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きょうの社説 2010年7月12日
◎与党過半数割れ 民意を厳粛に受け止めよ
民主、国民新の連立与党の過半数割れが確実となり、菅直人政権は発足から1カ月余り
で早くも土俵際に追い詰められた。安倍、福田、麻生の自公政権を苦しめた「衆参ねじれ」の再現であり、首相の政権基盤には深い亀裂が入った。前回の参院選で敗北し、急速に求心力を失った安倍政権を思い出さずにはいられない。昨年夏の衆院選で熱く語られた「政権交代」や「マニフェスト」といったキーワードは 、消費税増税論議の前に、すっかり色あせてしまった。菅首相は民意を厳粛に受け止め、民主党政権の10カ月を厳しく見つめ直してほしい。 歴史的な政権交代からまだ1年にもならぬうちに、国民が「ノー」を突き付けた理由は 、はっきりしている。菅首相が選挙直前に打ち上げた消費税増税発言に尽きるといってよく、これを潮に政権与党としての民主党に見切りを付けた国民も多かったのではないか。 「成長と増税は両立する」という、まか不思議な理屈で消費税引き上げを正当化し、批 判を浴びるや今度は発言内容が二転三転し、争点隠しに汲々とした。菅首相の「発言のブレ」には、鳩山前首相にも共通した言葉の軽さ、無節操さが見え隠れする。衆院で300議席を超える圧倒的多数を占める民主党が参院選の勝利で盤石の体制を築き、日本を切り盛りしていくことに、国民が大きな不安を感じ始めたのも無理はない。 参院選の敗北によって、民主党内で菅首相や枝野幸男幹事長の責任問題が浮上するのは 避けられない。菅首相の代表任期は9月末までしかなく、同月中旬には代表選挙が告示される。このとき、小沢グループが結束して「菅降ろし」に走れば、党を二分する壮絶な戦いになる。政権政党の権力闘争の激しさは、野党時代の比ではない。党分裂の危機をはらみながら、小沢一郎前幹事長が代表時代に仕掛けた自民党との「大連立」のように、大がかりな政界再編の幕が開くかもしれない。 小沢グループには、有力な代表候補がいないとされる。代表選前に、小沢氏の資金管理 団体の政治資金規正法違反事件で、検察審査会による再審査の結論が出ることも大きな足かせとなろう。 だが、小沢氏は選挙期間中、全国津々浦々を回り、菅首相や党執行部批判を繰り返して きた。参院選の敗北を予想し、代表選に向けて着々と布石を打つ狙いではなかったか。小沢グループは党員やサポーター票の相当数を押さえているといわれるだけに、小沢氏の「剛腕」は、菅首相や執行部にとって野党以上に怖いはずだ。 菅首相は、いや応なしに連立工作に取り組まざるを得なくなった。衆院で法案再議決に 必要な3分の2を確保していないため、このままでは国会運営で立ち往生するのは必至だからである。だが、連立の「組み替え」や政策ごとに与野党が手を組む「部分連合」は、現段階では極めて難しいだろう。 連立を離脱した社民党との「復縁」は、普天間問題での日米合意の閣議決定を白紙にで も戻さぬ限り、可能性は低い。選挙中から民主党が秋波を送ったみんなの党や公明党などは、既に連立には参加しないと明言している。野党の側には、足元が危うくなった菅政権と手を握るメリットがほとんどない。民主党の党内抗争が決着するまで模様眺めに徹するに違いない。 自民党の谷垣禎一総裁は、参院での与党過半数阻止を選挙戦の目標に据えてきた。目標 を超える議席を獲得し、党勢の退潮ムードに一応の歯止めがかかったとはいうものの、自力で盛り返したというより、民主党の「敵失」に助けられた印象が強い。 菅首相は選挙後の臨時国会を議長指名など必要最低限にとどめ、本格的な臨時国会は秋 以降に先送りするだろう。「政策」より「政局」優先の夏の陣が始まった。 県選挙区で当選した岡田直樹氏は、与野党逆転という激動の舞台に立つ。政治潮流の大 きな節目のなかで、存分に腕を振るってほしい。任期中には、北陸新幹線金沢開業も控えており、北陸の将来を左右する世紀のカウントダウンがこれから始まる。地域の声に耳を傾け、政治に反映させていく一層の汗かきを求めたい。
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