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2010.07.15

 普天間移設 「8月末結論」見送る 政府、工法など複数案提示へ 

カテゴリ沖縄問題 出典 毎日新聞 7月15日 朝刊 
記事の概要
政府は普天間飛行場の移設問題で、日米共同声明で8月末が期限の位置や工法について、8月末では専門家の複数の見解にとどめ、政府方針としない方向で調整に入った。

複数案の提示は事実上の先送りで、沖縄県側の反応を探り、理解を得たい考え。

自民党政権下では辺野古沿岸部を埋め立てて、2本のV字滑走路を配置するとしていた。鳩山政権ではこの案を微修正し、海底のヘドロを再利用する環境配慮型の埋め立て案が有力視されていた。

これに加え、防衛省内では滑走路を1本にして、より沖合に移動する案が検討されている。

日米両政府は、外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)を9月以降開き、移設計画を決定する予定。

日米共同声明で8月末までに、代替地の位置や工法を完了すると明記していたが、民主党の参院選大敗の影響もあり、外務省内でも「8月末は専門家の見解をまとめるだけ」(幹部)との見方が大勢だ。
コメント
「専門家の見解をまとめるだけ」といわれても、どのような専門家のことなのか。軍飛行場などで航空機の運用を行う専門家か、軍飛行場建設を行う土木の専門家か、また軍事飛行場の戦術的な運用を行う専門家なのか。

それに知事の認可や新たな環境アセスが必要な埋め立て案なのか、また、その必要がない陸上案なのかによっても、専門家のアドバイスや提示する案は違ってくる。

要するに、今の政治状況(民主党の大敗北)と沖縄の強い反対を考慮すれば、8月末の決定を先送りするしかなく、その言い訳に「専門家の見解」という言葉で誤魔化しているだけである。

9月以降の2プラス2といっても、それで建設計画が前進する新たな要素も考えられない。むしろ11月か12月に予定されている沖縄知事選のよって普天間移設問題は”塩漬け”される可能性が高い。

ここは日米両政府ともに、年末に米政府が公表する「世界規模の兵力構成見直し」(GPR)まで待ち、その見直し内容を受けての再交渉となるだろう。(What New 「米の方針変更か 戦闘部隊を多めにグアムに」 7月7日を参照)

防衛省は辺野古の沖合を埋め立て、滑走路1本を建設する案なら、地元の協力を得られるとみているようだ。埋め立てによる「地元土木業者の支持が得られる(利益誘導)」と考えているからだ。

残念だが、そのような考え方は通用しなくなっている。それでは地元が豊にならなかったからである。基地利権をめぐる一部の建設・土木業のボスしか裕福にしなかった。

今は、沖縄全体が”基地貧乏”から開放されることを望んでいる。一部の地域の利権ボスを裕福にさせるだけの基地振興策は拒否される。

やはり米海兵隊は、沖縄に司令部だけを残し、戦闘部隊のすべてがグアムに移転する案がもっとも軍事的合理性にかなっている。

沖縄に海兵隊の戦闘部隊を継続して置くことが、海兵隊の抑止力に役立つという今までの論理はすでに破綻している。また、普天間飛行場の代替施設を建設することも、沖縄に無用の米軍基地を増やすだけで、その見直しは年末のGPR発表でキャンセルされるだろう。

日本の外務省が米軍基地利権で潤う時代はすでに終わっている。地元の基地利権ボスが無用の公共工事で潤う時代も終わった。 
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