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Chikirinの日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2009-08-09 国民の代表の選び方

今回“政権交代がありそう”ということで選挙への関心も高まっているし、マニュフェストに関する議論や報道も多い。せっかく議論が盛り上がっているので、是非「これも話し合ってほしいな」と思うのが、選挙のあり方。

選挙制度全般について、ネット選挙から国会議員の定員削減までいろんな論点があるんだけど、その中でも「国民の代表の選び方」について一度根本的な議論が行われたらいーんじゃないか、と思った。結局のところ、「誰を国民の代表とすべきか」ってのが国の在り方を決めるよね〜と思ったりしたので。


まずはおさらい。現在の国会議員の選ばれ方は下記の通り。今月末には衆議院選挙が、来年の夏には参議院の選挙があります。


<衆議院>

・定数は480名、任期は4年(解散制度あり)

・小選挙区300名(各選挙区から1名選出)

・比例選挙区(拘束名簿式) 180名(全国11ブロックごと。北海道8、東北14、北関東20、東京都17、南関東22、北陸信越11、東海21、近畿29、中国11、四国6、九州21)

・重複立候補可能


<参議院>

・定数は242名(任期6年で、3年ごとに半数の121名を改選。解散はない。)

・都道府県ごとの選挙区選挙146名(半数で73名)・・(大まかな人口比割り当て。地方は大半が一人区=小選挙区状態。人口の多い都道府県は2〜5名選出の中選挙区制的な割り当て)

・比例代表96名(半数で48名)(非拘束名簿式。政党名か、候補者名簿にのっている個人名か、どちらか1つを投票)

・重複立候補不可


比例の方式もいろいろあって詳細は結構複雑なのですが、おおざっぱにいえば両院とも「個別選挙区と比例区の組み合わせ」です。そして、個別選挙区についていえば、「だいたいのところで小選挙区」って感じです。衆院は全部小選挙区だし、参院でも大半の都道府県では定員が1名のみです。


選挙区選挙と比例選挙はどう違うか。

・選挙区選挙は「個人を選ぶ」色合いが濃いですが、比例選挙は「政党を選ぶ」という意味が大きい。

・選挙区選挙の大半が小選挙区なので、二大政党が圧倒的に有利だが、比例選挙では小政党も当選が出しやすい。

というわけで、まずは「選挙区選挙と比例選挙をどう組み合わせるべきか?」というのが「国民の代表をどう選ぶか?」という点に関する最初の判断ポイントとなります。


次に、選挙区選挙のやり方として「小選挙区か、中選挙区か」という判断があります。よく言われているように小選挙区制というのは圧倒的に二大政党制を生みやすくなる選挙方式です。というか、小さな政党から当選者を出すのは非常に難しいです。なんせ一地域でひとりしか当選しないのだから、普通は「第一党か第二党の候補者」が当選します。一方で中選挙区制で一区の定員数が多いほど小政党に有利になります。

中選挙区にして小政党にも議席を与えたい、という意見があるのは極めて自然だし、理解できるのですが、一方で「小政党が乱立」すると、「常に連立政権」になって政権基盤が極めて不安定になります。誰もリーダーシップがとれず、全部足して6で割る、みたいな政策になりがち。もしくは、自民党が圧倒的に強かった時代のように、第二党以下の勢力が多数の小政党に分散してしまって、政権交代がおこりにくい状態になってしまいます。一長一短ですよね。


また選挙区選挙では、区の「境界線として何を使うか?」という点も重要。なぜなら現在、参議院選挙区選挙は都道府県を基礎単位と考えているので、どんなに人口(有権者数)の少ない県でも最低1名は選出できる。これが「一票の格差を生む」最大の原因になってます。

つまり、「都道府県の代表」というのを国会に送る必要があるのか?という点が、ひとつの判断ポイントになるんです。


次に比例選挙に関しては、衆院のような「地域ブロック」で行うか参院の「全国比例」で行うか、というポイントがあります。地域ブロックで行えば「地域の利害代表」を国会に送ることができます。

一方で「全国の比例」というのはメリットとデメリットの明確な方式です。全国区で選ぶと「地域の利害」から完全に離れて、この国がどうあるべか、というような「国の在り方論」で立候補したり選出したり、ということが容易になります。選ばれるのは地域代表ではなく日本代表ですからね。カリスマリーダーが「思想」を高らかに語ることで一定の支持を集めることができるようになります。

