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[20164] どこにでもあるフツウなおはなし (バトル物・たぶん中二)
Name: 不眠症◆bc16bd6a ID:8b97f6f7
Date: 2010/07/12 17:40
うだるような夏の暑さに、俺は目を覚ました。

時計を確認すると現在7:58分。通常なら高校生である俺は、大急ぎで学校へ行く準備をしなければならないが、

幸いなことに本日は土曜日。休日だ。

一人暮らしである俺は、誰にも怒られることなくいつまでも寝ることができる。一人暮らしってサイコー。

だがこの時間、さっさと起きないとゴミ収集車が来てしまうのでしかたなく起床することにする。

布団を片づけ、軽くストレッチ。ボキボキ鳴る関節をほぐし、振り返ればそこは四畳一間の狭い部屋。

……まぁ一人暮らしだし、アパートの住人も優しいし、家賃クソ安いし、住み慣れたから別にいいけどね。

若干ブルーな気分を振り払い、左手でゴミ袋を右手でドアノブを掴み、オープンザドア!

「………あっちぃ」

アホみたいな暑さにはやくも汗がでてくる。くそっ、いきたくねぇ……。

けど行かなければ、一週間もこのゴミ袋と共に暮らすことになる。それだけは勘弁だ。

しかしなんで俺が行かなきゃならないんだ、こういう事は妹がやれば……って、そうだった。一人暮らしなんだった。忘れていた。これだから一人暮らしはイヤなんだ。

自分に毒づきながらも、俺は第一歩を踏み出した。

やっぱり暑い、ハンパじゃなく暑い。これが噂に聞く地球温暖化? 死ねばいい人類。

重い足取りで階段まで歩く。セミうるせぇぞ!

イライラして階段をまるで地団駄を踏むように乱暴に下りる……なんて事をしたらアパートが倒壊しかねないので、普通にそーっと下りる。

べつにボロいわけじゃない、ただちょっとレトロなだけだ。そこを勘違いしてほしくない。

そしてやっとの思いで、ゴミ捨て場までたどり着く。部屋からココまでなんと驚き10メートル。

ちゃんとゴミ袋に網をかぶせてそこから去る。 あばよゴミ袋。

部屋まで無事帰還した勇者であるこの俺は、朝食を摂って顔でも洗ってさっさと寝ることにする。 

もしかしたら寝すぎかもしんないけど、戦士には休息が必要不可欠なんだ。別にいいだろう誰にも怒られないしね。一人暮らしサイコー。

仕舞った布団は出さず、座布団を折って即席枕代わりへ変身させる。

完全睡眠モードへと移行した俺はこれから10時間何があっても起きない。たとえ震度7の地震がおころうと、アパートが火事になろうと

バイト先がクビになろうと、幼なじみが起こしにこようと絶対だ。

だからさっきから俺の部屋のドアがノックされているが、そんなものは無視だ。

インターホン?なにそれ、そんな高価なものはウチにはありません。

コンコン コンコン 

無視無視

コンコンッ コンコンッ

き こ え ま せ ん

コンコンッ ドンドンッ ドンドンッ

ちょっ、強く叩きすぎだろ。 木製のドアがミシミシいってるぞ。 そんだけノックしても出ないんだから、留守だとおもえよ。

ったく、わかったよ、わかりましたよ。 出りゃいいんだろ出りゃあよ。これでなんかの勧誘だったら縊り殺す。

魚眼レンズはあるので、それを通して見てみると……。

「うわ……」

そこには、一際目を引く赤いツインテールの頭。 挑戦的というか勝ち気な爛々とした綺麗な瞳。

普通にしてれば、50人中50人が美少女と答えるだろう女の子がいたのだ。

しかし俺が普通にしてれば、という形容をなぜ使ったのかというと、それは彼女が普通ではなく、もっと言うなら不機嫌そうで、

さらには魚眼レンズをもの凄い眼で睨み付けているからだ。ぶっちゃけマジ怖い。

しかもこうやって説明してる間も、彼女はドアをノックし続ける……って、ノックじゃねぇ! 蹴ってるぞこいつ!

