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2010年7月13日(火)付

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ねじれ下の政権―選ぶ力、説く力が大切だ

発足後1カ月余りの菅直人政権は参院選を終え、ようやく本格始動する。選挙敗北で政権の前には「ねじれ国会」の厚い壁が立ちはだかる。しかし、目白押しの政策課題は待ってはくれない。[記事全文]

W杯閉幕―スポーツが結ぶ人と社会

サッカーのワールドカップ(W杯)南アフリカ大会は、スペインが初の栄冠を手にして幕を閉じた。1次リーグ初戦を落としながらも、攻めの姿勢を貫いたスペイン。研ぎ澄まされた美し[記事全文]

ねじれ下の政権―選ぶ力、説く力が大切だ

 発足後1カ月余りの菅直人政権は参院選を終え、ようやく本格始動する。選挙敗北で政権の前には「ねじれ国会」の厚い壁が立ちはだかる。しかし、目白押しの政策課題は待ってはくれない。

 「あれもこれも」と欲張ることはできない。できそうにないものは捨て、取り組む課題を絞り込み、厳選する力が大切になる。それを国民や、参院で多数を占める野党に粘り強く説得し、理解や支持を取りつける情熱や力量も欠かせない。

 菅政権がまず直面するのは、今月から本格化する来年度予算編成だ。

 深刻な税収不足、ふくらむ社会保障費、巨額の借金。欧州財政危機や世界経済の変調が、そうした財政の構造問題を早く改めるよう迫っている。

 ねじれ国会のもとでも、予算の成立そのものは妨げられない。ふつうの法律案と違って、参院で否決されても衆院の議決が優越する憲法上の規定があるからだ。

 とはいえ国政の根本である予算をめぐって野党との対立が先鋭化すれば、ほかの重要法案が軒並み通らなくなりかねない。

 来年の通常国会での修正協議もありうるとあらかじめ織り込んだうえで、冷徹で現実的な編成作業を進める必要がある。

 予算との関連では、谷垣禎一自民党総裁が指摘するまでもなく、民主党が掲げるマニフェスト(政権公約)の大幅見直しが避けられないだろう。

 子ども手当や高速道路無料化、農家の戸別所得補償を本格実施するには、それぞれ兆円単位の新たな恒久財源が必要になる。この財政下で、それが可能だとは考えられない。

 6月から月額1万3千円の支給が始まった子ども手当は、もし来年度以降も続けるなら年間2.7兆円の財源と、そのための法律が必要になる。

 民主党は手当の2万6千円の満額支給についてはすでに断念し、上乗せ分については保育所の整備などサービスの充実に使う方針を示している。

 現金の支給対象の見直し、使い道の制限なども検討課題にあがっている。

 修正すべきだと判断するなら、ためらわずに修正すればいい。

 そのことについての丁寧な説明を、国民や野党に対してすべきことは言うまでもない。選択と説得の力量が問われる場面である。

 ねじれ国会を、再び不毛な権力ゲームの舞台にしてはならない。

 政権は独善を捨て、野党も揚げ足取りを控える。あちらが理屈の通った議論をすれば、こちらは率直に評価し、誠意ある対応をする。

 菅首相が呼びかけたいという消費増税をめぐる超党派協議も、そうした政治の土壌をつくってこそ実を結ぶ。

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W杯閉幕―スポーツが結ぶ人と社会

 サッカーのワールドカップ(W杯)南アフリカ大会は、スペインが初の栄冠を手にして幕を閉じた。

 1次リーグ初戦を落としながらも、攻めの姿勢を貫いたスペイン。研ぎ澄まされた美しさを感じさせる戦いぶりは、南アの民族楽器ブブゼラの音とともに、長く記憶されるだろう。

 日本代表の躍進で人々が勇気づけられたように、今大会はスポーツと、人々や社会との豊かな関係をかいま見る場面が数多くあった。スペインの優勝も、そのひとつである。

 これまでスペインがW杯で優勝できない原因のひとつに挙げられてきたのが、独立意識の強い地域の存在だった。たとえばカタルーニャ自治州には、歴史的ないきさつから中央への反発が強い。サッカーでも、クラブのFCバルセロナは応援するが、スペイン代表チームを支える雰囲気は乏しい地域だった。

 だが、2年前に代表が欧州選手権を制したころから、社会の受け止めが変わってきたという。選手にも国代表としての意識が育まれてきた。W杯決勝後、バルセロナでは、州旗だけでなく国旗を振る人々も目立った。

 スポーツは人々の心を溶かし、つなぎ合わせる力を秘めている。

 南アの国づくりにもスポーツが一役買った歴史がある。自国開催した1995年ラグビーW杯で初優勝し、アパルトヘイト(人種隔離)政策撤廃後の民族融和を進めるきっかけとなった。

 ズマ大統領は今大会の終盤、夏季五輪招致への意欲も示した。南アは高い失業率やエイズ問題などを今も抱えるが、サッカーW杯の成功もまた、社会の新たな活力を引き出すだろう。

 アフリカ初の4強を逃したガーナ代表を南アのマンデラ元大統領がねぎらったのもすてきな光景だった。スポーツは人種、国境を超えて人を結ぶ。

 一方で、代表チームが政治に翻弄(ほんろう)される場面も目についた。前回準優勝のフランスが今回、監督と選手の確執で揺れ、1次リーグで敗退すると、チームの立て直しに、サルコジ大統領や議会まで介入し始めた。

 また、ナイジェリアのジョナサン大統領は決勝トーナメントに進めなかった代表チームに怒り、2年間、国際大会参加を禁じると言明した。数日後に撤回したが、政治家の身勝手にはあぜんとする。

 スポーツは人々を熱狂させ一体感を与える。それだけに政治家の目には、利用したい道具と映り、ときに介入へと暴走させるのだろう。

 W杯は次回14年、ブラジルで開かれる。同国は16年に南米初となるリオデジャネイロ五輪の開催も控える。

 政治の思惑を軽々と超えて、人々の心を結びつける競技の数々を、今から楽しみにしたい。

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