中華人民国家社会主義帝国

Chinazismの危険な潮流


 少し前の当コラム「ちょっとおかしいよ」で僕は、中国がこのまま現在の政治体制を続ければ、やがては本物の国家社会主義国化してしまう可能性は十分にあるだろう、と書いた。

 しかし、昨今の党幹部たちの言動や、極端とも思われる若者たちへの「愛国」教育は、すでに十分国家社会主義の領域に達している、と判断できるようだ。

 まず、「国家社会主義」とはなんなのか、その定義から見直してみよう。

  国家の指導のもと、資本主義経済の行き過ぎを正し富の公正な配分や労働条件の改善などを目指す思想。 国家主義を基調とし、経済・政治を全面的に統制を行うことを主張する思想。

 というのが日本百科事典による定義である。あまりに簡単な定義なのでかえって判りづらいが、要するに統制色の濃い国家主義、つまりは全体主義(すべてのものが国家に収斂され、イデオロギーに従属することを目標とする体制。自由主義の対極にある)ということになろうか。以前にも書いた通り、その代表格は国家社会主義ドイツ労働者党、つまりナチスである。ナチスの時代ドイツにはすでに高度な資本主義が存在しており(ナチスが成立した時点ですでにドイツは、ヨーロッパでも有数の資本主義国だった)統制されていたのは経済よりむしろ末端に至るまでナチス化されていた行政システムや政治システムで、ナチスが政権をとってわずか四ヶ月後にはナチス以外のすべての政党が解散させられ、完全な一党独裁体制となった。

 ナチス設立当時、ヒトラーが政党運営の範としたのは共産主義政党であった。極右翼と極左翼という一見正反対の思想に見えながら、その本質はほとんど変わらないことをすでにヒトラーは見抜いていたのだ。共産主義者的発想でいえば、らせん的な発展のあげく、右と左が重なり合うのが独裁=全体主義という政治システムなのだろう。資本主義国家化した現在の中国で一党独裁を続ける共産党が、ナチスにきわめて類似した様相を呈しているのは、いわば歴史的必然なのだ。

 全体主義と並んでナチスのもう一本の柱は、いうまでもなくRacism、具体的には反ユダヤ思想である。これはなにもナチスが最初に言い始めたことではなく、ヨーロッパでは遥か以前からユダヤ人を蔑視し、迫害の対象としていた。たとえば、シェークスピアの「ベニスの商人」でも、金貸しシャイロックはユダヤ人だったし、組織的になされたユダヤ人への迫害は、なんと十字軍の昔まで遡るという。ナチスのユダヤ迫害には、「わが闘争」にみられるようなヒトラー本人の思想が根本にあるのだが、それ以前から蔓延していた差別思想の影響や、国民の不満を全部ユダヤ人にぶつけてガス抜きを計る、という狙いもまた大きかったようだ。

 さて、翻って中国だが、天安門事件以降の「愛国」教育は、明らかにナチスのこのやり方を模した民族主義、というよりすでにRacismの範疇に深く入り込んだ思想教育である。要するに、日本への敵意を踏み台にして、政府への求心力を高めよう、というまさにナチス的発想なのだ。中国共産党政権にとっては、「戦犯」日本人はユダヤ人に匹敵するおいしいアイテムだったわけだ。かくして、全体主義とRacismの二本柱が中国共産党にも揃ったわけである。中華人民国家社会主義=Chinazismの誕生である。社会科の授業で使われる中国現代史教科書は「愛国」教育=日本人排斥教育を凝縮したような代物で、日本軍の蛮行に関する残酷描写と*水増しされた犠牲者数が溢れかえっている。年少時にこんな教育を受ければ、日本人への憎悪がトラウマのように植え付けられるのも当然だろう。逆に、自らに都合の悪いこと、たとえば天安門事件にはまったく触れられておらず、ベトナム侵攻('79年)などのような侵略戦争についても、自らの正当性を主張できないものにはいっさい言及がない。北朝鮮のような特殊な国家ならまだしも、著しい経済成長を続ける奇跡の資本主義国家、中国にこのような教育が存在すること自体驚異である。こうした極端なRacism思想により洗脳された若い世代が、昨今の反日デモの主役となっているわけだ。何度も書いているように、僕は日本軍による大陸進出をはっきり侵略と考えているし、それにともなう蛮行もおそらくは存在したとみなしている。中国人に、その件に対して発言する権利はおおいにあるとすら思っているのだ。しかし、それと現在の「愛国」教育との間には無限に近いギャップが広がっている。発言する権利があるということと、無制限に政治利用する権利とはいうまでもなくまったくの別物なのである。日本と中国と、一体どちらの国の教科書に問題があるのか、いちど公平な第三者に判断を仰いでいただきたいものである。少なくともこの教科書について日本の国会で取り上げ、あらたな教科書問題として国際世論に訴えかける必要はありそうだ。中国側としては、自分たちと同じこうした行為を批判することなどできないはずだし、もし反論すればすべての批判は中国自身に跳ね返って行くことになるだろう。もちろんこれには、過去の日本軍による犯罪をも俎上に載せてしまうという薮蛇の可能性もあるが、それを恐れて沈黙していたら、結局はすべて中国の言い分が正しいと認めることになってしまうのだ。

