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きょうの社説 2010年7月15日
◎談合で公取委検査 あ然とする疑惑の広がり
奧能登地区の建設会社を対象にした公正取引委員会の大規模な立ち入り検査は、地元の
大手や建設業協会も含まれ、疑惑の広がりは衝撃的である。2007年の七尾市の事件に続き、能登半島地震復旧工事での談合も疑われており、それが事実とすれば、被災者の神経を逆なでする行為と言わざるを得ない。談合から離脱した業者への報復として、燃料や資材を扱う小売業者に圧力をかけ、取り 引きしないよう妨害した疑いも持たれている。業界の悪しき慣行を守るために、非常識な「ムラの論理」を同業者に押しつけていたのだろうか。 民間の受注も限られる能登の建設業界は、公共工事の依存度が高く、談合が何度も摘発 されてきた。それでも疑惑が後を絶たないのは、罪の意識がないのか、あっても「必要悪」と割り切っているのだろう。事件の展開次第では、自治体も入札制度の抜本的な見直しを迫られることになる。 立ち入り検査を受けたのは輪島、珠洲市などの業者で、県出先機関や輪島市発注の道路 、橋などの工事で談合の疑いが持たれている。建設業協会の事務所などに集まり、受注調整していたとされる。 富山県では2008年、滑川市発注の下水道工事で、滑川建設業協会が組織ぐるみで談 合を繰り返していた事件が摘発された。協会が談合の仕組みをつくり、日常的に工事を分け合っていた。地域の付き合いが濃密なところほど、業界組織は互助会的な性格を強めるのだろう。 滑川では協会の大半に当たる17業者が指名停止処分になったが、市は処分業者にも除 雪を委託し、その後、指命停止の一斉解除に踏み切った。地元の建設業界が機能不全に陥れば、公共工事の進捗に影響し、災害復旧など公的な役割も任せられなくなる。組織的な談合を許せば、自治体に大きなツケが回ってくる教訓である。 建設不況で自治体の入札改革が足踏みし、業者保護を優先させるような動きもみられる が、公共工事による景気対策にしても適正な入札執行が前提である。奥能登の談合疑惑が裏付けられれば、結果として、それを見過ごしてきた発注者側の責任も免れない。
◎介護職の医療行為 地位の向上につなげたい
厚生労働省は、介護職員の医療行為に関する法整備を進めている。来年の通常国会に法
案を提出する予定で、これを機に介護職員の一層の地位向上を図りたい。各県も支援に力を入れてほしい。厚労省は今春、原則として医師や看護師にしか認められない医療行為のうち、たんの吸 引と管で胃に流動食を入れる「胃ろう」の管理を、研修を受けた特別養護老人ホーム(特養)の介護職員も特例として行えるようにした。 同省などによると、全国に約6千カ所ある特養の多くは、看護師を基準よりも多く配置 している。しかし、夜間を含めて常に看護師のいる特養は2%程度に過ぎないという。こうした特養では、介護職員が必要に迫られて入所者のたん吸引などを行わざるを得ないのが実情である。このため同省は昨年、石川県の3施設、富山県の2施設を含む全国125施設で試験実施した上、今年4月から介護職員によるたん吸引などを正式に容認した。特養の現実的な要請に沿う妥当な措置といえる。 実施に当たっては、介護職員が自信を持ってたん吸引などを行えるよう、十分な実地研 修が必要である。自治体も研修会の開催や経費負担などの面で、職員や施設を後押ししてもらいたい。介護職員が不安感を抱かずに医療行為を行えるよう、医師、看護師との連携体制を充実させるなどの環境整備も重要である。 さらに求めたいのは、医療行為もできる専門性の高い介護職員の待遇改善を進め、施設 内だけでなく社会的な地位の向上につなげていくことである。不足する介護人材を確保する上でも、そのことはたいへん大事である。 資格外の医療行為に関して、厚労省はこれまで、在宅患者のたん吸引を家族のほかホー ムヘルパーにも認めてきた。特養の介護職員はこれに次ぐもので、今後、グループホームや有料老人ホームの介護職員にも拡大することが検討されている。それはやむを得ない措置としても、なし崩しに広げるのではなく、法的裏付けのある制度として確立する必要がある。
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