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[19116] 【ネタ】チェーンソーが世界を救うと信じて!《ネギま×ギアーズオブウォー》 旧題:『B・カーマインのセカンドライフ』
Name: 幻痛◆c421c613 ID:051b1ee2
Date: 2010/07/12 08:34
どうも幻痛です。

※ ゴッド・オブ・ウォーではありません。
チェーンソーで切りまくりの「Gears of War」とのクロス作品です。

チェーンソーを銃剣代わりにする兵士が「ネギま」の世界に行ったら? というお話。

旧題:『B・カーマインのセカンドライフ』を再投稿ついでにタイトルを分かりやすく、なおかつ文章を改訂しました(他にも色々)

タイトルでたいそうなことを抜かしていますが、チェーンソーで何とかなるのは死亡フラグ程度だと思います。

※厳しい感想、ご指摘大歓迎!!

※その他、微クロス作品原作名
・ヨルムンガンド

※この作品は他サイトの「小説家になろう」でも投稿中の作品です。作者は同一人物なのであしからず。

100527:第一話投稿 100705:第一話微修正
100605:第二話投稿
100618:第三話投稿
100703:第四話投稿
100705:第五話投稿
100709:第六話投稿
100710:第七話投稿
100710:チラ裏へ移動
100711:第八話投稿
100712:第九話投稿



[19116] 第一話 A・カーマインのセカンドライフ 微修正
Name: 幻痛◆c421c613 ID:051b1ee2
Date: 2010/07/05 13:26
第一話 A・カーマインのセカンドライフ
「オールクリア」
 緑という色のかわりに赤茶色が広がる乾燥した大地に声が響いた。
 そこには顔に布を纏ったモノたちが倒れ、うめき声を上げていた。それぞれが銃器を所持しており、その多くは半ばから破裂したかのように破壊されている。もう兵器としての役目を果たすことは出来ないようだった。その異様な場に佇んでいるのは一人だけであった。
 立っているのは少年であった。戦闘服を纏い、その上に防弾チョッキを着込んでいる。捲くられた袖からは歳に不釣合いなほど鍛えられた二の腕が覗いていた。
 頭にはフルフェイスのヘルメットを装着しており、表情を知ることは出来ない。所々を金属のプレートで補強し、蒼いバイザーが暗闇の猫の瞳のように光っていた。
「良し。お仕事完了だ」
 ヘルメットをつけた人物が声を上げる。手にはチェーンソー…否、チェーンソーが取り付けられた無骨な小銃を下げている。エンジン駆動のチェーンソーは小型とはいえ銃剣代わりに使うには大きく、チェーンソーに銃がついているようにさえ見えた。
 太もものホルスターには六連装でマグナム弾を発射することが出来るS&W M29コンバット・リボルバーが収められている。狩猟で熊を撃つのが一般的な大口径の銃は太陽の光を反射して輝いていた。
「仕事は難民の避難までだ。戦闘行為だけが仕事じゃない」
 少年に答えたのは少女であった。少年と同じく戦闘服に身を包み、肩には小柄な少女の身長ほどもあるボルト・アクションライフルを斜めに掛けている。腰まである長い黒髪と褐色の肌が印象的である。
「ああ、そうだったな」
「全く。仕事は最後まで責任を持ってやれと言ったのはお前だろう?」
「……そんなことも言ったかな?」
 少女のあきれた声に、少年は首をかしげながら答えた。それをみて思わずため息をつく。
「そんな調子だから、さっきの戦闘でも狙撃手に狙われるんだ」
「お前が始末してくれただろう。安心して“ココ”を任せられる」
 そういって少年はヘルメットをコツコツと叩く。
「普通は“背後”を任せられると言うんじゃないか」
「どっちも似たようなもんさ。信頼しているんだ。それで説教は勘弁しろ」
「説教に聞こえるとしたら自分でも自覚しているはずだ。大体そうやっていつも……」
 クドクドと思春期の子どもを叱り付ける母親のように、揚げ足を取りに近い説教を続ける少女。段々と怒ることが目的になりつつあるソレを少年は聞き流し、無線ケースから無線機を取り出して話し始めた。
「アルファ1、アルファ1。こちらブラボー6。オーバー」
『ブラボー6、ブラボー6。こちらアルファ1。オーバー』
「アルファ1、こちらブラボー6。ブレイク、障害を無力化、損害なし。これより護衛に戻る。回収部隊を頼む。ブレイク、オーバー」
『こちらアルファ1。ブレイク、了解した。消費した弾薬の補充を忘れるな。ブレイク、オーバー』
「ブラボー6、了解。アウト」
 無線の先、魔法使いによるNGO団体「四音階の組み鈴(カンパヌラエ・テトラコルドネス)」の本部に連絡をいれ、ヘルメットの少年、アンソニー・カーマインはスタスタと歩き去った。
「あの時だって私が居なかったら……って、おい! 置いて行くな!」
 話しかけていた人物がいつの間にか姿を消し、後姿が小さく見える頃になって慌てて少女、マナはアンソニーの後を追いかけていった。



 アンソニー・カーマインは転生者だ。少なくとも、彼はそう認識している。
 彼が死んだのは驚くべきか、遙か未来の世界のことであった。元の世界の人類の科学技術は宇宙航行の術を得るほどまでに発展していた。そして人類は地球を飛び出して別の星へとその足を延ばしていた。
 たどり着いた星『惑星セラ』は人類が住むことができる有望な植民星となるはずであった。惑星の地下からは新たな資源が採掘された。発掘された液体の名は『イミュルシオン』。それはエネルギーとして利用でき、人類は安価で無尽蔵のエネルギーを得ることができた。
 しかし、新エネルギー開発による旧来の技術開発の破棄などにより、世界経済は破綻した。それ故、金のなる木であるイミュルシオンの産出国は周囲から妬まれた。
 そして、長い戦争が始まる。
 愚かな人類は星を変えても争い合い、終わりのない戦いを続けていた。
 しかし、何十年も続いた大戦は唐突に終わりを告げる。
 地底の住人、”ローカスト”が現れたのだ。
 灰褐色の肌をもつ地底人たちは圧倒的な物量戦で人類を攻め立てた。人類は下らない同族争いを止め、互いに手を取り合うことになる。そうしなければ立ち向かえないほどの戦争だったのだ。そうして人類とローカストの戦争が始まった。
 アンソニーは人類側の軍『COG』に所属する兵士であった。彼が一度目の人生で死んだのは戦場で故障した銃に気を取られ、遮蔽物から身を晒したためにローカストの狙撃手の餌食となったからだ。
 頑丈な筈のヘルメットを貫通し、頭を弾丸が貫く衝撃を感じた瞬間から、視界が霞んだかと思うと、彼は助産婦に取り上げられていたのだ。生まれた場所は人類誕生の地、地球であり、戦場であった。彼の親は魔法使いとその従者なのだそうだ。
 と言っても、直接聞いた訳ではない。彼の父親は戦場で亡くなり、母親はアンソニーを産んですぐに亡くなってしまった。彼に名前は無かった。名前を付けられる前に親が居なくなってしまったからだ。
 身寄りが無い彼は、両親の所属していたNGO団体“四音階の組み鈴”で引き取られた。便宜上、仮の名でジャックと呼ばれていたが、彼が言葉を話すようになると自分で名を決めた。
 アンソニー・カーマインと。



 俺は耳元でガミガミと説教を続けるマナの小言を聞き流しながら自分の生い立ちを思い返していた。
 そしてふと気付いたことがある。
「なぁ」
「なんだ!」
 怒りのボルテージをそのままに返事を返すマナ。幼いながらにその表情は大人顔負けの威厳がある。外見的にせいぜい1○歳を超えた程度にしかみえないというのに。
 これは老けているのか、それとも成長が早いのか。後者と考えるほうが建設的且つ合理的であると思われる。
 そんなことより。
「俺の記憶が確かなら、昔のお前はもっと素直だった気がするんだが」
「えっ……」
 どういうわけか、あれほど口から思いつく限りの俺の欠点を吐き出していたマナの口がふさがる。そして随分とうろたえた様子でブルブルと震えだすと、消え入りそうな声を搾り出した。
「あ、だって……こういうのが好みだって……」
「好み?」
「言ってたじゃない……じゃなくて、言ってただろう?」
「……?」
 顎先、ヘルメットの先を撫でる様にして、自らの灰色であろう脳細胞を活性化させて「好み」をキーワード検索する。
 好み……。確か、いつの日か“四音階の組み鈴”の大人たちに相棒を組んでいるコイツ(マナ)との仲をからかわれた事があった事を思い出した。



 あの時、精神年齢がマナのソレより一回りも二回りも違うことを説明することも出来ず、仕方なしに「年上が好みなんだよ」などとほざいた気がする。
 肉体的になら兎も角、精神的に年上というと対象は三十代以上に限られてしまう。我ながらいい加減なことを言ったものだとも思ったが、大人たちは別の意味で受け取っていた。
「う~ん、確かにアンソニーは歳の割りに大人びた所があるからなァ」
「同世代のマナちゃんじゃ話が合わないって事か」
 などと、大人たちはアチャーみたいな表情を作りつつ「脈なしか」「賭けが……」と聞こえないような声量で呟く。何故その内容を知っているのかといえば、それが駄々漏れだっただけの話だ。
 どうやらこの大人たちはNGO団体として紛争地帯を渡り歩いているという立派な肩書きを持ちながら、裏でイタイケな子どもたちの甘酸っぱくもほろ苦い、下手をしたら一生のトラウマにもなりかねない恋愛事情を賭けの対象にしていたようだ。
 しかしながら、ソレを指摘してもこの男どもは笑いながら誤魔化す事だろう。憎たらしい限りだ。
 とは言え、育ててもらっている恩もあるので表立って怒るというのも不義理というもの。ここは一つ平和的な交渉をしようではないか。
「お姉ちゃんたちのトコに遊びに行ってくるよ」
「おッ、早速だな」
「ウチの女どもは気が強いから好みに合う奴がいるかね~」
「大丈夫だよ」
 元より口説きに行くわけではない。
「お兄ちゃんたちが子どもを駆けの対象にしていることを告げ口に行くだけだから」
 意図していなかったのだろう、ポカンと口を開けて硬直する男たち。きっと彼らは「やーめーろーよー! マナとはそんなんじゃないって! お姉ちゃんたちで証明してやるからな!」と図星を突かれると面白いように慌てふためく子どもの対応を想像していたのだろう。
 甘い。
「ま、待ってくれ!」
「バレたらどんな目に遭うか!」
 背後から聞こえる嘆きを聞き流し、足早に女性陣の元へと向かっていった。
 結果は上々であった。少なくとも、火炙りにされた者たちは二度とこんな事はしないはずだ。



「どうしたんだ? 急に黙り込んで」
「いや、なんでもない。好みのことだが、確かに年上が好みだって言ったな」
「だったら、こういう物言いが好きなんじゃないのか?」
 なるほど。
 どうやらマナは身体は貧相でどうしようもないと判断して口調や性格を大人に近づけようとしているのだろう。
 マナにとって大人の女性というのは口うるさくも甲斐甲斐しく面倒をみるイメージのようだ。間違っているとはいいがたい。
 マナは嫌いではない。むしろ懐いてくれるので好きなほうだ。だが如何せん歳が違いすぎる。肉体的には二、三歳程度の差だろうが、精神的には20ほど差がある。
 単純にアンソニーの好みが胸の大きい女性というだけの理由もあるが、それを子どもに求めるのは酷だろう。というより、子どもを恋愛対象として考えるのはこの時代でも犯罪だったのではないだろうか。
「仕事中に余計なことを考えるな。腕が鈍るし、仕事に触る」
「そんなつもりじゃ……」
 自分のことを棚上げしてもっともらしいことを抜け抜けと言い、説教を食らった仕返しを実行する。
 意外と効果はあった。
 マナはたちまちオロオロと泣きそうな表情になりながら、なんとか怒られた分を取り返そうと口を開いては閉じるを繰り返す。
 こんな年相応の態度ができるこの娘は、先ほどの武装集団の武器を三、四百メートルほどの距離からピンポイントで撃ち抜くことが出来る天才だ。
 以前はそれほどの腕ではなかったが、パートナーを組むようになってからはメキメキと腕を上げていった。
 アンソニーは前線での戦闘は経験がある分得意ではあるが、狙撃が得意ではないので良いコンビである事は確かだ。
「別に怒っているわけじゃない。お前に何かあったら俺が困る」
 事実、アンソニーは以前まで大人と組んでいたが、能力的に認められたため自分の後輩(部下)であるマナとのコンビを任されたのだ。それゆえ、マナの失態はそのまま先輩(上官)であるアンソニーに返ってくる。それこそ怪我でもされたら、女たちにリンチにされた上で責任をとらされることだろう。
 例えどんな言い訳をしたとしても、アンソニーの運命は変えられないだろう。
 恐ろしい。
「そ、そうか! 困るのか!」
 テレテレと褐色の肌でも分かるくらいに顔を赤らめながら、マナは笑みを浮かべた。
 困ることを喜ばれても困る。ここは怒られていると思って俯きながら「気をつけます」とでも言うべきなのでは。
 まあ、そんなことを口うるさくいっても仕方のないことでもある。
 伊達に子供ながらに銃を扱えるように訓練されている訳ではない。勝手に気をつけることだろう。
「さっさと護衛に戻るぞ。連絡もしちまったんだ」
「あ、待って!」
 歩幅が違うので普通に歩くとマナとの距離がどんどん離れていく。完全に口調が元に戻ってしまっているのは気が抜けたからだろう。可愛げのある奴だ。
 トコトコと可愛らしくも必死についてくるマナの足音を聞きながら、アンソニーは妙なことになったものだと思った。
 あれほどウンザリしていた戦場に、一度死んでまで立っていることに。
「さっきから変だよ……違った、変だぞ」
 いつの間に傍まで来ていたマナが口調を意識しながら話しかけてきた。どうにも今日は考えごとが過ぎるようだ。
「何、お前の成長を嬉しく思っていただけだよ」
「そ、そそそそんな事! 私はまだまだ未熟だ!」
「分かってるよ。早いトコ俺からも卒業させてやる」
「――それは……嫌だ。まだ……」
 俺も人のことは言えないなと思ってマナを褒めて誤魔化そうとしたが、何やら不安顔をされてしまった。
「当たり前だ。まだまだ訓練が必要だからな。しっかり俺の後に付いてこいよ」
 良く分からなかったが、とりあえず頭に手をポンと乗せて指示を出す。それだけで十分だった様だ。
「――うんッ!」
 晴れやかな笑顔でマナは答えた。




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アンソニーさんの性格はよく分からないのでほとんどオリ主扱いになるかも。

原作での登場シーンが少なすぎる(泣)

二人の年齢は設定してありますが、伏せておきます。

正直時間軸がわからないので…(マナの話を信じたらこの時点での歳がヤバイことに)

補足:カーマインて誰ぞ? という人は某動画投稿サイトで検索すれば死に様が見れると思います。(グロ注意!)


