2010-07-13
なぜ児童ポルノは規制されるべきなのか
保坂展人票の下支えにより当選した社民議員が「児童ポルノ規制は冤罪のおそれあり慎重に!でも漫画やゲームは公序良俗を乱すから規制強化!」と規制発言を行っていて頭痛くなりますね。エロゲ規制は冤罪のおそれないんかい。エロゲなんか買う奴は例外なく性犯罪者だって?三大少年漫画誌で引っかかるって。
これは規制派だの規制反対派だのという上等な問題ですらないんですよ。
この三次元規制は慎重にし二次元規制は推進せよとする主張はそう珍しくなく、有名所では自民党谷垣総裁も主張しています。要は、投票に行く年齢層の支持者を向いたスタンスなんです。孫の写真で逮捕される可能性があるなんてとんでもない、一方漫画やゲームは諸悪の根源だから焼き尽くせ、とね。ああふざけてますね。
その程度のものと思われるので、規制反対票あなどれないとなれば変節する余地はあるんじゃないかとも、思いますが。
児童ポルノ禁止法は元々、児童買春を取り締まるために制定の動きが生まれたものです。日本には管理売春(売春させる)を取り締まる法律はありますが、売春そのものや買春を取り締まる法律はありません。
これをポルノに拡大して立法しようと企てた時点で最初の歪みが出ています。ポルノ規制には社会のコンセンサスが全然なかったのに、自分がやりたいから勝手に追加したわけでして、暴走が始まります。性的に収奪される被害児童の保護という名目を貫くならばあってよい拡大なのですが、乱暴にあれもこれも規制と入れ込み、名前から見て取れるようにポルノの規制そのものが自己目的化します。児童買春は禁止という主張で始めておいて、イラストの違法化まで明言(除外されたものの将来の規制を付記)する狂った法になりました。ポルノ規制自体が既に元の理念からの逸脱であって、だからおかしくなったというわけです。
実在人物のいない二次元(架空)ポルノに至ってはそもそも児童ポルノでさえなく、これの規制に用いようとするのは完全な筋違い*1。教育や公序良俗を掲げて網をかけようとするのなら、児童ポルノとは全く別個の議論をしないと駄目で、議論したなら三次元(実在)ポルノと同列に扱う発想にはなりません。
児童ポルノを禁止する理路
規制されてしかるべき児童ポルノは確かに存在します。
アグネスとかあのへんは「性的虐待の写真か世界中に流出して二度と消えなくて心か傷つくから」とほざいていますが、それは違っています。主に気が。
じゃ、大人はレイプ写真が世界中に拡散しても傷つかないし放置していいんですか。合意の上のハメ撮り写真なら流出していいですか。いけないに決まってるだろ。なぜ「児童」ポルノが特に違法とされるべきなのか全く理解できていないから、そういう成年の被害者を足蹴にするような発言を平気で行ってしまうのですね。
被害者感情は全く関係ありません。自身が被害にあった当該の犯行に関しての配慮だけは受けられるべきですけどね。法は被害者感情のためにあるわけではありません。なのに、痴漢被害に遭ったから日本中の通勤電車を禁止せよみたいな、気持ちは理解できるが非論理的過ぎる声に基いて法を作ってはなりません。まあ作られてしまったんですけど異常極まりありませんね。法は利害を調整するものであって、世界に対して私怨を晴らすためのものではないんですよ。
13歳未満の児童との性交は合意の上であっても違法であるから、性交写真は間違いなく犯罪行為によって撮られた写真であると言え、一律に写真自体を違法なブツと定義してよいのです。
18歳以上だと、性交写真が犯罪行為の証拠写真であるとは言えず、一律に犯罪であると定めることができないのです。
これが児童ポルノを殊更に切り分けて違法とする理路です。
単純明快ですね。
現実には年齢が確定できずうまく機能しませんが、考え方としてはこうなります。
13歳未満の性交を伴うポルノは確かに規制されるべきものです。
児童ポルノ禁止法、3つのごまかし
ここで疑問が出ます。
「性交を伴わない(とりわけ13歳未満の)ポルノはどうなのか」
「13-17歳のポルノはどうなのか」
ですね。
論理的には違法とする理由がありません。
日本ではいずれも定義のすり替えによりごまかして違法にしています。
まず、13歳未満は性に関する判断能力が不十分、18歳未満は責任能力がないのであって、13歳を境に全く別物です。しかし児童ポルノ禁止法では18歳未満を「児童」の言葉でまとめ、最大限に規制します。
また、本来はnude即pornではありません。児童ポルノが禁止されている国でも少年少女ヌードは別扱いです。が、日本では着衣の一部または全部を付けていない姿態がみなポルノ扱いされます。
日本では性交描写がわいせつとして違法なので、合法ポルノは必ず擬似性交という設定になります。なので性交を伴う伴わないという区分が働きません。逆に性交を伴わないものを伴うもののごとく扱うごまかしも効かせやすいのですね。
この3つのごまかしで異なるものの同視を繰り返し、拡大解釈に拡大解釈を重ねたものが児童ポルノ禁止法です。更に次元の壁もフィクション・ノンフィクションの壁もごまかそうとしています。
本来あるべき区分は
判断能力・責任能力と言ったのは、言葉遊びではありません。
判断能力が備わる年齢では自己決定権が尊重されるべきだということです。
今、児童の保護というと、児童の自由意志を全部剥奪して、国と親の庇護下で箱に入れることだと考えられていますね。ほぅ