 中国史において、今回とほぼ同様に若い世代を利用して党と国家の粛正を計り、日本軍の虐殺によるとされる南京市民の死者数(中国側による公式数30万人=ちなみに当時の南京住民の総数はせいぜい20万人程度=ジョン・ラーベ説=で、たとえ一人残らず殺したとしてもこの人数は達成できない。ただし、日本軍の虐殺行為それ自体は日本側の資料に照らしても、あったことはまず間違いない)など比較にならないほどの犠牲を生んでしまった事件があった。いうまでもなく文化大革命である。例によって中国国内では正確な数字などほとんど教えられていないらしいが(犠牲者数推定800万〜2.000万人)若者たちは小さな赤表紙の「毛沢東語録」を掲げながら、「造反有理」を叫んで既存のあらゆるものを破壊して回った。この思想がカンボジアに輸出され、ポルポトによる大量虐殺(推定300万人)を引き起こしたのは有名な話であるが、世界には他にも「センデロ・ルミノソ」など毛沢東主義を行動原理とするテログループが数多く存在し、いかに人類に害をなす思想であるかが判る。中国共産党はその後急速な資本主義化への道を歩むことになるのだが、結局のところ四人組という象徴的なスケープゴートを処分することで、本当の中心人物であった毛沢東の責任をうやむやにしてしまった。現在「愛国無罪」を叫んで投石などを繰り返している若者たちと、文革時代の紅衛兵たちとは一見したところ180度違った風体をしているが、ともに国家権力がその洗脳教育によって生み出してしまった鬼っ子である、という点はまったく変わらない。現在の中国共産党にあるのはただただ党の正当性を保ちたい、というなりふり構わぬ思想であり、その極端なRacism教育が世界にいかなる害悪を及ぼすかについては一顧だにされていない。

 こう考えてくると、今回の反日デモは実は国際問題ではなく、中国自身の国内問題である、という構図が浮かび上がってくる。確かに直接のきっかけは日本の国連常任理事国入りに反対する(その理由はいうまでもなく「愛国」教育である)民族主義者=Racistたちによる扇動なのだが、そこにはあきらかに現体制への不満が見え隠れしており、暴力のはけ口を求める若者たちの情念さえ見て取れる。へらへら醜く笑いながら「愛国無罪」を叫びつつ、ウィーン条約を踏みにじって外国の大使館や領事館に投石する若者たちの姿が繰り返し国際映像で流される様子を見て、内心いちばん焦っているのは3年後に北京五輪を控えた中国共産党幹部かも知れない。(もっとも、同様の行為は'99年のユーゴ中国大使館誤爆事件の際、アメリカ大使館に向けて盛んに行われたことでもあり、そのおかげでアメリカの譲歩を勝ち取ったと彼らは誤解しているのかも知れないが)どのみち、天安門事件以降連綿と続けられてきた「愛国」教育を今さら否定するなど現政権には不可能な話で(それをやったらたちまち天安門事件の二の舞いだ^^;)ただひたすら若者たちの行動を黙認し、矛先が自分たちに向かわぬうちに自然にデモが収束するのを待つしかないのだろう(しかし後日、中国当局は態度を転じて徹底的な取り締まりに動き、デモへの動きを封じ込めた。その理由を無届けデモの「違法性」一点に絞り、日本側にいっさいの謝罪をしないことにより、自らの正当性を保ったままデモの沈静化を図ったのだ。聞くところによると、大学生にはデモへの参加が明らかになると、即座に除籍処分に処されるという厳しい処置が待っているらしい。基本的にお金持ちの坊ちゃん嬢ちゃんによる運動だったのだから、この効果はてきめんであり、もっとも盛り上がってしかるべきだった五四運動当日の5月4日すら、それらしい動きは皆無であった。逆に言えば、それだけ当初の反日デモが自然発生的なものではなく、官製であった可能性が高いことを物語っているし、みずからを基本的人権のひとつでもある「集会・結社の自由」すら認めない全体主義国家である、と宣言しているようなものでもある)

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 *水増しされた犠牲者数====東京裁判当時、中国(当時は中華民国)が主張していた日中戦争の中国側死者数180万人が、現在の「愛国」教育では数十倍に膨れ上がって実に3.500万人(!!)になっている。さすがに白髪三千丈の国である\(@o@)/この数字は明らかに文革当時の犠牲者数を意識したものだろう。日中戦争の死者数が文革のそれより少なければ、日本軍より中国共産党の方が中国人民に害をなしているという理屈になってしまうからだ。しかし、戦時中日本国外にいた日本軍の総数は陸海軍合わせても最大約350万人、そのすべてが大陸にいたわけではもちろんなく、最大100万人程度が進駐していたと言われている。一方、当時の中国側総兵員数は国共合わせて約200万人くらいだったので、中国側の主張によれば、みずからに倍する敵兵に囲まれながらも、日本軍は一人当たり実に35人もの中国人を殺していたことになるわけだ(ちなみに、ユダヤ人絶滅を標榜して、ドイツ人らしい効率第一主義でユダヤ人を殺戮したナチスでさえ、殺したユダヤ人の総数は600万人といわれている)なるほどこんなに強いんじゃ中国が日本を異常に恐れるのも無理はない。・・・てゆーか、大学に通いながらこの程度の数字の嘘にすら気付かないで現在も「愛国」教育を信じているとは、今の中国にはまともに算数のできる学生はいないらしい^^;