誤字訂正:タイトルの「セカインドライフ」→「セカンドライフ」。恥ずかし過ぎる。報告感謝です。



[19116] 第二話 出会い
Name: 幻痛◆c421c613 ID:051b1ee2
Date: 2010/06/05 15:28
「ありがとうございました。今後もご贔屓に」

「こちらこそ。また頼みますよ」
 
 プラチナブランドをなびかせながら、薄い碧眼の白人女性は笑みを浮かべて取引相手である『四音階の組み鈴』に所属する男性に別れを告げた。

 上質なスーツを纏った彼女は銃を持った護衛を引き連れながら、荷を運んできた大型の輸送機に乗り込む。彼女たちが運んできた荷物は銃と弾薬だ。量にしてコンテナ一つ分はあるだろう。荷物は既に下ろされ、団のメンバーがキャンプへと荷を運び始めていた。

 輸送機に戻った『武器商人』は取引相手が見えなくなったところで盛大なため息をつく。

「たったコンテナ一つ分! って顔だな、ココ」

 護衛の白人男性が女性に話しかける。女性は鼻をならして同意した。

「全く。アレだけの量を私に運ばせるなんて燃料代の無駄だよ。会社のアホ共め! でも今回だけは許す! なぜなら次の取引相手は大口だからね!」

 そう言ってココと呼ばれた女性は輸送機に残っている荷物に目を向けた。「HCLI」と書かれたカバーに隠れたコンテナが貨物室に目いっぱい詰まっている。

「NGOの連中、払いは確実だけど一回の量が少ない。このまま次の買い手のところに行くから、そこで元をとろう!」

「帰り道が怖いねェ」

「フフーフ、私はジンクスなんて信じない! このフライトは最後までうまくいく筈だ!」

「自覚してるじゃん」

「機長! 離陸して!」

 護衛の言葉を無視してココは席に着きながらパイロットに指示を出し、次の取引相手に連絡を入れようとイリジウム携帯を手を伸ばす。

「そういえば」

「ん?」

「降りてくるときに見えたんだけど、NGO団体でも少年兵を雇っているんだね」

 電話を手に、着陸する前に目にした二人組みの子どもの話を持ち出すココ。戦場で銃を持った子どもは少年兵以外に居ない。一人はヘルメットを被り、もう一人は長い髪をした少女だった。

「人手不足なんじゃないの?」

「フーム」

 タバコを吹かしながら護衛が答える。たしかに紛争地域では少年兵など珍しくも無い。

「少年兵ねェ…」

 ココの呟きをかき消すように輸送機のエンジンがかかる。ヒト三人分ほどの大きなプロペラを四つ回転させながら輸送機は飛び立っていった。






第二話 出会い







「よーし。運んでくれ」

 『武器商人』を見送った金髪を短く刈り上げた男性、ジャッカスは団員に指示を出し、自らも木箱の一つを抱えて簡易テントで作られたベースキャンプへと運ぶ。そこに団員の一人であるローブを着た女性、ミランダが声をかけてきた。その顔はフードに隠れて覗くことができない。

「ねえねえ。二人は何処に行ったの? 姿が見えないけど」

「二人?」

 二人と問われて一瞬考え込むが、団においていつも二人でいるメンバーと言えば思い当たる人物が居た。

「アンソニーとマナちゃんか? さっきまで此処にいたんだけどな…訓練じゃないのか?」

 戦闘が終わっても姿の見えない二人を心配しているのだろう。

「そう…」

「何だよ。いつもの事じゃないか。気になることでもあるのか」

 何やら神妙な声を出すミランダに、荷物を地面に下ろしてジャッカスが尋ねる。

「だって、マナちゃんはあんなに可愛いのよ。アンソニーも常識はあると思うけど、思春期の男の子なんだから何か間違いがあったら…」

「間違いって…」

 ジャッカスは呆れてしまった。大人びたアンソニーなら兎も角、マナはまだ子どもだ。そんな二人が間違いを起こすことなど考えられない。

「いいえ! あんなに健気で可愛くて尽くしてくれる子はそうは居ないわ! 私がアンソニーだったら、甲斐甲斐しく世話を焼く何も知らないマナちゃんにエッチな悪戯の一つや二つ……心配ね…」

「お前が心配だよ、俺は」

 若干引き気味に突っ込む。冗談で言っているのか本気なのか判断がつかないのがさらにジャッカスを不安がらせた。

「私がどうかしたのか?」

 噂をすれば何とやら。いつの間にかミランダの背後にライフルを担いだマナが立っていた。戦闘服をあちこちドロで汚し、何処となく不機嫌そうでいる。

「一人か、アンソニーは?」

「訓練を切り上げて銃の整備だそうだ。あんなモノに時間をかけるくらいなら私とのコンビネーションを磨くべきだというのに」

 フンッと鼻をならしてあからさまに不機嫌になるマナ。このあたりは歳相応の反応だ。

 銃の整備を「あんなもの」とは、どうやら大分機嫌が悪いらしい。銃というのはデリケートな代物だ。魔法と違って杖と呪文だけで事足りるという物ではない。屋外では砂が銃に入り込まないようにし、ガンオイルで定期的に磨いてやらないと暴発の恐れもある。

 銃使いであるマナはそんなことは百も承知の筈だ。命を左右する事柄を「あんなもの」扱いするほどに、アンソニーの側に居たいのだろう。

 ミランダの言う通り、確かに健気だ。

 『四音階の組み鈴』においてパートナーを組んでいるアンソニーとマナ。成人にも満たない歳の二人だが、戦闘においては大人たちに引けを取らない。

 近距離から中距離の戦闘を得意とするアンソニーに、天才的技術による狙撃で遠距離を得意とするマナは互いに欠点を補え合える良いコンビであった。

「だめよマナちゃん! そこは「私も一緒に整備する」って言って一緒に居ないと!」

「そ、そうなのか!?」

「そうよ~。そうすれば、もしマナちゃんが居なくなったとき、アンソニーは不安で仕方なくなってしまうの。そうすればもうコッチのものよ!」

「そうだったのか!」

「いや、その考え方はどうなんだ?」

 どうにもこの女性はマナをアンソニーにけしかけて遊んでいるようにジャッカスには見えた。というか、そんな幼馴染的なアプローチが仕込まれたものだと分かると、少し悲しくさえ思える。

 ついでにいえば、二人に間違いを起こさせようとしているのはマチルダではないのだろうか。

「大丈夫よ! マナちゃんみたいな可愛い子は何をしたって初心な男の子は眩しく感じるはずだわ!」

「アンソニーが初心って…」

 ジャッカスにはアンソニーが初心な子どもとはとても思えなかった。

 アンソニーは物心ついた頃から頭を何かで覆うという癖がある少年だった。初めは布を頭に巻きつけていたが、最近ではヘルメットを好んで着けている。あまりに長い期間その習慣を続けているので、素顔を知る人物は少ない。

 それだけならただの変わった少年だが、その言動は大人びていている。精神力もかなりのもので、銃弾が直ぐ脇を通り抜けても平然としている。歩き出すようになってからは誰が教えるわけでもなく銃器を扱いだし、マナほどでもないが腕も確かである。

 動作や重心の移動なども、訓練された軍人のような俊敏さと正確さがあり、上官である大人たちの命令も疑問なく従う。子どもっぽさとは無縁の人物であった。

 特に、銃撃戦の基本となる遮蔽物に身を隠す動作『カバーアクション』が大人のそれよりも徹底しており、時によっては逆に大人たちが注意されるほどだ。

「分かってないわね…男の子と言うのは常に女性の神秘さに惹かれるのも。それがより身近な人物であればあるほど、気付いたときの反動は大きいわ。そう…それは熱いパトスのように」

「おおッ…」

「いや、信じちゃ駄目だよマナちゃん」

 妄想に近いソレを熱弁するミランダの言葉に、感嘆の声を上げて感動するマナをたしなめる。子どもの素直さが悪い方向に行っているなとジャッカスは感じていた。

 マナの口調もはじめとは違って背伸びし始めた子どものようになっているのは、十中八九ミランダに吹き込まれたからだろう。

「じゃあどういう子だって言うのよ!」

「俺よりマナちゃんのほうが知ってるだろ?」

 言うことを全て否定されてミランダは機嫌を損ねてしまったようだ。ジャッカスに食って掛かるように詰め寄る。彼はそれを制しながらマナに話を振った。

「私か?」

「そうだよ。アンソニーが“あんなに”感情的になったのは初めてだったじゃないか」

「ああ、あのことか…」

「何のことよ?」

 事情を知らないミランダはマナに問いかけた。今でこそパートナーとして組んではいるが、はじめからそうだった訳ではない。

「あれは私がアンソニーとパートナーを組んだ頃の話だ…」

 どことなく遠い目をしながらマナは語りだす。はじめて彼と出会ったあの日のことを。

「ほんの数ヶ月前だけどな」

「余計なことは言わなくていいの!」

 ジャッカスの空気を読まない捕捉をミランダは叱り飛ばした。






 覆面をした変な男の子。

 それがマナがアンソニーに対して抱いた初めの印象だった。

 二度目の印象はヘルメットをした男の子になったけれど。

 私のような子どもはここでも珍しく、自然と歳が近いアンソニーと知り合うことになった。

「なぜヘルメットをつけているの?」

 出会った時、私は挨拶よりも先にそう聞いた。戦場ならまだしも、その場はベースキャンプの中であった。防具をつけている意図が分からなかったのだ。

「安全のためだ」

「ここには敵はいないでしょ?」

「…落ち着くからだ」

「変なの」

 今思えば、あそこでヘルメットのセンスを褒めるべきだったのだろうか。子どもながらに失礼なことを言ってしまったものだ。

「アンソニー。さっき言っていたマナちゃんだ。銃の腕前は確かだが、実践経験がない。鍛えてやってくれ」

「なんで俺が? ジャッカスがやればいいじゃないか」

「俺たちは次の作戦の準備がある。お前なら安心して任せられるからな」

「…命令なら聞くよ。不服だけどな」

 当時、私たちの面倒をみる役割であったジャッカスはそう言って私の面倒をアンソニーに任せた。何処となく含みのある言い方に、マナは本の少しだけ不快になった。





「銃の扱いは得意なんだってな。なら、戦場での動きを教えてやる。まずは『カバー』だ。敵、特に銃を持った敵と相対するときは身を隠すアクションが基本だ」

 天井の無い壁だけで作られたキルハウスと呼ばれる訓練施設に場所を移し、私はアンソニーから戦場での動きを思えさせられた。

 見よう見まねで遮蔽物に身体を張り付け、仮想敵に身体を見えないようにする。だが、不十分だったようだ。

「頭と尻が出てるぞ」

 そういって私の頭を影に押し込み、尻を蹴られた。羞恥で顔が紅くなったのを覚えている。

「こんなことするより撃ったほうが早いよ」

「ほう。だったら実践形式で訓練するか」

 照れ隠しに言った一言だったが、アンソニーは真に受けたのか直ぐにペイント弾を持ってきた。

「一発でも俺に当てたらお前の勝ち。だが、俺が勝ったら大人しくカバーの訓練をしろ」

 元より訓練は受ける気ではあったが、なんだか下に見られている気がして思わずその提案を受けてしまった。

 当時の私は自分の腕に驕りがあった。誰よりも早く敵を射抜き、誰よりも遠くの敵を屠ってきた。そんな自分がちょっと年上だからと言って偉そうに指示されるのが嫌だったのだ。



 結果だけを言うのなら、私のペイント弾はアンソニーの身体にヒットした。彼のヘルメットに一発だけ。それも掠る程度のモノであった。対して私は体中に紅いペイントを施された。これが実弾だったなら、今頃は肉塊に成り下がっていただろう。

「敗因が分かるか?」

 ヘルメットを何処からか取り出した布で拭きながら彼は言った。拭くときでもヘルメットを脱がないので頭を拭いているようにも見える。

「私が身を晒したからか?」

 私の戦法は視野を広く持ち、反動の小さな拳銃を二丁使って相手より先に狙い撃つことで無力化させるものだった。対してアンソニーは遮蔽物に終始身を隠し、私のリロードの隙を狙って攻撃すると言うものだった。時によっては不意をつくように銃だけを突き出して銃撃を浴びせると言った攻撃を織り交ぜてくるので、モロに弾を受けてしまったのだ。

「わかってるなら良い。少なくとも、この状況ではお前の戦い方は褒められたモンじゃない。撃つよりも身を隠す事のほうが重要だと言うことだけ覚えとけ」

 その日の訓練はそれで終了だった。

 基地に備え付けられたシャワー室で、私は髪にこびりついたペイントを陰鬱な気持ちで洗い流した。

 全ての塗料を落とすのに数時間かかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どうも幻痛です。

アンソニーとマナの出会いを書こうと思っていたらいつの間にか更なるクロスを書いていた…

その勢で一話に収まらなかったのはご愛嬌。

今後も他作品のクロスがあると思いますが、ソレほどまでに深く関わってくるわけではないので、原作を知っている必要はないと思います(私の書き方次第ですが)。

原作を知っていればより楽しめるとは思います。



[19116] 第三話 若気の至り
Name: 幻痛◆c421c613 ID:051b1ee2
Date: 2010/06/18 18:27
 マナを早々に基地に返したアンソニーは一人キルハウスに残り、機械仕掛けで起きあがる的を仮想敵として訓練を行っていた。
 射撃をしてカバー。カバーからの射撃。単純な動作を繰り返し繰り返し、早さの限界を追求し続ける。遮蔽物に体を隠すために深く体を沈める。膝を曲げた脚の間に体を押し込むようにして年の割に大柄な体を潜めた。彼の体には砂鉄の詰まった重りが巻き付けられている。重量にして100キロ。ソレは訓練の度に数キロずつ増やされていた。
 誰かに強制されたわけではない。自らその重量を増やしていたのだ。大人たちはカーマインに、自身に対する甘えがないことを理由にして訓練などの割り振りを彼自身に一任させていた。
 新たに目標を撃ち倒し、アンソニーは直ぐに別のエリアへと移動を開始する。戦闘服は滝のように流れる汗を吸って重くなり、鍛え上げられた肉体には疲労が限界まで蓄積していた。
 ターゲットも残り一つになり、アンソニーはこれを終えてシャワーでも浴びようと、体に重くのし掛かる重りを歯を食いしばって持ち上げた。
 衝撃と共に、目の前が紅く染まる。
「あ?」
 間抜けな声を上げて、アンソニーは反射的に裾でヘルメットを拭う。バイザーを覆うように付着していたのは赤い液体であった。より正確に言えば、ペイント弾の塗料であった。
「隙だらけだったからつい」
 バイザーを染めるペイントを拭うカーマインに声がかけられる。声の主はマナであった。



 紅く染まる視界の先、迷彩ズボンに白いティーシャツというラフな格好で、キルハウスの出口に寄りかかる様にして立ってる。シャワーを浴びてきたのか、黒い髪は湿り気を帯びて一層際だって見えた。
 その手にはライフルが握られており、銃口からは僅かに硝煙が漂っていた。
 どうやらコレを撃ち込んだのはマナのようだ。何より本人がそう言っているのだ、間違いないだろう。
「夕飯の時間だ。そうそうに切り上げて食堂まで来いだって」
「夕飯?」
 言われて腕時計の針を見る。確かに、時計は18時を示している。マナが訓練を終えてからいつの間にか3時間ほど経過していた。どうやら訓練に熱中して気付かなかったようだ。
 どうやら何時までたっても戻ってこないカーマインを心配してわざわざ呼びに来てくれたらしい。マナの口ぶりからすると、誰かに頼まれたようだが。
 アンソニーはマナの艶っぽい黒髪を見ながら、
「随分と長いシャワーだったみたいだな」
「誰のせいだ!」
 マナは頬を染めて怒鳴った。どうやら髪についたペイントを落とすのに苦労したようだ。出会いがしらにペイント弾を食らわせたのも、その腹いせだろう。
「はいはい、俺が悪かったよ。身体を狙ったんだが、動きが速くて髪に当たっちまったのさ」
「私のせいにする気か!」
「そんなことは言ってないだろ」
 ペイントの件は子どもの悪戯として我慢することにする。避け切れなかったことに対する落ち度も感じていたからだ。
 前世の二の舞だな…と、アンソニーは怒れるマナを余所に、汗を洗い流すためにシャワー室へと向かった。



