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【芸能・社会】

対馬海峡に散骨して つかこうへいさん今年元日に遺書

2010年7月13日 紙面から

 「蒲田行進曲」「熱海殺人事件」など反権力や社会的弱者を題材にした作品を数多く発表、戦後の演劇界を代表する劇作家、演出家で作家のつかこうへい(本名金峰雄=キム・ボンウン)さんが10日午前10時55分、肺がんのため千葉県鴨川市の病院で死去した。62歳。福岡県出身。葬儀・告別式は近親者で済ませた。

 今年1月、肺がんであることを公表。病院で治療を続けながら演出の指示を出し、最後まで舞台への意欲を見せていた。

 慶応大在学中からアングラ劇の活動を始め、1974年に「熱海殺人事件」で岸田国士戯曲賞を当時最年少の25歳で受賞。同年「劇団つかこうへい事務所」を設立、「初級革命講座飛龍伝」「ストリッパー物語」など、テンポの良い演出とユーモアで70〜80年代初めにブームを起こした。俳優の内面をさらけ出させる演出法など、演劇を志す若者に影響を与えた。

 82年、戯曲を小説化した「蒲田行進曲」で戦後生まれとして初めて直木賞を受賞。深作欣二監督、風間杜夫主演で映画化もされ、大ヒットした。

 94年に東京都北区と、95年には大分市と組んで劇団を設立。北海道北広島市でも演劇人育成セミナーを開催するなど、演劇による地方からの文化発信に貢献した。

 主な戯曲に「戦争で死ねなかったお父さんのために」「広島に原爆を落とす日」「幕末純情伝」、著書に在日韓国人2世としての思いをつづった「娘に語る祖国」シリーズなどがある。91年読売文学賞、2007年に紫綬褒章。長女は宝塚歌劇団の女優愛原実花。

◆事務所公表

 つかさんの事務所は12日、つかさんが自分の死後に発表するよう書き残したコメントを、マスコミ各社に対し、FAXで送付した。

 つかさんは「思えば恥の多い人生でございました」「戒名も墓も作ろうとは思っておりません。通夜、葬儀、お別れの会等も一切遠慮させて頂きます」「娘に日本と韓国の間、対馬海峡あたりで散骨してもらおうと思っています」などと、つづっている。

 がんの治療を受けていたつかさんは一時退院した4月、女性マネジャーに封筒を渡し、「自分が死んだら開封し、中のコメントを発表してほしい」と頼んだという。マネジャーによると、コメントは、つかさんが常々、口にしていた内容でもあるという。

◆悲しみの「蒲田」組 熱い思い忘れない

 映画「蒲田行進曲」でヒロインを演じた松坂慶子(57)の話 体調を崩されているとお聞きしてはいましたが、お目にかかれるものと信じておりましたので、とても残念でなりません。振り返りますと、つかさんとの出会いは、映画「蒲田行進曲」という作品で、今でもたくさんの皆さまから愛されている、私にとって宝物のような作品です。つか劇団が解散なさる時に写真集を出されました。「前進か死か」というタイトルだったと思いますが、全身全霊で仕事に向き合っていらした姿を、私たち役者に示してくださいました。つかさん亡き後はもの作りに携わる人間として、熱い思いを忘れずに生きたいと思います。

 風間杜夫(61)の話 衝撃を受けている。今はまだ、とても信じたくない思いだ。去年の冬から入院されていることは知っていたが、人の100倍200倍ものエネルギーを持っている方だから、必ずまた元気な姿を見せてくれると確信していた。つかさんの教えを胸に刻んで芝居をする、そのことだけが僕にできる恩返しです。

 平田満(56)の話 突然の訃報に、今は何を申し上げてよいか言葉にならない状態です。あまりにも早いお別れにショックを受けています。ただただ残念です。大きな存在をなくしてしまったとしか言いようがありません。謹んでご冥福をお祈りします。

◆悼む 義理と人情の人よ安らかに

 多くの人が語っているように、つかさんは情の人だった。舞台を小説化して、さらに映画になって賞を総なめした「蒲田行進曲」で風間杜夫、平田満がたちまち人気俳優となったが、実は松坂慶子の出演は製作の松竹サイドからの要望に押し切られたからだった。と言って松坂の熱演が、素晴らしかったことに変わりはないのだが、本当なら、舞台で風間、平田と共演していた根岸季衣を映画にも出したかったのだと、つかさんから聞いたことがある。

 興行面の方針で、最後は折れるしかなかった。そう決まった直後、つかさんは根岸を銀座の高級宝石店に連れて行って、「何でもいいから好きなものを選べ」。そう言って自分の力不足をわび、慰めたのだった。根岸がその時何を選んだのか、あるいは気持ちだけを受け取ったのか忘れてしまったけれど、そうしなければ気が済まなかったつかさんの心情がいとしいと思う。

 きっと病床で、構想を練っていただろう。過剰なほど熱く、義理と人情を大切にした人が、今の時代に放つ新作を見てみたかった。安らかにお休みください。 (本庄雅之)

◆「自分の中では生きています」来月つか舞台主演 筧利夫

 来月、つかさん作の舞台「広島に原爆を落とす日」(8月6−22日、東京・シアターコクーン)に主演する筧利夫(47)が12日、東京・日本橋浜町のスタジオで会見した。亡くなった10日は、くしくもけいこ初日。12日朝、訃報を知った筧は「つかさんだったら治ると思ってた。今でも信じてないし、自分の中では生きてます」と語った。

 学生の頃から、つか作品のファンで、劇団☆新感線時代はつか作品のコピーを多く演じた。20年前、つかさんの「飛龍伝」に起用され、けいこ場で初めて会った際は、「緊張でコチンコチンだった」という。本番の舞台では、つか芝居の申し子のような熱演で再演を重ねた。つかさんに最後に会ったのは7年前の「飛龍伝」千秋楽だった。

 けいこで役者を見ながらセリフを与えていく、つかさん独特の“口立て”という演出方法を「天才だからできたこと。人の顔見るだけで、よくあんな美しい言葉が出てくるなと思ってた」と話し、人柄については「30人連れて焼肉店に行き、店の肉を食いつくすなど、豪快な人だった」。

◆長女・愛原実花休演せず 宝塚・雪組で退団公演中

 つかさんの長女愛原実花が所属する宝塚歌劇団は12日、愛原が10日以降も宝塚大劇場の舞台に立ち続けていることを明らかにした。今後も休演の予定はないという。愛原は雪組トップ娘役。9月に宝塚を退団することが決まっており、現在は退団公演に出演中。10日は1回、11日は2回の公演を気丈に務め12日も午後からの公演に臨んだ。

 

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