2010年7月15日
元日本ハム、巨人・中村隼人「Ami Ami」/引退後記
◆中村隼人(なかむら・はやと)1975年(昭50)8月22日生まれ。長崎県出身。長崎日大、創価大、本田技研を経て、00年ドラフト4位で日本ハム入団。01年6月2日オリックス戦で史上27人目のプロ初登板初完封をマーク。04年6月、河本育之とのトレードで巨人に移籍。同年、中継ぎで38試合に登板し、2勝1セーブ。翌05年に腰痛に苦しみ、オフに戦力外通告。トライアウト受験もオファーなし。06年にクラブチームの千葉熱血メイキングに所属し、同年5月には台湾プロ野球・兄弟エレファンツへ移籍。同オフに楽天の入団テストを受けるも不合格となり、現役引退。日本でプロ通算88試合に登板し15勝18敗1セーブ、防御率4・32。183センチ、90キロ。右投げ右打ち。
にぎわう上野の一角に中村さんが代表の「Ami Ami」がある。分厚い扉を開く。人懐っこい笑顔に邪気はない。
08年1月から男性が接客するサパークラブを経営している。「もともと来ていたニューハーフのお店で、たまたまママから『辞めたい』と連絡がありまして。じゃあ(自分が)やりましょうか、となった」。サパークラブを、以前からやりたかった。「堅苦しくなく軽く飲める。女性グループとも仲良くなれるし、友人関係にもなれる」。セット5000円にボトルは5000円から。高校時代の同級生を相方に、夜を軽妙に彩っている。
巨人在籍最終年となった05年から、大きく人生の舵(かじ)が切られる。開幕直後から腰に今までに痛みを感じた。「野球はあきらめましたね。腰がドンと重くなった。サイドステップしても人が乗っている感じ。MRIにも映らない。100%の体を持ってないと、通用しない。この辺かなと」。同年オフに戦力外通告され、トライアウト受験もオファーなし。通常、現役生活はここで終わる。
翌06年1月から社会人時代の友人の紹介で、東京・神田の居酒屋「ねじべえ」のフロアに立つ。1日2、3時間の睡眠で「今、102キロあるんですけど、85キロぐらいまで体重が落ちた」という。同年4月、社会人クラブチーム「千葉熱血メイキング」の投手コーチの打診が飛び込む。現役の香りを残すだけに投手兼だ。6月の都市対抗予選でも登板。居酒屋勤務は4カ月で終わった。
さらに韓国と台湾のプロ球界への道を提示される。「韓国はレベルが高い印象があったし、台湾がいいかなと。日本語を話せる選手が1人しかいなかったけど、楽しく過ごしました。2試合で終わっちゃったけど」と笑う。同年6月に兄弟エレファンツに入団し、1戦目は中継ぎで無失点。2戦目に失点する。翌日、解雇。2週間しか在籍しなかった。
再燃したあがきは、簡単には止められない。帰国後、7月には軟式野球チームを持つ佐賀の病院に入り、腰の治療を受けながらの練習が続く。「周りがケガをしたことを知らずに『まだ出来るのに』と話をくれる。ボクは難しいと思ったけど、その気持ちに応えたい」。腰痛もいつか回復するかもしれない。育て上げてくれた両親への思いもある。平日は1人のグラウンド。最後の挑戦だった。
ファーム日本選手権で優秀選手に選ばれた中村さんのフォーム(2003年10月11日)
06年11月、「最後は野村克也監督がいい」と楽天の入団テストを受験する。不合格。やり尽くした。だが球界の親交は新たな道を用意する。巨人時代の先輩で現野球評論家の元木大介氏から個人マネジャーをやってくれないかと連絡が入った。「一緒に遊んでいて、細かいことは自分がやってたんで。『細かいこと好きだろ』って。楽しくやってましたよ」。07年1月から1年1カ月の「細かい」仕事だった。
サパークラブの経営に移行しても、楽しかった現役時代の酒席とは立場が違う。「野球選手はそんなに連日飲まない。今は毎日飲む体のつらさがありますよね。(経営も)2年間は順調だったけど、今はいろんな店がつぶれる。若い人が遅くまで飲まなくなった。苦しいですよね」。選んだディープな夜で、世の中の変化に気が付いてもいる。
プロ野球の世界は何だったのか。「巨人の星みたいに来たし、親孝行の1つ。いろんな選手に投げられましたし。親と同じ夢を追い掛けた。最後の入団テストも親に対しての思いですよね」。後悔は「優勝できなかったことかな…。月間MVPも取りたかったけど、後はないです」という。現役の後輩には「第2の人生というぐらいだから、辞めたら(野球人として)死ぬ。真剣にやってほしい。夢を与えないといけないし、野球が1番であってほしい」と続けた。
巨人春季キャンプで清原和博氏(右)からもみ上げを引っ張られる中村さん(05年2月11日)
夢がある。「政治家です」。故郷・長崎で教育についてのシンポジウムに出席したときだった。前長崎市長の伊藤一長氏(享年61)に「隼人君は市長になりたいんだろう」と、心を見透かされたという。「伊藤一長さんとの約束がある。昔から教えることや相談に乗ることをしてきた。夢がドンとあることが力になる」。長崎市を観光、教育、福祉で元気にしたい。「あと3年班は店をやる。それから誰かの下について勉強したい」。本気だ。
何度か訪れた長崎を思い出す。坂上から見た路面電車の走る光景は目に焼きついている。新地中華街に泳ぐ龍と、ちゃんぽんの濃厚なスープ…。厳しい傾斜を駆け上がってきた中村さんの野望実現は、誰も歩いたことのない道になる。
「Ami Ami」
最寄り駅 東京メトロ千代田線湯島駅
営業時間 午後9時から午前5時
定休日 毎週日曜
住所 東京都文京区湯島3の42の12 こけしビル4F
電話 03-3832-1313
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- 今井貴久(いまい・たかひさ)
- 1971年(昭46)3月25日生まれ。東京・神田出身。学習院大から94年日刊スポーツ新聞社入社。整理部を経て99年野球部へ。西武(99、03、04年)巨人(00~02年)遊軍(05、06年)阪神(07年)オリックス(08年)連盟(08年)横浜(09年)などを担当。09年11月電子メディア局(現メディア戦略グループ)に異動。通算乱酔は無数。月末は虎になる。
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