「――なんで私がこんなこと…」
 シャワー室へと入っていくアンソニーを追いかけることも出来ず、マナは苛立ち紛れに呟いた。
 髪の汚れを洗い流した彼女は、大人たちに頼まれてアンソニーを呼びに行っていたのだ。仕返しついでに引き受けたが、頭にペイントを撃ち込まれても怒りもしない。肩透かしを食わされたようだ。
 アンソニーは子どもの癖に銃器の扱いに長けていた。マナもそれなりに自信はあったのだが、動きが妙に洗礼されているよう(なんというか、経験が違うというのか…)に見えたのだ。とにかく、大人顔負けの動きをするのは間違いなかった。
 幼かったマナは彼に嫉妬した。私だけが特別だと思っていたのに、彼は彼女よりも特別だった。
 しばらくして、マンはアンソニーとコンビを組まされることになった。アンソニーもマナと組むことに抵抗があったようだが、それについては珍しく同意見だった。
 とにかく、マナはアンソニーに対して心を許してはいなかった。
 マナとカーマインが組まされてから数日後、マナは戦場にいた。



 初めての戦場は射的場だった。前線から距離をとり、後方からの狙撃を行う。いつもと何も変わらない。これはアンソニーがマナを最前線にあげるのを嫌がったからだ。
(大人たちは納得したが、私は違う)
 マナは苛立ちを呼吸をすることで抑えながら、ライフルの引き金を引く。ストック越しに伝わる衝撃と共に、スコープの先、ライフル弾に肩を貫かれた敵はコマのように半回転しながら地面へと倒れ、無力化された。
 ボルト・アクションライフルの薬室に次弾を装填し、取り付けられた高倍率スコープで敵の位置を把握する。スコープに刻まれたポイントの先にはアンソニーが重なっていた。魔法や銃を扱う大人たちに混じって大きな銃を振り回し、銃弾を敵に叩き込んでいる。 
 未だに彼の銃に取り付けられたチェーンソーの意味が分からない。
 近接戦闘をイメージしているのなら銃剣でもつければいいのだ。と、マナは思った。少なくとも、チェーンソーは材木を切るものであって肉を切るものではない。
 聞いた話では、アンソニーは初めのうちは普通の銃剣を使っていたそうだ。けれど、いつからかチェーンソーを取り付けていた。木々を切り倒すアレだ。
 取り付けた当初は重心が極端に前に移動した銃に振り回されていたが、銃のストックをはずしたり、チェーンソーを改造してとり回しを良くしていたらしい。
 気になって何故そんなモノを使うのかと聞くと、「こっちのほうがシックリ来るんだよ」と答えた。良く分からない。
 そんなものより拳銃かナイフを持っていけばいいと問うと「持ってるぞ」と言ってリボルバーを取り出した。
 六発しか撃てないリボルバーではあるが、構造が単純な分、故障が少ないので信頼性は高い。大口径のソレはストッピングパワーにも優れているだろう。マナには反動がきつすぎて使えたものではない。
 だが、サブウェポンの装弾数がたった六発ではムダに出来る弾は限られている。彼の射撃の腕は何度か見たが、精密射撃にはあまり向いていないように思えた。
 それについて指摘すると「いざというときに使えなかったら意味無いだろ? 弾数も重要だが、故障でもしたら悲惨だからな」と言っていた。
 言っていることは尤もだが、極端に故障が起こるのを怖がっているようにも思える。何か彼にそう思わせた事柄があったのだろうか。
 何にしろ、付き合いの浅いマナには分からなかった。
 ターゲットを数十ほど撃ち倒すと、間もなく戦闘は終わった。独裁政権の軍隊でも、魔法使いと従者たちには敵わない。
『マナ、こっちと合流しろ』
「わかった」
 ヘッドセットから流れるアンソニーの声に従い、辺りに潜んでいる敵が居ないのを確認しながら立ち上がる。ライフルを背中に移し、拳銃を手に警戒しながらアンソニーと合流しようと歩き始めた。
 彼女の持つ拳銃はアンソニーのもつリボルバーとは違い、反動の小さな小口径の弾丸を使用する。腕や足に撃ったところで致命傷にはならないが、急所にたたき込めば命を奪える。その筈だった。



 程なくしてアンソニーたちが待機するポイントにたどり着いた。周囲には呻きをあげる兵士が倒れ、マナを睨みつけている。
 彼らの銃は残らず破壊されている。命を奪うのは良しとされていなかったからでもあるが、幼いアンソニーやマナに殺人の片棒を担がせたくなかったのだろう。大人たちは彼らの殺害を禁止していた。
 敵はマナには分からない言語で呪詛の言葉を吐き出している。言葉は分からないが、何を訴えようとしているのかは分かった。こんな子供に倒されて、プライドを傷つけられたのだろう。
 その中の一人、比較的軽傷の兵士が怒りを露わにしながら立ち上がろうとしていた。私は銃を突きつけて威嚇をするが、相手は激情に駆られて気にした様子もない。
 仕方なく脚に一発撃ち込む。兵士は悲鳴を上げながら無力化された。銃声に反応したのか、アンソニーがこちらを向いた。なんでもないと答えようとしたが、彼の目は私ではなく、その背後へと向けられていた。
 振り向きざまに銃を向ける。
 そこには、先ほど弾丸を撃ち込んだ兵士がいた。
 トッサに小口径の銃弾をたたき込む。しかし、盾のように突きだした兵士の鍛えられた腕に弾が阻まれ、致命傷にはならなかった。
 アンソニーたちが銃を構える音が聞こえる。だが、彼らと敵の間に立つようにしているマナが邪魔となり、発砲することが出来ずにいた。
(しくじった!)
 雄たけびと共に迫った敵は、マナの腕を掴んで引き寄せる。血だらけの腕で銃を奪い、もう一方の手でマナの首を締め付けた。
 奪われた銃を突きつけながら、兵士は大声でわめき散らしながらアンソニー達に銃を捨てるように命令した。
 大人達は直ぐに銃を捨て、魔法使いは杖を捨てた。だが、アンソニーは違った。銃を捨てるどころが、一歩一歩歩み寄ってくるではないか。
 それに気づいた兵士は銃をアンソニーに向け、互いに銃を突きつけあう形になった。
「アンソニー、よせ!」
「すいません。こいつは俺の責任です」
 その場にいた大人達の一人がアンソニーに命令するが、彼はソレを拒否した。
「お前、この状況で逃げられるとでも思ってるのか? そんな小娘、盾にもなりゃしねぇよ」
 銃を突きつけながらアンソニーが言う。兵士は大声で銃を捨てるように拳銃を突きつけ続けた。言葉も分からないのだろうが、出血と痛みに正常な思考が出来ないようだ。
 アンソニーの側にいたジャッカスが、
「アンソニー…銃を捨てるんだ。そいつは何をするかわからない」
 と敵を刺激しないように囁いた。
「…銃を捨てれば満足か?」
 そういいながら、アンソニーは銃を投げ捨てた。兵士に向かって。
 投げつけられた小銃は私の頭上を越えるような軌道であったが、マナは思わず怯む。それは兵士も同様であった。頭を庇おうとした兵士はマナを拘束していない方の腕、銃をもった腕をかざした。突きつけられていた銃が誰を狙うわけでもなく空を向く。
 マナは思わず見上げた空に浮かぶ太陽に目を眩ませながらも、ボンヤリとした視線の先、アンソニーがレッグホルスターからマグナムを抜くのが見えた。
 反射的に彼女は拘束された身を捩る。同時に兵士が吼えた。
 アンソニーが、敵が、互いに銃の引き金を絞る。マナは、アンソニーの両手に構えられたリボルバーのシリンダーが回転し、銃口が光ったのが見えた。
 敵の兵士の放った弾丸はアンソニーに頭部に突き刺さる。が、堅牢なヘルメットは火花を散らしながら小さな弾丸を弾き飛ばした。
 アンソニーから放たれた弾丸は舞い上がったマナの髪を数本引き裂き、そのまま背後の男の頭蓋を粉砕した。血と共にブヨブヨした肉片が大地に降り掛かる。
 頭部を破砕された兵士はゆっくりと仰向けに倒れた。乾燥した地面が血を吸い込み、黒く染まってゆく。
「あ…」
 思わず、マナの口から間の抜けた声が漏れる。
(私は――死ぬところだったのか?)
「ケガは?」
 呆然とするマナに、そうアンソニーは問いかける。見下ろすようにして佇む彼にマナは「無い」と答えながら顔を上げる。
 そして頬を張られた。
 パシッという乾いた音を耳に、彼女は頬が熱くなるのを感じた。
「お前にはまだ早い。戦場に出てくるな。もしまたあんな状況になったら、俺はお前も撃つ」
 怒鳴ることさえしなかったが、マナにその言葉は重くのしかかった。 




 基地に戻った一行。アンソニーはジャッカスに連れられて個室へ。マナは団の女性たちに怪我の有無をチェックされていた。
 遠くでアンソニーが怒鳴られているのが聞こえた。ソレがまるで自分に言われているように聞こえ、私は思わず体を震わせた。
 間接的とはいえ、命を奪ってしまったのだ。アンソニーがしかられているのも、そんな行為を『させてしまったこと』をジャッカスが悔いているのだろう。
 これで私は部隊を外されてしまうかもしれない。アンソニーともコンビも解消されるだろう。
 幼いながらも、当時の私はそう思っていた。
 そんな折り、側にいた団員の一人が、
「本当は内緒なんだけど、私もあなた達には仲良くなって欲しいからね」
 と、語りかけてきた。
「アンソニーはあなたの為にあんなことを言ったのよ」
「私の為?」
「マナちゃんみたいにかわいい女の子が危険な目に会うのは見たくないんだって」
「えッ!?」
 かわいい。そんなことはアンソニーの口から聞いたことがなかった。むしろ、手の掛かる子供程度の扱いだと認識していたからだ。
 虚を突かれて少し混乱していた私をみて女性は、
「戦場に子どもがいるのが本当は嫌なんだって、自分だって子どもの癖してね」
 マセてるとは思ったけど格好いいこと言うわよねと、女性は話を続けていた。



 それ以来だろうか、アンソニーにくっつくようにして生活をするようになったのは。
 子どもながらに恩を返したいと考えての行動だったが、今思えばそれ以外の気持ちもあったと思う。
 初めのうちは邪魔者扱いもされたが、数日もすれば文句も言われなくなった。
 私の決意を聞いてからは団の大人の女性たちは良くしてくれている。アンソニーのことについてなら、それこそ真剣な表情で話を聞いてくれるのだ。
 アンソニーの好みであろう言葉遣い、立ち振る舞いなどについてもだ。
 だが、「このまま行けば私の一人勝ち」「もっとプラトニックに進行させないと来月の給料が…」とよく分からないことを言っていたが、どう言うことなのだろう。
 私には分からなかった。
 結果的に、私は部隊を外されることも、アンソニーとコンビを解消されることもなかった。しかし、戦場にでることはしばらくの間禁止される事になった。
 戦場に出るなとは言われたが、訓練は別だ。当然のように、私はアンソニーの訓練につき合った。今までの自分を恥じて、彼の言うとおりに訓練した。
 そしてある日、彼は私に、
「前に言ったよな? 人質に取られたらお前も撃つって」
 と言った。そのまま話を続け、
「俺がそうなったら、お前が俺を撃て」
 と告げた。私は「何故そんなことを?」と聞くと、
「対等になりたいんだろ? これでお互いに人質になれなくなったな」
 少し笑いながら話しかけるアンソニーに、私は思わず声を上げた。
「よろしくな。相棒」
「うん!」
 初めて、彼にした笑顔だった。



「まったく、あんなにデカい石が挟まっていたとは……」
 マナが昔話に浸っている頃、アンソニーは愛銃の手入れを終え、マナとの今後の訓練スケジュールを確認するために彼女を捜していた。
 基地の内部をブラブラと歩き回ったが姿は見えなかったので、通りがかった団員に訪ねる。どうやら武器商人から買い求めた武器を運ぶ手伝いをしていたそうだ。
 なかなか協調性があってよい。どちらかというと一匹狼風な印象があったので喜ばしい限りだ。
 数分ほどで目的地にたどり着く。そこには何やら話し込むマナとジャッカス、ミランダの姿があった。
「という事があった」
 どうやらちょうど良く、話は終わったようだ。
「なんの話だ?」
 対して興味も無いが、なんとなくそう口に出して輪に入る。
「ひェッ!?」
 妙な声をだして振り返るマナ。背後から声をかけたので驚くとは思ったが、予想以上に反応が良かったので驚いた。
「…何だよ、変な声をだして」
「い、いや、なんでも…」
「まあいい。今後の訓練スケジュールを組むから来い。お前の意見も聞きたいからな」
「ああ、直ぐに行く」
「ミーテイングルームは使われてるから俺の部屋に来い」
「ああ、わかっ……え?」
「直ぐに来いよ」
 用件だけ伝えてその場を去る。背後でミランダの興奮した声が聞こえたが、マナの悲鳴のような声でかき消された。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
○後書きのようなモノ

疑問:ヘルメットで弾丸は防げるのか?
解:『killer7』のマスク・ド・スミスが頭突きで弾丸を弾くより有りかと。

…このネタが分かる人はかなりの通です。別にマスクを否定しているわけではありませんよ?(むしろ好き)



[19116] 第四話 B・カーマインのセカンドライフ
Name: 幻痛◆c421c613 ID:051b1ee2
Date: 2010/07/03 13:17

 ベンジャミン・カーマインは闇に飲まれようとしていた。



 惑星セラで作られた組織、『統一連合政府軍(COG)』に所属するB・カーマイン二等兵。彼は地底からの侵略者"ローカスト"の攻撃から、マーカス・フェニックス軍曹率いるデルタ部隊と共に、人類に残された最後の拠点“ハシント”の防衛にあたっていた。今は亡き、彼の兄でもあるアンソニー・カーマインもこの部隊に所属していた。
 最後の拠点を落とされる前に相手を殲滅せんと行われる大規模戦闘。地底に拠点を構えるローカストを叩くために発案されたのは、歩兵を直接地底へと潜らせるという強襲作戦であった。敵の妨害を受けながらも地底へと突入したデルタ部隊の一人である、カーマインはそこで目を疑うものを見た。
「何だよ…何なんだよ、あれはッ!?」
 COG正式装備に身を包んだカーマインのヘルメットの蒼いバイザーが小刻みに揺れている。身に着けている首から足の先までを覆う分厚いアーマーは所々に敵味方の識別用に青く発光するようになっており、乱戦状態での誤射を少なくする働きをする。防弾防刃のアーマーは200キロ以上の重さがあるが、COG兵士は訓練によって極限まで身体を鍛えるので問題なく動くことが出来る。
「あのバカデカい芋虫野郎がハシントの地盤を食い破ったんだろう」
 フェニックスも同様の思いであったが、彼ほど動揺はせずに極普通に返した。むしろ合点がいったという表情だ。存在するものを食い尽すさんとする巨大なワームが、彼らが防衛していたハシントの地盤を掘り進み、町の一部を崩落させたのだった。彼らの視線の先には高層ビルの何倍もある体躯のワームが地面を掘り進みながら高速で移動をしている。連なった山が蠢くようなソレは、コンクリートの破片や民家の残骸を地上から落とし、ぽっかりと空いた地上には崩壊を免れたビルが覗いていた。
「まずは此処から脱出するぞ。芋虫はそのあとだ」
 崩落に巻き込まれた彼らも各所で救援を行っている味方のヘリコプターに救助を受けるべく、ヘリの着地が可能な高台で向かっていた。
 もちろん、すんなりと行くはずがない。ここはローカストのフィールドであって、人類はそのテリトリーにおびき寄せられたようなものだった。



