9月8日現在、国際柔道連盟ランキング1位を誇る福見。公式戦で谷から2回勝った唯一の選手でもある

「実績」に屈した福見友子が掴んだ、
柔道世界選手権優勝という「実績」。

松原孝臣 = 文 ⇒この著者の記事一覧

text by Takaomi Matsubara

photograph by Shino Seki

「実績」に屈した福見友子が掴んだ、柔道世界選手権優勝という「実績」。

関連アスリート・チーム:

チーム・選手名
福見友子
谷 亮子

谷ではなく、自分に打ち克つ。福見が積み重ねた真摯な努力。

 だが、福見は沈んだままではなかった。このままではいけない、と立て直しを図ったのだ。その方法とは、自分を見つめなおすことだった。

「2002年に谷さんに勝ったあと、なかなか結果が出なくて苦しい期間が長く続きました。周りばかり気にしてしまい、なかなか抜け出せなかった。その経験があったからこそだと思いますが、人がどうこうよりも、自分がどうなのか、それが大事だと思ったんですね。例えば自分自身が辛いときや体が疲れているときに、本当に疲れなのか、妥協しての疲れなのか。あるいは技に関しても、どう思って入ったのか、ちゃんと考えてるのか自分と会話して、問いただして。そうすることでぶれがなくなったというか、周りに左右されずに自分を信じることにつながったと思います」

 自分を見つめなおす。言うのは簡単だが、実行するのは容易なことではない。自分の弱さ、負の感情など、見たくないところも見ることになるからだ。

「でもやっぱり悔しかったり、あきらめきれない部分があるから、嫌だけど自分を見つめなおすことになるんですね」

 日々、真摯に積み重ねた作業が、再起そして世界選手権代表へとつながっていったのである。

「実績」を築くために「本当に死ぬ気で」手に入れた金メダル。

 しかし、選ばれても結果を残せなければ、「やはり」という声が出てきかねない。実績を理由に落とされた以上、自ら実績を築いていかなければならない。だから福見は金メダルにこだわり続けた。

 それは自分で自分にかける強烈なプレッシャーにもなる。

「大会前の調整練習で、調子が上がらなかったんです。どうしても金メダルへの思いが強く、意識しすぎてしまって、体調がついてきていないときや疲れているときでも、もっとやらなくちゃ、もっとやらなくちゃ、と焦ってしまう。しっかり自分の声を聞いて、疲れているから、大丈夫だからここで一回休んでオランダであげていこうと考えもしたけれど、やっぱり、バランスがちょっとずつ崩れていたと思いますね」

 決して万全の状態で現地入りしたわけではなかった。それでも大会では見事な柔道を披露し、望んだ結果も手にいれた。何が可能にしたのか。きっと、どん底としか言いようのない局面を味わいながら自らの力で這い上がって乗り越えた経験と、覚悟だ。福見の真骨頂もそこにある。

「2位でも3位でもたぶん、もう日本代表として使われないなという気持ちで臨んでいましたね。金メダルしかないし、内容にもこだわらないといけないと思っていたので、死ぬ気でやっていましたね。本当に死ぬ気で」

 普段の、いたって温厚な表情のままに、激しい言葉を口にした。

世界選手権の優勝は通過点。見据えるのはロンドン五輪の金メダルだ。

 こうして終わった世界選手権は、通過点でしかない。福見にとっては、3年後のロンドン五輪こそ大きな目標である。

「これからは勝ち続けることを求められるわけですし、追われる立場でもある。国内での戦いも始まります。次。うん、次ですね」

 そんな彼女に、帰国して休養は取れましたか、と尋ねてみた。

「休みはとりましたけど……それよりも、練習が出来ていないなあ、というのが気になります」

 すでに、福見友子は先を見据えているのである。

■関連コラム► 谷不在の女子柔道界で、ついに世代交代始まる。 (2009年4月14日)
► ランキング制導入で問われる全柔連の姿勢。 (2009年1月16日)

(更新日:2009年10月1日)

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筆者プロフィール

松原孝臣

1967年、東京都生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経てフリーライターに。著書に『お酒の資格と仕事』『高齢者は社会資源だ』など。その後「Number」の編集に10年携わり、再びフリーに。五輪競技を中心に取材活動を続け、夏季は04年アテネ、08年北京、冬季は02年ソルトレイクシティ、06年トリノと、現地で取材にあたる。


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