そろそろ本気でドアが限界なので、俺は急いでドアを開ける。

「遅いっ!なにしてたのよ!」

開ければそこには魚眼レンズで見たとおり、挨拶もなしにキッと睨めつけながら偉そうに腰に手をあて、あろうことか人様にむけて指をさしている女の子がいた。

「……寝てたんだよ、俺が悪かったからドアを蹴らないでくれ、他の人にも迷惑だから」

「フンッ」

他の人にも、という言葉がきいたのかドアを蹴るのはやめてくれた。代わりに俺を蹴ってるが。

「んで、俺になんか用か? サツキちゃん」

「ちゃん言うな!気持ち悪いっ。それに用があるからきたんじゃない」

そりゃそうだ、と俺は返して女の子、もとい赤垣 皐月(あかがき さつき)をみやる。

このカルシウムが慢性的に不足している女は、俺の通ってる高校の同級生だ。

別に仲がいいわけじゃない、ただ単にこの部屋の真下、つまり同じアパートに住んでるというだけだ。

だがなぜか、なにかにつけてからんでくるので、俺が適当にあしらうというやりとりが半年近くおこなわれている。

さてさて、今回はどんな厄介事を持ってきたんだ。

「実は、あんたに頼み事があって来たのよ」

それが人にものを頼む態度か、などという月並みなつっこみはしない。

「それが人にものを頼む態度か」

あれ、言ってしまった。

たぶん睡眠を邪魔されて、俺は気が立ってるのだろうと自分で勝手に納得する。

俺の言葉を受けてサツキは一瞬、やっちゃった、みたいな顔をしたように見えたが、一瞬のことなのでよくわからない。気のせいかもしれない。

「ふ、ふんっ、そんなことはどうだっていいのよ!第一あんたなんかに払う敬意は欠片もないないんだから!」

欠片もないらしい。

しかしこの程度の暴言なら俺たちの間では日常茶飯事だ。

前に、俺には生きる価値もないと言われたときはさすがにへこんだが。

だがこの女、そんなんで頼み事とやらを引き受けるとおもっているのだろうか。

まあ普通なら怒ってそのままドアを閉めるだろう。

しかし寛大すぎる心の持ち主である俺はそんなことはしない。

というかもう慣れた。

いやそれよりも、はやく用をすませてくんないとマジで他の人の迷惑だ。

このアパートには気休め程度の防音対策しかされていない。

「……えーと、それで頼み事って?」

「うん?あ、そうだった。えっとあたしのバイトの事で――――」


■■■■■


「おーい新入りー、レジたのむ」

「はいはーい、わかりましたー」

俺は商品を並び終え、レジへと駆け寄る。

商品を掴みバーコードをスキャンする。スキャン スキャン スキャン!

袋に詰めて代金をもらい、お釣りを文鎮代わりにレシートを渡す。 その際お客さんが微妙な顔をしたが、それは無視して営業スマイル。ニコッ

そして次の客の相手をする。





どうして俺がコンビニの定員なんかをやっているかというと至極単純な事で。


サツキ「今日バイトにいけない」(なんか実家の事らしい)
         ↓
バイト先「こっちもせっぱ詰まってて、いきなり休むとかいわれても困る」
         ↓
サツキ「じゃあ、代わりに知り合い(←俺)を行かせます」
         ↓
バイト先「サツキちゃんの知り合いなら、おかしなやつじゃないだろう」←謎の信頼
         

ということらしい。
 
まぁサツキの方も急に用事が入ったらしいから、仕方なく近くにいる、っていうか上にいる暇そうな俺を誘ったらしい。

暇そうなってなんだよ!とか仕方なくってなんだよ!とか思ったけど、結構困ってるっぽかったし。今度お礼もするとのことで引き受けたやさしい俺は
 
こうしてバーコードをスキャンしているのでした。
 
「おし、新入り今日はもうあがっていいぞ」

「あっ、はい おつかれさまでしたー」

ようやく仕事も終わった。現在5時。

制服を脱ぎ私服に着替えて、コンビニを出る。

まだ夕暮れとまではいかないが、太陽は沈みかけている。 

夕飯はもらったコンビニの余り物を食うのだが、この暑さじゃすぐに腐ってしまうし、観たい番組もある。ならさっさと帰らなければ。


アパートからコンビニは少し距離があるので、すこしダッシュ。ダダッシュ!

家に着いたときにはすでに6時、結構日も暮れてきた。余り物はもうこのままじゃ腐ることは分かりっていたのでたべてしまった。

ので、途中からはもう歩いて帰った。別に走って疲れたわけじゃない。本当だ。

しかし、ここで俺の目の前に思ってもみなかった障害が立ちふさがる。

「……鍵がない」

絶句する俺。

このままじゃ部屋に入れない、どこかに落としてしまったのだろうか……と、そのとき携帯が鳴る。

こんな時に一体誰が、と思い電話に出ると……

「あっもしもし、あたしだけど」

あたし? 俺の知り合いにあたしだなんて荒唐無稽な名前の持ち主はいないが…。まさかあれか?オレオレ詐欺みたいなやつだろうか。
 
「もしもし?きこえてる?」

「金なら振り込まないぞ!」

「なんだ聞こえてるんじゃないの」

スルーされた。

「んで、なんの用だよサツキ。わるいけど今はおまえと呑気にしゃべくってる状況じゃないんだが」

「ああそうそう、あんた鍵忘れなかった?」

!? なぜサツキがそのことを知っているっ……!

まさかエスパーかこいつ!

「さっきバイト先の店長から持ち主不明の鍵をひろったから聞いてみてくれ、っていう電話をもらったんだけど……、その様子じゃあんたので間違いないわね」

ハァ、といっそ呆れた風に言うサツキ。 ちょっとむかつく。

「店長が取りにくるの待ってるから、さっさといきなさい。いいわね?」

もちろん言われるまでもない。

サツキに礼を言って電話を切ると、そこからダッシュでコンビニへ向かう。

しばらく走ると2本のわかれ道、コンビニに行くには右の道を行った方がはやいのだが、人気がなく街灯も少ないから普段は使わない。

それになぜか、本当になぜだかこの道は嫌な予感がする。

しかし時は一刻を争う状況だ、はやく帰らないと観たい番組が始まってしまう。

「くそっ……」

俺は仕方なく右の道を通る事にした。

                                             ――――――このとき急がずに
                                                      
                      左の道に行けば俺は――――――

この道は普段使わないだけあってなんだか新鮮な気分だ。

しかしやはり街灯が少なくて前がよく見えない。

こんだけ走ったのにまだ街灯二つ目だ。

お、やっと三つ目発見。やっぱ人間て光がないと不安になるよな。

そしてその街灯の下に向かって走ってると、突然―――――――――――

「!?」

足が止まった。

いや足だけじゃない、身体中が金縛りにでもあったかのように―――動かない。

「……!…………っ!?」

声さえ出ない。

だがそれよりも俺が驚いているのが、足が、いやこれまた身体中が、全身という全身が、震えていることで――――

そして、前方から、ナニカが、近づいて、きて―――――

(やばいやばいやばいっ…………!!)

嫌な予感なんて生易しいものじゃない、それはもう確信になってる。

たぶんこれは生物としての本能だ。

はやく、逃げないと、俺は、確実に―――!