「クソッ、奴らだ!」
 屋根が吹き飛び、倒壊した建物の二階に待機してヘリを待っていると、ローカストの集団が四方から襲いかかってきた。人類と長い戦争を行い続ける怪物は、人と同じような体の造りをしているがかなりの巨体で2メートル以上はある。体毛は一本も生えておらず、肌は白に近い灰色であった。 
「カバーだ!」
 フェニックスの声で各々が遮蔽物に身を隠しながら敵の集団に向けて銃弾を放つ。それに倣って、倒壊した建物の柱に身を隠し、銃だけを突き出して応戦するカーマイン。敵を視認しないで撃つブラインドファイアと呼ばれる技術で命中率はかなり低いが、牽制としては十分な力を発揮する。
 ローカスト達は銃弾に倒れながらも遮蔽物を利用してカーマインに近づいてくる。一匹のローカストがカーマインの隠れている遮蔽物に取り付き、大口径の銃口を遮蔽物の裏側へと向けた。
 しかし、そこに人影は無く、代わりに鎖のついたグレネードが取り付けられていた。グレネードはローカストの接近をセンサーで察知して青く点滅し、爆発と同時に煙を噴出した。爆風で仰け反るローカスト。爆発の煙に隠れるように背後に接近したカーマインは、アサルトライフルの下部に取り付けられた装置を起動する。
 黒煙を吐き出し唸りを上げるエンジンが、連なった刃を高速で躍らせる。銃剣代わりに標準装備されたエンジン駆動のチェーンソーだ。
 銃の軽く放り、上下を持ち替えると、一筋の線となった牙を上向きにしてローカストの股下から切り上げた。この世のモノとは思えぬ断末魔を上げてローカストの股が切り裂かれる。合金の刃は内臓と骨を砕き、磨り潰し、抉りながら肩口まで一気に切り裂いた。
「一匹やったぞ!!」
 大量の返り血を浴びながらカーマインは再びカバーポジションをとる。容赦のない銃弾が彼の隠れるレンガ造りの分厚い壁面の成れの果てを削り続ける。穴が開いた壁面に銃口を差し込んでライフル弾を撃ち続ける。
 要請したヘリが下りてくるその時までここを死守するために。



 上空から空気を切り裂く音がする。COGの汎用ヘリコプター"キングレイヴン"の羽音は耳障りな音だが、今は天使の囁きのようにも聞こえてくる。
「ヘリがきたぞ、乗り込むんだッ!」
 フェニックスの合図でチームがヘリに乗り込み始めた。
「おい、カーマインはどうした!?」
 機体の中にチームで唯一ヘルメットをかぶっている新兵のカーマインが見あたらない。余談だが、彼ら古参の兵がヘルメットをかぶらないのは彼らのヘルメットのバイザーが青く発光して目立つため、狙撃手の餌食に成りやすい為だ。
「軍曹、後ろは任せて下さい!」
 声はレイヴンの外から聞こえてきた。身を乗り出したフェニックスの視界に、ヘリを狙うローカストに銃撃を続けるカーマインの姿が映る。
「カーマイン、いいからさっさと乗るんだ!」
 最後まで残ってヘリの前で直立の姿勢で銃を撃ち続けるカーマイン。だが身を晒しながら銃を撃ち続ければいずれ・・・
「ぐあッ!?」
 撃たれる。
 あんな遮蔽物のないところで立ち上がっていたら、撃たれるのは当たり前だった。敵の放った銃弾はカーマインのアーマーの胸部当たり、盛大に火花を散らした。
「いわんこっちゃねぇ、引っ張れ!」
 衝撃でヘリにもたれ掛かったカーマインを数人がかりで中に引きずり込む。同時にヘリは上昇を始め、ローカストの射程距離から離れた。
「大丈夫か、あんなところで立ち上がるとわな。言っておいただろう。『カバー命』だってな。」
「すみません・・・でも、信じられない。やったんだ!」
 被弾したカーマインは別段負傷を負った様子が無い。分厚いアーマーに阻まれたのだ。興奮さめやらぬ様子で饒舌になるカーマイン。地底から抜け出すことが余程嬉しいのだろう。
 しかし、幸運だったのはそこまでだった。
 巨大ワームがヘリに接近していた。高速で動くワームの弾き上げた岩がヘリのノーターに当たり、竹トンボのように回転を始めた。
「うわあああぁあ!?」
「カーマイン!?」
 機体の床に寝そべるように乗り込んでいたカーマインは、遠心力で滑るように機外へと放り出されてしまった。
 滑り落ちたその先には大口を開けたリフトワームが待ちかまえていた。高層ビルを丸呑みに出来そうな大口にカーマインは落ちてゆく。巨大な闇が彼を飲みこんだ。



「うっ・・・此処は・・・?」
 どれほど時間がたったのだろうか、カーマインが眠りから覚めたのは湖の畔だった。覚えのない光景に周囲を見渡すと、倒れていた場所に散乱する装備を見つけることが出来た。
 装備は白い何かに覆われており、カーマインの体にも同様に白いもので汚れていた。
「・・・雪?」
 見上げればそこには青空が広がっている。雪が降っているのは近くの高山の雪が風で飛んできているのだろう。
「いつのまに地上に来たんだ?」
 なにはともあれ警戒を強化するべく、手早く武器を拾い集める。
 落下の衝撃で弾け飛んだと思われる武器を拾い集める。まずは"ランサーアサルトライフル"だ。人類側の主要な武器であるランサーは、アサルトライフルとしての機能と銃身下部に取り付けられたチェーンソーでの近接戦闘が可能な万能武器だ。チェーンソーによる一撃は人類よりも大柄なローカストを一撃で真っ二つにすることが出来る。
 次に拾ったのはロングショットライフル。射撃の度に薬室に弾を込める必要があるが、高倍率なスコープと高い命中率、大口径の殺傷力に信頼が置ける。
 右の太股に取り付けられているのはスナッブピストル。ロングショットライフルとは比べるまでも無いが、高い命中率と取り回しの良さでサブウェポンとしての働きをする。弾切れの際にはこれが命を永らえさせる。
 最後に拾ったのはフラググレネードとよばれる手榴弾だ。爆風と同時に無数の破片をまき散らす代物で、至近距離で爆発すれば肉片しか残らないほどの威力がある。センサーを内蔵しているため、スパイクを突き刺して壁や地面に取り付けて地雷として使用することも出来る。
 目に付いた装備を集めると周囲を見渡す余裕が出来た。湖の周囲には森が広がっている。だが見覚えがない光景であった。ハシントの周囲には枯れた草木しかなく、第一雪が降るような気候ではない。
「こちらカーマイン。フェニックス軍曹、応答してください!」
 ヘルメットに内蔵された無線機に向かって叫ぶ。だが返ってきたのは雑音ばかり。HQにも連絡を入れるが同様だった。思わず悪態をつく。
「あれは…?」
 仕方なしにあたりを見渡すと、森の中から黒煙が上がっているのが見えた。煙の元にはキングレイヴンのものと思われるノーターが覗いている。
「軍曹!みんな!」
 ライフルを背に、フラグを腰につるしてランサーを両手で握る。準備を整え森の中に足を踏み入れる。
 銃声が響いた。
「クソッ!」
 茂みを掻き分けて進んだ先、期待通りというべきかキングレイヴンがそこにあった。地面に突き刺さるように墜落したヘリに、灰色の怪物が『ハンマーバーストアサルトライフル』を向けている。ローカストのドローンだ。
「ニンゲンダー!!」
 ドローンはカーマインに気付くと、硝煙が漏れる銃口を向けながら叫ぶ。奴らは何故か人類の言葉を話すことができる。知能があることは分かっているが、カーマインにとってはただの敵だ。肉の塊だ。
「死にやがれッ!!」
 ドローンより早く、カーマインはランサーの引き金を絞った。50連装のマガジンから次々と銃身に入り込んだ弾丸は、ドローンの肉を抉り、爆ぜる。無数に放たれた弾丸の一発がローカストに額に突き刺さり、脳を露出させた。頭の無いローカストはハンマーバーストを撃ちながら吹き飛び、ヘリの残骸の傍に倒れこみ動かなくなった。
 カーマインは他に敵がいないのを確認して、縋る様な思いでヘリに駆け寄る。
「遅かったか…」
 操縦席には初期型のヘルメットを被ったパイロットの死体がある。首すじにぽっかりと開いた穴からは鮮血が漏れ、絶命している事だけは分かった。しかし、軍曹もほかの仲間の姿もない。死体がないだけマシかも知れないが、だとしたら何処に行ったのだろうか。
 機体の側面にある機銃をどかして更に中をのぞき込む。中にはいくつかの銃器と弾薬の詰まった箱が置いてあった。手持ちの弾薬は十分にあるので、弾が切れたらここに戻ってこよう。そう考えてカーマインは更に森の中へと足を踏み入れることにした。手に持ったランサーを握り直して警戒を強化する。一人ではローカストに立ち向かうのは至難の業だからだ。
 しばらく歩くと森が終わり、村が見えてきた。
「妙だな…ヘリから落ちたなら地底にいるはず何だけど…」
 ヘルメットを掻く動作をして困惑をあらわす。さらに近づくとある異変に気付いた。町の片隅で火の手が上がっていたのだ。
「ッ!? ローカスト共か!」
 味方の姿が見えなかったのは村に応援に行ったものだと解釈してカーマインは走る。村からは悲鳴が溢れ、爆音が響きわたっていた。



「――銃声がしない…?」
 村に到着したカーマインは耳を澄ませ、戦闘区域を知ろうとしたが、銃撃の音が一切響いてこないことを疑問に思っていた。さらに進むと、銃声の代わりに怒声と悲鳴が耳に入ってきた。
「助けて!」
「戦えるものは杖を持て!!」
 路地から出てきたカーマインは目の前を駆けていく人々をみた。悲鳴をあげる住人が掛けていく方とは逆方向に行く人々は何故か、魔法使いのようなローブを羽織っており、杖を手にしている。
「あんなので奴らと戦う気かよ!?」
 自警団ですら銃を持つというのに、彼らはただの棒きれで戦うつもりだということに絶句して呼び止めようとする。
「あんたたち、銃を持ってないなら下が・・・ッ!?」
 杖をもった集団を光が包み込んだかと思うと、そこには石像が列をなして立っていた。
「な・・・んだ…?」
 近寄り、触れてみる。ゴツゴツとした質感は石そのものだった。
「ローカストの新兵器・・・?」
「GUOOOooow!!」
「嫌ぁ!?」
 石像に見とれているカーマインの耳に、何かの声と女性の悲鳴が届いた。



 女性は女の子を抱えて半ば倒壊した家の壁にもたれ掛かるようにしていた。
 何故そのような格好をしているのかといえば、彼女の目前に異形の怪物が迫っていたからだった。異形は三メートルはあろうかという巨体で、肌は黒く染まっていた。
「嫌・・・こないで・・・」
「ママ・・・」
 平和な村に突如訪れた地獄。夫は近所の人たちと共に石にされ、彼女に残されたのは一人の娘だけ。それもこのままでは守れそうにもなかった。怪物は彼女たちの前に歩み寄ると、その女性の胴回りほどの大きさの両腕を振り上げ、二人を叩き潰そうとする。
「だれか…」
 彼女の願いを神は聞き入れたようだ。
 悪魔のこめかみに一筋の線が突き刺さったかと思うと、反対のこめかみから線が突き出し、水風船が破裂したかのように頭部が弾けた。悪魔の血と体は地面にふれる前に消え失せる。召還されたものたちはダメージを受けすぎると元の世界に送還されて姿を消した。
「大丈夫か!」
「へっ?あっ、ハイ!大丈夫です」
 急な出来事に呆気に取られていたが、駆け寄ってきた人物に声を掛けられ反射的に返事をした。
「良かった!民間人は早くここから離れてくれ!」
「はぁ? はい…そうします。ありがとう御座います!」
 駆け寄ってきた人物を見て彼女は絶句してしまった。魔法使いの村でこんなSFのようなアーマーを着込んでいるなんて、相当な変人かも知れないと思っていた。だが、カーマインの持つ長い銃の銃口から昇る煙をみて助けられたのだと分かり、素直に感謝をしてその場を離れた。
「誰だったのかしら…」
「きっと正義の味方だよ!」
「…そうね。じゃあ正義の味方さんの邪魔にならないように早く逃げましょうね」
「うんッ!」
 見かけは怪しいが、彼女たちにとってはヒーローに違いない。二人は急いで村から離れるべく、煙の揚がる方とは別の方向に駆けた。



 カーマインはホッと胸を撫で下ろした。ローカストとはどこか違う敵に対してどれほど有効か分からなかったが、ロングショットライフルは十分な結果を残した。
「あれは新種かな…いや、今は救出が先だな」
 死体が残らなかった理由は不明だが、今はそう結論付けてカーマインは走った。すでに戦闘区域なため、腰をかがめて敵の攻撃が当たりにくいように移動する“ローディラン”と呼ばれる走法だ。
 一際大きな怒声が響くエリアに近づくと、建物の壁に背を擦るようにして角の先を覗き見る。
 カーマインはそれを見て、一瞬だけヘルメットを脱いで頬を抓りたくなった。
 そこには棒切れから光を放ちながら戦う魔法使いと、ローカスト軍の家ほどの大きさのある生物兵器“ブルマック”のように巨大な異形が乱闘を繰り広げていた。
「まだ…夢の途中みたいだな…」
 軽く現実逃避をするカーマインであった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次男登場。



[19116] 第五話 ランサーの使い道
Name: 幻痛◆c421c613 ID:051b1ee2
Date: 2010/07/05 21:27
 カーマインは唸りをあげる鋸状の刃を振るい、対象を切り刻む。削られた破片が勢い良くヘルメットにあたり視界が鈍るが、チェーンソーを起動中に目を瞑るような事はしない。対象を真っ二つにするまで攻撃の手を緩めるわけにはいかないからだ。
 その様子は、見る人によってはとても残酷に見えることだろう。しかし、彼は必死だった。
生きるために。そして、民衆のために。
「倒れるぞ~!」
 樹を斬っていた。



 ランサーで根本に切れ込みを入れられた樹が切れ込みとは反対の方向に倒れる。倒れる樹の下敷きにならないように声を張り上げ、周囲に注意を促すカーマイン。
「お疲れさん。いや~良い鋸だな。俺の斧と交換しないか?」
 筋肉質な身体にひげを蓄えた男性がカーマインに話しかける。手に下げられた無骨な斧は使い込まれているが、刃は爛々と輝いている。
「ははっ、駄目ですよ。一応、軍の備品なんですから」
「そりぁ残念だなぁ」
「「あははははっ」」
 斧を担いだ男性と話すカーマイン。カーマインは調理や暖を取るための薪を取るために木こりの仕事を手伝っていたのだ。
「しかし、本当に助かるよ。避難してきた者たちが多くて薪が足らなかったからな」
「いえいえ、軍人として人々に尽くすのは当たり前ですよ。それに困ったときはお互い様でしょう?」
「おおっ、良いこと言うねぇ~兄ちゃん」
「いえいえ、其れほどでも、ありますけどね~」
「「HAHAHAHAHA!!」」
 本日二度目の高笑いが森に響いた。
 なぜカーマインがこんなところで木こりの真似事をしているのかというと、それは数日前に遡る。




