島根

　「“今日の君たち”に、“今日の私”が会えるのは、今日という日だけ」－－。大田市の仁摩中学校で９日あった医療講演会。島根大医学部付属病院の小林祥泰院長は、幕末の大老で茶人・井伊直弼（なおすけ）の「一期一会」という言葉を引用し、生徒たちに１度の出会いに誠意を込めることの大切さを語った▼医師不足などが原因で、市立病院が救急告示を取り下げる事態に陥った同市は、次世代の医療従事者が地元から育つよう、この講演会を始めた。小林さんはこの日、一期一会の精神で患者の苦しみを和らげるのが医療行為であることを説いた。そして、医師や看護師を目指す若い世代に、「地域と人を愛する人間として育つ」ことをまず求めた▼過疎化の進行とともに、地方では医師や医療機関が減る一方だ。“見捨てられた地”だからこそ、住民は、人のぬくもりが通った医療を強く求めている。機械的に人や施設を増やすだけではダメだ。後継者育成に乗り出した市や小林さんの取り組みに期待したい。【鈴木健太郎】