ログイン
IDでもっと便利に[ 新規取得 ]

検索オプション


次世代の出版コンテンツ、カギを握る「HTML5」

nikkei TRENDYnet7月13日(火) 11時12分配信 / テクノロジー - インターネット
 KindleやiPadなど電子書籍ブームを背景に、次世代の出版コンテンツを模索する動きが始まっている。その先駆けとして注目されるのが、米Wired誌のiPad版だ。

 米Conde Nast社が今年5月にリリースしたWired iPadは、従来の紙雑誌からは大きく様変わりしている。記事(文章)の中に、スライドショーやビデオ、サウンドなど多彩な要素が混然一体となった、いわゆる「リッチ・メディア」と呼ばれるコンテンツだ。

 Wired iPad(小売価格5ドル)は、発売開始から1カ月間で約9万部がダウンロード(購入)された。その時点でiPadの累計販売台数が約300万台だから、その所有者の約3%がWired iPadを購入した計算になる。出版電子化の試みとしては、上々の出足だ。

 これに対し、日本の出版社は現時点で電子出版のリッチ・メディア化には慎重な姿勢だ。彼らがiPad向けにリリースした電子雑誌は、基本的には紙雑誌のPDFファイルを、iPad向けにオーサリングしたもの。もちろん若干のビデオやアザーカット(撮影したが、雑誌に掲載できなかった写真)が追加されている場合もあるが、それはページ数全体のごく一部を占めるに過ぎない。

 日本の出版業界関係者は、「動画やサウンドが追加されると、活字が読者の頭の中で喚起する想像の世界を邪魔するので、かえってよくない」と指摘する。しかし実際の読者の反応は必ずしもそうではない。たとえばWired iPadは日本版iTunes(App Store)からも450円で購入できる。これに対する日本人読者の評価を見ると、最低(★1個)が全体の約30%、最高(★5個)が同20%と、賛否両論が渦巻いている。

 また今後は同じ読者でも、状況や目的に応じて違った種類のコンテンツを求めるようになるだろう。出版業界では、「iPadのような電子デバイスが登場しても、紙の出版物は生き残る」という見方が大勢を占める。そうであるならば、従来型の活字コンテンツには紙媒体を使う一方で、電子デバイスのスペックを最大限に生かす、新種のコンテンツ開発にも注力すべきだろう。

電子出版の正解を見つけるのは出版社とは限らない

 それは今後の出版社の存亡に関わってくる重要な問題だ。日本の各種業界に向けて電子出版技術を開発・提供するヤッパ(本社:東京都渋谷区)の伊藤正裕社長は、iPadのような電子デバイスが出版産業にもたらす最大の影響は、「テレビと雑誌の境界線が消えること」と指摘する。大手広告代理店、電通の金澤唯氏(雑誌局・事業開発部)も「iPadが登場してから、出版社だけでなく放送局の人達とよく話すようになった。仕事の領域が重なってきていることを強く感じる」と語る。

 そうした中で、「もしも『人気雑誌』対『人気番組』という構図になれば、今の活字コンテンツのままでは映像コンテンツに勝てないだろう。これまで雑誌に流れていた広告費が、近い将来にはテレビ局に流れるかもしれない」(ヤッパの伊藤社長)という予想もある。

 今後の出版社を脅かすのはテレビ局だけではない。米アマゾンは同社の電子ブック・リーダー「Kindle」のAPIを公開することで、無数のアマチュア作家に自己出版のチャンスを与えた。これを生かして、米国の主婦がKindle向けの小説を発売し、11カ月間に3万6000部を売り上げた。iPadやそれに続く新型デバイスでも、同様の動きが広まるのは時間の問題だ。これに対し日本の出版業界の関係者は、「ごく稀にヒットはあっても、所詮、素人は今後の出版業界を変える構造的な力にはなり得ない」とタカをくくっている。