 突然、ファンタジーの世界に紛れ込んでしまったかのような錯覚に陥ったカーマインだったが、魔法使いが守るようにしている小さな子供の背後に、小型の異形と刃物を持った人形のようなモノが接近しているのに気づいて駆けだした。
『スプリングフィールドの血族を殺せ!』
『喰らいつくせ!』
 声に気づいた少年が振り向いた時には、敵意を持った存在が数メートル先まできているところであった。
「だ、誰か……助けて……お父さん……」
 後ずさる少年に異形達は迫り、人形の持つ刃が触れようとしたまさにその時、人形の腕が木っ端に散った。
「うおおおおぉ!!」
 カーマインの銃撃だ。中腰の姿勢から放たれた弾丸はマリオネットの球体間接を削りとばし、操り人形のように無様に宙を舞わせた。
 本来、戦場で身を晒すことは自殺行為だ。狙撃手の格好の的に成りかねない。しかし、今回は異形と人形の注意をこちらに向けることが目的なので、大声で奴らに自分の存在を知らせる必要があった。
 破壊された人形の背後にいた小型の怪物と人形がカーマインに向き直る。カーマインは少年が射線上に並ばないように回り込みながら、銃身が加熱して赤く染まるまで撃ち続ける。
 数十発の弾丸をその身に浴びた人形の下半身は粉々に吹き飛ばされ地面に沈む。その横をすり抜けた怪物はカーマインに肉薄した。
 50連弾倉の中身を撃ち尽くし、リロードする時間もない。ならばする事は一つ。
「きやがれ!!」
 ランサーに装備されたチェーンソーが排気口から黒煙を吐き散らす。異形は地面を滑るように移動し、カーマインの手前で飛び上がるようにして襲いかかった。
「オラァ!」
 ランサーで異形を受け止めるようにして接触させる。起動したランサーに触れてしまえば相手の反撃はまず無い。ランサーによる攻撃は相手の肉を削る。神経がズタズタに壊されるので痛みのあまりにショック死をする事も多々ある。
「ギャギャッ!?」
 唸るエンジン音に異形の悲鳴がかき消される。小柄な体は一秒足らずでランサーに両断された。
「楽勝だ」
 身体に纏わりつく臓物を振り払い、カーマインは下半身が砕かれた人形に近づく。まだ動けるようで人形が上体だけで刃物を振るって抵抗する。だが、カーマインはその刃物を蹴りとばすと人形を跨ぐように立ち、拳を振るった。一撃で人形の顔が歪み、二撃、三撃と殴り付けると動かなくなった。
「変な気分だぜ……」
 マネキンに殴りかかるような妙な感覚を覚えながらも、カーマインは子供に声をかけようとして子供を見る。しかし、少年の視線が自分の背後に向いているのに気付き、急いで振り返った。
「ぐッ!?」
 目の前を何かが遮ったかと思うと、カーマインの首に巨大な手が掴み掛かってきた。掴まれた衝撃でランサーが弾きとばされる。
「はな……し、やがれ……!」
 そこには6メーターはあろうかというホッソリとしたシルエットの異形がおり、片手でカーマインは持ち上げられていた。異形は彼を目の高さに持ち上げ、観察するようにしながら両手で首を絞めてきた。
「趣味が……悪い……」
 生命が消える瞬間を楽しもうとしているのだろう。顔を近づけてカーマインのヘルメットに触れそうな距離だ。
「ミンチにしてやる……!!」
 カーマインが腰に手を伸ばし、フラグを取り外すと異形の口内に殴り付けた。衝撃で異形の前歯は砕かれ、フラグの棘が肉に食い込み、甲高い電子音を響かせ点滅を始める。異形は片手でフラグを取り去ろうとするが、一度設置されたフラグは部分ごと取り外さないと外れない作りに成っているため出来ない。
「離しやがれ!!」
 カーマインは太股に取り付けられたスナッブピストルを抜くと自分を締め付ける異形の手首を打ち抜いた。一発では針が刺された程度の様子だったので、弾倉が空になるまで射撃を続ける。撃ち尽くされた弾倉が地面に落ちた頃には、異形の手首は半ばまで吹き飛ばされ、骨が露出していた。カーマインはピストルを振り上げ、骨に叩きつけた。
 数キロはある大型拳銃の重さと、鍛えられた腕力で骨は折れ、カーマインは異形の手からずり落ちた。
 異形は手の痛みと咥内の電子音に取り乱し、体を激しく揺すっていたが、電子音の間隔が次第に短くなるとフラグが光を発し、爆音が響く。
 紅蓮の炎と無数の破片が、異形の上半身を手のひら大の肉片に整形すると、異形は空間に溶けるように消え去った。
「ざまぁみやがれ!」
「なんだ、助けはいらなかったか」
 腕を振りあげ、勝ち鬨をあげるカーマインに声が掛けられた。そこには異形とファンタジーな戦いを繰り広げていた男がいた。
「こっちの台詞だよ」
「おっ、それは失礼したな」
 尻餅をついたままの状態のカーマインにローブの男が手を差し出した。カーマインは一瞬躊躇したが、男の手を取った。
「重っ!?」
「引っ張りあげておいて良く言うぜ……」
 カーマインの体重は装備を含め200㎏以上はある。それを軽々持ち上げるあたり、見かけ通りの優男ではないようだ。
 カーマインはランサーを拾うと子供を見る。子供は男の持っていた杖を持っているが、重すぎて満足に取り扱えないようだ。周囲を見渡すと、地面が抉れていたりする以外は異形の姿も死体もない。おそらく死んだら消える生き物なのだろう。聞いたことはないが、事実そうなのだから仕方がない。
「なあ、あんた。救援が来るまでこの子の面倒を見といてくれるか?」
「ん? あんたは出来ないのか?」
「……もう、時間がない。ネギ、言えた義理じゃねえが、元気に育て、幸せにな!」
「お父さん!」
 男は宙に浮いた。カーマインは今度こそ頬を抓ろうとしたがヘルメットに阻まれた。そのまま空高く上がっていくと、次第に男の姿が霞んでいった。残されたのは泣きじゃくる少年と半ば石化した少女、そしてヘルメットに突き指したカーマインだけだった。太陽が堕ち、月明かりが三人を照らしていた。



 それから三日後、空飛ぶウィザードたちが救援に来るまで、カーマインは彼らの面倒を見続けた。姉であるネカネにすがりつきながら少年は泣き続け、ネカネはカーマインの話を聞き、感謝をし続けた。カーマインがしたことはキングレイブンのパイロットを埋葬し、弾薬と銃器を運び出した事と、彼らが不安がらないように側にいて近場の民家から食料を拝借する事ぐらいだったが。
 救援部隊はカーマインを不審に思っていたが、ネカネとネギの弁明もあり、捕らえられるようなことはなかった。三人はウェールズの山奥の魔法使いの街に住むことになたったが、カーマインは素性が知れないため最高責任者である魔法学校の校長に呼び出しを受けていた。
「……そのヘルメットは外さんのか?」
「アイデンティティーまでは奪わせないぞ!!」
「……いや、すまんかった」
 武器の類を取り上げられたカーマインだったが、ヘルメットは死守してきた。
「君の言っておったCOGじゃがの、そんな軍は存在しておらんかったよ」
「そんなバカな!? この星でCOGが居ないはずないだろ!?」
「星?」
「そう、星」
「「…………」」
(精神の病気かの?)
(痴呆か?)
 結局、校長がカーマインの記憶を読んで危険はないと判断し、この世界についての説明を行った。初めは信じられなかったカーマインだが、実際に目の前で魔法を実演して貰い、星の位置を確認したりなど、ハシントのある星ではないと納得した様子だった。



 というようなやり取りがあり、人命救助を行っていたカーマインは人が良い校長に気に入られ、今は数人の避難民と住人のために薪をとる仕事を任されていた。
「カーマインさん、お疲れさまです」
「お兄ちゃん!差し入れだよ」
「ありがとうございます、サラさん、それにニアちゃんも」
 カーマインに助けられた親子は、たまにカーマインに差し入れに来たりと、色々と親切にして貰っている。
「食べるときでもヘルメットは外さないんですね・・・」
 こそこそと皆に背を向けてサンドイッチを貪り食う
カーマイン。
「外さないの、お兄ちゃん?」
「首がもげても外しません」
「「「…………」」」
 親子の目が怪しく光り、カーマインは冷や汗を流した。
「こらっ、止めっ・・・アッーーーーーー」
 そんなこんなで親交を深めた。



 数時間後、仕事を終え、ランサーを肩に担いで通りを歩くカーマイン。そんな怪しい人物に声をかけてきた少女がいる。
「カーマインさん」
「あぁ、ネカネちゃんか」
「その節はどうもありがとうございます」
「いやいや、当然のことだよ。ところでネギくんはまた?」
「ええ、部屋に籠もってしまって、どうやら魔法の勉強をしているようです」
「魔法の勉強か……」
「あっ、カーマインさんは知らないと思いますが魔法は杖だけでは使えないんですよ。呪文や知識がなければいけないんです」
「それで勉強か、なるほどね」
 恐らくは戦う力が欲しいのだろう。或いは勉強をすることで整理のつかない気持ちをごまかしている可能性もある。
 戦争中の国では、青年が敵と戦う力を欲して軍に入ることもある。それと似たようなものかとカーマインは思った。
「きっと、ネギなりの考えがあるんでしょう」
「だと良いんですが……」
 ネカネと別れ、カーマインは街の宿に向かった。自分に宛がわれた部屋に入ると、ランサーを壁に立てかけ、ベッドにヘルメットをつけたまま寝転んだ。
「さて、これからどうするか…街の人は優しいけど、戦争も無い。こんな所じゃ、兵士は浮いちゃうな」
 カーマインはこれからのことについて悩んでいた。ハシントでは戦死した兄の代わりに兵隊になったが、ここで新たな職種を見つけるか兵士として生きるのかを。
「手っ取り早いのは傭兵か…仕事道具は有るけど……」
 壁に立てかけたランサーを見る。弾倉に弾は入っていない。暴発の危険もあるし、ここでは戦闘も無いからだ。他の装備もまとめて机の上に置かれている。整備も完璧だ。
「それとも木こりでも続けるか…」
 カーマインは本気で迷っていた。


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旧作から微妙に改訂しています。



[19116] 第六話 仮契約
Name: 幻痛◆c421c613 ID:051b1ee2
Date: 2010/07/09 19:09
『クソッ! “サウザンド・マスター”……!!』
 “ソレ”は死にかけていた。
 人間のソレと同じように四肢のあった身体は千切れ飛び、残ったのは右腕とそれに乗っかるように残った頭部だけであった。右腕で地面をかくようにして這いずり回り、怨念の込められた呪詛の言葉を吐き出している。
 木々が生い茂る木漏れ日の中を這う肉切れ。背骨の一部が飛び出した身体からは大量の血が漏れ、地面に赤い線を残していった。
『コンナ所デ……朽チ果テルナド……!!!』
 “ソレ”は身体を捜していた。
 より強く、より硬く、何よりも強固な肉体を。
『――ッ?』
 見つけた。
 消え入りそうな視界の先、森の木々をへし折ってヘリがその機体を横たえていた。半ばからへし折れた機体は所々がスパークし、火花を散らしている。
 その残骸の傍、白に近い灰色の肌をもつ異形の死体があった。身体に残った無数の傷跡、銃弾によって撃ち抜かれた死体は、“ソレ”には完璧とはいえないが、十分に価値のあるものであった。
『ク、クハハッ……!! イイゾ、『新シイ身体』ダ!』
 “ソレ”は旧い身体を引きずりながら、新しい身体、ベンジャミンが撃ち殺したローカストの死体に擦り寄った。




「──死体が……ない……?」
 ベンジャミンはヘリの残骸の側に立ち、驚きの声を上げた。
 彼は、すっかり忘れていたヘリの存在を思い出したのだ。ヘリは壊れているとはいえ、機体には機銃が据え付けられ、内部には運びきれなかった武器弾薬がそのまま放置されていたのだ。
 このままにしておくのは危険と考え、それについて知り合い、魔法学校の校長に相談したところ、それの回収をしてくれることになったのだ。
 そして、回収部隊と共にこの地に舞い戻ったのである。
「パイロットの遺体を収容したときにはあったのに……どこに行ったんだ?」
 以前は確かにあったはずのローカストに死体が忽然と姿を消していた。
 野生動物に喰い荒らされたというなら分かるが、骨のひと欠片も、肉片もない。残されたのは乾いて黒く染まった血の後だけだ。
「どうした?」
「ああ、いや。なんでもない……」
 背後から回収部隊である魔法使いが声を掛けてきた。
(なんにせよ……あいつは死んでいた。何の問題もないだろう)
 曖昧な返事をして、彼は消失した死体を思考の片隅に追いやった。




 ある中東の紛争地帯。NGO団体“四音階の組み鈴”が戦闘を行う者たちを力で無力化し、血が流れるのを防いでいた。
 そんな彼らでも、人間である限り休息が必要である。彼らは仕事を終えると小さな村で休息をとっていた。
 そこから程近い、ほんの少し前まで銃弾が飛び交っていた野原には二人の人影があった。一つは大柄でヘルメットを被った少年。もう一方は小柄な少女であった。二人は野原の中央にポツンと生えている樹に寄りかかるように並んで座っていた。木の葉の隙間から漏れる柔らかい光が二人を照らしている。肌寒いとはいえ、今日は日が高く昇っており、日の下にいると汗をかきそうな陽気であった。
「アンソニー」
「なんだよ。今やっとウトウトしてきたのに」
 少女、マナの呼びかけに、少年、アンソニーは億劫そうに答えた。ヘルメットのせいでその表情までは読みとることができない。
「なぜ寝ようとするんだ。私との語らいを楽しめ」
「語らいねー…で、何のようだ?」
「誕生日のお願い、聞いてくれるかい?」
「あぁ、もうそんな時期になったのか・・・いいぜ。なんでも言ってみな」
 アンソニーは年長者として(身体年齢は殆ど同じ)度量のあるところを見せつけたかったのかもしれない。
「じゃあ……キスをしてくれ」
「は?」
 急に立ち上がったかと思うと、顔を赤らめモジモジと手を体の前で組むマナはそんなことをのたまった。その所作は普段の戦死としてのモノとは違い、少女のそれであった。
 一方アンソニーといえば、マナの恋する少女のように愛らしい行動さえイタズラかなにかだと思っていた。
 第一、今まで数回あった誕生日プレゼントは、カスタムガンや特注の弾丸などが殆どだったのだ。それが今回はキスだという。アンソニーがそう思うのも無理はなかった。
「何言ってんだよ。これでも長い付き合いなんだ、お前が本気かどうかぐらいすぐに分かる」
「えっ?」
 俯き加減だったマナの顔が上がる。その顔は真っ赤なままであったが、その目は驚きに満ちていた。
「最初に無理な条件を言っからちょっと無理な物をねだる気なんだろ? 交渉としては常套手段だしな」
「…………」
「悪いがその手は食わないぜ? 早く言ってみろよ。本当は何が欲しいんだ? お兄さんに言ってみろ」
「…………じゃあ、後ろを向いてくれないか?」
「後ろ? こうか?」
 アンソニーはさっとマナに後ろを向ける。
「そう……そのままじっとしていろ」
 マナは無防備に背中を向けたアンソニーに向かって銃弾を放った。火薬の爆発で銃身から押し出されたソレは、アンソニーのヘルメットとアーマーの隙間、首筋に突き刺さった。
「ぐぉ!?」
 少年ながらも立派な体格をしたアンソニーが地に草花の上に音をたてて倒れる。マナは“それ”を足で乱暴にひっくり返すと、アンソニーの腹の上に座り込んだ。
「体が、痺れ…ッ!?」
「依然送ってくれただろう? 特注品さ。きっとこうなるんじゃないかと思って持ってきておいて正解だったよ」
「ま、まさか…欲しいものっていうのは・・・」
「いくら鈍感でも分かっただろう? そう…それは」
「俺の命か!!?」
 アンソニーのヘルメットを銃弾が掠め、頭の隣に咲いていた花が吹き飛ぶ。銃弾はマナのもつ拳銃から放たれたものであった。
「期待した私がバカだった……」
 マナは銃を地面に置くと、アンソニーのヘルメットに手をかけた。
「よせッ!? やめるんだマナ!!」
 必死に体を捩らせて逃れようとするアンソニーであったが、体の自由が利かないため思うようにいかない。
「お互い同意の上でしたかったが、仕事上そんな悠長なことも言ってられないからね」
「た、頼む! ヘルメットだけは、後生だから!」
「外さないと『出来ない』だろう? 大丈夫、すぐに終わるさ」
「“ナニ”をする気なんだよ!?」
「この際だ。ベッドの上ではないが、最後まで逝こうじゃないか」
「何処に逝くんだよ!? 何だよ逝くって!!」
「初めてだが手順は知っている。大丈夫だ…痛くないようにするから…おい、来てくれ」
 マナはいったん手をとめると樹の影に向かって声を掛ける。そこから現れたのは白い毛むくじゃらのウサギほどの大きさの生物が飛び出してきた。
「なんだそいつは?」
「彼女はエマ・カモミール。『オコジョ妖精』だ」
「はじめまして、エマ・カモミールです」
 エマと名乗るオコジョは器用に上体を折ってお辞儀をする。とても礼儀正しいオコジョだ。アンソニーは他のオコジョ妖精などは見た事も無いが。
「エマとは最近知り合ってね。寝床を提供する代わりに今回のために手伝ってもらっているんだ。エマ、さっそくやってくれ」
「わかりました」
 エマは何処からともなくチョークのようなものを取り出すと、二人の周囲に魔法陣を描いた。草が生えている地面にチョークで陣が書けているあたり、ただのチョークではないようだが。
「準備は完了です。あとはキスをするだけですよ、マナさん」
「ありがとう。さて……覚悟はいいかな? アンソニー」
「よ、よすんだマナ。話し合おうじゃないか……」
 必死にマナを説得しようとするアンソニーに、龍宮は静かに訪ねた。
「・・・そんなに嫌なのか?」
 先ほどまでの強気は何処に行ったのか。親に叱られる子供のような表情になったマナに、アンソニーはほんの少しだけ罪悪感を感じていた。
「私たちが居るのは戦場だ。いつ死んでもおかしくない。……後悔したくないんだ」
「お前がそんなこと気にする必要はない」
「そんなッ!」
「お前が死ぬなんて事は、俺が生きてる限りさせない」
「アンソニー……」
「だからもっと自分を大事にするんだ。俺みたいな奴に初めてを捧げる必要は……って、何ヘルメットを外そうとしてるんだよ!?」
 アンソニーが話している最中、マナはヘルメットを外そうと再び手を動かしていた。
「今のは同意とみなしていいよね?」
「どこにそんな意味が含まれてたんだよ!?」
「大切な存在だって言ったじゃないか」
「"家族"って意味で言ったんだよ!?」
「大丈夫だ。この方法でも"家族"になれるから……」
 すでにマナの目にはアンソニー以外は映っていないようだ。アンソニーの気持ちを聞いて軽く正気を失っているようにも見える。
「や、止め……嫌ァー!!!?」
「情熱的です……」
 エマのうっとりした視線の先で、二人の影が一つに重なっていた。



