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[17376] 【ネタ】ベジータ無双 ~ドキッ☆乙女だらけのドラゴンボール~(キャラ改変)
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/03/25 20:34
タイトルに意味はありません。
これは、ドラゴンボールの二次と言いつつも、改変されまくってドラゴンボールキャラと名前が同じなだけになったオリキャラしか出てこない話です。
性別まで、違っているキャラまでいます。
その辺りを了承して読んでいただけるとありがたいです。



─────────────────────────────────────────────────────────────────




 俺たちサイヤ人は、環境のいい星を見つけると、そこに住む人間を滅ぼして、適当な惑星を求めている別の宇宙人に売る事を生業としている。
 そのこと自体には不満はないし、戦闘民族であるサイヤ人の俺は楽しんでいるとさえ言える。
 しかし、長く続けていれば、小さな不満は溜まるものであるらしい。

「どうだった?」

 そんなことを聞いてくる無駄に頭髪の長い男、俺とおなじくサイヤ人であるラディッツに首を振ってやると、そいつは気落ちしたように俯いてしまう。
 うっとおしい奴だとは思うが、口に出すと更に落ち込んで面倒臭いことになるので、黙っていると今度は別の奴が声をかけてきた。

「まったく、フリーザ様は何を考えてるんでしょうな。この仕事をたった三人でやっているのは、俺たちくらいのもんだってのに」
「まあな」

 禿頭の男、ナッパの言葉に首を縦に振って同意する。
 この仕事は、宇宙の帝王を自称するフリーザの配下の宇宙人たちで、チームを組んでやることになっている。
 なぜかと言えば、俺たちの仕事は、そこに住む住人を皆殺しにさえすれば、なんでもいいというわけではないのだ。
 俺くらいになると、惑星そのものを一撃で破壊してそこに住むものを全滅させることも簡単だが、当然そんなことをしてしまっては仕事にならない。
 それと同じで、そこに住む奴らを一度に倒そうとして惑星に大きな被害を与えてしまうような攻撃をしてしまっては価値が下がってしまう。
 そういうわけで、この仕事は人手が多いほうがやりやすく、十数人か数十人でチームを組むのが普通であるはずなんだが、どういうわけか俺たちはサイヤ人三人だけのチームである。
 人員不足の時のために、フリーザ軍には、サイバイマンという土に埋めた種から生まれてくる便利な兵士も存在するが、使い捨ての消耗品であることと便利すぎるのとで消費が激しいため、有料でかつ購入はお一人様一瓶までとかの規則があったりもして、手持ちが残り少ない。
 具体的に言うと、残り六つ。

 そんな事情があるから、人員を増やしてほしいとフリーザに直訴してみたのだが、結果は断られたというわけである。



「いい加減、俺たちのチームに人を増やしたいんだが、どうにかならないのか?」

 そんな俺の言葉にフリーザ──どういう原理か知らないが、空中にふよふよと浮かんでいる座布団に正座したチビ──が、ズズッとお茶を飲みながらつまらなそうな表情になる。
 こんな吹けば飛びそうな奴が、サイヤ人最強の戦士の俺ですら足元にも及ばない超存在だというのだから理不尽な話だ。

「なにを言うかと思えば、それが無理なことは、あなたが一番わかっているはずでしょう?」
「なにが無理だって?」
「べジータ王の反乱ですよ」
「……」
「あの時、彼とその意を受けたサイヤ人によって、多くの戦士が命を落としました。当のサイヤ人にいたっては半数近くが命を落としたほどです。この状況で、あなたたちのチームに人員を回す余裕があるとでも?」

 それを言われると弱い。
 父が何を考えてフリーザに反乱なんかを企んだのかは知らないが、あの事件が理由で、一歩間違えればフリーザはサイヤ人を全滅させる決定をしていたという話だ。
 そこを自重してくれただけでも、このチビには感謝しなくてはならない理由がサイヤ人側にはある。
 まして、普通に考えれば父のやったことに無関係であるはずのない俺を許し、飼い殺しのような扱いとはいえ、自由にさせてくれていることには感謝こそすれ不満を言うべきではないのかもしれない。
 だが、

