「蒲田行進曲」「熱海殺人事件」など反権力や社会的弱者を題材にした作品を数多く発表、戦後の演劇界を代表する演出家、作家のつかこうへい(本名金峰雄=キム・ボンウン)さんが10日午前10時55分、肺がんのため千葉県鴨川市の病院で死去した。62歳。葬儀・告別式は近親者で済ませた。
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斬新な作劇術と演出法の舞台は70~80年代に「つかブーム」を巻き起こし「つか以前」「つか以降」と言われるほど後進にも影響を与えた。演劇以外の分野でも、多彩な活躍を見せた。
福岡県で在日韓国人2世として生まれた。1974年「熱海殺人事件」で第18回岸田戯曲賞を当時、史上最年少の25歳で受賞。以後「ストリッパー物語」「蒲田行進曲」などを次々と発表。社会的弱者を主人公に、ユーモアにくるんで人間の本質をえぐった。
劇中に音楽を用い、俳優を縦横に動かして激しくセリフをしゃべらせる。台本を作らず、俳優の個性や状況に合わせて瞬時にセリフを変えていく「口立て」の演出。厳しい演技指導は俳優を心身共に追い込んだが、その中から加藤健一さん、風間杜夫さん、平田満さんらが育ち、人気スターとなった。近年でも阿部寛さん、小西真奈美さんら若手が、つか作品で鍛えられた。
東京都北区や大分市と協力して劇団を設立し、地方発の演劇人育成にも尽力。韓国で「ソウル版熱海殺人事件」を公演するなど、日韓の文化交流にも積極的だった。
戯曲を小説にした「蒲田行進曲」で、81年下半期の第86回直木賞を受賞。同作など映画化された作品も多い。
10年1月、肺がんを公表。2月、東京・新橋演舞場の「飛龍伝 2010ラストプリンセス」は、入院先の病室から演出の指示を出し、最後まで創作意欲を燃やし続けた。
毎日新聞 2010年7月12日 12時11分(最終更新 7月12日 19時21分)