きょうの社説 2010年7月14日

◎民主党の選挙総括 だれも責任を取らないのか
 これだけの大敗を喫したのに、民主党は、だれも責任を取らないつもりだろうか。菅直 人首相は早々と続投を表明し、党執行部も全員が留任、神奈川県選挙区で落選した千葉景子法相までが代表選のある9月まで続投するという。民主党は政権与党となって以降、「政治とカネ」の問題などで、けじめを付けず、やり過ごしてばかりいるうちに、責任回避の体質が染み付いてしまったのではないか。

 「国民の声に反する行動で、どこまで持つのか。政治家としてのあり方が問われている 」。3年前、参院選に大敗してなお続投を表明した安倍晋三首相に対し、当時、民主党代表代行だった菅直人首相が疑問を呈した言葉である。自民党はこのとき、中川秀直幹事長が大敗の責任を取って辞任し、青木幹雄参院議員会長も引責辞任に追い込まれた。安倍首相は続投したために大きな批判を浴びたが、自民党は、それなりにけじめを付けているのである。

 民主党執行部は、参院選の敗北を総括する両院議員総会を近く開催するという。党内に は、執行部の参院選戦略への不満が高まっている。政権政党として、国民を失望させた責任を重く受け止めるのであれば、敗因について総括し、責任の所在をはっきりさせる必要がある。

 菅首相周辺にとって、悩ましいのは、責任を問う声が主に小沢一郎前幹事長のグループ から出ているところにある。小沢グループは、菅政権にクサビを打ち込み、あわよくば、幹事長ポストを奪還したいという思いがある。それを分かっているから、現執行部も動きにくいのだろう。

 だが、国民の目には「赤信号、みんなで渡れば怖くない」とばかりに、居座りを決め込 んでいるようにしか見えない。執行部が批判の声にきちんと答え、何らかのけじめを付けねばならない。敗因とともに、この10カ月間の政権運営についても総括してほしい。

 千葉法相の続投については、党内事情を優先し、民意を無視する行為であり、好ましく ない。落選して議員を失職するのだから、閣僚も辞任するのが筋ではないか。

◎金沢箔研究所 需要開拓へ役割は重い
 金沢市が開設した「金沢箔技術振興研究所」に望みたいのは、金箔の需要拡大につなが る着実な成果である。道具の収集や技術の記録、歴史調査なども大事な仕事だが、産学官が一丸となって箔産業をテコ入れするからには、伝統の技術を土台に、新分野への扉を開く新たな「匠の技」を増やしていく必要がある。

 金沢の金箔はシェアが100%近いとはいえ、このまま需要が先細りし、生産額が減少 の一途をたどれば、シェア独占も胸を張って自慢できなくなる。他の分野にも金箔のシェアを広げ、金沢ブランドの再生へ踏み出すときである。

 東京・銀座では今年2月、全面ガラスのカーテンウォールのパネルに金箔を挟み込んだ ビルが登場し、話題を呼んだ。楽器メーカーが和の伝統をイメージして金沢の金箔を採用した。金沢にもほしいくらいの斬新なビルだが、金箔を用いたガラスは建築分野に活路を見いだせる可能性を感じさせた。

 内装や照明器具、食器など、金箔関連メーカーの努力で金箔の用途は広がってきたが、 装飾、加工技術が進化すれば、さらに市場を耕せるのではないか。産学官がスクラムを組み、金箔産業の成長戦略を練り上げてほしい。

 金沢箔技術振興研究所は市役所内に設けられ、今年10月には東山1丁目に移転する安 江金箔工芸館に併設される。すでに開設されている加賀友禅技術振興研究所と並び、金沢の伝統産業をビジネスとして再生させる拠点となる。

 金沢箔の研究所で活動の柱となるのは、大学と連携した研究開発である。金大は光の反 射や吸収、透過性など素材の特性に迫り、箔打ち紙の代替材料の可能性も探る。金沢工大も紙に代わる新たな箔打ちシートを検討する。金沢ブランド活性化へ向け、産学官が結集するのは心強い動きである。研究の域にとどまらず、現場に還元できる実績を積み上げてほしい。

 金箔の可能性を引き出すには、既成概念にとらわれない発想が大事になる。デザイナー や建築家など異分野の才能も積極的に取り込み、伝統産業再生の「金沢モデル」を構築したい。