  「よぉ」


ソイツは。

まるで友人と挨拶でもするかのように、気軽そうにそう言った。

しかし俺にこんな知り合いはいない。

第一、こんな奴と道ですれ違いでもしたら忘れられるわけがない。

コイツの服装が奇抜だからではない、いやたしかに奇抜は奇抜なんだけど。

両腕にベルトを巻き、腕だけではなく太股のあたりも2本のベルトを巻いている。

スネまでの長いブーツ。

両耳に十字架のでかいイヤリング。

この常人のファッションセンスを逸脱した服装は印象的だが、それよりも印象的なのが眼。

綺麗な切れ目だが、猫のように縦に瞳孔が開いたその瞳はこうして顔を合わせただけで身体が震えてしまう。

そうつまりはコイツが捕食者で俺が被食者という単純な構図だ。

コイツが猫なら、さしずめ俺はネズミだろう。

だからさっきから四方にとばしていた殺気が、俺だけに向けられているのも理解できる。

どこから取り出したかわからないような大型のナイフを、俺に向かって振り上げているいるのも理解できる。

目の前に散った赤い液体も、俺の血液だろうというのも、だから理解できる。

首の半分ちかくをぶった切られたから、声がだせないというのもやっぱり理解できる。


そこから先はわからない。

かろうじてわかるのは、道ばたに倒れた俺の意識がプツンと切れたという事実だけだ。






こうして俺 柿崎 遊斗は、本日あっけなくその生涯の幕をとじた。






                                     



[20164] 自己紹介
Name: 不眠症◆bc16bd6a ID:8b97f6f7
Date: 2010/07/12 17:39
うだるような夏の暑さに、俺は目を覚ました………ワケじゃあない。

というかむしろ、背中がひんやりしていて結構涼しい。

当たり前だ、俺はアスファルトの上に仰向きで寝ているのだから。

「………?」

いや、なんで俺がアスファルトなんぞの上で寝るのが当たり前なんだ。 そんなのが俺にとっての当たり前になった事は、生まれてこの方一度もない。

あれ? それじゃあ、どうして俺はこんな所で寝ているんだ?

えーと、ああそうだ。 俺が店に鍵を忘れて、それを取りに向かってる最中なんだった。

はて、だとしたらなぜ俺はこんなとこで寝ている?

