ジョージ・ハリスンのシタールの調べに乗せて、ジョン・レノンの渋い歌声が、29年の時を経て銀幕に響きわたる。
「ノルウェーの森」は1965年発売のアルバム「ラバー・ソウル」の収録曲で、ビートルズがインド楽器、シタールをロック界で初めて取り入れ、アイドルバンドからアーティストへと大きく成長するきっかけとなった楽曲だ。
原作の冒頭、主人公、ワタナベ(松山)はドイツへ向かう機内で同曲のオーケストラ盤を耳にする。映画の劇中でも、病院で出会う女性、レイコ(霧島れいか=37)がワタナベとヒロイン、直子(菊地)にギターで同曲を弾き語る場面が登場する。
ユン監督は、そんな背景や映画タイトルが同じことから、同曲の主題歌起用は「必然的なこと」と考え、昨年2月の撮影前から構想を練っていた。が、撮影を終えた同8月になっても、交渉は難航した。
ビートルズの楽曲は英音楽会社「アップル」が管理しており、ポール・マッカートニー(68)、リンゴ・スター(70)、他界したジョン、ジョージの親族の許可に加えて、映画やCMなど商業的なことには使用させない同社の方針があったからだ。
小川真司プロデューサーは、ビートルズの厚い壁の前に、他のアーティストがカバーした「ノルウェーの森」を主題歌にすることを検討。しかし、ユン監督によって原曲を挿入した映像を見せられ、「やはりビートルズ以外にはありえない」と、アップル社に粘り強く再アプローチした。
ユン監督と小川氏の情熱に打たれた同社は、昨年12月、ついに使用許可を与えた。理由は日本国内だけで1000万部売り上げ、世界36言語に翻訳された実績に敬意を表してだった。ビートルズの邦画主題歌は81年公開の「悪霊島」に起用された「レット・イット・ビー」以来、29年ぶりだ。
この快挙に小川氏は、「曲と原作が分かち難い印象を持っていたので、実現できてよかった」と大感激。ユン監督も「観客が物語の余韻に浸るための空間作りができるよう、この曲を使用しました」と胸を張った。
村上氏とビートルズの究極コラボが、スクリーンで実現する。