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日本の経済を強くするには、中小企業を元気にすることが大切だ。金融面からの支えを強くしたい。しかし、そんな期待や努力に水を差す、ひどい事件が摘発された。「中小企業の味方」[記事全文]
制度の欠陥が、ゆがんだ結果をまた生んだ。参院選が今回改めて警告している。「一票の格差」が大きすぎる。今回の選挙区での最大格差は、神奈川県と鳥取県の間の5・01倍だった。[記事全文]
日本の経済を強くするには、中小企業を元気にすることが大切だ。金融面からの支えを強くしたい。しかし、そんな期待や努力に水を差す、ひどい事件が摘発された。
「中小企業の味方」「借り手の気持ちが分かる金融」をめざして2004年に創業したはずの日本振興銀行が、金融庁の検査を妨害した疑いで警視庁の強制捜査を受け、木村剛前会長が逮捕される事態に発展した。
背景には、商工ローン大手SFCGなどと連携した、いびつな事業が横たわっていると見られる。警視庁は全容をしっかり解明してほしい。
コンサルタントとして著名な木村氏は、小泉純一郎政権下で金融庁の顧問を務め、金融行政のルール作りに関与した。竹中平蔵元金融相や福井俊彦前日銀総裁とも親しく、日本の金融システム改革を唱道する「ご意見番」的存在だったこともある。
その木村氏が、自らの理想を中小企業金融で実践する場として設立したのが振興銀だった。
中小企業への融資は貸し倒れのリスクが高い。その分だけ利息を高くする。融資の判断に際しては、不動産担保や経営者の個人保証には頼らず、技術力や経営力を評価するはずだった。だが、大手銀行などが不良債権処理を終えて中小企業向け融資に力を入れ出すと、苦戦を強いられた。
業績を好転させたのは、利幅が大きいSFCGからの債権買い取りだった。しかし、これでは実質的に高利貸と変わらず、低利で預金を集める特権を認めた銀行免許を与える価値がある事業なのか、疑問がぬぐえない。
しかも振興銀は「1千万円までは国が保護する」と宣伝し高金利で預金を集めたといわれ、残高1千万円ぎりぎりの預金者が多い。このやり方は金融界で「政府の信用力にただ乗りしている」と批判されてきた。
さまざまな問題を総合すると、振興銀の事業モデルは持続可能なのか、という疑問に行き着く。金融ルールに精通し、掲げた理想も高かっただけに、その経営の堕落は一層罪深い。
その一方で、振興銀の転落が日本の中小企業金融の構造的な問題をあらためて浮き彫りにした面もある。小さな金融機関が優れた企業を融資先として発掘すると、大手行が後から乗り込んで来て契約をさらっていくという構図は、ちまたにあふれている。
自由な競争は大事だが、「井戸を掘る」「苗を植えて育てる」ような地道で骨の折れる企業発掘・支援という金融の社会的な使命とどう両立させることができるのか。
貸手と借り手の双方を含む日本の金融全体の問題を考える契機とするためにも、振興銀で何が起きたのかを徹底的に解明する必要がある。
制度の欠陥が、ゆがんだ結果をまた生んだ。参院選が今回改めて警告している。「一票の格差」が大きすぎる。
今回の選挙区での最大格差は、神奈川県と鳥取県の間の5・01倍だった。神奈川では69万票を集めた民主党候補が落選、鳥取では15万票台の自民党候補が当選した。
大阪や北海道、東京、埼玉、愛知では50万票を超えた人が敗れた。
最少の13万票台で勝てた高知や、20万票以下で当選した徳島、山梨などとの「一票の価値の不平等」は歴然だ。
全選挙区での総得票数と議席数を比べてみても、深刻さが浮かぶ。
民主党は2270万票で28議席を得た。一方、39議席を獲得した自民党は約1950万票にすぎなかった。
民主党は「軽い一票」の都市部での得票が多く、自民党は人口が少なくて「重い一票」の1人区で議席を積み上げた。票数と議席数の関係のゆがみは一票の格差の弊害そのものだ。
選挙区でも比例区でも民主党を下回る票しか集められなかった自民党は、果たして本当に勝者と言えるのか。そんな疑問すら抱かせる結果である。
参院は、いつまでこんな欠陥を放置するのか。2006年の議員定数「4増4減」は、小手先に終わった。各会派でつくる参院改革協議会は、昨年中に出すはずの結論を先送りし、次回の13年参院選に間に合わせたいという。
格差は一刻も早く是正すべきである。ただ、「都道府県別の選挙区」を採るかぎり、人口の差が大きすぎて、十分な「平等」の実現が困難なことはこれまでの経験上はっきりしている。数字いじりだけでは解決にならない。
折しも、衆院でも小選挙区での格差が2倍を超えた昨年の総選挙に対し、各地の高裁で「違憲状態」「違憲」の判決が相次いでいる。
衆参両院の「ねじれ」が再現され、国会がまたぞろ機能不全に陥る懸念も強まっている。
国会が直面する問題の全体像を踏まえて総合的な解決を図るべきである。
衆院のあり方との関係で、参院の選挙制度を抜本的に見直す必要がある。併せて、衆参両院の役割分担も一から再考しなければならない。
そうした大掛かりな作業を進めるなかで、投票価値の平等の問題にも迫っていく知恵が求められる。
現状は議員定数削減を唱える声ばかり大きい。「身を削る」姿勢はともかく、総合的な観点を忘れていないか。
国会での格差解消に期待するのは「百年河清を待つに等しい」。最高裁判事の一人がこんな意見を表明してから、すでに6年が過ぎた。
政府が有識者による選挙制度審議会を設け、第三者の視点で具体策を急ぎ練り上げるしかあるまい。次回の参院選はあっという間にやってくる。