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今回の参議院選挙は民主党の大敗に終わった。与党は参院で多数を失った。衆院では、参院で否決された議案を衆院で再議決するための3分の2の議席がない。だから菅直人内閣はほぼ死に体である。
首相の責任論が出てこないのは当然だ。問題の根源が議会の議席数にあるのだから、首相の首をすげかえても解決しない。再生のカギは政局を動かす幹事長である。
敗因は首相自身が認めているように、消費税を争点にしたことだ。菅氏ほどのベテランが消費税論議の恐ろしさを知らないはずはない。それなりの戦略があったはずだ。「負けるが勝ち」戦略ではないか。
鳩山由紀夫前首相から政権を引き継いだ直後、民主党の支持率はV字形に回復した。それなのに菅首相は参院選の目標を50議席、後に54議席にした。
なんで50議席か。参院の過半数は122議席。今回非改選の民主党議席は62議席。そうすると、民主党が単独で過半数をとるにはあと60議席以上必要だ。だが首相はあえて過半数に10議席足りない50議席を目指した。言い換えれば、この参院選で民主党は「勝たない」という宣言だ。
小沢一郎前幹事長は、石にかじりついても単独過半数をとれと、改選数2の選挙区に民主党候補を2人立てたのに、菅首相は戦略変更した。
菅氏は首相に就任すると消費税を話し合う超党派の円卓会議を提案した。しかも自民党案の10%を参考にすると言った。戦う前からタオルを投げて野党に助けを求めたのと同じだ。だれもが大連立を連想したろう。
「負ける」(過半数割れ)が「勝ち」(連立による政局安定)の戦略である。そう考えなければ説明がつかない。
1994年、細川護熙首相の非自民政権が国民福祉税問題で分裂、崩壊した後、政権中枢の新党さきがけグループが自民党とひそかに連絡をとり、社会党を誘って「自社さ」連立政権を作った。
細川政権の末期、新生党代表幹事の小沢氏が、さきがけの武村正義官房長官の動きを警戒する様子は細川氏の日記「内訟録」(日経新聞社)に詳しい。
菅首相も枝野幸男幹事長もさきがけ出身だ。さきがけは自民党との親和性があり、自民と長い確執を続けた小沢氏とは体質が違う。
消費税円卓会議で自民党にすり寄った菅首相の戦略は、かつてのさきがけを思わせる。だが、誤算だった。負けすぎた。政権奪回の勢いがついた自民党は、菅政権の延命に協力するような連立には応じられないだろう。大乱世の始まりだ。(専門編集委員)
毎日新聞 2010年7月15日 東京朝刊
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