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産科医当直は違法な時間外労働…労基署、奈良県を書類送検

 奈良県立奈良病院(奈良市)に勤務する産科医の当直勤務は違法な時間外労働に当たるうえ、割増賃金も支払っていないとして、奈良労働基準監督署が、同病院を運営する県を労働基準法違反容疑で書類送検していたことがわかった。同病院は昨年4月、産科医2人が当直勤務に対して割増賃金の支給を求めた民事訴訟の奈良地裁判決で、計1540万円の支払いを命じられ、控訴審で係争中。公立病院の医師の勤務実態に関して、刑事責任を問われるのは異例という。

 捜査関係者らによると、同病院では、産科医らが当直中に分娩(ぶんべん)や緊急手術など通常業務を行っているが、病院は労基法上は時間外労働に相当するのに割増賃金を支払っていなかったうえ、同法36条に基づき、労使間で時間外労働や休日労働などを取り決める「36協定」も結ばず、法定労働時間を超えて勤務させた疑い。

 昨年4月の民事訴訟判決で、奈良地裁は「当直の約4分の1の時間は、分娩や緊急手術など通常業務を行っている」などとして、医師の当直勤務を時間外労働と初めて認め、割増賃金の支払いを命じた。判決後の同9月、県外に住む医師が県を労基法違反容疑で告発し、奈良労基署が調査を進め、今年5月に送検した。

 県は2004年から、36協定締結について労組側と協議したが、現在まで協定は締結されていない。ただし、県は06年の提訴後、2万円の当直手当に加え、当直中の急患や手術の時間に応じて割増賃金を支給し、当時5人だった産科医を7人に増員するなどの措置を取っている。

 武末文男・県医療政策部長は「書類送検されたことを重く受け止めており、協定をできるだけ早いうちに結びたい。割増賃金については、引き続き県の主張を説明する」としている。

 県立奈良病院は1977年開院。病床数は430床で、内科、外科、小児科など16の診療科がある。

過酷な勤務、常態化

 日本産婦人科医会が分娩を取り扱う全国の医療機関を対象に実施したアンケートでは、産婦人科の勤務医が置かれている厳しい実態が浮かび上がる。

 2009年の調査で回答のあった823施設では、月平均の当直回数は6回。救急(4・7回)、小児科(4・1回)、外科(3回)などに比べて多かった。

 また、当直時の平均睡眠時間は4・8時間。中でも、都道府県立病院の勤務医は4・2時間で、私立病院(5・1時間)などより短かった。

 医師の労働問題に詳しい松丸正弁護士(大阪弁護士会)は「多くの病院で過酷な当直勤務が常態化し、医師の過労死、過労自殺につながると問題視されている。今回、病院の刑事責任が問われることで、全国の医師の労働実態を見直す契機になれば」と話す。また、国立成育医療研究センター(東京)の久保隆彦・産科医長は「日本では多くの医師が『修練のため』『患者のため』と形式的に労基法を順守し、時間外労働で医療水準を維持してきた。欧米のように、特定看護師に医師並みの役割を持たせるなど、抜本的な対策が不可欠」と指摘する。

2010年7月9日  読売新聞)
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