たとえば共産党とか社民党のように「思想的な主張」がある政党にとっては、政党名で投票も可能な方式の比例選挙が最も有利と思います。

なんだけど、一方で「全国比例区」というのは広すぎて“選挙宣伝車で回る”という選挙活動は不可能です。つまり事実上「マス」に既に知名度のある人でないと当選しません。というわけで、タレントや有名人が担がれやすくなります。


さらに比例選挙には重複立候補の可否や名簿の拘束・非拘束、投票を個人名、政党名のいずれとするか、議員数の割り当て方法などに、無数の詳細があります。が、今日は細かくなりすぎるのでこれらに関する議論は割愛します。

あと、選挙区選挙は本来人口比に応じて定員が分配されないといけないのですが、最高裁が責務放棄をしているためひどいことになっています。このことは以前から書いている通りですが、これも今日は触れません。


★★★


というわけで、「国民の代表をどう選ぶべきと考えるか?」という質問に答えるためには、下記のサブ質問に答えていく必要があります。


(1)選挙区選挙と比例選挙のどちらにするか?(どう組み合わせるか)

(2)選挙区選挙は、小選挙区か中選挙区か

(3)選挙区選挙の単位に市町村、都道府県などの行政単位を使うか?(その地域の代表を選ぶか?)

(4)比例選挙は、全国区にするか、地域ブロックなどにするか?(どう組み合わせるか?)


また、「衆議院と参議院」の両方について(1)から(4)を考える必要があります。両院同じ制度もありえるし、違う制度も可能です。


うーん、選挙制度の設計って複雑ですよねえ。詳細をのぞいて大枠だけ決める場合でも、上記くらいは考えないと話が進みません。


というわけで、とりあえずちきりんの意見。

衆議院は、

(1)選挙区選挙と比例選挙のどちらにするか?(どう組み合わせるか)→全部選挙区選挙

(2)選挙区選挙は、小選挙区か中選挙区か →全部、小選挙区

(3)選挙区選挙の単位に市町村、都道府県などの行政単位を使うか?(その地域の代表を選ぶか?)→使わない。地域代表にしない。

(4)比例選挙は、全国区にするか、地域ブロックなどにするか?(どう組み合わせるか?)→無関係(比例選挙しない)



そして参議院は、

(1)選挙区選挙と比例選挙のどちらにするか?(どう組み合わせるか) →全部、比例選挙

(2)選挙区選挙は、小選挙区か中選挙区か →無関係

(3)選挙区選挙の単位に市町村、都道府県などの行政単位を使うか?(その地域の代表を選ぶか?) →無関係

(4)比例選挙は、全国区にするか、地域ブロックなどにするか?(どう組み合わせるか?) →半分を全国区、半分を地域ブロック



つまりちきりんの基本的な考え方としては

「衆議院選挙では“国民が国の方向性を選ぶ選挙”ができるようにし、

参議院では“少数意見と地方の意見の代表者”を選ぶ選挙と位置づける」ってことかな。


衆議院は二大政党だけになるけど、法律通すためには彼らも参院の少数意見の代表者達を説得する必要がでてくる。だけど「リーダーシップ」は明確になる。衆議院の二大政党のいずれかが、国の方向性を決めて引っ張っていく、という姿がいいんじゃないかな、と思う。

それにこの方式だと「衆議院と参議院の違い」も明確になるしね。まさに参院は「数の論理ではなく、多様な意見を代表する良識の府」になるわけですよ。


なお、衆議院の選挙区選挙は、常に直近の有権者数に基づき「定員が自動調整」されるように法律で決めちゃうことを提案したい。都道府県などの行政単位とか完全無視。選挙公示日の住民登録に基づいて“はてなマップ”と同じ方式で毎回選挙区の境界線を変えちゃえばいいんだよね。

たとえば人口の減った田舎では選挙区が統合され、人口の増えたエリアでは選挙区が分割される。その際、毎回、若干でも境界線を動かす。たとえば広島県は前回は岡山県とくっついてたのに、今回の選挙では山口県とくっつくとか。これをやると世襲もやりにくくなるし、特定エリアの局地的な利害にひっぱられにくくなるでしょ。



さて、皆さんの意見はどうでしょう?


