2010年06月12日 (土)土曜解説 「止まらない口てい疫感染拡大」

【山﨑】6月12日の土曜解説、山﨑登です。

【結城】結城さとみです。

【山﨑】宮崎県で家畜の伝染病、口てい疫の感染拡大に歯止めがかかりません。今日は、菅総理大臣が現地を訪れ、政府として感染拡大の防止につとめるとともに、経営再建に向けた支援にも全力で取り組む考えを示しました。

【結城】今週は、当初の地域から離れた都城市などでも感染が確認され、衝撃が走りました。都城市は鹿児島県に隣接していて、鹿児島県でも消毒などの対策が強化されています。

【山﨑】なぜ、口てい疫の封じ込め対策はうまくいかなかったのでしょうか?また、これ以上の感染拡大を防ぐためにはどうしたらいいのでしょうか?今日は、口てい疫感染の現状と今求められる対策を考えます。

【結城】スタジオは、動物ウィルスがご専門で口てい疫の問題に詳しく、現地にも宮崎にもたびたび行っている動物衛生研究所の企画管理部長の津田知幸(つだ・ともゆき)さんと農業問題担当の合瀬解説委員です。

論点1・止まらない感染拡大

Q1【山﨑】合瀬さん、感染が止まりませんね?

▼【合瀬】
一旦は封じ込めつつあると思われた口蹄疫だったが、今週になってあちこちに飛び火してしまったことがわかり、状況は一変してしまった。
これまで感染の疑いのある家畜が見つかっていたのは、宮崎県川南町を中心とする地域とえびの市の2地域。このうちえびの市については、3週間以上に渡って新たな感染が見つかっておらず、今月4日には家畜の移動制限など規制が解除された。
一方、感染拡大が続く宮崎県の川南町周辺では、発生地から半径10キロの圏内について、家畜の移動を禁止し、牛と豚合わせて12万5000頭にワクチンを打つなどの対策をとって、この地域からウイルスが拡散しないような対策をとってきました。
ところが今週水曜日、川南町から40~50キロ離れた都城市で。さらに宮崎市と西都市、日向市でも感染の疑いのある家畜が見つかりました。えびの市ではウイルスを封じ込め、川南町周辺でも一定のワクチンの効果が出ていただけに、関係者は皆大きな衝撃を受けている。

Q2【結城】都城市は宮崎県の中でも畜産の盛んな所ですし、鹿児島県と境を接していますから心配ですね?

▼【合瀬】
都城市は宮崎県の畜産の中心地で、2006年の畜産生産額は市町村単位では日本一で、しかも南には大畜産地帯を抱える鹿児島県が控えている。こうした地域に感染が拡大して行けば被害は膨大になる。
このため都城市では、感染の疑いのある牛が発見された農場の208頭を直ちに処分して埋めると共に、半径10キロ以内を家畜の移動禁止区域に指定した他、この地域を通行する車両の消毒を徹底している。
また隣の鹿児島県でも、道路を一部通行止めにするなどして、ウイルスの侵入を阻止する対策を始めました。

Q3【山﨑】津田さん、当初の地域での封じ込めがうまくいかなかったということですか?

◆【津田】
ワクチン接種によって地域内の発生数は減少しており、処分を追いつかせるという目的からはワクチンの効果は出ている。地域外での発生も、搬出制限区域内であればある程度想定されたことで、早期に発見して処分すれば封じ込めはできる。しかし、50キロも離れた都城での発生は、極めて重大な脅威で、早急に感染の広がりと経路を見つけなければならない。

Q4【山﨑】ここで宮崎県に電話をして、現在の状況などをうかがいます。

  宮崎県農政水産部 押川延夫次長さん。   
(1)今は、感染の広がりや対策の進み具合はどんな状況ですか?
(2)今週の感染拡大をどうみていますか?
(3)今後の感染拡大を防ぐためのポイントはなんだと思っていますか?

Q5【山﨑】合瀬さん、封じ込め対策に必要なことは?