 そんな彼らを遠くの茂みからのぞく人影があった。
「――いくらけしかけたからと言って、あれは許容できないんじゃないか?」
「彼女、まだ1○才だよね?」
「というか、あれってレイ……」
「ま、まぁ良いじゃない!青春と言うことで」
「そ、そうだな!青春だもんな!?」
 "四音階の組み鈴"の団員たちが二人の情事をしっかりと覗いていたのだ。
 彼らはマナに、アンソニーのように大口径の銃器を使用したいと相談しにきたのだ。先日、人質にされたことを思ってのことだと思われる。あるいは、単純にアンソニーの大口径に憧れただけかもしれない。
 とは言え、マナがあのような強攻策に出るとは思っておらず、大人たちは若干戸惑っている。
「帰ろうか……」
「そうね……見つかったら殺されそうだし」
「「「違いない」」」
 目の前に広がる光景から目をそらし、大人たちはその場を後にした。



 わずかに身じろぎをする二つの影。その側に色鮮やかなカードが落ちていることにマナが気づいたのは、日が沈みかけた頃であった。
「これが……パクティオーカード……」
 手に取ったカードにはマナ自身が描かれている。久しく着ていない可愛らしいワンピース姿の彼女は、前で交差するように大型の自動拳銃を所持している。拳銃はイスラエル製の「デザートイグール」に酷似していた。
(これで……少しは近づくことが出来たのだろうか?)
 マナは自問した。
("子供の身体"では、アンソニーのように反動の強い大口径は扱えない。これで……きっと……役にたてる)
 静かに、マナは決意を固めた。
「私もお兄ちゃんと・・・フフッ」
 エマの物騒なつぶやきは誰にも届くこともなく、エマの前にはアンソニーの被っていたヘルメットが転がっていた。



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どうも幻痛です。
今回キリがいいので若干短いですが投稿。

ちょうどいい文章の量ってどのくらいなのだろうか?(今回の文章量は4000字くらい)



[19116] 第七話 別れ
Name: 幻痛◆c421c613 ID:051b1ee2
Date: 2010/07/10 13:40
「やっときたな、アンソニー」
「……約束した覚えはないけどな」
 黒く長い髪に褐色の肌の美少女が少年に話しかける。少年は不機嫌そうな声を出しているが、その表情を伺い知る事が出来ない。少年は頑丈そうなフルフェイスのヘルメットを被っていたからだ。
「何を言っている。“パートナー”だろう?尽くすのは当たり前だろうに」
 フンと鼻を鳴らし、マナが胸を張る。何処となく誇らしげだ。
「裁判をやったら俺が勝つけどな」
「なんだ、怒っているのかい?"仮契約"の事を」
「……もういい。それで、一緒に訓練するのか?」
「当然だ。パートナーだからな」
「………」
 彼女は両手で二丁の大型自動拳銃を構え、少年は背負っていた自動小銃を構える。小銃の下部にはなぜか、小型のチェーンソーが取り付けられていた。
「まだそんな無粋なものをつけているだね」
「これの方が“殺り”やすいんだよ」
 二人の視線がぶつかり合う。視線同士が火花を散らしあっているようにも見えた。
「「ふっふっふっふっ」」



「またやってるのか」
「仲が良いな~」
「あと一週間でくっつくかな?」
「俺は三週間に賭けてる」
「あれっ?もう付き合ってるんじゃないの?」
 睨み合う子供たちを遠くからながめるのはNGO団体"四音階の組み鈴"のメンバーだ。彼らは世界中を渡り歩き、紛争地帯で戦ってきた魔法使いの集団だ。
「第一、俺は魔法なんてほとんど使えないぞ」
「使えるじゃないか。障壁だけだけど」
「障壁があれば頭を守れる。頭を守ってりゃ生き残れるんだよ!!!」
「……何かトラウマでもあるのかい?」
「それは置いといて。訓練方は前と同じ、実弾無しのペイント弾の使用。刃物はカバーをつけて、当たったら撃たれたのと同じ扱いだ」
「わかった。では一分後に」
「ヒーヒー言わせてやるぜ」
「言わせてくれるのかい?」
「………泣きべそかかせてやるぜ!!!」
 荒野に建てられた屋内戦闘用の張りぼての端と端に分かれる二人。きっかり一分後に二人はフィールドに入った。



 数分後。
 室内では銃撃の際に生じる閃光で満たされていた。それは途切れることなく、銃声を轟かせながら互いの弾倉が空になるまで続いた。
「マナ! なんだその戦い方は!身を隠せっていつも言ってるだろ!」
「当たらなければ、どうという事はないよ!」
「俺に喧嘩売ってんのか!? “カバー命”が俺の人生の指針なんだよ!!」
「相手の射線を読んでかわし、最適な角度で撃ち込む事こそが全てさ!!」
「カバーだ!!」
「ガ〇=カタだ!!!」
「「なら…」」
「「勝った方が正義だ!!!!」」



 喧嘩のような撃ち合いは二人が同時に弾切れになるまで続いた。
「ヘッ、やっぱりカバーが正義だ」
「……最後は接近戦だったじゃないか」
 フィールドから出てきた二人は勝負の結果について仲が良さそうに話していた。
「過程と結果が俺に勝利を示している」
「・・・・・・えい」
「止めろ!ヘルメットを脱がすな!?」
 カーマインのヘルメットに抱きつくマナ。彼女は満面の笑みを浮かべているが、カーマインは必死に引き剥がそうと目の前にぶら下がっているマナの腰に手をかけている。
「確か、マナちゃんが『戦いたい』って言い出したんだよね」
「そうだ。なんでも、『ケリ』をつけるとかなんとか」
 端からみればイチャついているようにしか見えない二人。そんな二人を四音階の組み鈴のメンバーは笑いながら見守っていた。
 そんな穏やかな日々がいつまでも続くものだと、全員が思っていたのだった。



「……嫌な空気だ」
「何名かこちらに向かっているな」
「"視える"か?」
「ああ、村人の避難を急ごう」
「大人たちは最前線だ。何人かが防衛ラインを抜けてきたんだろう」
 カーマインとマナは紛争地帯にある小さな村に来ていた。前線が段々と民間人の住む区画に近づいてきたため、避難誘導を行っていたのだ。
 広い範囲で集落が点在しているので、非戦闘員や戦闘が未熟なものが手分けして村々にまわっていたのだ。カーマインとマナはパートナーなので一緒に行動をしている。
 二人の戦闘技術は大人顔負けの腕前だが、子供ということもあり、このような分担になったのだった。
「食い止めるぞ、マナ」
「倒さないのかい?」
「可能ならな。避難が終了すれば俺たちの勝ちだ」
「了解だ、相棒」
 二人は村の広場に遮蔽物を設置し、トラップを仕掛けた。ワイヤーと手榴弾を繋げたものや、クレイモアと呼ばれる対人地雷を複数セットする。
「敵が視認できても攻撃はするな。トラップに引っかかるまで待て」
「了解」
 マナは民家の屋根に、カーマインは遮蔽物の一つに身を潜める。互いに無線で連絡を取り合いながら敵襲に備える
「来たぞ」
 マナはうつ伏せの状態でライフルのスコープを覗き、敵の接近を知らせた。
「手筈通りに……」
 敵は数匹の異形と術者が一人だけだ。大柄の術者はローブのようなものを纏い、既に手傷を負っている。とはいえ、危険なのに代わりはない。
 カーマインは息を潜め、小銃のセイフティを外す。マナもスコープ越しに異形の一体を照準に捕らえ続ける。
 術者の指示で異形が前進する。異形の一団の一体がトラップのゾーンに入ったのを視て、マナはライフルを握り直し、息を整えた。
「ギッ?」
 異形の一体がワイヤーに引っかかり、手榴弾のピンが外れ、起爆装置が作動する。
 刹那。
 手榴弾の破片が爆風と共に異形に襲いかかる。鉄片が異形の頭部を、腕を、足を吹き飛ばし、異形は元の世界に送還された。
 続いてマナのライフルが火を吹く。異形の一体が額に銃弾を受け、宙で一回転しながら溶けるように消えた。
 カーマインはマナの位置を悟られぬようにカバーと射撃を繰り返し、場を混乱させる。敵に致命傷をあたえるのは彼女の仕事だ。
 慌てた敵は移動しようとするが、設置されたトラップに引っかかり、数を減らしていく。
「アンソニー。今避難所から連絡があった。村人たちは無事到着したようだよ」
「こっちでも連絡があった。なら退くぞ……術者がいないぞ、何処に行った!?」
「こちらでは確認できない」
 カーマインが術者の姿が見えないのに気づき、マナに確認を求めるが、彼女もまた標的を見失ってしまった。
『コンナ子供ニこけニサレテイタノカ……』
「ッ!?」
 いつのまにかマナの背後にローブを着た術者が立っていた。彼女が拳銃を抜くより早く、術者が杖を振る方が早かった。



「おい、どうした!?」
 異形を全て倒したカーマインはマナから返事がないことに疑問を抱き、彼女がいるはずの屋根まで登ってきた。
 しかし、そこにはライフルと拳銃、無線が落ちているだけで、マナの姿はなかった。
 カーマインは残されたライフルを手に周囲を見渡す。そして、遙か遠くの崖のあたりに動く影を見つけ、ライフルのスコープを覗きみた。
 そこには、術者と体を縛られたマナがいた。




『コノ崖下ニアル町ガ見エルカ? アレガ、雇主ニ指示サレタ“たーげっと”ダ」
「それと私に何の関係がある!」
『人質ガイレバ手ハ出セナイダロウ? 特ニ、アノNGO団体ニトッテハ十分ナ保険ニナル』
 崖の近くまできた術者とマナは崖下に町を見下ろしていた。魔法を使ってココから飛びおりるつもりなのだろう。
 小脇に軽々と抱えられたマナは抵抗するが、術者に頭部を殴られ、軽い脳震盪を起こしてしまった。
『オトナシクシロ、誰モ助ケナド……」
「来たぞ」
『ッ!?』
 術者が障壁を張るよりもはやく、特注のチェーンソーがマナをつかむ術者の腕を切り落とす方が早かった。
『ギャ、アアアアァァァ!?』
 ローブの一部と共に“白濁した腕”が千切れ飛ぶ。鮮血が術者の腕が存在していた箇所から噴き出し、アンソニーとマナを紅く染め上げる。
「大丈夫か!」
「なんとかね……」
 縄を解き、未だ捕まれいた腕を振り払うマナ。外れた腕は肩から切り落とされ、地面に落ちると水っぽい音を立てた。
「何故、コンナニ早ク……餓鬼ガコンナ短時間で来レル距離デハナイゾ!」
「はッ、軍にいたころは200キロの装備で行軍していた。ヘルメットだけならもっと早く移動できる」
「なかなかタイミングを計れなかったが、さっきのどさくさに紛れて合図を送ったんだよ。……軍に居たのか?」
 マナもカーマインに気付いて反撃の機会を窺っていたのだ。カーマインは術者に銃を突きつけ、降伏するように呼びかける。
「人間ガ……降伏ナド、スルモノカ!」
「おぅ、そうかい、なら少しの間眠って貰おうか」
 カーマインは腰に下げたリボルバーを抜くと、術者に躊躇せず弾を放った。術者の額に突き刺さった小型の注射器のようなもので、中の薬品を注入することで相手に深い眠りをもたらす。術者は一秒足らずで身体を横たえさせた。
「直に大人たちも戻ってくる。こいつを運んじまおう」
「もっと言うことはないのかい?”顔に傷が付かなかったか“とか、”おなかは大丈夫か“とか。」
「俺が心配する事じゃないな。第一、怪我なんてしてないだろ」
「さすが。やはりパートナーには分かってしまうか」
「………」
 談笑する二人の背後で、術者の体が不気味に動く。それに気づいたのはカーマインだった。
「っ、マナ、後ろだ!」
「えっ、きゃッ!?」
 カーマインがマナを突き飛ばすと彼の体に無数の触手が突き刺さった。彼の血がマナに顔にかかる。カーマインの手から銃がこぼれ落ちた。
「キサマラ、楽ニハ死サセンゾ!」
 触手の伸びる術者のローブが不自然に蠢く。マナの行動は早かった。
「アデアット!」
 言葉と共にマナの手に無骨な自動拳銃が現れた。それでカーマインを貫く触手を撃ち抜こうとするが、術者の体を操る『何か』はカーマインの体を銃口にずらす。
「ムダダ、貴様ガ引キ金ヲヒクヨリモハヤク、私ハコイツヲ盾ニデキル」
「くそっ!」
 アンソニーの影から覗く腕や足を狙おうと銃口を向けるが、ローブのせいで位置がつかめずにいた。
 彼はホルスターに残ったリボルバーを抜こうと手を伸ばすが、新たに伸びた触手によって腕を貫ぬかれて苦悶の声を上げた。
「撃て……マナ……俺ごと撃て!!」
「出来るわけないだろ!!」
「今撃たなかったら町に被害が出る……お前も危険だ……撃て、今しかチャンスはないんだ!!」
「でも……でも!!」
「撃て!!」
「う……あああぁぁッ!!!」
 龍宮の拳銃から放たれた弾丸はカーマインを貫き、術者の体ごと蠢くローブを撃ち抜いた。
「グオォォォ!?」
 弾かれるように、異形となった術者はアンソニーもろとも崖から落ちていった。龍宮が駆け寄る。
「アンソニー!!」
 彼は落ちてはいなかった。崖から隆起する岩に何とかしがみついている。その身体は血にまみれ、徐々に岩を握る腕がはがれて行く。そして、彼は一人ではなかった。
『オノレ、人間ガァ!!』
 異形は触手を伸ばしたまま、アンソニーにぶら下がっている。激昂し、アンソニーを足場にして今にも上ってきそうであった。
「待ってろ、今……!」
「マナ!!」
 銃を向けるマナに、アンソニーが名を呼ぶ。彼は片腕で身体を保持すると、血まみれの腕を伸ばしてリボルバーに触れた。
「悪いな、嫌なこと頼んじまって。後は俺がやる」
「何を言って……」
 アンソニーは静かに、岩から手を“離した”。
「じゃあな……マナ……」
「ッ!? アンソニー!!」
 アンソニーは術者と共に、崖下へと落下を始めた。
『貴様ァ!!』
「悪いが付き合ってもらうぜ。お姫さまにお別れを言いな!!」
 アンソイニーは落ちながら、リボルバーの引き金を絞った。放たれた弾丸は術者を貫き、断末魔の悲鳴を上げさせる。
「アンソニー!!」
 銃声とマナの声が空しく響くと、彼女の持っていた銃が突然消えうせ、カードに戻った。
「……これは」
 色鮮やかだったカードはセピア調の色合いになっている。仮契約者の死亡によって起こる現象だ。
「嘘だ……こんな……」
 彼女はフラフラとした足取りでカーマインの取り落としたチェーンソー付きの銃の元に座り込むと、カードを胸に彼女は涙を流した。救援が来るまでそれは止まることはなかった。




