2010年07月07日 (水)時論公論 「口てい疫 清浄化への道」

宮崎県で口蹄疫の感染が始まって2ヶ月半が経ちました。先週には27万頭に上る家畜の処分が全て終わり、現場では終息に向けての準備が進んでいます。
しかし今週、新たに疑いのある牛が見つかるなど、一旦進入したウイルスを根絶する難しさ。改めて思い知らされる事態となりました。
新たな発生を防ぎ、口蹄疫を終息させるために、何が必要なのか。見えてきた課題とともに、家畜伝染病に対する危機管理を考えます。

 まず新たに見つかった感染疑いです。
宮崎県では家畜の処分が終わり、新たな感染が見つからなかったことから、一定区域内でのウイルスの存在を確認するための「清浄化調査」が、各地で行われています。問題の家畜が見つかったのは、宮崎市での調査でのことでした。

j100707_01.jpg

 

 

 

 

 

 

 

宮崎市では、6月10日と、18日に感染の疑いのある家畜が見つかっています。その後、処分完了から一週間以上経っても、新たな感染が見つからなかったことから、発生地から3キロ以内の全ての農家の家畜の抗体検査をするとともに、10キロ以内で家畜の健康状態を観察する作業を行っていました。

ところが発生地近くの農家から、過去に感染したことが否定できない3頭の牛がみつかり、改めてこの農家を調べてみたところ、これとは別に、よだれや口の中のただれなど、口蹄疫特有の、症状を示す牛が、見つかったと言うことです。

宮崎県では、2週間以上にわたって新たな感染疑いが見つかっていませんでした。このため早ければ16日にも、県内全域で家畜の移動制限を解除できるとして、その準備を進めていました。
それだけに新たな発生に、落胆と失望が広がっています。
問題は今回の牛が、いつ感染したかと言うことです。

血清を採るとき、3頭の牛からは口蹄疫特有の症状は見られなかったといいます。このため専門家は、過去に、この3頭が感染し、感染に気づかないまま病気は完治。病気が治ってもウイルスは吐き続けますので、最近になって他の牛に感染させたのではないかと考えられています。
最初の3頭が感染したのは、前の二つの農家と同じように、感染拡大の防止対策をとる前ではないかと見られています。

判断するのが難しいとは言え、感染が見過さられていた。これはあってはならないことです。県では他にも感染している家畜がいないか、この農家を中心に一定の範囲内を改めて調査することにしています。
一方で処分が24時間以内に終わったことは評価していいと思います。感染の拡大防止に最も効果的なのは、早期の処分です。
農林水産省では今後、感染を見過ごすケースが出きても、その都度、モグラたたきの様に早急に処分していけば、ウイルスを封じ込めることは可能だとしています。

 このように宮崎県では、口蹄疫、封じ込めの、対策は進められているものの、地域によってはまだウイルスが残っている状況です。
特に、川南町周辺では、まだ大量に家畜の排泄物などが残っています。その量は川南町だけでも、家畜を埋めた穴の3倍が必要と、されているほどです。こうした排泄物の中にウイルスが残っている可能性があります。
口蹄疫のウイルスは夏場だと一週間以上、生きていると言われます。排泄物などの処分を急ぐとともに、しばらくは消毒を繰り返す必要があります。

では農場ではこうした状況にどう対応すればいいのでしょうか。

j100707_02.jpg

 

 

 

 

 

 

 

口蹄疫の感染ルートを調べる、国の疫学調査チームは先日、感染拡大の理由として(1)感染した家畜の発見が遅れたとともに、(2)埋める土地が確保できずに処分が遅れたことを指摘。特に豚が感染したことで、川南町を中心に、ウイルスが大量に増え、感染を拡大させたとしています。

そして川南町の農家で使われていた、家畜の運搬車が、他の地域でも使われたり、農家が農場間を行き来。さらにエサを配達する車が、いくつもの農家を回り、川南町周辺内での感染や他の地域に飛び火させた可能性があるとしています。
そして、こうした車両の消毒が、適切に行われていたのか、調査する必要があるとしています。
つまり国や県による対応の遅れとともに、農場の対応にも問題があったと見ているわけです。

日本の畜産農家は長い間、家畜伝染病への対策に、熱心に取り組まなくても済んできました。
大陸とは隔離された島国であったために、伝染病の侵入を防ぐことがきたからです。
それでもニワトリやブタなどの農家は、鳥インフルエンザなどの発生や、海外との競争もあって、農場外から、病気を持ちこまない衛生管理が、ずいぶん進んだといいます。
課題は牛を飼育する農場です。牛は家族同様という意識を持つ農家が強く、農場も開放的で、伝染病に対する衛生管理の考え方も、あまり取り入れられてきませんでした。

勿論、国としても家畜の衛生管理基準を作って、農家に指導してはいます。
しかしこの管理基準、畜舎や機材の消毒と言った、10項目の当たり前の規則が並ぶ簡単なものです。
事実上、農家の自主性に任されていると言って過言ではありません。
これでは家畜は守れません。

伝染病の被害が自らの農家だけでなく、地域経済も破壊することを考えると、農家にはウイルスはいつでも入ってくるものだという、意識の転換が必要です。国は早急に農家が衛生基準を守っているかどうかを調べるとともに、指導、教育をすることが必要だと思います。

j100707_03_2.jpg 

 

 

 

 

 

 

 

さて、清浄化に向かって作業が続けられている宮崎県です。早ければ、27日にも、県内の全ての移動制限が解除されることになります。
ただ、これを機会に考えるべきは、家畜伝染病に対する危機管理態勢の構築です。

j100707_04.jpg

 

 

 

 

 

 

 

 例えばアメリカでは、農務省が専門の緊急対策部門を持ち、大学や研究機関、医療品メーカーなどと、伝染病の早期発見のためのネットワークを構築しています。
全米各地に消毒薬や応援部隊が配置され、ひとたび病気が発生すれば、全米のどの地域においてでも、24時間以内に駆けつけることが出来る態勢が作られています。
 さらに緊急対応を効果的に行うためには、家畜の取り扱いや処分などに慣れた専門家の育成や、伝染病発生に対する実地訓練が繰り返し行われていると言います。
また口蹄疫などの病気は見つけることが難しいことから、実際に家畜に感染させての研修も行われます。

 農務省のこの組織は、国土安全保証省などと、連携して、ハリケーンなどの自然災害や、テロに対しても対応することになっていますので、日本で同じものを望むのは、無理かもしれません。
 しかし今回、感染疑いの発見の遅れや、家畜の処分に手間取ったことを考えると、緊急対応部門の創設は、検討すべき課題だと思います。

 口蹄疫はひとたび発生すると、畜産だけでなく、観光や地域経済、社会生活に大きな影響を与えます。宮崎県では畜産被害だけでも1000億円を超えそうで、観光などを含めると膨大になります。
 東南アジアや中国を見てみると、食生活の変化から養豚やニワトリなど畜産産業が猛烈な勢いで伸び、それに衛生管理が追いついていないという指摘があります。
そうした国との、ヒト、モノの行き来が今後ますます増えていくでしょう。農場に、海外からの観光客が沢山訪れる風景も当たり前になりつつあります。

 重要なのは国、地域、農場のレベルで、ウイルスの侵入に対し、警戒を怠らないことです。
国内で二度と口蹄疫を拡大させないために、どういう危機管理態勢が必要なのか、準備を始めるべきだと思います。

 

投稿者:合瀬 宏毅 | 投稿時間:23:59

ページの一番上へ▲