「24年も前の事件だ。もう、あの時に消耗した人員も回復しているだろうが」
「人数だけならね」

 よく見せる、この思わせぶりな、ニヤリとしたフリーザの顔が俺は好きではない。

「ですが、サイヤ人の人数はまったく増えていないというのが現状です」

 それは、父の反乱の残した傷跡と言うべき実状である。
 同族愛などというものとは無縁の俺たちサイヤ人ではあるが、この件に関しては失った命たちを惜しまずにはいられない。
 なぜかと言えば、あのときにサイヤ人の女は絶滅してしまったからである。
 サイヤ人の生き残りが、たった一人だろうが数万人だろうが、男しか残っていなければ滅んだも同然だ。
 もう子孫を残すことは叶わないのだから。

「それとも、別の種族との間に子供を作って数を増やしてみますか? それなら協力してあげてもかまいませんよ」

 そう言うと、フリーザは自分の顔に手をかけ上に引っ張る。
 こいつのことをよく知らない者が見れば何をやっているのかと疑問に思うところだろうが、俺はそうではない。
 いや、何故このタイミングでとは思うが。
 引っ張られた顔は、そのまますっぽりと抜け、その下から肩まで伸ばした金髪がこぼれる。

「なんなら、わたしとの間に子供を作ってみますか?」

 ニヤニヤと笑い、ついで手袋を脱いで、暑かったらしくほんのりと桜色に染まった白い手なんかを見せながらのチビ、サイヤ人なら十歳にも届かない年齢に見える小娘の言葉に、俺は沈黙するしかない。
 宇宙の帝王を名乗り、惑星の地上げ屋などというヤクザな仕事をしているこいつは取引先の相手に舐められないようにと、異形の異星人を模したマスクやら手袋をつけて声まで変えて正体を隠していたりするのだが、その正体は俺たちサイヤ人と似たタイプの容姿をした宇宙人だったりするのだ。
 この見た目で、俺の父親よりずっと年上だという辺り、それほど近い種族ではないのだろうが。
 ちなみに、この事実はフリーザ軍内でも、あまり知られていない。

 それはさておき、このフリーザというガキは、さっきも言ったように、こんな見た目でも俺よりもずっと長い年月を生きているだけに、その気になれば子供だって産める年齢ではあるらしい。
 しかしだ。向こうは良くても俺は良くない。
 別の種族との間に子供を作ることに禁忌があるわけではないが、こんな生理も来ていないようなガキの姿の相手に子作りに励めるような趣味は持っていないのだ。
 まあ、宇宙の帝王を自称するフリーザが、本気でサイヤ人との間に子を作ろうと考えているはずもないわけだが。

「冗談は置いといて、他の奴らは十人以上のチームを組んでるだろ。そいつらから、三人しかいない俺たちに一人くらい回してくれてもいいんじゃないか?」

 正論であるはずの俺の言葉に、なぜかフリーザはムッとした顔になる。

「あなたが、べジータ王の息子である限り、それは無理ですね」
「何故だ?」
「サイヤ人の多くが、先のべジータ王の反乱への不満がまだ消えてないからですよ。ただ数が減っただけならともかく、女がいなくなったというのはどうもね。それをやった私への不満も相当なものですが、原因の方に怒りが向かうのも仕方がないでしょう」

 だから、俺たちのチームに入りたがるサイヤ人はいないと言いたいらしい。だが、

「別に、サイヤ人でなくてもいいんだがな。必要なのは人手なんだから」
「なおさらダメですね。あなたたちサイヤ人が本領を発揮するのは月を見て大猿になったときでしょう? 私の配下の戦士たちは全宇宙から集められた強者たちですが、それでも大猿になったサイヤ人の攻撃に巻き込まれても生きていられるような者は十人といません。そんな希少な戦士を、あなたのチームに入れられるはずがないではありませんか」