▼【合瀬】
基本は、早期発見、早期対応。国が定めている防疫指針によると、感染した疑いのある家畜が見つかった場合、国と県では直ちに感染の疑いのある家畜を処分するとともに埋めて、農場を消毒することが求めらる。
そして発生した農場から半径10キロ以内の牛や豚の移動を禁止するとともに、20キロ以内は牛や豚などをそこから外に出すことが禁止されます。
 そうした地域では農家が家畜の状態を観察するとともに、ウイルスが外に出ないように、その地域を通行する車両も消毒することが求められている。
 宮崎県としてはこうした対策は全て行い、その上、今回はワクチンまで打っていた。

Q6【結城】津田さん、それなのになぜウイルスは飛び火してしまったのでしょうか?

◆【津田】
口蹄疫ウイルスの一番の特徴は伝播力の強さ。ウイルスは感染動物体内で増殖し、糞や排泄物、呼吸などで放出される。100個のウイルスで感染が起こるが、水泡の液中には1mlあたり1~10億のウイルスが含まれている。糞や唾液などに混じったウイルスは条件さえ満たせば一週間から数ヶ月は感染性が保たれる。空気感染やネズミやハエに付着してウイルスが運ばれる可能性もあるが、その範囲は数km以下であり、数十キロも離れた伝播はヒトや車両といった可能性が考えられる。

Q7【山﨑】合瀬さんはどう考えますか?

▼【合瀬】
えびの市で規制が解除されたことや、ワクチンを打ったことによる気のゆるみを指摘する人は多い。たしかにワクチンを打てば、症状が軽くなってウイルスの排出量は少なくなる。しかし当初からワクチンを打つことで安心して、消毒の徹底などの対策が甘くなるのではないかという指摘もあった。
 感染が長期間にわたり、現場では連日の対策で農家も作業員も相当疲れている。疲れと油断があったのかもしれない。

Q8【結城】津田さん、新しく感染が確認された地域で、いま最も大切なことはなんでしょう?

◆津田 
まず、発生が一カ所だけなのかどうか、病気の広がりを見つける必要がある。移動禁止、搬出制限がとられているところでは動物や畜産関連資材を動かさないようにしておき、農家にはよく自分の動物を観察していただいて、異常があればすぐに届けてほしい。早期の摘発淘汰が重要で、えびの市の事例をみるとおり早期の摘発と処分が被害を最小限に抑える。
       

論点2・口てい疫とは?

Q9【山﨑】津田さん、そもそも口てい疫というのはどういう病気ですか?

◆【津田】
口蹄疫は牛や豚などの、偶蹄類動物がかかる病気で、口蹄疫ウイルスによって起こる。口蹄疫は古くからある病気で、口蹄疫ウイルスも120年以上前に動物ウイルスの中では最初に発見された。ウイルスは感染動物の体内で爆発的に増殖し、動物の排泄物や呼吸に混じって周辺を汚染すると同時に、次々と感染するので、一旦感染が起こるとこれを止めるのは非常に困難。現在でも世界中の多くの国で口蹄疫が発生しており、今年になってからも中国や韓国など、アジアの周辺国で相次いで発生が報告されている。

Q10【山﨑】肉質などへの影響が大きいのですか?

◆【津田】
日本で飼われているような乳牛や肉牛、豚が口蹄疫に感染すると、餌が食べられなくなり体重が減少する。これに伴って乳質や肉質低下も低下することで大きな経済的損失が起こる。また、口蹄疫の存在はその国の家畜や食肉、畜産物などの輸出入にも影響することから、国際的にも最高レベルの危険な病気とされる。自由貿易が基本のWTOでも、自由貿易によって口蹄疫が世界中に拡散しないような輸入制限がとられているので、口蹄疫が存在しないという状態は輸出にも国内畜産業のためにも有利。
     

論点3・当初の発生と対応

Q11【山﨑】ここまで、感染が広がる宮崎の現状をみてきました。ここからはこれ以上の感染拡大を防ぐために必要なことを考えていきます。

Q12【結城】当初に感染が広がった地域で、なにが収束に向かわない障害となっているのですか?

