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日本振興銀:検査妨害 金融のプロ、挫折 木村容疑者「3年後黒字」に縛られ

 <追跡>

 日本振興銀行の検査妨害事件で、警視庁に銀行法違反(検査忌避)容疑で逮捕された前会長、木村剛容疑者(48)は金融界きっての理論派として知られた。「3年後の黒字化」を宣言したが、設立から6年で刑事責任を問われることになった。金融庁の立ち入り検査の際に取引に関する電子メールを削除した容疑。日銀出身で金融庁顧問まで務めた「金融のプロ」が、法令に違反してまで隠したかったものとは何だったのか。

 1月9日、横浜市の大型コンベンションセンター。同行の融資先など百数十社で作る「中小企業振興ネットワーク」のイベントに集った3000人の視線は壇上の木村前会長に注がれた。「皆さんのおかげで銀行は増収増益になりそうです」。自信に満ちた表情に半年後の逮捕を予感させるものはなかった。

 富山市出身。高校時代はサッカーでインターハイに出場した。東大経済学部を卒業し85年に日銀に入行。当時の人事部次長は「日銀のプリンス」と呼ばれた福井俊彦前総裁だった。結婚式の仲人も務めた福井前総裁は14日、取材に「後輩の一人であり心配しているが、仕事をサポートしたことはなく、逆に転落の背中を押したこともない」と話した。

 ◇自己評価オールA

 ニューヨーク勤務などエリートコースを歩んだが、98年に外資系コンサルタント会社の日本法人を設立。在米時代の知人は「金融分野でナンバーワンになり、日本の金融を回復させなければならないと強い自負を持っていた」と証言する。別の知人は「押しが強くて弁も立つ。銀行の頭取クラスとも対等に渡り合い、新規顧客を次々と獲得してきた」と評価した。

 コンサル会社が社員に自己評価表を書かせた時のこと。200のチェック項目すべてに最高評価の「A」と記した。上司は「世界中で、自己評価で100点満点を付けたのは木村だけだ」と舌を巻いた。

 大手銀に厳しく不良債権の抜本処理を唱える論客として注目を浴びると、小泉内閣の竹中平蔵金融担当相に接近。金融庁顧問に抜てきされ、「金融再生プログラム」策定の中心メンバーとなった。

 ◇融資伸びずに

 04年4月に「3年後の黒字化」を宣言して日本振興銀行を開業。「黒字化」は金融庁が銀行免許を交付する際の目安に過ぎなかったが、木村前会長にとっては「絶対の使命」だった。関係者は「不良債権処理を巡る発言で『外資の手先』と批判された彼にとっては、世間を見返すチャンスだったはず」と話す。

 だが理論通りには運ばなかった。高利回りをうたったため預金残高は比較的順調に伸びたが、当初から懸念された営業力不足もあり中小企業向け融資は伸びなかった。赤字が続き、債権買い取りビジネスに飛びついた。

 グレーゾーン金利撤廃と担保不動産の下落で資金繰りに窮していた商工ローン大手「SFCG」などの貸金業者に照準を合わせた。債権を格安で買い取ることができ、新規の貸し出し先を開拓するコストを省くことができるという理由からだ。

 中小企業振興ネットワークを形成したのもこのころだ。「互恵互栄」をうたうが、内実は債権の焦げ付きを防ぐための迂回(うかい)融資の受け皿とされる。会員企業にはライブドア元社長、堀江貴文被告(37)=上告中=が過去に所有し、世間を騒がせた企業が名を連ねる。

 07年3月期には黒字を確保し「使命」は達成された。09年度の貸出残高は4219億円で5年前の35倍に拡大。「どんなにグレーでも、貸出残高が3000億円を超えれば、金融庁は銀行をつぶせない」と周囲に語っていた。

 09年6月~今年3月に立ち入り検査した金融庁検査官に対し、同行は徹底抗戦の構えを見せた。金融庁関係者は「検査の手の内を知り尽くしているだけに悪質。木村前会長の指示だろう」と憤る。別の関係者は「自民党政権への配慮から(摘発を)自重する雰囲気があった」と明かす。今回、金融庁が「竹中銘柄」とされた同行の刑事告発に踏み切った背景には、政権交代の影響が見え隠れする。

 ◇大きくしたかった

 「あなたは何がしたかったのですか」。木村前会長の事実上の解任が決まった5月の取締役会。社外取締役が問いかけた。木村前会長は「私は悪いことはしていません。ただ銀行を大きくしたかったんです」と動ぜず言い切った。元幹部行員は語る。「木村さんが隠したかったのは金融のプロとしての挫折だったのかもしれない」【川崎桂吾、清水憲司】

毎日新聞 2010年7月15日 東京朝刊

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