「というわけだ」

 長々と説明をしてやると、ナッパとラディッツは、納得はできないのだろうが理解は出来てしまったらしく沈黙する。
 思えば、この二人も奇特な奴らだ。
 父のことが理由で、俺を嫌っている奴は、サイヤ人にもそれ以外にも多い。
 おかげで、俺とチームを組んでいるというだけでいろんな奴らに睨まれるのだ。
 それなのに、この二人は俺に恨み言を言うでもなく、当たり前の顔をしてチームを組んでくれているのだ。
 まあ、ナッパはともかく弱虫ラディッツは、今更抜けても他のチームに入れてもらえる自信がないだけなんだろう。
 元々ナッパと俺の二人だけだったチームに入る前は便所に隠れて飯を食ってるような奴だったし。

 なんにしろ、このまま三人で続けなければならないというのは気の重くなる話ではある。
 なにしろ、俺たちのチームは三人と言う人数の少なさ以外にも戦闘力のバランスが悪いと言う問題もあるのだ。
 サイヤ人最強であり、フリーザ軍全体を見渡しても10人かそこらしかいない一万越えの戦闘力を持つ俺と、下級戦士でしかないラディッツでは十倍もの戦闘力の開きがある。
 闘争を好むサイヤ人の本能により、ラディッツに適正な戦闘力の宇宙人が住む惑星に攻め込む場合は、俺には物足りなくてストレスが溜まるが、俺に適正な戦闘力の宇宙人の住む惑星に攻め込んだのではラディッツが生き残れない。
 それで、俺のやる気が出ないでいると、ラディッツとナッパだけで働くことになってしまい、二人のやる気も削がれてしまうわけである。
 困ったものだなと思っていると、不意にラディッツが何かを思いついたように顔を上げる。

「そうだ、カカロットがいた」

 誰だよそれは?
 そう思って聞いてみた俺に、赤ん坊の頃に、ある惑星を攻めるために送り出されたサイヤ人だとラディッツは答えた。

「べジータ王の反乱当時に赤ん坊だったあいつなら、べジータに悪感情も持ってないだろうし、一人で送られたからチームを組んでもいない。問題なく俺たちの仲間に入れられるぞ」
「ちょっと、待った。そんな昔に送られたのに未だに帰ってこないって、惑星一つ攻め落とすのに何十年かかってるんだ?」
「そういえば……」

 ナッパの突っ込みに、呟いて俺に顔を向けてくるラディッツ。
 ていうか、俺に助けを求めるな。そんなもん、俺が聞きたいわ。

「いや、きっと何かやむにやまれぬ事情があるんだろう。助けてやる意味でも、ちょっと迎えに行ってくる。待ってろよ、カカロット。今兄ちゃんが助けてやるからな」

 そう宣言したラディッツは個人用宇宙船に乗り込み、カカロットが送られたという惑星、地球に向かった。
 この時、俺には何かの予感があった。
 自分が、何か取り返しのつかない見落としをしているのではないかという嫌な予感が。

 まあ、だからといって今更ラディッツを追って地球に行くわけにもいかない。
 ラディッツがカカロットを連れて帰ってきたら、四人で攻めるのにちょうどいい惑星を見つけておかなければならないことだし、そちらの仕事はナッパに任せて、体が鈍らないようにトレーニングルームを使用する毎日を送る俺であった。



 ラディッツが地球に行ってしばらく経ったある日のことである。

「よう、べジータじゃないか」

 呼ばれて、声の方に顔を向けると、そこにはクレーターだらけの衛星のような肌をして、下顎からはナマズの髭のようなものを生やした奇怪な顔の宇宙人がいた。

「なんだ、キュイか。何の用だ?」

 当たり前の問いかけに、なぜだかキュイは苛立ちを顔に浮かべて言ってくる。

「へっ、いつも雑魚ばかり相手にしてるお前の体が鈍ってないか、宿命のライバルの俺が確認してやろうかって思ったんでな」

 嫌みったらしく、そんなことを言ってくるこいつのことを、俺は嫌いではない。別に好きでもないが。
 なんと言うか、滑稽なのだ。
 俺のライバルを名乗るだけあって、こいつもフリーザ軍で十本の指に入る実力者であり、その戦闘力の数値は俺と互角の値を維持しているが、本気でやりあえば互角の戦いになどなりえないことを俺は確信している。
 そもそも、スカウターなどで表される数値には、戦闘の技術やセンスが反映されない。
 ただでさえ、独特の戦闘センスを持つサイヤ人である上に、雑魚を相手にしたものがほとんどであるとはいえ、多くの実戦経験を持つ俺が、命のやり取りをすることのないトレーニングばかりで戦闘力を維持しているキュイとライバルであるなどということはありえないのである。