しかしそれはおかしいですね。根拠とされるのが子供の権利条約ですが、あれは守られる権利と同時に自己決定権も定めた点で画期的な条約だったんですよ。逆に、箱に押し込められない自由です。子供は守られるべきものだという考えはありましたが、子供にも自己決定権があるとは先進国の大人さえ思っていなかったので、その蒙を啓く条約でした。
ユニセフなんかが子供を公権力の付属物にする条約として押しまくっていますが、はっきり言って狂ってます。後戻りしています。
自己決定権が認められる(少なくとも13歳以上の)少年少女ポルノやヌードを公権力が一律に禁じてはならないのです。ただし18歳未満に責任能力はなく、出版や配信を自己責任において行えません。なので規制はあってよいのですが、違法ではなくて、保護責任者の許可が必要とするのが正しい規制です。本人の判断と保護責任者の責任があれば自由であるべきですね。(もちろん、保護者が本人の意志に反して強要するのはNGです)
18歳以上は全て本人の自由になります。
というわけで、本当は13歳未満・13-17歳・18歳以上・架空×スナッフ(合意なしポルノ)・ハードコア(性交ありポルノ)・ソフトコア(性交なしポルノ)・ヌード(芸術)のように細かく区分しなければなりません。
今の児童ポルノ禁止法は「13歳未満のハードコアは違法であるべき」から「18歳未満のヌードを規制」を導いており、別の話になりますが青少年健全育成条例案の類も「現実に被害者がいるスナッフは違法であるべき」から「創作物のソフトコアを規制」を持ち出すようになっていまして、論理の飛躍が甚だしいのです。
なお、東京都のいわゆる『非実在青少年』条例は年齢や形態による区分の細分化を定めており、そこだけは意義のある問題提起と言えます。区分した上で全部弾圧するとしか書いておらず、全体としては当然評価できませんが。
理念としてはこうあるべきです。
かつ、必ず実際にそうである(撮影時の実年齢13歳未満である、など)と確認できたものに限り違法とすべきです。見た目が幼そうだから一律に禁止とか、それは法じゃない。
13歳未満 | 13-17歳 | 18歳以上 | 二次元 | |
---|---|---|---|---|
判断能力 | 不十分 | ある | ある | えっ |
責任能力 | ない | ない | ある | えっ |
スナッフ | 違法 | 違法 | 違法 | 適法 |
ハードコア | 違法 | 適法 | 適法 | 適法 |
ソフトコア | ? | 適法 | 適法 | 適法 |
ヌード | 適法 | 適法 | 適法 | 適法 |
*流通にあたっては18歳未満は保護責任者の許可が必要
*?の部分、判断能力のない者のポルノ写真が適法であるべきではないと思うのですが、児童虐待とみなすか否かという要素のようにも思います
なお、これでは保護者による性的収奪が出るのではないかという懸念は当然あります。「理念としては」と前置きしたのはその意味です。しかしそれは本質的にはポルノ等の是非とは別の話なのですよ。ある親による収奪を防ぐために大きく全面禁止とし別の少年少女の自由意志による自己決定を妨げてよいという論理は成り立ちません。
論理的に飛躍があっても現実的な解決だとしてそのようなルールを作ることは許されます。許されますが、弊害を考慮した上で必要悪としてそうしていいのかという議論を十分に重ね、またその弊害を取り除く道を模索した上で作らねばなりません。飛躍を隠蔽し、何の議論もなく押し通すなど問題外。
まあ、国や都は、今の18歳未満には判断能力も自己決定能力もないから全部国が決めてやるんだとか、子供を育てる資格のない親ばかりだから都が代行してやるんだと考えているのでしょう。が、現行の法はそうなっておりません。それならそのように理路を整備しなければなりません。30歳までの青少年の決定権を国に帰属させたり12歳までの児童の教育権を都が持ったりね。自民党については執行方針や憲法草案や青少年健全育成基本法案でこの方向性を目指しており、ぶれていません。スタンスとして成り立ち得ますので、ある意味まともと言えます。感情に流されて論理矛盾を起こすタイプの規制派*2よりは、自分が何を言っているのか理解しているだけ大いにましです。ただしこれは明らかに子供のためではなく、子供像に嵌め込むためのルールですね。全体主義的で、子供の権利条約にも反します。あくまで筋が通るだけであり、許容はできません。
U13ヌードや13-17歳ポルノが合法に出回るのが喜ばしいとは、個人的には思いません。二次元専業なのでお世話になることもないですし、肉体の芸術性とかも理解できませんし、禁止でよいと思っています。しかしそれは「思い」であって「考え」は別。当人も保護者も愚かだから国が都が自己決定権監督権を奪って全面禁止してやるのでありがたく戴けという思想はおかしい。合法であらねば理屈が通りません。ものが三次元ポルノであろうと、国民は手足を縛って為政者に鍵預けろというやり方は容認できません。
まとめとしましては、現行の規制はなぜ児童ポルノが禁止されるべきかという理路を無視して暴走している、また二次元は最初から最後まで何の関係もないんだからあっちいけということです。
*1:児童の性的搾取に反対する世界会議で日本のhentaiマンガが非難されたのは、日本の活動家が「実在の少女を性的に虐待して描いている」と虚偽の説明を行ったため
*2:左派に多い、自由と人権を掲げながら自分の肩入れする極一部の人間の権利だけを無限に拡大し、その他大勢には人権を認めない――限りなく不自由の押し付けと人権侵害を行って何とも思わない輩