鍵を返してもらうのに、そのような行為する必要性はないだろう。

――――いや、そう決めつけるのは早計かもしれない、もしかしたらコンビニへ向かう途中、眠くなってそのまま寝てしまった可能性も………ないな。 それはない。

自分の思考を即座に否定。 いくら俺でもさすがにそれはない。 じゃあ――――と、

そこまで考えたところで、首のあたりに鋭い激痛が走った。

「っ……!!」

なんというか痛いというより、熱い。 痛くて熱くて熱くて痛くて、悲鳴を上げることさえできない。

やばいレベルの激痛が俺を襲ったが、そのおかげで、というかなんというか、そう、思い出した。思い出してしまった。


ああそうだった、そうでした。

俺は店へ向かっている最中、通りすがりのわけのわからんファッションをした奴に、ナイフで首を切られたんだった。

なるほど、悲鳴を上げる事ができないのは痛いからじゃなくて、喉を切られたからか。

なんだか異様なくらい静かだし、大声出したらもしかして誰かくるかなあ、なんて考えてただけにショックが倍増する。

だがまったくなんだったんだあいつは、通り魔かなにかか? なんの躊躇もなく、簡単に切りやがったぞ。

あれ、しかしそうなるとおかしいぞ。 普通、人間が首をあの深さまで(といっても、俺からは見えないが)切られたら確実に死ぬんだが。

どうして生きてる俺。わけがわからない。 幽霊にでもなったのだろうか。 いや幽霊だったら痛みは感じないか? どうなんだろう。

ふと地面をみると、アスファルトは赤く、赤く、染まっていた。

それはもちろん、ペンキなどをこぼしたからではなく、ただ単に、単純に、俺の血がぶちまけられているからだ。

どう少なく見積もっても、明らかに致死量を超えた量の血がそこにはあった。

さて、そうするとまたさっきと同じ思考に陥る。

矛盾。

あそこまで容赦なく首を切られ、やばい量の出血をしている。

なのに俺は動いている、動ける。

つまり、

生きている。 

「………いや、水を差すようで悪いが、お前は生きちゃいねえ。 お前は間違いなくおれにぶっ殺された。保証してやる」

「―――っ!?」

俺の考えを否定するように、頭上から声が浴びせられる。

声がした方へ顔を向けると、コンクリート製のブロック塀の上に座りながら、うずくまっている俺を見下ろす、俺と同じぐらいの歳の少年がいた。

こいつは、たしか―――

「あん? どうしたよ。 そーんなにお目目ぱちくりさせちゃってまあ。 幽霊でも見たかのよーな顔してんぞ」

―――綺麗な切れ目

「しっかし、まったく。 おれが殺したとはいえ、殺したせいとはいえ。ちょいとばかりお起きんのが、遅すぎやしねーか?」

―――脛までのロングブーツ

「お前の血、全て抜けきるまで結構時間かかっちゃったんだぜ? その間おれってば、暇で暇でしょうがなくってさあ」 

―――体中をベルトで巻き

「暇すぎるからその暇つぶしに、ここら辺に住んでる奴ら適当に殺してきちゃったよ。 もしかしたらお前みてーな奴もいるかと思ったんだけど、やっぱりいねーわ」

―――両耳に大きな十字架のイヤリングを付けた

「いやあ、だけどしかしまさか、ハハッ。 こんな所で同属にあえるとはな。 さすがのおれもビックリしちゃったぜ」

―――俺の首をぶった切った張本人。

「ッ!!」

瞬間、俺はそいつから離れるようにその場から距離を取る、いや、取ろうとしたが、

動いた瞬間、首に激痛。

「っ……!」

「あー、ばかばか。 まだ首が回復しきってねーのにそんな急に動くなよ。 もげちゃうぜ?」

少年はブロック塀から飛び降りて、俺のほうへと近づいてくる。

一歩一歩少しずつ、しかし確実に。 そして俺の目の前で止まる。

「しっかしお前の首…………、ずいぶんと治りがおせーな。 おれだったらそのくらいの傷、1分で回復すんのに。 個人差ってやつか?」

俺の首の傷を見ながら、そんなわけのわかんないことを言う少年。

近くにいるからか、暗闇に目が慣れたおかげなのか、妙に少年の姿が鮮明に映る。

返り血一つ浴びていない痩せ形の体。

やっぱりどこかおかしいファッション。

俺の首をぶった切ったあのナイフはすでに持っていない。

そして少年のそれなりにととのった端正な顔立ち。

ぶっちゃけイケメン。

しかしこの場合、いくらイケメンだろうと初対面の人間を躊躇なく切りつける、通り魔である事にかわりはない。

事実、俺はこいつに殺されかけた。

「いや、かけた、じゃなくて殺されたんだよ。 さっきも言ったろ? おれはお前を殺したし、お前はおれに殺された。 こりゃれっきとした事実だ」

殺されかけたじゃなくて、殺された?

だけどこうやって動くこともできるし、痛みも感じる。 これは生きてるってことじゃないのか?

それに傷が治るってどういうことだ?

俺は死んだのか?死んでないのか? いったいどっちなんだ。

そしてこいつ、なんでさっきから悠長に俺なんかとしゃべってるんだ。 いや俺はしゃべってないけど。 

こいつからあのとき感じた背筋が凍るような殺意がない、それどころか敵意や悪意、害意さえも。

だめだ、わけわからん。俺のキャパシティを超える展開に、頭が混乱してきた。

「あー、まあ、そりゃ普通パニくるよな。けど安心しな、その混乱を解くためにおれが説明してやんよ」

説明? そりゃしてくれんのならしてほしいけど、でも―――

「納得いかねえ、って顔してんな。 まあ、当然か。 だが、おれだって成り立ての仲間に説明しないほど、冷たくはねーよ」

成り立て?

仲間?

だれが?

もしかして俺が?

なんの?

「なんの? なんのだって? そんなの決まってんだろ。決まりすぎるほどに、決まりきってるだろうが」

少年は、当たり前のことを当たり前のように、当然の事を当然のようにそう言った。

「――――だってお前が死んだ瞬間から」

心の底から嬉しそうに、心の底から楽しそうに、心の底からにやにやしながら言う。



「おれと同じ 《鬼》 なんだから――――」



鬼。

鬼?

鬼ってあの、体がでかくて、牙とかあって、棍棒もって、パンチパーマみたいな頭から角が生えてる、あの鬼か?

「………」

髪を確認してみるが、大丈夫。

パンチにはなってはいない。 安心した。

「………別に、昔話にでてくるような、パンチな髪した奴のことじゃねえぞ?」

違うらしい。

どうやら俺の早とちりだったようだ。

少年はなんだかよくわからない筆舌に尽くしがたいもの凄く微妙な顔をする。

が、それはなかったことにするらしく、コホンと、咳払いをすると俺に向き直り、説明をしだした。

「そう、まあつまり《鬼》だ、人間じゃない。 お前は死んで別の存在、《鬼》になったんだ」

《鬼》

人を捕らえ、食べると言われている空想上の生物。

だがまさか、そんなわけがない。

俺が《鬼》だなんてもんになった覚えはない、生まれてこの方一度も……。

「だーかーらー、お前はもう死んだんだよ、理解してる? 生まれてこの方? 当たり前だろ? もう生きてねえんだぜ? 死んでお前は始めて《鬼》になったんだから」

しかしでは俺がその《鬼》だという証拠はあるのだろうか。

「証拠? 証拠なんて本人が一番わかってんだろ? お前は、それを認めたくないだけなんじゃないか?」

そんなことはない。

断じてありえない。

「ハッ、そうかよ。 じゃあ否が応でも認めさせてやんよ。 ………そろそろいいだろ。 お前しゃべってみろよ」

は?

なにを言ってるんだこいつは、喉を切り裂かれて声がだせるわけ―――

「………………あれ?」

声が出る。

もちろん俺の声だ。

どうして? 喉を切り裂かれたのに……。

「ほらな? しゃべれるだろ? そりゃそうだ。 だって、首はもう――――治ってんだから」

その言葉にビックリして首に手をあてると――――首の傷が、治ってる。

傷が、あれだけ深かった傷が、触ってみる限り、どこにも――――ない。

それに痛みも、いつの間にかなくなっている。

「《鬼》の特徴は人間と比べて、異常とも言っていいほどに身体能力が高いとこにあんだよ」

少年は俺に向けてそう切り出した。

「姿形は人間の時とそう変わらねーけど、筋力や骨の密度、新陳代謝から五感にわたるまで、すべてがすべて、人間なんかの比じゃあない。こんなに街灯の少ねえ場所なのに、お前にはおれの姿がくっきり見えんだろ?
 まあ、嗅覚に関してはずっと血の中にいたから麻痺してると思うけど、それはおいといて。 
 あと生命力だって格段に上昇してる。だから、たかが首をナイフで切られた程度じゃ死にゃしねーよ。 すぐに治っちまう」

もっとも、お前は回復力がかなりショボイみてーだけどな、と、そうまとめるように説明し終えると、後は何も言わなくなり、ただ俺を見据える。

………俺はその説明を聞いても、何も言わない。

しゃべれるけど、話せるけど、声を出せるけど、何も言わない。 言えない。

なるほど、《鬼》ね………。
 
こいつが言った『仲間』とは、つまりそういうことか。得心いった。

目の前にいるこいつもその《鬼》なわけだ。

あんだけの殺気を振りまいてるから、ただもんじゃないとは思ってたけど、そうか存在からして別種だったわけか。

《鬼》

人を捕らえ、食べると言われている空想上の生物。

ただの通りすがりに、いきなり切りかかってきたのはそういう理由からか?