 四音階の組み鈴が崖下を調べたところ、術者の遺体と、アンソニーが使用していたリボルバーが発見されたが、カーマインの遺体は発見できなかった。マナはしばらく森を探していたが、木の枝にペンダントが引っかかっているのに気づき、それを手に取った。
 そのペンダントはマナが無理矢理カーマインと撮った写真が入っているもので、彼女が彼に渡していたモノだった。写真はヘルメット姿のカーマインと、それに抱きつくようにしたマナが写っていた。
 彼女はペンダントを首にかけると森を後にした。
 彼女は彼の残していった銃を背負うようになった。団の大人たちは何も言わなかった。華奢な彼女が使いこなせるようになるまで何年もかかるだろう。
 しかし、彼女は諦めなかった。彼女は特別な日と、激戦が予想されるときだけ彼の銃を使った。そして生き残った。


 彼女はまだ戦場に居る。
 まるで何かを探すかのように。




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旧作を手直しはしましたが、対して変更はありません。

最近ゲームの『ブレイブルーCS』をやっているのですが、アラクネはいいキャラですね。
アラクネ主人公のSSとか書きたいな……
設定無視になるけれど。



[19116] 第八話 カーマインの生活(ウェールズ編)
Name: 幻痛◆c421c613 ID:051b1ee2
Date: 2010/07/11 14:13
 カーマインという人物が魔法使いの街に住んでいる。彼は木こりの仕事をしていて、他にも人々の手伝いや、災害時には率先して動くことで人々からの人気もある。たまに長期間のバイトがあると言って街を空けていると心配の声が上がるほどだ。
 何よりも、悪魔の集団から人々を守ったことが三年たった今でも語り継がれている。そんな彼は二年前から趣味にしているモノがある。木こりの男性から薦められたそれは・・・
「絶好調だぜ!!」
 彼は白い粉にまみれた坂道の上を二枚の板とスティックを操り下っていた。雪上の競技。スキーだ。



 彼は雪の積もった日はスキーに行くようにしている。寒くなると雪が積もるような気候の街なので、趣味にするには絶好の場所でもあったからだ。
 今日も仕事を終えた彼はまっさらな雪原を滑っていた。もちろんヘルメットは外さない。
「旦那ー! カーマインの旦那ー!!」
「ん? カモミールか、どうしたんだ?」
 カーマインに声をかけてきたのは白く長い胴体に尻尾を持つオコジョのカモミールだった。その姿こそオコジョだが、本当は人間で罪を犯した魔法使いはオコジョにされてしまうのだそうだ。最前戦に送られる罪よりは増しだと思うが。ネギによれば彼が罠にかかっているのを助けて以来、ネギに恩義を感じているのだそうだ。
「校長が呼んでますぜ」
「おっと、そうだった。今日は約束があったんだっけ」
 カーマインはカモミールを肩に乗せ、麓の街に向かって滑り出した。目指すのは一際大きな建物、ウェールズ魔法学校だ。



「すんませーん遅れてしまって・・・」
「おう、来たか」
 カーマインは校長室に来ていた。もちろんスキー道具を脇にかかえたままで。そこには先客がいた。
「あれ、お客さんでしたか」
「君がカーマイン君だね。初めまして、高畑・T・タカミ
チです」
「ベンジャミン・カーマインです。俺のこと知ってるんですか?」
「もちろん。ネギくんからよく聞いているよ。正義のヒーローだってね」
「そんな、大層なものじゃありませんよ」
「感謝しているんだ。僕はネギ君の父親とも知り合いでね。知人の子供が無事に済んだのは君のおかげだよ」
「いや、ネギの父親が頑張っていたのを手伝っただけですからどうって事ないですよ」
「そんな謙遜・・・・・・父親?」
「そう、父親」
「・・・ネギ君の?」
「そう、ネギの」
「「・・・・・・」」
「校長、僕はそろそろ失礼します。報告することが出来ましたので」
「うむ。気をつけてな」
 足早に校長室を後にする高畑をカーマインはそれを見送ると校長に向かった。
「それで、ご用件は?」
「ふむ。カーマイン君、バイアスロンに興味はあるかね?」
「バイアスロン・・・スキーしながら銃を撃つやつですか?」
「まあ、そんな感じらしいの。実は知人のバイアスロンのチームが人員不足らしくてな。スキーもできて銃も撃てる君を紹介しようと思うんじゃが」
「いいですけど・・・そんなに人がいないんですか?」
「魔法使いのがほとんどのチームじゃからの。銃を使いたがる魔法使いは極少数なんじゃ。」
「なるほど・・・でも俺は魔法使えませんけど」
「良い人材はよそからでも引っ張ってくるもんじゃろ」
「まぁ、それで良いなら俺は構いませんよ」
「では、早速連絡をしておくから準備をしておいてくれ」
「準備?」
「スキー用具はあるようじゃから、ライフルかの。一般的には競技用のライフルを使うらしいが、使いなれたモノがあれば持ってきてほしいそうじゃ」
「分かりました。整備をしておきますよ」
「では、頼んじゃぞ」
 カーマインは軽く敬礼すると、校長室を後にした。それを見て校長は電話をかける。
「儂じゃ。あの件じゃがの、了承してもらったぞ。さっそく来てくれ」



 後日、カーマインはヘルメットを含むフル装備で待ち合わせ場所にいた。銃を使うときはこちらの方が落ち着くようだ。
 しばらくすると空から数人の魔法使いがやってきて、カーマインの周囲に着地した。
 簡単な挨拶をすると、バイアスロンについての講義を受ける。バイアスロンは個人やスプリント、リレーなどをクロスカントリースキーを行いつつ、ポイントで射撃を行う競技で、クロスカントリースキー後の射撃は息が乱れて困難なのだと聞いた。
「それなら得意分野だ」
 カーマインの自信たっぷりの態度に、バイアスロンのチームは沸いた。実際、カーマインは戦場で常に移動しつつ精密射撃を行う、いわばプロのようなものだ。
 数ヶ月後、カーマインの所属したチームは魔法使いたちのチョットした噂になるほどの有名チームになったのは、また別の話だ。



 バイアスロンをする傍ら、カーマインは木こりの仕事の他にちょっとしたアルバイトをしている。カーマインにとっては店番をするより手慣れたことだ。
「右から敵の増援だ!中央から何人か連れてきてくれ!!」
『了解、今送ります』
 カーマインは物陰に隠れながら無線で後方に展開している部隊に指示を送る。銃弾がガリガリと遮蔽物を削り、魔法の炎が表面を黒く焦がした。カーマインは紛争地帯で傭兵のアルバイトをしていたのだ。
「ローカストどもに比べりゃ子供の水鉄砲みたいなもんだ・・・」
 カーマインは静かに呟いた。ローカストの戦法はローカストホールと呼ばれる地底から地上につながる穴を空けての奇襲と、数で押す物量戦が主流だ。対して相手は全体でこちらと同数か、倍程度だ。
「楽勝だ!」
 敵の攻撃が緩む瞬間がほんの少しだけ開くのを狙い、カバーポジションから顔を出してロングショットライフルで狙い撃つ。敵の位置はカバー中に把握しているため迷いはない。
 放たれた弾丸は魔法使いの肩を貫き、戦闘力を奪った。射撃を行ったせいで敵の攻撃が増すが、カーマインはすでにカバーポジションに戻っている。
「増援はまだか!」
『今着いた』
 返事と同時に空から炎や氷、雷が降り注ぐ。頭上を見上げるとそこには空に浮かぶ人影が無数にあった。
「魔法か・・・少し興味が湧いてきたな」
 カーマインの携行している火器では、迫撃砲のような爆撃は出来ない。故にカーマインは彼らの技術が便利に思えてきていた。
「支援、感謝する」
「君の胆力も相当なものだ。あれだけの攻撃を一人で凌ぐとは恐れいったよ」
 魔法使いの一人がカーマインに話しかける。彼らが来るまでカーマインは一人で此処を守っていたのだ。
「怪我人が多くてね。運ばせる人員も割く必要があったから仕方なくさ」
 カーマインの相手にしていた数は約10人。距離を詰められたらそれまでだが、カバーをしつつ、後退と射撃を繰り返し持ちこたえていたのだ。
「いや、それでも凄いよ。彼らはそこそこ名の売れた傭兵団だったからね」
「・・・・・・あれでか?」
「えっ・・・そうだけど」
「・・・よっぽどハシントは酷かったんだな・・・」
「ま、まぁとにかく助かったよ。報酬は本部でもらってくれ」
「ああ、じゃあそこらでノビてるやつらは任せるよ」
 魔法使いたちに軽く手を振って、カーマインは本部に向かった。それを見送った魔法使いに銃を持った女性が話しかけてきた。
「あれが噂の"ジェイソン"ですか?」
「そうだ。あんな物騒な武器を使うのだから、さぞかし危ない奴なのかと思って、奴らが勧誘する前に誘ったんだが、危ないどころか良い奴だったよ」
「ただ、武器の趣味は最悪ですけどね」
「違いない」
 カーマインのランサーは端から見れば凶悪以外の何者でもない。何しろチェーンソーなどという近接武装をつけたランサーは子供ほどの大きさであり、振り回すにはかなりの筋力がいる。
 ホラー映画の怪物と同じ通り名になるのも仕方がないことだ。そんな評価がついていることなど夢にも思わないカーマインは上機嫌で報酬を受け取りにいった。
 それでも傭兵の中にはカーマインと臆せずに付き合ってくれる者もおり、友情を深めるものもいれば二度と会いたくないという人物も出来た。そうして危険ながらも楽しい日々が過ぎてゆく。



 なぜカーマインがバイトをしているのかと言うと、ネギやネカネ、サラとニアのためだ。街の人が親切にしてくれるので、生活には困ることはないが、はじめの内はどうしても出費が嵩んでしまう。それを聞いたカーマインは匿名で彼女たちに寄付をしていたのだ。もとより、カーマインはあまり贅沢をする性格ではないので木こりの月収だけでやっていけるのだ。そのため、あまりの金を有効活用している。といっても、アルバイトをしないと足らない位の寄付は、明らかに彼の生活を圧迫しているが。
「最近、郵便で送られてくる封筒にお金が入っているんですよ。カーマインさんは心当たりありませんか?」
 カーマインはサラに家に招かれていた。定期的に顔を出して欲しいとニアに頼まれているからだ。
「さぁ、でもくれるというなら貰っちゃえばいいんじゃないですか」
「そうですね・・・私、本当はカーマインさんが寄付をしてくれると思っていたんです」
「まさか、俺はしがない木こりですよ。人に寄付する余裕はありません」
「でも、最近はよく郊外に出かけると聞いています。そこで仕事をしているんじゃないですか?」
「あれはスキーとバイアスロンの練習をしているんですよ。町中ではできませんからね」
「そう・・・ですか・・・」
「さて、そろそろ失礼します。バイ・・・バイアスロンの練習がありますので」
「えぁ、またいらっしゃって下さい」
「もちろん。今度はニアちゃんがいるときに来ますよ」
 そういってカーマインはサラの家を後にした。でも彼女は知っていた。郵便を配達にくる業者に話をきいて、この封筒を預けにきた人物の特長を。その人物は季節に関係なくフルフェイスのヘルメットを被っている。そしてそんな人物は彼以外にこの街にはいなかった。
 人物の特長を教えてくれた配達員も、彼女を不憫に思って彼の事を話したのだろう。
「・・・本当に、助けられてばかりですね・・・」
「お母さん。もう下に行ってもい~い?」
「ニア。良いわよ。もう用は済んだから」
 ニアに居留守を使わせ、まるで尋問のような事をしてしまったことを彼女は悔いていた。 



 時は流れ、季節は春。卒業の季節になった。カーマインはネギが魔法学校を飛び級で卒業すると聞き、卒業式に来ていたのだ。
「修行?」
「はい、ここでは卒業後、修行があってそれをこなすこと
で一人前になるんですよ」
 ネカネと談笑をしていると、ネギが卒業証書を手に駆け寄ってきた。彼の後ろにはアーニャと呼ばれる女の子もいる。
彼らはライバルのような関係で、一つ上にアーニャはネギと同時に卒業なのを複雑に思っていることだろう。
「ネギはどうだったの?私はロンドンで占い師よ」
「どこで修行することになったのかしら」
「まって、もう少しで浮かび上がるよ」
「何々・・・"日本で先生をやること"・・・」
「「「え~~ッ!?」」」
「日本で教師をするのか・・・十歳でも出来るものなのか?」
「そんなわけないでしょう!校長、どういうことなんですか!ネギはまだ10歳なんですよ」
「そーよそーよ!」
「卒業証書に書かれているのなら、立派な魔法使いになるために必要なことなんじゃろ」
「そんな・・・ああっ」
「あっ、お姉ちゃん!」
「おっと」
 あまりの出来事に倒れそうになるネカネをカーマインが片手で支える。下手をしたらランサーよりも軽い体重のネカネはカーマインには羽が乗ったようなものだ。
「まあ安心せい。修行地の学園長は儂の友人じゃからの。まっ、がんばりなさい」
「・・・ハイッ、わかりました!」
「あっ、カーマイン君」
「何です?」
「君もネギ君と一緒に日本へ行って欲しいんじゃ」
「俺もですか!?」
「うむ。引率兼コーチとしての」
「コーチ?なんの?」
「バイアスロンじゃよ。得意じゃろ?先方に連絡したとき、バイアスロン部のコーチが引退すると聞いてな、推薦
しておいた」
「随分急ですね・・・」
「サプライズじゃ」
「・・・・・・忘れてただけでしょ?」
「さて、ネカネ君を家まで運んであげなさい。いくら暖かくなっても此処で寝てしまっては風邪をひいてしまうからの」
「「「・・・・・・・・・」」」
「あっ、武器なんかはさすがに持っていけんじゃろうから儂の方で送っておくので心配いらんよ。それに、あの回収したヘリ。あれも直せるかもしれないと先方が修理を引き受けてくれてな、それも運んでおくぞ。もちろんヘルメットをつけたままでも飛行機に乗れるようにしておくからの」
「サー、ありがとうございます、サー!!!」
 ネギたちは見惚れてしまった。それほどまでに、カーマインの敬礼は美しかった。
「う~ん・・・」
 ネカネを落としてしまっていたが。



