宮崎県の口蹄疫(こうていえき)問題で先月、県の家畜保健衛生所の職員らが同県新富町の農家で、異常がある牛1頭を発見したのに、写真撮影や国への通報などをしないまま殺処分していたことが分かった。農林水産省の聴取に県は「口蹄疫特有の症状とは聞いていない」と回答したという。家畜伝染病予防法は、感染疑いの家畜を発見した場合、国への通報を義務づけており、農水省は同法違反の疑いもあるとみて事実関係を調査する。
農水省によると、異常がある牛は6月25日に見つかった。この農家は殺処分を前提としたワクチン接種の対象で、飼育牛約500頭は接種を済ませており、殺処分のため県の家畜防疫員と獣医師約40人が訪問。殺処分作業を始めたところ、獣医師が牛1頭の異常に気づき、現場リーダーである家畜防疫員に知らせた。
家畜防疫員は作業を中断させて県に連絡して相談。「口蹄疫の症状ではない」との結論を得て、牛の写真撮影や採血をせずに作業を再開し、牛は処分したという。
農水省の聴取に対し県は「発疹(ほっしん)のような症状で、口蹄疫特有の症状とは聞いていない」と説明、獣医師は「舌にびらんがあった」と話したという。
同省幹部は「口蹄疫特有のびらんはあるが、びらんがすべて口蹄疫の症状とはいえない。農家はワクチン接種地域で牛は殺処分・埋却対象なので、(そのまま)殺処分しても防疫上の問題はないと思う。だが、疑惑が浮上したのだから、写真撮影はしておいたほうが良かった」と話す。
新富町では6月12日に口蹄疫に感染した豚が確認されたのを最後に、感染した家畜は見つかっていないとされている。県内全体でも18日に宮崎市で見つかった以降は新たな発生はなく、県は7月1日に非常事態宣言の一部を解除した。【佐藤浩】
この問題について山田正彦農相は「口蹄疫の典型的症状があったのに国に報告しないで、そのまま殺処分したのならば大変遺憾だ。本当にそうだったか調査している。類似症状でも報告すべきだったという気はする」と述べた。
宮崎県の東国原英夫知事は15日、記者団に対し「適切な判断だったと聞いている。農水省も適切だったと判断しているはずだ」と述べた。新富町も「防疫措置は県が行うものであり、何も聞いていない」と話している。
毎日新聞 2010年7月15日 11時50分(最終更新 7月15日 11時52分)