もしこいつの言うことが真実で、俺がその《鬼》だとしたら。

俺はすでに、人間ではないということか。

人間ではない、化け物。

人外。

「………どうしてだ?」

「あん?」

「……どうして、俺は、その、《鬼》になった?」

俺はそう訊ねるが、少年は難しい顔をしてさあな、と答える。

「《鬼》の出現、顕現は、おれらの間でも死んだ以外の明確な基準っていうか、条件っていうのが、いまいちよくわからないんだよ。《鬼》の存在はかなり昔からあるらしいけど未だに、な」

「そうか……」

わからないか……。

まったく、じゃあなんの因果でこんな目に……。

「ただ、《鬼》になるにはやっぱり、そうなるべくしてなった。と、おれあたりは思うけどな」

「なるべくしてなった?」

「そう。おれもそうだが、おれ以外の《鬼》もそうだが、みんな死んで《鬼》になった奴は、こう、待ち望んでた事がやっと、みたいな気持ちなるんだ」

待ち望んでいたことが―――やっと。

「お前も実は案外、嬉しいんじゃねえの? さっきは認めたくなさそーだったけど、それってただ死んだ事にショック受けただけで、《鬼》になることにはたいして抵抗ねえんじゃねえの?」

………そうなのだろうか。

俺は嬉しいのか?

《鬼》になれて。

「第一、自分を殺した奴と、こんな呑気にしゃべったりは、フツーしねえよ。 それってつまりおれの事を憎んでないからだろ? 恨んでないからだろ?」

憎んでない。

恨んでない。

それは―――そうかもしれない。

確かにこいつのことは、殺されたこともあって、若干トラウマになりかけてるけど。

憎んでいるかと、恨んでいるかと、怒っているかと訊かれれば、実はそうでもない。

むしろ、こいつが言ったように、俺は――――

「……ん?」

「あ? どうしたよ」

「いや、さっきお前、『おれ以外の《鬼》も』って言わなかったか?」

「ああ、言ったな。 間違いなく言った。それがどうした?」

「どうしたって、お前以外にもいるのか? その……《鬼》が」

「ああ、いるな。 間違いなくいるな。 この国だけでも、かなりの数の《鬼》がいるぜ」

………マジかよ。

当たり前だけど、ぜんぜん知らなかった。

ん? しかしそんなに多くの《鬼》がいたら、こいつみたいに人を殺していたら、人間なんて地球上からいなくなってしまうんじゃないか?


「いや、それは大丈夫だ。 なぜなら基本、おれら《鬼》は人間に干渉しねーからな」

「は? いやいや何言ってんだよ。 現に人間だった俺をお前は殺したじゃんかよ。 何が干渉しねーだよ。 思いっきり大胆に干渉してるだろ」

「ああ、いや、そうか。 忘れてた」

「忘れたって……、人、一人殺して忘れたっていったぞこいつ」

なんてやつだ。

酷いなんてもんじゃない。

鬼畜だ!

「いや、まあ鬼だしあながち間違ってねーけど……。そうじゃなくて、おれが忘れたって言ったのはそっちじゃなくて、説明すんのを忘れたって意味だ」

「説明?」

「《鬼》の種類についてさ」

「種類?それと干渉しない事と、なんの関係があんだよ」

「あるんだよ、ウルセーな。いいから最後まで聞けって」

ウルセー言われた……。

「まあいいや、それで種類って?《鬼》に種類なんてあんのかよ。ポケモンじゃないんだし」

「ああ、それもある。っつても、別におれも全部知ってるわけじゃないんだけどな」

えーと、と思い出すような表情を作る少年。

いや、少年っていっても俺とおなじくらいの年っぽいし。

それにいつまでも少年とか、こいつとかっていうのもなんだか変だし、後で名前でも聞こう。

「一気にいくぞ、 食人鬼、殺人鬼、半鬼、戦鬼、あとは、そう幽鬼だ。 この5種類を総称して《鬼》と呼ぶ」

「5種類……か」

以外と少なく感じる。

ポケモンからは程遠いな。

すぐに図鑑が完成しそうだ。

「ふうん。お前は、どの《鬼》なんだ?」

「決まってんだろ、殺人鬼さ」

殺人鬼……ねえ。

人を殺す鬼。

だから、殺人鬼。

「つまりは人間を殺す鬼だから、人に干渉する、ってことか?」

「そう。 だからさっきも言ったとおり基本、干渉しねーけど、するときはする、っていう単純なことさ。 ましてや、殺人鬼だぜ? 人を殺すのが存在意義みてーなもんだしな」

「………じゃあ、俺は?」

おそるおそる訊くと、殺人鬼はニヤアと顔を歪める。

「だから、最初に言ったろ? 『こんな所で同属にあえるとはな』って。 つまり、そういうことだ」

「………」

「ハハッ、仲良くしようぜ。兄弟」

そう、殺人鬼はにっこりと笑いかける。

「んじゃま、とりあえず自己紹介でもするか。 おれの名前は 無月 最初。 最初と書いてハジメと読む。 名字はムツキだ、どーも最初まして。兄弟」

殺人鬼・無月 最初は

殺人鬼見習い・柿崎 遊斗にそう自己紹介をしたのだった。









―――あのとき急がずに




―――左の道に行けば俺は




―――遠くない未来、人を殺すことはなかったのかもしれない




[20164] 忠勤
Name: 不眠症◆bc16bd6a ID:8b97f6f7
Date: 2010/07/14 18:20
うだるような夏の暑さに、俺は目を覚ましたわけじゃない。