 とはいえ、そんなことを言ってみて納得する相手ではないし、ラディッツにも劣る程度の雑魚ばかりを相手にするのも食傷していたことではある。
 戦闘力だけなら互角であるのも事実であることだし、組み手の相手を頼んでみるのも悪くはない。

「なら、ライバルに少し相手をしてもらおうかな」
「へっ、今日こそ決着をつけてやるよ」

 俺の言葉に、キュイは拳を握り、構えをとる。
 ちなみに、俺たち二人のこれまでの戦績は、50戦して、俺の勝ちが49回、キュイの勝ちが0回、引き分けが1回だ。
 これで、いまだにライバルを名乗れる辺りの根性は大したものだ。

「くらいな!」

 叫びと共に放たれるエネルギー弾を、俺は左手ではじく。
 戦闘力は高いだけあって、はじいた左手に痺れを残す強力な一撃ではあったが、駆け引きもなく放たれたそれは必殺には遠く、むしろ放った本人に隙を作るだけの愚作である。
 ここで、一気に詰め寄れば即座に決着をつけることが可能であり、実際にそうした俺だが、この一撃で終わらせる気はない。
 これは真剣勝負などではないトレーニングであり、めったにない同格の戦闘力を持った相手との組み手である。簡単に終わらせるなどというもったいないことが出来るはずがないではないか。
 だから、接近と共に放つは痺れの残った左手による突き上げるような一撃。
 当然、キュイはそれを上体を後ろに逸らすことで回避し、空振った左手は、ぐにゃりとした何かに当たる。
 ん? ぐにゃり?
 脳裏に浮かんだ疑問は、しかし俺の体を止めることはなく、なぜだか動きを止めたキュイの顔面に右の拳を叩き込もうと突き入れられ。
 いや、顔面にまともにぶち込むのは拙いだろう死ぬし、という理性の声による制止を受け微妙に軌道を変えて、キュイの顔をかすめるというか引っ掛けてその顔を弾き飛ばす。
 そして、先ほどまでクレーターのような顔があったキュイの首の上には、黒い髪を肩のところで切りそろえたおかっぱ頭の15~16歳に見える少女の顔があって、そいつは胸を隠すように両手を組み、顔を赤らめてこっちを見ていた。
 ああ、そういえばコイツもフリーザと同じで迫力をつけるためにマスクかぶって、声から口調まで変えて偽装してる奴だったなとか思ってると、急にこっちを睨みつけてきた。

「エッチ!」

 言うに事欠いて、エッチとはなんだ?

「組み手のフリして、胸を触るなんて。このムッツリスケベ!」
「フリじゃねえよ。大体、いつもはサラシを巻いてるくせに、何で今日はつけてないんだ!」
「忘れてたのよ!」
「なんで、そんなものを忘れるんだ!」

 そんな、大きい肉の塊をぶら下げてて、気づかないなんてありえないだろうが。気づかずに組み手をやってた俺も大概だが。
 言ってやったら、急に口ごもりやがった。

「それは……」

 なにやら、小さな声で「べジータが、珍しくこの星にいるって聞いたから慌ててて」とかなんとかブツブツ言い訳をしているが意味がわからん。
 とか思っていたら、またこっちを睨みつけてきやがった。

「それなら、教えてくれたっていいでしょ。なんで、そのまま組み手して胸触るのよ」
「気づいてなかったんだよ。悪かったな」
「なに、それって、わたしの胸が小さいって言いたいの!」
「言ってないし、小さいとも思ってねえよ。むしろ大きすぎだろ。お前の胸が人並みの大きさなら、最初のパンチは当たってねえよ」

 言ってやったら、キュイの顔は更に赤くなって、もうゆでだこか? というくらいになる。

「バカ! もう死んじゃえ!」

 ついには、そんなことを言って走り去るキュイ。
 なんだよ。俺が何かしたってのかよ? というか、なんでトレーニングルームにいる他の奴らまで俺を白い目で見てやがる。
 なんだか知らないが、いたたまれない気持ちでトレーニングを続けていると、慌てた様子でナッパが走りこんできた。仕事はどうした?