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 さて、日本の戦後処理の問題だが、「ちょっとおかしいよ」でも触れた通り、わが国は二度にわたって公式に謝罪をおこない、関係諸国との戦後処理も誠実に行ってきた。そのために支払われた補償金は当時(60年代)の金額で6.000億円にのぼり、それとは別に、中国へのODA(政府開発援助)を始めとする経済援助は総計7兆円にものぼる。この金額は、ドイツがユダヤ人問題の戦後処理に費やした8兆円に匹敵する金額だが、もちろんこうした事実は「愛国」教育にはそぐわないので、中国人民には具体的な数字まではほとんど教えられていない(日本からの援助が入っているという事実さえ、知っているのは全人民の4割程度)まったく血税をドブに捨てたようなものだ。それにしても、具体的な金額をわれわれ日本国民ですらろくに知らないというのは(僕自身、今回のコラムを書くためにいくつものサイト=例によって思想的主張のない、あくまでも学術的分析が主体のサイト=をめぐって、ようやく日本やドイツが戦後処理に使った金額を把握できたほどである)あまりにPR不足である。日本政府は中国のRacism教育や、日本が補償その他で中国に払った金額について、国の内外にもっと積極的に公表すべきであろう。でないと、「嘘も百遍つけば真実になる」というゲッベルス(ナチス宣伝大臣)の警句通りの話がまかり通ることになってしまう。現に、常任理事国入りで中国の御機嫌を損ねたくないドイツでは、一般紙でも「日本は(我が国のように)きちんと過去を反省すべきだ」などという呆れるばかりの論調が目立つ。ちなみにドイツはユダヤ人問題では確かに高い代償を支払ったが、それ以外の戦後処理については半世紀以上たった現在も未解決のままなのである。分裂国家であったことを言い訳に使っていたが、西ドイツ単体でも60年代にはすでに経済大国になっていた事実からしても、誠実な態度だったとはとてもいえない。

 当面の問題は、こうした国を相手にわれわれはどう対処すればいいのかだが、とりあえずは感情的にならず、相手の出方をじっくり見るのが先決だろう(日本政府があちらの反日デモそのものにはいっさい反対せず、暴力行為のみに絞って謝罪と補償を要求しているのは賢明である。なぜなら日本には憲法で保証された表現や集会・結社の自由があり、たとえ外国の出来事であれ、それに口出しすることは法治国家としてできない、という姿勢をきちんと守っているわけだから。逆に言えば、あきらかにウィーン条約違反である違法行為にすら謝罪を拒否し続ける中国政府の方にこそ非があることを、国際的にも印象づけることができるというわけだ)あっちがエキサイトしたからといってこっちもエキサイトしてしまったら、解決の糸口など見つからなくなってしまう。とはいってもやはり何らかの意思表示は必要だ。さしあたってできることは、とりあえず中国観光を自粛することだろう。よほど勇気がないかぎり、「愛国」教育により「日本人憎し」で凝り固まった人々の中に入っていくことなど怖くてできないし(料理など何を食わされるか判ったものじゃない)そうした連中に金を落としてやる必要などまったくない。もちろん、すべての中国人が「愛国」教育で凝り固まっているわけではないだろうが、国家レベルでこうした思想が奨励されていることこそが問題なのである。いかなる場合においても、政府は国家の顔なのだ。それから個人レベルでできることは不買運動だろうが、中国製品そのものというより、日本ブランドの中国生産品の購入をまず控えたい。労働力の安さのみに目を奪われて、国内雇用の減少をも省みず、安易に海外生産に切り替えてしまうことのリスクをメーカーには思い知ってもらいたいのだ。ただ、たとえば衣類などはすでに大多数が中国生産品に置き換えられており、国産品や中国以外の製品は一部の高級品のみに限られてしまっているのが現状で、事実上不買運動などやりたくてもできなくなっている。しかし、近い将来の変動相場制への移行により中国製品唯一のアドバンテージ、人件費の安さが大幅にスポイルされるので、この先なにもなくても中国生産は先細りになると思われるが。

 とにかく、まともな民主化(政権交代の可能な政治体制)が達成されないかぎり、この国に対するいかなる投資も金をドブに捨てるようなものだ、ということにそろそろみんな気付いていい頃なのではあるまいか。何せ相手は、たかを括っていると国有化などという手荒な手段を平気でとる国家社会主義政権=ナチスなのだということを、忘れてはならない('05.04.18 記)

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