朝8:13分。
俺の住んでいるアパートのドアがノックされる音で、目を覚ました。

「……………」

なんだか酷い夢を見た気がする。

それは俺が殺される夢で、それは俺が死に続ける夢で、それは俺が殺し続ける夢だったような。
しかし、夢は夢。
どんなに醜悪でどんなに最悪な夢でも、所詮は夢なのだ。
ちゃんと夢からは覚めるし、時間が経てば夢の内容なんて忘れてしまう。
夢なんてその程度。
現実に引き戻されれば、否が応でも忘れられる。

夢からは、覚めることができる。

だから俺は、さっきからずっとノックされているドアに行き、ろくに確かめもせずドアを開けてしまい。
よっす、なんだなんだあ。もしかして今お目覚めかい? などと、おちゃらけた感じに挨拶する殺人鬼が目の前にいて。
ああ、早く夢から覚めないかなあ。 と、切に願ってしまっても、無理はない話だと思う。










「んあ? なんだこの冗談みたいな部屋の狭さは。 お前よくこんなとこで生きてられるな」

入るなりいきなり失礼なことを言い出す無月。
というか、生きてられるな、ってもの凄く失礼すぎないか?

「文句を言うなら出てけ。 それに俺は、この部屋がわりと気に入ってるんだ」

「へえ、気に入ってるねえ。 ずいぶん物好きだな。 ………っと、別にそんな話をしにきたんじゃねえんだった」

ドスッ、と、俺の布団の上に無断で座る無月。
こいつには、遠慮とか礼儀なんてのはないんだろうか。

「話? 俺はお前に話なんかないんだが」

「ハハッ、冷たいこと言うんじゃねーよ。 傷ついちゃうぜ? ………んで、話ってのはな。 まあ、昨日っていうか昨晩のことだ」

「…………」

「お前、あれから人を殺したか?」

………。

無月が言うあれからというのはたぶん、昨晩、いろいろあったが無事(?)鍵を返してもらい。
無月と別れた後のことだろう。

ああ、そういえば。 俺は殺された際、半端じゃなく血が噴き出し、体中血まみれだったの忘れていて。
その格好のまま店に入るもんだから、店長本気で驚いてたな。

ははっ、いやあ、あの店長の顔はほんと傑作だったなあ。

「……おい。 ユートお前、おれの質問に答えろよ」

「………殺してないよ」

「………はあ。………やっぱりな」

呆れたように言う無月。

「お前どんだけ鉄のメンタルなんだよ。 そりゃあ、なりたてだから殺人衝動は薄いにしても。 普通なら我慢できねーはずなんだぜ?」

「別に。 我慢なんかしてないさ。 殺人衝動だってなかったし。 お前の言うことが間違っていて、やっぱり俺は殺人鬼なんかじゃないんだろ」

「ハッ、嘘言うんじゃねーよ。 《鬼》としての回復力があんのに、お前の体すげー傷だらけじゃん。 それって一晩中、自制するために、自傷行為に勤しんでたんだろ?」

「…………」

「それに、おれが間違うなんてことは、絶対にありゃしねーよ。お前、いったいおれが何年間、殺人鬼やってきたと思ってんだ? 10年間だぜ? 間違うわけねーだろ」

だって同じ匂いがすんだからよ、と。
無月はそう言い、俺を見る。

そう、確かに俺は一晩中、殺人衝動を抑えるために、自分を傷つけていた。
正直きついなんてもんじゃなかった。


自分の体が欲求に逆らえず勝手に動きだして、殺人行為を行おうとするのだから。
それで俺はしかたなく、勝手に動く体を傷つけた。

人へとむかう脚を全力で折り、首を絞めようとする腕を口で噛み切り。
頭を地面へぶつけ、自らを抑えていた。

だってそうでもしないと、自分が誰を殺すかわからないから。
もしかしたら、このアパートに住んでいる人たちを殺すかもしれない。
そうじゃなくても、知らない人だって殺したくはなかった。

