中国の示威行為にしびれを切らす米軍

原潜には原潜を~「中国株式会社」の研究~その66

2010.07.09(Fri) 宮家 邦彦

中国

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 米海軍のオハイオ級原潜といえば、冷戦時代はすべて潜水艦発射弾道核ミサイルを装備した戦略原潜(SSBN)であったが、その後多くは弾道核ミサイルの代わりにトマホーク巡航ミサイルを装備した戦略原潜(SSGN)に転換されている。

 記事によれば今回浮上した原潜は、いずれもこのトマホーク搭載型だそうだ。

 ということは、これらの原潜が、ロシアに対する大陸間弾道ミサイル攻撃ではなく、アジア大陸各地、特に中国の重要目標に対する精密誘導攻撃を想定していると考えるべきだろう(少なくとも中国は正確にそのように理解しているはずだ)。

米海軍の人民解放軍に対するメッセージ

米軍、ソマリア南部に巡航ミサイル攻撃 アルカイダ指導者狙う

米国の原子力潜水艦から発射された巡航ミサイル「トマホーク」〔AFPBB News

 そもそも、この記事を書いた記者はどうやって3隻の米原潜が同時に浮上したことを知ったのだろう。香港に寄港したのならともかく、プサン、スービック、ディエゴガルシアなどという「知る人ぞ知る場所」がどうして分かったのか。

 こんな記事、米軍関係者の情報リークがなければ容易には書けない。そう考えてくれば、同記事の結論部分は限りなく米国の本音に近いはずである。

 米国、特に米海軍は、最近の中国海軍による一連の高圧的「示威活動」に懸念を深める東アジア諸国の声に応えようとしたに違いない。

 同時に米海軍は、あえて原潜の「隠密行動」を「示威」することにより、特に東南アジア諸国に対して、米国が彼らの懸念を共有し、今後も中国海軍を抑止するに十分な能力を持ち続ける強い意志を伝えようとしたのだろう。

 さすが米中海軍間の「狐と狸の化かし合い」は実に見事である。香港の英字紙であるサウス・チャイナ・モーニング・ポストの花形記者はこのメッセージを伝えるために米海軍に体よく「利用」されたのかもしれない。いずれにせよ、よくある話である。

 ネットで検索した限りでは、英字紙以外でこの記事をいち早く伝えたのは韓国の中央日報だけである。先程述べたとおり、日本語の大手メディアはほとんど取り上げておらず、一部の個人ブログで中央日報の記事が紹介されていたぐらいだった。

 日本国内は今や消費税議論で侃侃諤々、米国の原潜がどこに寄港しようが大したニュースではないのだろう。やはり我々日本人の安全保障「感度」は、いつの間にかさらに鈍ってしまったのかもしれない。

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