「親分てえへんだ!」

 誰が親分だ。

「ラディッツが! ラディッツが!」
「ラディッツがどうした!?」

 あいつが地球に向かった時の嫌な予感が蘇る。
 だけど、そんな感情は手遅れだと言うようにナッパは言葉を続けた。

 それは、つまり奴が還らぬ人になっていたという話であり……、



 などということもなく、普通に帰って来ていて、ナッパに続いてトレーニングルームに入ってきた。

「うわーん、ベジえもん。カカロットに苛められたよー」
「誰がベジえもんだ。というか、どうしてそうなった?」

 聞いてみると、なんでもカカロットは地球で記憶喪失になって、仕事のことなんか忘れて向こうで結婚して子供も出来たから、俺たちの所に帰る気がないとのこと。
 しかし、諦められなかったラディッツは、カカロットの息子を人質にとって「一緒に来い! そして、俺をお兄様と呼べ!」と強要したら、色々あって最終的に三人がかりでフルボッコにされて泣きながら帰ってきたらしい。

「……どこから、突っ込んだらいいんだ?」
「ラディッツがボコられた辺りじゃないですかね。俺たちから見れば雑魚もいいとこというか、戦闘力だけで見たら消耗品戦士のサイバイマンでも匹敵してしまうとかどうよとか、色々言いたくなる弱虫ラディッツとはいえ、赤ん坊を一人送り込めば済むと判断されるような惑星で育ったような奴とその仲間に負けるというのも考えにくい話ですし」

 なるほど、事務仕事全部を押し付けてるだけに、頭の回転が俺よりも速いなナッパ。
 そのせいで、エリートの生まれのわりに戦闘力が低めだけど、これからも事務仕事を頑張ってくれ。

「今、何か考えやしたか?」
「いや、別に。それで、ラディッツ。どうしてカカロットごときにボコられることになったんだ?」
「それが聞くも涙、語るも涙の話せば長い単行本42巻くらいの物語。完全版なら34巻でアニメなら全508話にスペシャルが2話に劇場版17本、実写映画もあるという壮大さ……」
「三行以内で話せ」
「……カカロットの息子がガキの癖にサイバイマン並みに強かった。
 油断してて、ガキの一撃をもろに腹に食らった。
 悶絶して動けないでいたところに、カカロットと、もう一人同じくらいの戦闘力の奴にボコにされた」

 なるほど。
 つまり、ラディッツはカカロットではなく、その息子にやられたわけか。しかし……、

「サイバイマン並み程度の奴に負けてどうする」
「いや、突っ込む所はそこじゃねえでしょう」

 違うのかナッパ?

「ここは、ろくに外敵もいないような星で育ったガキが、俺たちサイヤ人のエリートと比べても年齢からは考えられないくらいの戦闘力を持ってること突っ込むべきでさあ」
「そうなのか? 前に、赤ん坊の癖に戦闘力一万ある子供が生まれたことがあるって聞いたことがあるんだが、それに比べると低い方じゃないか?」
「そういう都市伝説は忘れてください。というか、そんな奴が実在してたらベジータがサイヤ人最強を名乗ってられるわけがないでしょうが」

 言われてみれば、赤ん坊で一万もいってたら成長すれば現在の俺の二万近い程度の戦闘力くらい抜かされてるはずだな。都市伝説だったのか。そうか……。

「何、遠い目をしてるんですか?」
「いや、なんでもない。それで、ラディッツは俺たちにどうして欲しいんだ?」
「仕返ししたいから手伝ってくれ」
「俺たちに、わざわざ地球まで行って、強くてもサイバイマンレベルの雑魚をボコれってか?」