▼【合瀬】
感染が収まらない最大の要因は、処分した家畜を埋める場所が無いこと。家畜は感染すると、それ自体が感染源となる。このため感染した家畜は72時間以内に処分して埋め、消毒をすることが重要だとされている。しかし川南町周辺では、現在でも感染のある疑いのある3万頭以上の牛と豚が処分されないままになっている。
土地が無いから処分が出来ない。処分できない家畜が大量にウイルスを吐き出す。これが連鎖的な感染をひき起こしていると言われている。
県や国が土地を探して、今月いっぱいに処分を終える計画を立てているが、埋める予定地の近くの人たちの反対もあってなかなか進んでいないというのが実態。

Q13【山﨑】今回初めてワクチンが使われましたが、その目的と効果は?

◆【津田】
今回は感染動物の処分が間に合わなかった、これではウイルスが増え続けることになるので、それを食い止める手段として使ったのがワクチン。ワクチンは感染そのものを完全に防ぐことはできないが、ワクチンを接種した動物は感染してもウイルスを排泄しにくくなる。結果的にウイルスが増えるのを抑えることから、その間に殺処分を進めれば感染拡大を防ぐことができる。今回のワクチン使用はあくまで殺処分の補助手段であり、一方で、これだけの犠牲を覚悟したという意味。ただし、ワクチンを接種した動物では症状が見えにくくなるので、こうした動物から見えない感染が広がる危険性もある。牛では感染後にキャリアーとなってウイルスを持ち続ける。ワクチン接種地域では今まで以上の消毒の徹底と移動規制が必要になる。 


論点4・早期発見と早期の対応が対策の鍵

Q14【結城】合瀬さん、最初の感染での早期発見、早期対応はどうだったのですか?

▼【合瀬】
そもそもなぜ、宮崎に口蹄疫のウイルスが入ってきたのか、良く分かっていない。ただ、一例目の感染疑いが見つかった4月20日以前にも、何度か見つけるチャンスはあったようだ。
というのも、この牛が最初に症状を出したのが、4月9日で、県の家畜防疫員が様々な検査をしても病気が特定できず、国の検査機関で確認されたのは20日でした。 
最初の獣医師からの連絡からすでに10日たっていました。

さらに懸念されるのは4月23日にみつかった水牛農家のケース。念のため3月31日に検査したときの検体を調べたところ、すでにこの時点で感染していたことが分かった。もし水牛がこの時点で感染していたとすると、3月からウイルスがこの地域に蔓延していたことになる。
農水省では今年1月、韓国で口蹄疫が発生したことから、病気への警戒を全国に呼びかけていた。発見の遅れが感染の拡大を引き起こした可能性があることは否定できないと思う。

Q15【山﨑】口てい疫の早期発見、診断は難しいのですか?

◆【津田】
発生の初期にはごく少量のウイルスによって感染がはじまり、潜伏期間も1週間以上と長くなって、症状も激しくならない。その後、動物に感染を繰り返すごとに、ウイルス量が増加し結果的に短い潜伏期間で激しい症状を起こすようになる。そのため、発生の最初に口蹄疫を見つけるのは至難の業です。

Q16【結城】そうした検査は、現場ではできないのですか?

◆【津田】
同じような症状を示す病気はたくさんあるので、最終的には実験室での確定検査が必要。口蹄疫は国際重要伝染病として、もっとも危険度の高い病気に区分されており、ウイルスを扱う時には高度封じ込め実験室という施設が必要。また、口蹄疫の診断はその国の清浄性に直結し、診断された時点ですぐに輸出停止措置をとることからも、ほとんどの国で口蹄疫の確定診断は国の検査機関で実施されている。


論点5・これ以上の感染拡大を防ぐために

Q17【山﨑】菅総理大臣が今日現地に入りましたが、合瀬さん、国の危機管理の面からはどうか?