 確かに紙媒体における編集能力では出版社が勝っているだろう。しかし紙に編集する力と電子媒体に編集する力は別物だ。紙媒体で勝負すれば負けるアマチュア作家も、電子媒体ではプロの作家や出版社に勝てるかもしれない。技術系出版社など一部の例外はあるが、一般に出版業界の関係者はIT系のリテラシーがそれほど高いとは言えない。彼らが本格的なリッチメディア・コンテンツの開発に遅れをとれば、その間にITリテラシーの高い人たちが結束して、新しい種類の出版社を起業するケースも生まれて来るだろう。既存の出版社も今からデジタル・コンテンツの開発に注力し、それによってリテラシーを高めておく必要がある。

出版クラウド化の鍵を握るHTML5

 そうした中、電通とヤッパが共同開発した電子書店「MAGASTORE」では、クラウド型の配信サービスを実現するなど、電子デバイスならではの先進性を追求している。このサービスでは、読者が一度購入した電子雑誌を、iPhoneやiPad、さらに携帯電話やパソコンなど複数のデバイスから閲覧できる。こうした便利な仕組みを実現しつつも、ヤッパの伊藤社長は「電子出版サービスで何らかの形が出来上がるのは、まだ先の話。今は試行錯誤の段階」と語る。

 たとえば冒頭で紹介したWired iPadにしても、技術面の専門家からは酷評されている。と言うのも、Wired iPadのファイル容量は500MBを超えるため、高速3G回線でもダウンロードするのに手間がかかるからだ。これほどの大容量になってしまうのは、Wired iPadが4000枚以上の画像データで構成されているから。「この作り方はあまりにも時代遅れで非効率」と批判されているのだ。

 これに代わる別の方法は、次世代ウェブ技術「HTML5」の導入である。HTML5は従来、ホームページの編集に使われてきたマークアップ言語「HTML」を大幅に改訂したもの。HTML5を電子雑誌に応用すると、Wired iPadのようなリッチ・メディアを、極めて自然かつコンパクトに製作できる。

 HTML5形式の電子雑誌は、ウェブ・ブラウザーを搭載した端末なら何にでも対応する。現在、アマゾンのKindleやソニーのReaderなど各社の電子ブック・リーダーに互換性はない。しかしHTML5が業界標準のフォーマットになれば、読者は一度購入した電子ブックをどの端末からでも読めるようになる。Googleが今年の夏から秋にかけて開始する予定の「Google Editions」という電子ブック事業でも、この種のクラウド型サービスを提供する見込みだ。Google Editionsは当初、XHTMLの一種である「ePub」というフォーマットで提供されるが、いずれHTML5に移行するだろう。また米Time社も、HTML5によるSports Illustrated誌の開発に着手している。

 HTML5で製作されたコンテンツは、従来のホームページと本質的に同じものになる。つまり雑誌や書籍など伝統的な出版物が、ウエブという広大な情報空間に呑みこまれる。たとえばiPadから新刊書籍の電子版をGoogle検索し、そこからワンクリックで購入・閲覧するケースもあり得る。事態は急ピッチで進展しており、既存の出版業界は相当の覚悟で臨まないと、時代に取り残されてしまうだろう。

(文/小林雅一=ジャーナリスト、KDDI総研リサーチフェロー)


【関連記事】
  動く雑誌か、誰でも出版か? 歴史的な岐路に立つ出版産業
  “iPad+モバイルWiFi”は最強タッグ! 3Gルーター徹底検証、速くて安いのはどれだ?
  iPhone 4を徹底検証! 実物はやっぱり凄かった!!
  1万3000円のiPhoneアプリ「ウルトラ統合辞書2010」は使える?
  これなら妻も納得!? 女性目線で見たiPadの便利ポイントとは?
  • 最終更新:7月13日(火) 14時42分
  • ソーシャルブックマークへ投稿
  • Yahoo!ブックマークに登録
  • はてなブックマークに追加
  • newsingに投稿
  • Buzzurlにブックマーク
  • livedoorクリップに投稿
  • Choixにブックマーク
  • イザ!ブックマーク
ソーシャルブックマークとは

PR

carview愛車無料査定

PR

注目の情報

PR