 半眼で睨んでやったら、涙目になりやがる。

「しょうがないだろ。今度はもっと強い奴を連れてきて仕返ししてやるって、カカロットに言っちゃったんだよ」

 このラディ太め。口を開くときは、もっと考えてものを言え。

「しかし、まあいいか」
「行くんですかい?」
「ああ。考えてみれば、ガキの癖にサイバイマンと互角の戦闘力のサイヤ人とか優良物件ほっとく手はないだろ。人手不足のウチのチームの現状を考えれば」」
「なるほど。それに地球人との間には高い戦闘力を持った子供が生まれるとも考えられますし、嫁不足の俺たちサイヤ人にはいい土産話を持ち帰れそうですからね」
「それは、やめとこう。戦闘民族サイヤ人が集団レイパーになるとか情けない話は聞きたくない」
「宇宙の地上げ屋をやってる時点で、今更な気がしやすが」
「言うな」

 かくして、俺たちは地球に向かうことになった。
 そして、その選択を後悔することになるのには、少しの時間を必要とした。



[17376] 反逆のベジータ
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/03/25 20:31
 前回までのあらすじ

 地球にカカロットを迎えに行ったラディッツがボコにされて帰ってきたので、今度は三人で行くことになりました。
 そして、負けた。
 サイバイマンも使い切った。



「大丈夫ですか、ベジータ様! あとナッパさんとラディッツさん」

 同じフリーザ軍の人員ではあるが、名前も覚えていないような奴が心配そうな声をかけてくるが、答えるような体力は残っていないというか意識も朦朧としている。
 まったく、どうなってやがる。
 俺たちが地球に向かうには、それなりの時間がかかる。遠いから。
 だから、すでにサイバイマン程度の戦闘力を持っていたガキが、その間に多少実力を上げていても驚くには値しないが、他にもサイバイマンと互角以上に戦える戦士が何人もいたというのは予想外だったし、ラディッツより全然弱かったはずのカカロットが、俺に勝てるほどに実力をアップしているなど、想定外にもほどがある。
 ああ。天下のサイヤ人が三人で出かけて、サイバイマンまで持ち出した挙句に負けたさ。悪いか?

 そんなわけで、メディカルルームで休むこと半日。
 あっさりと完治した自分の肉体を見下ろし、我ながらサイヤ人の回復力に驚愕しつつも、これからどうしようかと考える。
 ラディッツが地球に行ってボコられて帰ってきて、次に三人で地球に行ってまたボコられて帰ってきて、そのままメディカルルームで半日。
 その間、俺たちチームは、仕事をサボっているわけであり、いい加減クレームが来てもおかしくないレベルだ。
 とはいえ、俺は回復したがナッパとラディッツはまだなので、やるとなれば一人で働くことになるが、それも効率が悪い。地球にも、もう一回行きたいしな。
 さて、どうしたものかと考えながら歩いていたら、誰かが通路の真ん中で突っ立っていた。

「よう、ベジータ。三人揃って負けてくるなんて、無敵のサイヤ人様も大したことないな」

 何か言ってるキュイの横を通って、とりあえずトレーニングルームに向かう。
 悩んだ結果、限界まで体を酷使して頭を空っぽにすることに決めた。現実逃避とも言うが、俺は頭を使う仕事はナッパに丸投げする主義なのだ。

「って、オイ。人を無視してんじゃねえ!」
「ん? どうしたキュイ」
「人の話を聞けってんだよ!」
「ああ、俺に話しかけてたのか? 悪い悪い、独り言を邪魔するのは悪いと思ったんだ。で? なんの話だ」

 わざわざ足を止めてやったのに、どういうわけかキュイは機嫌が悪い。なんだ? 生理か?