▼【合瀬】
家畜の伝染病対策は、家畜伝染予防法でこれを定めているが、口蹄疫を巡る一連の対応を見たときこれを見直す必要性が出てきたように思う。
 一つは大規模化する農家にどう対応するかという問題。家畜伝染予防法が出来たのは昭和26年。想定しているのは庭先で家畜を飼うような小規模農家。100頭以上の牛や1万頭以上の豚を飼っている農家の防疫対策や対応はどうあるべきか。考える必要がある。
二つ目は国と県の役割をどうするか。家畜伝染予防法では、国が対策の方針を決め、都道府県知事が実際の命令を出すとされています。
ところが、知事は地元利益の代弁者でもある。地元の調整に手間取っている間に感染を広げてしまうこともある。感染の拡大防止は地元の意見を聞きながら行う問題ではあるが、県にまたがる、国家の問題でもある。今後国と自治体との役割をどうするのか、考える必要がある。
そして農家への補償問題。今回は特別措置法で対応したが、補償をどうするか具体的に決めておかないと、いざというとき農家の協力が得られない。
伝染病対策はなによりスピードが大切。いろいろ手直しする必要があると思う。

Q18【結城】津田さんは、今後、大発生を防ぐために必要な対策はなんでしょう?

◆【津田】
今回の発生は今日現在で287農場の19万頭に及ぶ大発生となり、処分も含め対処が追い付かないという問題が生じたが、今後、大規模な発生が起きた場合にどう対処するのか、人員や物資の大量動員、専門技術者の育成等、具体的な対処計画を作っておく必要がある。ただ、同時に考えておかなければいけないのは、今回は国レベルでいえば県に限定した地域での発生であったということ。複数の地域にまたがるような広域での発生に備えて、家畜の移動状況を即座に把握できるシステム整備も必要かもしれない。

Q19【山﨑】人がグローバルに移動する時代ですから、海外からの感染も考えておく必要がありますね?

◆【津田】
口蹄疫をはじめ海外から病気が侵入しないようにするために国が行っている動物検疫がある。幸いなことに日本は島国で、国境を越えて動物や物が入ってくるのは簡単ではない。しかし、グローバル化と高速輸送技術が進んだ現在では、様々なルートで病原体が侵入する危険性が高まっている。病原体が農場に入ってこないような、あるいは直接動物に接触しないような、地域的あるいは農場ごとの対策(バイオセキュリティ)を講じる必要がある。

Q20【結城】感染が拡大して、多くの牛や豚が処分されています。いつ頃収束するのかはまだみえませんが、被害を受けた地域の畜産農家が復活するには、どのくらいかかるのでしょうか?

◆【津田】  
地域的には元の状態に復帰するには相当の時間がかかる。豚は成長が早いこともあり、優良種の復活と頭数の増加には多少時間は要するものの、支援があれば復活は可能だと思う。一方、牛は成長に時間がかかるため、数年の時間を要する。特に、宮崎県は優良種の子牛生産を行って全国各地に子牛を供給してきた。今回、こうした子牛の生産を担ってきた種牛や母牛が失われたわけで、この再生を図らなければ、全国の子牛供給にも影響が及ぶ。乳牛についても同様で、長期的な支援を行わなければ再生は困難だと思う。

Q21【山﨑】口てい疫問題の深刻さがよくわかりますが、合瀬さん、今後のポイントは?

▼【合瀬】
これ以上の拡大を防ぐこと。 先日制限区域が解除されたえびの市では、家畜の処分などの対応が早かったためウイルスを封じ込めることが出来ました。早めの対応さえとれば、感染拡大を防ぐことは可能です。
同時に感染ルートの解明を急がなくてはならない。ウイルスがどこからどういう形で入ってきたのか、もっと早期に見つける手立ては無かったのか、そしてウイルス侵入に対しての備えは十分だったのか、検証を始めなければならない。

【山﨑】現場の関係者や農場の人たちにとっては辛い日々が続いていますが、なんとしてもこれ以上感染を拡大させないために、国や宮崎県は全力を上げて欲しいと思います。また、宮崎県以外の地域でも警戒を緩めないよう、万全の備えをして欲しいと思います。

投稿者:山﨑 登 | 投稿時間:18:17

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