だから自らを傷つけることで。

自らを殺すことで。

それを耐えていた。

「ああそうだよ。 俺は人を殺したくないから、自分を抑えるために自傷行為をしていた。 おかげで、寝ることができたのは朝の6時だ」

「ふうん……」

「たしかに俺はもう人じゃないけれど、殺人鬼だけど、だからって人は殺したくはないんだよ」

「殺したくない、ねえ。 殺人鬼としちゃ矛盾してるなそりゃ」

「そうだけど、だけど殺したくない、って俺が俺の意志で決めたことなんだから、別にいいだろ? 責められることじゃない」

「責められることじゃない………、ふん。 なるほどね」

それを聞くと、スッと立ち上がり、俺に言う。

「わかった。 お前がそう決めたんなら、そうすればいい。 おれがぎゃあぎゃあ言う事じゃねーしな。 好きにすればいいだろ」

ただし、と無月は付け加える。

「そのお前の殺したいっていうのも、お前の立派な意志だからな。 そこは勘違いしないほうがいい。 言ったろ? なるべくしてなった、って」

つまり最初からお前は殺人鬼なのさ、と言うと部屋から出ていく。

と思いきや、勝手に俺の冷蔵庫を開け、物色し始める無月。

「実はおれ飯食ってねーんだよ。 ……って、ああ? んだよ、食い物が全然ねーじゃねえか。 お前、飯どうしてんの? 仙人みてーに霞でも食ってんのかよ」

「勝手に冷蔵庫漁って、なに言ってやがんだテメーは。 それに飯ならそこのパンがあるだろう」

「パンって、これパンの耳じゃねーか。 苦学生かよお前」

「パンの耳を馬鹿にするな! 俺がそれにどれだけ助けられたとおもってんだ!」

「たしかにおれらは基本、燃費がいいからコレでも大丈夫だが……ちっ。 しゃあねえ。 外行くか」

「外食でもすんのか?」

「まさか。 おれ、金ねーもん。 コンビニで我慢するさ」

「ふうん、そうか。 じゃあ行ってこい」

「あ? 何いってんだ、お前も来るんだよ」

「なんでだよ!」

「言ったろ? 金がねーって。 なら必然的にお前が払うに決まってんだろ」

「そんな必然、俺は知らねえぞ! 何さも当然みたいに言ってんだ!」

「ふうん、そっか。 ならしょうがない。 そこら辺にいるやつから金をもらってくるか」

「もらう? そんな親切なやつはいない……ってまさかお前、殺すつもりじゃねーだろうな!?」

「…………」

「答えろよ! 無視すんな! お前それやったら殺人鬼でもなんでもねえ、ただの強盗じゃねーか!」

「世の中ではな、プライドを捨ててでも、やらなくちゃいけない時があるんだ」

「殺人鬼のプライドってなんだよ! 強盗にならないことか!? どう考えても、殺人鬼の方が最低だろうが!」


などと、この後もいろいろ反論してみたが、無月は、

『なら、定員を殺せばOKだな』

とまで言い出したもんだから、しかたなく俺は無月に奢ることとなった。 覚えてろよ無月。



■■■■




「……んで、ユート。 大丈夫かよ。 殺人衝動は」

「ああ。 勝手に動く両手両脚をお前が容赦なく折ってくれたおかげで、今のところは平気だ」

「んっか」

「まあ一応、礼を言っとく」

「気にすんなって、奢ってくれたお返しだからさ」

そんな風に俺達が会話しているここは、コンビニの近くに位置する公園だ。
二人ともベンチに座り、無月は飯を食いながら、俺は公園にいる人達を、なるべく見ないようにしながらだべっていた。

外に出て人間を見たら、俺は殺してしまうんじゃないかと心配だったわけだが、
無月は殺人行為をしようとした俺をみるやいなや、迅速に、そして容赦なく、骨をバキバキに折ったので、
殺人はおろか、まともに動くことすら出来なくなってしまったのだが。

しかし、さっきも言った通り、それには感謝している。

コンビニで飯を買ったら2000円近くなってしまって、ならどっかでラーメンでも食った方が出費がすくねーじゃねえか、とか思ったりしたが。

やっぱりその点については感謝してる。

もちろんその点だけで、他はもうダメだ。
正直いって、こいつを殺したい気持ちでいっぱいだ。
もちろん返り討ちにあうだろうけれど。

くそっ、そのサンドウィッチうまそうだなあ。
少しくらいわけてくれたっていいだろうに、俺の金なんだから。

そしてもちろん、無月はわけてなんかくれず、話を続ける。

「まあ、ユートもいつかは自分で制御しなくちゃなんねーけどな」

「わかってるさ。 ……でも意外だな。 俺はお前が外にでたら、そこら辺にいる奴らを皆殺しにするのかと思ったんだけど、そんなことないな」 

「まあな、そりゃ10年も殺人鬼続けてたらそら、ちっとは制御くらいできるさ。 まあ昨晩殺しすぎたってのもあるんだけどな」

「殺しすぎた? もしかして俺以外の奴も殺したのか?」

「ん? あれ、言ってなかったけ。 たしかお前には言ったはずなんだが」

「いや知らないな。 ふうん、殺しすぎた、ね」

つまり殺してしまえば多少、殺人衝動が弱くなるんだろうか。
ううん、俺にはよくわかんないな。

「いや、べつにそうでもないんだけどな。 おれらの殺人は欲望ってわけでも欲求ってわけでもねえし」

「へえ、そうなのか?」

「強いて言うなら、生き方かな、いや、生きてないんだった。だから、死に方か? まあとにかく、おれらにとっての殺人は存在意義でもあるんだよ」

「存在意義……か」

「そう、だから我慢すんのはきっと、辛いなんてもんじゃねーと思うぜ。 三大欲求とかいうのに殺人が加わったとか、そういうレベルの話じゃねえからな」

「ふうん……」

「殺すために存在してんのに、殺さないだなんて、自分の存在を否定してるよーなもんだぜ、実際よ」

「…………」

「まあ、さっきも言った通り、お前がそう決めたんだから、おれは何も言わないさ。 あんま関係ないしな。 せいぜい頑張ってくれ」

と、若干投げやりな感じでまとめる無月。

自身の否定。

存在の否定。

存在としての矛盾。

それはたしかに辛いなんてもんじゃないんだろう。
それでも俺は人を殺さずにいられるのだろうか。

この先、ずっと。

「………ん?」

「あ? どーしたよ、ユート」

「いや、あれは、たしか……」

俺の目線の先には一人の人物。

一際目を引く赤いツインテールの頭。
挑戦的というか勝ち気な、爛々とした綺麗な瞳。
普通にしてれば、50人中50人が美少女と答えるだろう、女の子がいたのだ。

しかし俺が普通にしてれば、という形容をなぜ使ったのかというと、それは彼女が普通ではなく、もっというなら若干やつれているような気がするからだ。
なんだか大変な出来事に巻き込まれて、やっとそのごたごたが終わったその帰り道、みたいなそんな感じ。

「いや、それってお前の事だろ」

そうだった。

しかし、無月からのつっこみが入ったところで、サツキに対する俺の印象は変わらなかった。
なんというか覇気がない。
いつものような勝ち気な空気がまるでちっともない。 どうしたのだろう。

「おーい、サツキー」

俺が呼ぶとサツキはこっちに振り向き、一瞬驚いた顔をしたが、それもやっぱり一瞬のことで、すぐにこっちに歩いてきた。

「柿崎、アンタあんまり大声で呼ばないでくれる? 恥ずかしかったじゃないの」

「そうか。 でも俺は恥ずかしくなかったからその提案は却下だな」

「アンタは………。 はあ、もういいわ」

あれ? 