「違うっ! クソッ。もういい、フリーザ様がさっさと次の惑星を攻めてノルマをこなせって言ってたぞ!」

 何を怒っているんだか。
 まあいい、それより仕事の苦情が出るのは予想していたが、直接言ってこないのは珍しいな。
 あのガキ、大組織のトップのくせに、俺のことは、いつも呼び出しをかけてまで文句をつけてくるのに。
 どういうことかと考えていたら、キュイが答えをくれた。

「フリーザ様は、今ナメック星に出かけているんだよ」

 なるほど、しかし何故ナメック星に? あそこは、原住民の戦闘力が高くて苦戦するわりに、高く売れそうもない荒地だから放置の方向が決定していたはずだが。

「お前、地球でドラゴンボールの情報を拾ってきただろ」

 あったな、そんな話。地球に住んでいるナメック星人が作ったらしい、どんな願いでも叶えられる物だそうだが、特に叶えたい願いもないからスルーしてきた。 

「ナメック星には、もっと強力なドラゴンボールがあるはずだから、それを使うんだって出て行ったぞ」

 ほう? しかし、全宇宙の支配者だと言ってはばからないフリーザに、今更どんな願い事があるってんだ?

「お前を十歳くらいの子供にするんだとさ」

 へえ? 俺を子供に……。

「って、なんでだ! どうしてフリーザが俺を子供にするために、わざわざナメック星まで出かけるんだ」
「年下の癖に、ガキを見るような目で見下ろしてくるのがムカつくんだとよ」

 うわっ、くだらねえ。
 そんな理由で大組織のトップが自ら出かけるとか、腰が軽すぎだろ。

「おい、どこに行くつもりだベジータ」

 走り出した俺をキュイが呼び止めてくるが、つきあうつもりはない。
 言いたくはないが、今ですら高いとは言えない身長のせいでチビ呼ばわりされて不快な思いをすることが少なくないのだ。
 このうえ、子供になどされてたまるものか。
 そうして個人用の宇宙船に乗りナメック星に向かった俺が、その後をキュイが追ってきていることに気づくのは少し後のことである。

◆◇◆◇◆

 ボゴンッ。
 そんな音と共に、緑色の肌を持ち頭部に二本の触覚を持った彼らは、同胞であるナメック星人たちが地に倒れる姿を見せ付けられる。

「まったく。私たちはただドラゴンボールを集めているだけだというのに、どうしてあなたたちは、そう非協力的なのでしょう?」

 異相の宇宙人、フリーザと名乗ったソイツの言葉に、彼らはせめてもの抵抗だとでも言うように無言で睨みつけるが、そんな行為に意味は無い。
 ナメック星人は、穏やかな心の持ち主ばかりのくせに、その戦闘力は他の多くの種族に比べて異常なほどに高い。
 だが、それでも全宇宙の支配者を名乗るフリーザにとってみれば、虫けら程度の存在でしかないのだ。

「お前たちは、何のためにドラゴンボールを集めている?」

 そんな問いに、フリーザは唇の両端を上げることで小さく笑う。

「なあに、ごく個人的な小さな願いですよ」

 それは事実であったが、宇宙の支配者を名乗るものが、多くの部下を従えてやってきて言うには真実味に欠ける言葉であった。
 だから、ナメック星人たちはフリーザの言葉を信じない。この者たちには決してドラゴンボールを渡せないと心に誓う。
 そして、それがこの惑星で行われる大量殺戮の始まりとなる。
 フリーザにはドラゴンボールを悪用するつもりも、それを他の誰かに使わせないようにナメック星人たちを皆殺しにするつもりもなかったが、自分たちの目的に協力的でないどころか、邪魔すらしようと考える者たちに容赦をするような寛容さは持ち合わせていないのだから。

◆◇◆◇◆

「ここが、ナメック星か」

 さすが、昔に巨大隕石が落ちたとか何とかで高く売れそうにも無いと判断されただけあって、地平線の彼方にまで荒地が広がっている。
 ボツボツと緑があるとはいえ、それは人が生きるには過酷に過ぎる環境で、地球にいたナメック星人もそれが理由で避難していたのではないかと思わせてくれる。
 というか、いっそ滅んでいてくれたら楽だったんだが。
 そうすれば、今すぐに回れ右して帰れるのだ。
 いくら俺でも、フリーザに戦いを挑むような根性は無い。
 サイヤ人は血と闘争を好む狂った種族だが、戦いにもならず虫かなにかを潰すように殺されるだけだと分かっている相手に戦いを挑むほど愚かな者は滅多にいないというか、そういう奴らは20年以上前に滅んだ。
 当然、俺にもフリーザに正面から戦いを挑むつもりはない。
 そもそも、勝負とは必ずしも正面から殴りあわなければならないというものでは無く、いかなる過程を辿ろうとも結果的に目的を達成した者が勝者になるのである。
 そして、俺の目的はフリーザに願いを叶えさせないこと。

