPTに入らないまま核武装し、「核の闇市場」に関与した疑いもあるパキスタンに、中国が原発建設で協力を進めよう[記事全文]

外国人過労死―「実習」という名の「労働」

日本の外国人研修・技能実習制度は、途上国から企業などが人を受け入れ、3年間の職場経験で得た技能を母国で役立ててもらうのが目的、ということになっている。ところが、その制度で来日した中国人男性が[記事全文]

中パ核協力―NPT骨抜きへの道だ

 こんなことが現実になれば、核不拡散条約(NPT)のほころびが一気に広がりかねない。NPTに入らないまま核武装し、「核の闇市場」に関与した疑いもあるパキスタンに、中国が原発建設で協力を進めようとしている。

 中国は、もうひとつのアジアの新興国インドを牽制(けんせい)するため、パキスタンに武器供与などの支援をしてきた。近年はインドを囲むようにスリランカ、ミャンマー(ビルマ)とも関係を深め、港湾建設などの協力も進めている。だが、原発の輸出は次元が異なり、核不拡散体制をさらに弱める恐れがある。とても容認できない。

 NPT未加盟国には、原子力平和利用で協力しない。この国際社会の原則を守るために、日本など46カ国は原子力供給国グループ(NSG)をつくり、原子力技術などの輸出を規制している。中国も2004年に加盟した。だが、中国はパキスタン中部での新たな2基の原発建設への協力を、NSG加盟前にパキスタンと結んだ協定に基づくと正当化している。問題の核心をそらす説明といわざるを得ない。

 そもそも、パキスタンにはスパイ活動などを通じて核武装し、その後は核技術を「闇市場」によって北朝鮮やイランに流出させた疑惑がある。また、アフガニスタンとの国境地帯を中心にイスラム過激派勢力の浸透が進み、核施設の安全確保にも大きな不安が消えていない。

 ジュネーブ軍縮会議で兵器用核分裂物質生産禁止条約の交渉に入れないのも、パキスタンの反対が主因だ。そんな国への原子力協力を、米国や日本などが支持しないのは当然だ。

 だが、NSGにも弱みがある。2年前にNSGは、NPT未加盟の核武装国であるインドへの原子力技術の輸出を例外的に認める決定をし、その後米国などがインドと原子力協定を結んだ。菅直人政権も、非核外交の原則との整合性が不明確なまま、インドと原子力協定の締結交渉を始めた。巨大な原発市場をにらんだものだ。

 中国はこのインドへの例外措置も盾にパキスタンとの原子力協力を正当化する構えだ。胡錦濤国家主席は、訪中したパキスタンのザルダリ大統領との先週の会談でも姿勢を変えなかった。

 NPTに入らずに核実験をしても原子力協力が得られるという例が積み重なれば、NPTの非核国であってこそ原子力協力を得られるという基本的枠組みは骨抜きとなる。インド、パキスタン、北朝鮮などへの核拡散の背景に、原子力関連の甘い輸出管理体制があったことも忘れてはなるまい。

 原発輸出はビッグビジネスだ。地球温暖化防止に一定の効果もある。だが、NPTを傷め続ける形で進めてよいものか。21世紀の文明のあり方も視野に入れた総合的な検討が必要だ。

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外国人過労死―「実習」という名の「労働」

 日本の外国人研修・技能実習制度は、途上国から企業などが人を受け入れ、3年間の職場経験で得た技能を母国で役立ててもらうのが目的、ということになっている。ところが、その制度で来日した中国人男性が死亡したのは「過労死による労災」と労働基準監督署が認定した。

 奇妙な事態があらわにしたのは「国際貢献」をうたう制度の欺瞞(ぎまん)性だ。

 男性(当時31)は2005年12月に来日、茨城県のめっき加工会社で働いていたが、08年6月に亡くなった。直前の3カ月、月93〜109時間の残業をしていたという。

 これは氷山の一角とみられる。現在日本にいる研修・実習生は中国などから約20万人。受け入れを支援する国際研修協力機構によると、08年度に35人が死亡した。このうち長時間労働が原因とみられる脳・心臓疾患は16人。09年度の死亡は27人にのぼった。

 「看板」とうらはらに、研修・実習生に、低賃金で過酷な労働を強いたり、残業代を払わなかったりピンハネしたりする事例が後を絶たない。

 さらに08年秋のリーマン・ショック以降は受け入れ先の仕事が激減し、中途解雇が目立ち始めた。新たな受け入れ先も紹介されず、泣く泣く帰国した人は少なくない。

 過労死するほど働かせ、状況が変われば解雇する。こんな「使い捨て」のやり方が許されるはずがない。

 問題点は国も認識はしている。関係法を改正し、来日2年目からだった労働関係法令の適用を1年目からにしたほか、国内の受け入れ機関の責任や罰則を強化した。だが、まだ問題の解決にはほど遠い。

 日本は、外国人労働者の受け入れを専門分野に限っている。これに対し、研修・実習生の受け入れ先は、多くが小規模製造業、水産加工、農業などで、日本人が敬遠する仕事での単純労働力の不足を補ってきた。少子高齢化のなかで、彼らがいなくては成り立たない単純労働の現場があるのだ。

 まず、こうした実態を詳しくつかむことだ。そのうえで、制度を根本的に再検討すべきである。実態は「労働」なのに研修や実習などとごまかすのは、もうやめるべきだ。

 当然、受け入れる限り、労働者を「使い捨て」にしてよいわけがない。日本社会のなかできちんと位置づけるべきだろう。生活、教育、福祉などの基盤整備や安全網を、どのように組み立てるのかなど、課題は多い。

 「実習生」などと言い換えるのは外国人労働者受け入れへの警戒感に配慮したためかも知れない。だが、まやかしの名前で呼び続けても、外国人労働者が日本にいないことにはならない。現実から目をそらし、日本の社会に必要な議論を先送りするだけだろう。

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