いつもならもっと食いついてくるっていうか、噛みついてくるのに。
もういいわって……。

「明日はチェーンソーが降るぞ、こりゃあ……」

「チェーンソー!? 怖っ!」

俺のつぶやきに無月が反応する。

いや、なんでお前なんだよ。
普通ここはサツキが言う場面なのに……。

いや、でも、ほんと、一体全体どうしたんだろう。

「あ、えっと、こっちの人は?」

俺につっこんだ無月を見て、サツキがそう俺に訊いてくる。

だがこの訊き方だって、いつもと違う。
いつもだったら―――

『誰よこいつっ あんたあたしのポジショニングを奪わないでくれる!? 柿崎のつっこみ役はあたしのモノよ!!』

―――とかなんとか言ってくる………わけはないけれど。
でも、もうちょっと挑戦的に訊いてくるはずだ。

『あんた誰? 柿崎の友達かなにか?』

―――とまあ、こんな風に言うだろう。
そして続けて―――

『へえ、柿崎。 あんた友達なんていたんだ。 いつもひとりぼっちだから気づかなかったわ』

―――………とか。

『よかったわね、これで生まれてきたことに感謝できるんだから。 せいぜい今を楽しんだ方がいいわよ』

―――…………………とか。

『まったく神様っていうのは本当に優しいわね。 だってこんな、生まれてから今に至るまで、友達という友達が出来なかった柿崎に、たった一時とはいえ、幸福な気持ちを味あわせてくれるのだから』

―――………………………………。

「いくらなんでも失礼すぎるだろうが!!」

「いきなりどうした?」

「……あ、いや、なんでもない」

少し興奮しすぎてしまった。
いくら想像のなかとはいえ、サツキだってさすがにそこまでは言わないだろう、たぶん。

そう自分に言い聞かせ、サツキに無月を紹介する。

「えっと、こいつは無月 最初。 まあ、俺の友達(?)みたいなもんだ」

「ども、最初と書いてハジメって読むんだ。 どーも最初まして」

「赤垣 皐月。 柿崎の同級生よ。よろしくね」

お互い手を差し出し、しっかりと握る。

………なんかサツキのやつ、俺の時と態度が違わねえか?
たしか俺の時は、すげえツンケンしてた記憶があるんだが。

そしてなんだその自己紹介。
友達でもなく、クラスメイトでもなく、同級生って。

もしかして俺嫌われてる?

「それはそれで、ブルーになるな……」

「あ? さっきからどうしたよユート、お前変だぞ」

「別に、なんでもないさ。………ところでサツキ。 お前どうしたんだ? なんか元気なさげだけど」

「ああ、ちょっと実家の方でごたごたがあってね。 それがやっと終わったから、すこし疲れてるのよ」

はあ、と本当に疲れている感じのサツキ。

この滅多に弱音を吐かない、鉄の女であるサツキが疲れたというのなら、本当に疲れているのだろう。
これ以上引き留めるのは悪い気がする。

「そっか、悪かったな呼び止めたりして」

「いいわよ別に。 それに謝ったりしないで、気持ち悪い」

それじゃ、と軽く手を振り、俺達から遠ざかっていくサツキ。
謝ったのに気持ち悪いってどういうことだよ……。
やっぱり嫌われてるのかもしれない。

するとサツキは、あっ、と
何かを思い出したかのようにし、歩みを止め。
俺にむかってこう言った

「バイトの件、ありがとね。 ちょっとだけ感謝してる」

と言い、サツキは今度こそ帰っていった。

……まあ、感謝はされているのか。 ちょっとだけど。

俺はそう納得し、いつの間にか飯を食い終わった無月に質問する。

「で、無月。これからどうする?」

「そうだな。 じゃあゲーセンにでも行くか」

「なんで遊びに行くんだよ、それに金はもうねえぞ」

「違うって。 あそこなら人も多いし、人間を殺さないように我慢するための修行だって」

「なるほど修行ね。 少年マンガかよ」

「ハハッ、友情・努力・勝利ってか。 まあ、友情はすでにあるから、努力しねーとな、勝利出来なくなっちまうぜ」

「友情なんてねーだろ。 なに言ってんだ」

「冷たいこと言うなって。 泣いちゃうぜ?」

―――俺と無月はそんな風に話しながら、公園を後にした。


そしてその公園に俺と無月を見ていた、ともすれば値踏むかのような視線を送っていた《鬼》に俺達は気づくことはなかった。




「あれが無月 最初ですか。 なるほど、たしかにそれなりに腕が立つようですね。 これでは殺害命令が出てもおかしくありませんね。」

しかし、とその《鬼》はかわいらしく首を傾げる。

「その隣にいた+αは誰なのでしょうか? 殺していいのか殺しちゃいけないのか。 うん、そうですね、仕事を邪魔するようでしたら殺しましょう」

そしてその《鬼》は目の前にいる殺人鬼達の後を追う。

「さてと、それでは私、六ノ上 七下 今日も健気に仕事に勤しむとしましょうか。」

その恐るべき鬼、《戦鬼》に、やっぱり俺達は気づくことがなかった。









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