2010年7月11日(日) 東奥日報 特集

断面2010

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■ 参院選挙戦検証/狂った“菅ピューター”

 政策論、政局観に対する過信が招いたのか、参院選で判断ミスを連発した首相・菅直人。すべては論戦主導を狙った消費税増税提起で始まり、最後に有権者から受けた与党過半数割れのしっぺ返しはあまりに大きい。激闘を繰り広げた17日間の舞台裏を振り返った。(敬称略)

 ▽同じ過ち

 財務相だった4月下旬、菅は自らのブログで財政再建策に関してこう記した。「政権交代があった今こそ自民党の協力も得て財政再建をまとめるチャンスだ」。超党派で財政立て直し。就任前から、温めていた構想が参院選つまずきのきっかけになるとは菅自身、想像だにしていなかった。

 6月17日の記者会見では消費税率について「自民党が提案している10%を一つの参考としたい」。21日の会見では、さらに踏み込んだ。「(10%参考を)公約と受け取ってもらって結構」

 10%言及は菅の独断だった。政調会長(公務員制度改革担当相)・玄葉光一郎にも会見直前に伝えただけ。菅周辺は「いきなり10%引き上げは困難と菅も分かっている。財政状況がどれだけ深刻か、ショック療法だった」と解説する。

 税に関する発言の「こわさ」は菅も知っていた。1998年の参院選、当時首相だった故橋本龍太郎が減税をめぐる迷走発言を繰り返し、自民党は改選60議席に対し16議席減の44議席という歴史的惨敗。与野党ねじれのおかげで、橋本退陣後の参院の首相指名選挙で選出されたのはほかならぬ民主党代表の菅だったからだ。

 だが、菅は橋本と同じ「過ち」を繰り返す。低所得者層の負担増解消のため、年収400万円まで税金還付の対象になる可能性に言及し、財務省幹部は思わず頭を抱えた。「還付対象が多すぎて、消費税引き上げの意味がなくなってしまう」

 ▽神風

 6月中旬に実施した自民党の世論調査で参院選の予想獲得議席は「自民42、民主58」。菅内閣発足による民主党V字回復に、自民党総裁・谷垣禎一は「表紙を変えただけで鳩山前政権と一緒だ」と訴えるしかなかった。

 しかし、予期していなかった菅の消費増税発言。当初は「マニフェストを撤回するのが先だ」と穏やかに反応したが、世論の思わぬ菅への反発に「攻め所」(党幹部)と途中からかじを切った。「ばらまき財源のための消費税だ」「首相の迷走は経済、財政の基本設計がないからだ」

 7月上旬の調査で自民、民主とも49議席で並ぶと、谷垣は消費税批判の効果を確信した。5日、鹿児島市内で「民主党の総大将はひるんでいる」。夜には東京へ戻り、自民党選対局長・河村建夫に「与党過半数割れの可能性が強まった。改選1人区を重視しよう」と指示した。

 なすすべもなかった状況から強気の選挙戦略への転換。ある幹事長経験者は「自民党が有権者に受け入れられたわけではない。敵失。神風が吹いた」と語った。

 ▽あっさり袖

 「与党過半数確保は微妙」。6月下旬、報道各社が一斉に参院選序盤情勢を伝えると、民主党選対委員長・安住淳は旧知のたちあがれ日本の幹部に電話をかけた。「選挙が終わったら連立を組めませんか。これは菅も知っている話です」

 首を縦に振らなかった幹部は「最初から与党は過半数割れしますと言ってるようなものだ。民主は大丈夫か」とむしろ民主の行く末を案じた。

 連立パートナーの本命とされるみんなの党。菅は4日、街頭演説で「小さな政党が政策を実現しようとするなら、大きな党と協力するしかない」とみんなの党代表・渡辺喜美に小党の心得を諭したが、足元を見透かした渡辺はあっさり袖にした。「顔を洗って出直して来い」

 6月下旬、国民新党代表・亀井静香も新党改革代表・舛添要一に連立入りの秋波を送っていた。「選挙が終わったら一緒にやろうや」。舛添は熟慮の末、断った。

 急降下していく菅を尻目に選挙区回りを淡々とこなした民主党前幹事長・小沢一郎。「静かにしていろと言われている。静かに静かに皆さんにお願いを申し上げている」。選挙後、自分の出番があると策を巡らせているようだ。

(共同通信社)




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