【テヘラン鵜塚健、ワシントン小松健一】サウジアラビアで昨年6月に消息を絶ったイラン人核科学者、シャハラム・アミリ氏について、イラン国営通信などは13日、米ワシントンのパキスタン大使館内にあるイランの利益代表部で保護されたと報じた。米政府も同日、アミリ氏が米国に滞在し、帰国手続きのためイラン利益代表部を訪れたことを確認した。イラン政府は以前から「米中央情報局(CIA)に拉致された」と主張し、釈放を要求していた。これに対して、クリントン米国務長官は記者団に「本人の自由な意思で米国にいた。出国するのも本人の自由だ」と強調し、拉致疑惑を否定した。
クローリー国務次官補(広報担当)によると、アミリ氏は12日に米国を出国する予定だったが、経由する第三国の査証取得が間に合わず、同日夕にイラン利益代表部に相談に行ったという。その上で次官補はアミリ氏は間もなく帰国できるとの見通しを示した。
アミリ氏に関しては、米ABC放送が今年3月、自らの意思で米国に亡命し、イランの核施設に関する情報提供などでCIAに協力していると報じていた。クローリー次官補はアミリ氏の米国滞在期間や行動については言及を拒んだ。
一方、アミリ氏はイラン国営放送の取材に対し「米国に拉致され、14カ月にわたり心理的抑圧を受けた」と告白。「米国は一時、私をこっそりイランに帰国させようと計画したが、失敗した」とも語った。また同放送は、イラン情報当局が入手した音声の中で、アミリ氏が「米CNN放送で『自ら亡命した』と告白すれば1000万ドル(約9億円)を提供する、と米側から持ちかけられた」と語ったと伝えた。
真相は謎に包まれているが、フェルトマン国務次官補(中東担当)は12日夜、イラン側にアミリ氏が自由の身であることを伝達。その上でイランに拘束されている3人の米国人の釈放を要求しており、取引の可能性も取りざたされている。
アミリ氏は、テヘランのマレク・アシュタル大学でかつて勤務。同大学は核開発との関係が疑われ、6月に決議された国連安全保障理事会による対イラン経済制裁の対象リストにも含まれた。
毎日新聞 2010年7月14日 11時05分(最終更新 7月14日 11時55分)