e-onkyo musicがDRMフリー高音質音源の配信を始めたというニュースは、リンのDSのようなストリームプレーヤーを愛用する音楽ファンにとって大きな意味がある(DRMフリー音源の特集ページは
こちら)。
同サイトで配信している音源はWindows PC上でしか再生できないため、聴いてみたい曲があっても購入には至らなかったのだが、DRMフリーであればNASにコピーしてDSで再生できるから、高音質音源本来のクオリティを存分に味わうことができる。DRMフリーで配信されるのは同サイトの一部のアルバムに限られるとはいえ、新しい潮流に向かって大きな一歩を踏み出したことをまずは歓迎したい。
公開されたラインナップはクラシックとジャズが中心で、「2L」や「venus records」などオーディオファイルにはおなじみのレーベルもいくつか参加しているが、私の目にとまったもう一つの注目レーベルはタッド・ガーフィンクルの「MA Recordings」だ。独自の視点によるアーティストの選択とシンプルで高品位な録音で知られ、同レーベルのカタログにはジャンルを問わず傑作、佳作が多い。
e-onkyo musicでいま購入できる3タイトルは、アルゼンチンのバンド「セラ・ウナ・ノーチェ」(
詳細)2作品と、スウェーデンのマティアス・ランダウスのピアノ・トリオの作品(
詳細)で、いずれも176.4kHz/24bitで配信されている。このデータをパソコンで再生する場合はUSB-DACに送り出す前にダウンサンプリングが必要になってしまうが、DSでは問題なく再生できるはずだ。早速試してみることにしよう。
アルバムの選択から支払いまでの操作はHQMによく似ており、クレジットカードでの決済にもそれほど手間はかからない。アルバム単位で購入するとジャケット写真や解説書もダウンロードできるが、曲単位で購入した場合も曲情報とジャケット写真はデータに埋め込まれている(FLAC形式で確認済み)。
MAレコーディングスの3タイトルはアルバムで購入すると4500円とCDよりも高めだが、96kHz/24bitのマスター音源が手に入ることを考えると割高とはいえない。なお、1曲単位でダウンロードする場合は300円から400円で購入できる。
ブロードバンド接続であればダウンロードはかなり高速で、HQMに近い感覚で利用できるが、専用のダウンロードマネージャーなどは用意されていないようだ。ダウンロードしたデータをパソコンのHDDからNASにコピーすると、UPnPコントローラーソフトですぐに認識され、DSで読み出すことができた。
FLACでダウンロードしているので、SongBookとKLIMAS DSのディスプレイには曲名が正確に表示され、iPadの画面にはジャケット写真も表示された。他のレーベルの音源はまだ試していないが、MAレコーディングスに関しては、DS、NAS、コントローラーソフトとの相性はとてもいい。
マティアス・ランダウスのピアノ・トリオが演奏する「Opening」は、ジャズとドラムスも含めて透明度の高いサウンドで、特にピアノの高音域の澄んだ音色はECMを思い出させる雰囲気がある。176.4kHz/24bitの音源をそのまま再生しているためだと思うが、それぞれの楽器の音像と余韻が非常にリアルで、楽器の周囲の空気の存在を伝える臨場感を味わうことができた。
セラ・ウナ・ノーチェの「La Segunda」はタンゴのエッセンスを取り入れた自由なスタイルの音楽で、民族楽器を加えるなど楽器のバリエーションも幅が広い。この録音は特にオーディオファンにお薦めのクリアでスピード感のあるサウンドに特徴があり、特にパーカッションの切れの良さ、低音域の開放的な伸びやかさが際立っている。ゆったりと広がる余韻は収録場所の修道院特有の響きだと思うが、その残響によってリズム楽器の動きが曖昧になることはなく、あくまでも反応の良いサウンドだ。ボリュームを大きめに設定しても音が飽和しないのは176.4kHz/24bit録音の成果であろう。
ハイサンプリング音源の有力な配信サイトというとリンレコーズ、HD Tracks、HQMの3つが思い浮かぶが、今後は、DRMフリー音源を導入したe-onkyo musicもそこに加える必要がある。
録音だけでなくハードウェアを提供するメーカーが関わることで、再生環境の構築と普及にもさらなる進展が見られる可能性があり、今後の展開が大いに楽しみだ。
音にこだわるレーベルが今後も続々と高音質音楽配信に参入することを期待したいものだ。