 そして出発当日、ネギは大きなバックパックを背負ってカーマインと一緒に飛行機乗り場に向かっていた。
「随分荷物が多いな」
「えぇ、いろいろと詰め込みすぎたかもしれません」
「少し持つよ」
「いえ、大丈夫です。魔力で強化してますから」
「そんなことも出来るんだな。知らなかったよ」
 そんな事を話しながら二人は校長が用意してくれた小型機に乗り込んだ。さすがにヘルメットを被った人物を旅客機に乗せるわけにはいかない。ついでに武器も。
「日本か~。僕、ワクワクしてきました!」
「俺は日本語を覚えるのまだ苦労しているよ・・・ネギは三日程度で覚えたんだろ?」
「そうですよ。結構簡単でした」
「・・・・・・しばらくはネギに通訳してもらうか・・・」
 ネギの秀才振りは驚嘆に値する。挨拶程度ならカーマインも何とかなるが、日本語はカーマインには難しすぎた。そもそも
 二人の乗る飛行機は離陸をはじめ、滑走路から飛び上がった。行き先は日本の麻帆良学園。
「あっ、ネギ」
「なんです?」
「向こうで挨拶したら俺バイトがあるからちょっと失礼するぞ」
「日本でもするんですか?」
「今回は日本で仕事らしいからな。ついでに受けておいた」
「あまり無理しないで下さいね」
「分かってるって」




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しばらくは殆ど旧作と変更が無いかもしれません。



[19116] 第九話 麻帆良にて
Name: 幻痛◆c421c613 ID:051b1ee2
Date: 2010/07/12 08:33
 ネギとカーマインは空港に着くと電車を使って麻帆良に向かう。ネギは身体より一回りも二回りも大きなリュックサックを揺らしている。大荷物でとても目立っているが、他の乗客には対して気にされてはいない。彼らの視線は隣の人物に向けられていた。その人物は横長のトランクと大きなバックを複数担いでいてコートを着込んでいる。確かに目立つがそれだけならネギと同じだ。しかし彼はフルフェイスのヘルメットを被っていたのだ。
「何かしら・・・」
「車掌さん呼んだほうがいいのかな・・・」
 カーマインは電車に乗り込んだことを後悔していた。これではまるで見世物ではないか。しかし、タクシーは乗車拒否をされるのでしかたがない。
「もうすぐ麻帆良ですね。カーマインさん」
「そうだな・・・そろそろ辛くなってきたから早く解放されたいよ」
「脱げば良いじゃないですか」
「ネギ、もし自分の頭を、腕を抜けと言われても出来るか?」
「無理ですよ!?」
「俺のヘルメットはそういうものなんだ」
「そうなんですか!?」」
 そんな会話をしていると、二人は麻帆良まで直行の電車がある駅に到着した。いざ乗り込もうとするカーマインの側に、何処からともなく黒ずくめの男が現れた。彼はカーマインにそっと近寄って耳打ちした。
「カーマインだな? 今夜の仕事の準備がある。すぐに来て貰おう」
「えっ、集合時間は夜のはずだろ?」
「ボスがより確実にミッションを遂行できるようにしろとの命令だ」
「そんなこと言われてもなぁ……でも前金は貰ってるし…」
「どうしました?」
「う~ん……」
 カーマインは逡巡した。ネギは歳のワリにシッカリしているがまだ子どもだ。ココで分かれるわけにはいかない。カーマインが断ろうと口を開きかけると、それよりもさきにネギが口を開いた。
「僕なら大丈夫ですよ。一人でも学園まで行けます。カーマインさんはお仕事を優先してください」
「しかし――いや、わかった。ネギ、悪いけど一人で学園に行って来てくれ」
 言葉を飲み込み、カーマインは申し訳なさそうな声音で言った。
「わかりました。此処まで来れば大丈夫です」
「ごめんな。学園長には明日挨拶に行くと言っておいてくれ」
「いいですよ、カーマインさんのせいじゃありませんし」
 そうしてカーマインはネギと別れ、黒ずくめの男と共に黒いバンに乗り込んだ。ネギはその後、麻帆良行きの電車でお姉さんたちに揉みくちゃにされたりして最終的に、二人組の女子に学園長室に案内してもらっていた。



 一方カーマインは未だに車で移動中だった。
 黒光りする車にスモークガラス。信号待ちの際にチラチラと視線を受けることが無いのは嬉しいが、時より横切る警察車両の視線が厳しい。
「失礼な事を聞くが、君は本当にカーマインなのか?」
 終始無言だった運転手が声をかけてくる。
「ん? どういう意味だ」
「最近、君のようにフルアーマーの傭兵が増えてきてな、顔が見えないと不安でね。間違っても雇ったとボスにしれたらただじゃ済まないからな」
「……俺はカーマインだよ。ほかにカーマインが居ない限り」
「そうか、ならいいんだ。忘れてくれ」
「それで? 今回の任務は制圧任務だと聞いてるけど」
「あぁ、可能ならな。最低でも、とある学舎で行われている研究技術を奪えればいい。あんたは敵を倒してくれればいい」
「奪うほどの技術なのか?だとしたら表向きは学業の場としてカモフラージュしてるって訳か」
「そんなところだ。詳しくは拠点にまでいってから話そう」
 そしてまた車内は沈黙が支配した。またしばらくは退屈な時間が続きそうだと、カーマインは思ったが、口には出さなかった。



 カーマインが車で移動している時。
 本来の目的地であった麻帆良学園都市にある麻帆良女子寮の一室にて二人の少女が何かの準備をしている。一人は小柄な身体にサイドポニーにキリッとしたつり目の少女、桜咲刹那と、アンソニーと共に育った頃とは比べものにならない程に立派に成長したマナの姿があった。
「真名、それはなんだ?」
 刹那は初めて目にする龍宮の装備に目を奪われた。それは映画で使いそうな自動小銃に、小型のチェーンソーが取り付けられたものだった。チェーンソーの刃は特注なのか一般的なそれとは違い、鮫の歯のように鋭利だ。
「ん、これかい? これは……まあ…思いでの品というのか、今日みたいな特別な日に持っていくんだ。」
「それで近接戦闘をするのか?」
「持っていくだけさ。これが私を救ってくれる」
 そういって龍宮はアンソニーの残した銃を背負う。今日は書類上の『彼の命日』だった。
「行こう刹那。今日は良いことがありそうだ」
「……サポートは任せる」
 颯爽と歩き出すマナに、刹那は竹刀袋を手に追従した。



「どう見ても麻帆良学園だな……」
 森の切れ目から覗く建物を目にして呟くカーマインの周囲には、異形と少数の人間がたむろしている。彼らは森の中にいた。辺りは暗く、空から大きな月明かりが照らしている。
「妙な仕事を引き受けちまったなあ……」
 事前に打ち合わせでどこに攻め込むのかを聞いておけばよかったと今更ながらに後悔する。まさか雇われ場所に攻め入るとは思いもしなかった。
 そんな彼に異形の一匹が話しかけてきた。
「どうしたアンちゃん。気分でも悪いんか?」
 妙なイントネーションで聞き取りづらいが、おそらく自分の挙動を心配しているのだろう。敵意は感じなかった。
「ナンデモナイ、アリガトウ」
 つたない日本語で返す。飛行機の中でネギの猛レッスンを受けたため、多少は聞き取りと語学力がついた。
「そうか、辛くなったら下がるんやで」
 そう言うと、頭から角を生やした異形は身体を揺すりながら森の奥深く、木の隙間から見える学園に向かって進んでいった。
「あれが妖怪ってやつか。いやに親しみやすい奴だな……隙をみて逃げ出すか。前金だけでも結構な額だし」
 言うやいなや、カーマインは集団から離れるように闇に紛れ込んだ。
「む? ジェイソン野郎はどうした?」
「さあな、血が見たくて先行してるんだろ、きっと」
「やっぱり危ない奴だったんだな」
「一緒に行動してたら敵と一緒に切り刻まれていたかもな」
「怖いな……」
「まあ、陽動にはなるだろう」
「そうだな、俺たちも行くとしよう」
 そう言って魔法使いたちも学園に向かった。



「さて、なんとか学園の人たちに敵が来たことを知らせなくちゃな」
 カーマインは森の中を月明かりを頼りに歩く。目標物が見えているため迷うことはないだろう。
「ん? でも敵も同じ方向を目指しているんだよな。ということは学園側が敵を警戒して防衛線を張っていても……」
 おかしくない、と言おうとしたカーマインのヘルメットが突如火花を散らし、側にあった木の幹が銃声と共に抉られた。
「ぬぉ!?」
 頭を揺さぶられ、視界が揺れる。カーマインは転がるようにすぐさまカバーポジションをとるが、狙撃手がどこから狙っているのかが全くわからない。撃たれていないところを見ると、この位置なら敵はこちらを捕捉できていないようだ。
「くそッ! 警告もなしかよ……誤解されているだけだと思うけど、下手に出たら撃たれかねない…」
 現状、彼方から接触してもらう必要があると、カーマインは思った。



「……似ていた」
「どうした龍宮。敵は倒したのか?」
「いや、外してしまった」
「珍しいな…」
「知人に似ていてね……」
「……友人か?」
 刹那は、敵がクラスメートであるマナと同業である傭兵かと思った。
「まだ、わからない」
「なら私が行こう。銃を使うのなら接近戦は苦手かもしれない」
「ああ、そうしてく――待て!」
 龍宮のライフルのスコープの先に木の陰から覗く銃が見える。それは軽く上下に揺れると、こちらに見える位置に放り投げられた。続いて弾倉が複数投げられ、拳銃とライフルも同様に投げ捨てられる。
「どうやら戦闘の必要は無いようだな」



 侵入者は両手をあげ、戦闘の意志がないとアピールしている。それに二人は警戒しながら近づいた。
「そのまま後ろを向いて膝をつけ」
 侵入者、カーマインは指示通りに膝をついて少女たちに背後を向けた。刹那は用意していたロープをつかってカーマインを後ろ手に縛る。マナは例の武器を構えて不審な動きを見逃さない。
「俺は敵じゃない。敵が来たのを知らせに来たんだ!」
「黙れ、敵の言うことなど真に受けん!」
「だからちょっと待ってくれって!」
「第一、お前以外の敵はとっくに排除されている!」
「うそぉ!?」
「おい」
 カーマインと刹那の問答にマナが割り込む。
「お前、アンソニー・・・か?」
「へ? 誰かと勘違いしてるんじゃないか。俺はベンジャミンだ。ベンジャミン・カーマイン」
「ベンジャミン・・・"カーマイン"・・・」
「まぁ、俺の兄貴はアンソニーって名前だけどな」
 反応は劇的だった。
「ッ!? じゃあ、お前の兄はアンソニー・カーマインなのか!」
「えっ、そうだけど・・・」
「お前の兄はどこにいるんだ!!」
 掴みかからんばかりの勢いで問いただす。手は腰元の拳銃に伸びかけていた。
「……死んだよ。名誉の戦死だ」
 真名は改めたベンジャミンと名乗る男をみた。男の背丈や声質からして年は青年以上だろう。アンソニーが生きているとしても、この男が弟だとしたら年をとりすぎている。
「他人のそら似か……」
 酷く落胆した龍宮を見て刹那とカーマインは首を傾げた。そこで不意に、何かが振動する音が響く。刹那はそれに気づいて携帯電話を取り出した。
「はい、刹那です。はい、今敵を拘束――えっ、本当ですか!? あっ、はい。分かりました。すぐにお連れします」
 刹那は電話を切るとカーマインの拘束を解いた。
「どうしたんだ?」
「あなたのことを学園長が呼んでいます。どうやらこちらの状況を把握していたようです」
「そうか、助かった~」
 頭の上に上げていた両手をため息混じりに下ろして、カーマインは安堵の声をあげた。
「龍宮はもう帰っていいぞ。敵襲も、もう終わりらしい」
「いや、私も行くよ。最後まで仕事をこなさなければ契約違反になる」




「昼間会えなかったのはそう言う事じゃったのか」
「スミマセンデシタ!!」
 日本式の謝罪、土下座を繰り出すカーマインを笑って許す学園長を見て龍宮と刹那に二人は顔を見合わせた。
「あぁ、二人とも。こちらはカーマン君じゃ。龍宮君はバイアスロン部じゃったな?彼はそこでコーチを担当してもらうことになっておる。よろしくしてやってくれ」
「確かに、新しくコーチがくることになっていましたが……」
「まぁ経緯は今の話の通りじゃ。彼の装備も回収しておいてくれたんじゃろ?ご苦労じゃったな」
 龍宮と刹那はカーマインに装備を渡す。彼に不信感を持つ二人にカーマインが持っていて欲しいと頼んでいたのだ。
「アリガトウ」
「英語でいいよ」
「そうかい?いやぁ、日本語は疲れてしょうがないよ」
「なれれば大丈夫さ。ところで、この武器なんだが……」
「あぁ、ランサーか」
「ランサー?」
 聞きなれぬ単語に思わず聞き返す。
「昔いた組織の装備でね。今も使っているんだ。弾の規格が合わなくて特注だけど。そういえば、君も似たような武器を使っているね」
「これは相棒のものでね。もしかしたら君のいた組織に関係があったのかもしれないな」
 マナはよくアンソニーとの話にCOGなど、ローカストなどの単語を聞いていた。もっとも、その話を信じると彼の年齢はマイナスになってしまうため、彼女は信じてはいなかった。
「へぇ、もしかしてCOGっていう組織かい?」
 カーマインは冗談半分で聞いた。彼の冗談は彼にしか分からないものであったが、彼女の反応は劇的だった。
「なっ・・・それを何処で!?」
「うわ、ちょっとぉ!?」
 カーマインの胸倉をつかみ、激しく詰問する。彼はアーマーを着ているのでマナはその隙間に器用に手を突っ込んでつかんでいた。
「おいッ、龍宮落ち着け!?」
「答えろ!! 何処でそれを知った!!」
「何処も何も、俺はそこに所属していたんだよ!?」
「嘘をつけ!!」
「龍宮ッ!!!」
「それくらいにしておきなさい」
 学園長が待ったをかける。さすがの龍宮も最高責任者には従うようだ。
「カーマイン君、君の"前の世界"の話は校長から聞いておるよ。もしかしたら龍宮君の言っておる"彼"の話に関係あるんじゃないかの?」
「ええっ!?さすがにそれは関係ないでしょ。だってもしそうなら彼女の言っているアンソニーは俺の……」
「てっとり早いのは、龍宮君に君の記憶を見せることだと思うがね?それに、君は彼女のコーチになるんじゃ。不和はない方がいいじゃろう?」
「いや、この話をする度に魔法使いに覗かれるんで見るのは良いんですけど、子供にちょっと刺激が……」
「見せろ」
「どうぞ!」
 龍宮にチェーンソーを首筋に突きつけられたカーマインは、記憶を見せるしか選択肢が無かった。


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