別に結論はなんでもいいのだが、「国民の代表をどう選ぶべきか」、「誰を国民の代表とすべきか」ってこと、それなりに大事そうだし興味深い話でもあるので、議論が盛り上がったらいいな、ということでちょっくら書いてみた。


そんじゃーね!

tazantazan 2009/08/09 13:13 そもそも全国民の代表を選ぶのに、小さく選挙区を区切る必要はないと思います。
衆議院は全国単一大選挙区制(人を選ぶため)、参議院は単純比例代表制がいいと思います。
また、地域によらない選挙区も、考えた方がいいと思います。
例えば年代別選挙区や所得階層別選挙区、学歴別選挙区です。

個人的には、社民や共産と言った少数政党にがんばって欲しいので、少数党に有利な選挙制度になって欲しいです。

ちなみに、私のよく書く某雑誌では、社民や共産の支持者が世間一般に比べかなり多いので、小選挙区制はその人たちにとっても困る話です。

yoko-hiromyoko-hirom 2009/08/09 13:55 選挙区制と比例制を分離することで「衆議院と参議院の違い」を明確にするのは,面白い案ですね。

一票の格差については,国会での投票時に調整するという案はどうでしょうか?選挙での得票数に応じて,議員のもつ一票の重さを調整するのです。

選挙区を調整するよりも運用は楽になると思います。

AMOKNAMOKN 2009/08/09 15:51 いつも楽しい記事をありがとうございます。

「全ての国会議員は過去に当選したことのある選挙区から立候補できない」
というのはどうでしょうか?
http://plaza.rakuten.co.jp/amoknoan/diary/200907210000/
http://plaza.rakuten.co.jp/amoknoan/diary/200907220000/
http://plaza.rakuten.co.jp/amoknoan/diary/200907230000/

「衆議院と参議院の違い」を明確にするというのは確かに面白いですね。

KabaKaba 2009/08/09 19:45  こんにちは。
 各院で選挙区と比例区を持つのでなく,二院制を残したまま「衆院=選挙区」「参院=比例区」にして選挙結果に特徴を出させるというのは面白いです。ただ,衆院の選挙区候補者自身が「滑り止め」として重複立候補制度を望んでいると思えるので,選挙区が小選挙区制である限りは,衆院の比例区をなくすのは難しいでしょうね。
 もし衆院をすべて小選挙区にするなら,得票率の少しの差が獲得議席数の大差に繋がり,一党独裁への道に繋がる危険性があるので,「3分の2再可決」のような衆院優越を止め,参院が実質的に機能するようにして欲しいものです。

shiftingshifting 2009/08/09 22:20 参院は、違憲審査機能Onlyで!

dummy_masakidummy_masaki 2009/08/10 17:57 ちきりんさんは触れなかったけど、Kabaさん、shiftingさんが触れたように、「参院の権限をどこまで認めるか」、っていうのも論点(5)として出てこないだろうか?

もし今まで通り、衆参は予算の審議や首相の指名・不信任を除いて全て対等とするならば、自民は公明の、民主は社民と国民新の言うことを聞かないと参院で一本の法律すら通らなくなって、それこそちきりんさんの言うように「足して2か3で割る」政治になる欠点がある。
一方で参院の権限を縮小しすぎると、Kabaさんの言うとおり衆院小選挙区だと一党の勢力がその時の瞬間風速で党勢の大差に繋がりやすく、野党・国会の内閣に対するチェック機構が機能しなくなる欠点もあるよね。

Jota_ShimazakiJota_Shimazaki 2009/08/11 01:01 一票の格差を是正するには、国会内で投票する際に、議員各々が一票とするのではなく、その議員がその選挙区での選挙で得た票数(例えば、325,678票)を投ずることとすれば、現行の選挙制度に無力感を感じている人も、自分の一票がちっぽけなものであると思わず、投票所に足を運ぶ気になるのではないでしょうか。
http://www.kanshin.com/keyword/1128921
又、子供の選挙権については、現行の選挙システムでは無視されていますが、子供を扶養している成人(多くの場合は親)が、子供の分の選挙権を行使出来る、という仕組みにすれば、現在の老齢層に偏った国家予算の使い方が速やかに改まると思います。
http://www.kanshin.com/keyword/1128856
こういった、根源的な選挙システムの見直しについて、この国で考えている部局というのは存在するのでしょうかね? 数年前、某大手ITゼネコンの選挙システム担当部局の部門長と話していたら、彼の知る範囲では、全く誰もそんなことを考えていない、ということだったので、がっかりした覚えがあります。

ChikirinChikirin 2009/08/12 10:55 皆様どうもです。
一票の格差の解消の仕方は、アメリカ、ドイツなどいろんな制度があるので選択肢を示して皆で議論すればいいのですよね。全然議論にさえのぼらないのが不思議です。
ではでは



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