 つまり、

勝利条件:先にドラゴンボールを手に入れてどこかに隠す。
敗北条件:フリーザがドラゴンボールで願いをかなえる。もしくは、フリーザと遭遇し拘束される。

 ということになる。
 フリーザが、スカウターを持っていることを考えると分が悪いな……。
 こっちは、フリーザの位置を調べようとしただけでスカウターの測定限界を超えて爆発するし。
 まあ、こっちのスカウターは旧型だから、フリーザじゃなくても二万をちょっと越えた戦闘力の奴を調べようとしただけで爆発するから、ザーボンも微妙なんたが。
 いや待てよ。新型はあんまり普及していないから、向こうもほとんどの奴らは旧型を使ってるはずだよな。と言うことは、ひょっとすると……。

「ベジータぁっ!!」

 ん? 考え事をしている俺の名を叫んでいるのは、どんな姿をした何者だ?

「やっぱり、お前フリーザ様に逆らう気だな」

 何を思ったか、岩山の上に立ち、胸の前で両腕を組んでそんなことを言っているのは、誰かと思えば一方的に俺をライバル視して、いつも突っかかってきてるキュイだった。
 で、なんの用だ?

「フリーザ様の命令でな。お前が邪魔をしようとするなら、叩きのめして拘束しろと言われているのさ」

 なるほど。
 まあ、考えてみれば当然だが、それなら不意打ちでもしてくればいいだろうに、何を考えているのやら。

「だが、俺の目的がフリーザ様の邪魔ではなく、手伝うことだとは思わないのか?」
「はっ、お前がそんな殊勝なことを考えるわけがないだろ」

 よく分かってらっしゃる。
 となれば、拳で黙らせるしかないんだが、フリーザの命令で俺を取り押さえに来た奴を殺すわけにもいかないし、どうしたものか。
 考えてたら、キュイの奴スカウターを操作しだした。

「ふん、戦闘力16000か。随分と力を落としたもんだな、ベジータ」

 勝ち誇った声音で言ってくる。
 そうか、今の俺の戦闘力は16000か。そうか。

「ところでキュイ。俺は地球で面白いことを覚えてきたんだがな」
「なんだ? 逃げ足の速さか?」
「戦闘力のコントロールだ」

 呟くと共に、カカロットや地球人共が気と読んでいた、体内に眠らせていたエネルギーを活性化させ、それを全身に行き渡らせる。
 この広い宇宙には、まれに戦闘力をコントロールできるタイプの宇宙人が存在する。
 ちょっと前までは、それは自分とは縁のない話だと思っていたのだが、地球に行って同じサイヤ人であるカカロットまで、それができていた事を知って、そうではないと俺は理解した。
 しかも、下級戦士のはずのカカロットがそれを使うことで、一時的にではあるが俺を超える戦闘力を弾き出したとなれば、試してみない手はない。
 そして、それがコツさえ掴めば簡単なことを俺は知る。

「戦闘力がどんどん上がって行くだと!?」

 信じられないという、キュイの声が聞こえてくる。
 その口から漏れ聞こえる戦闘力の数値は、キュイのそれである18000を超え、20000代を超え、23000を超えたところでスカウターの爆発と共に中断する。
 計算通りだ。
 俺を監視するために戦闘力を測ってた奴らは他にもいるはずだし、これで何人かのスカウターは破壊できたはずだ。多分。きっと。だったらいいな。
 なんにしろ、戦闘力を開放した俺はその力に慄くキュイに向かい足を踏み出す。
 普段から俺のライバルを名乗っていても、5000以上もの戦闘力の差を見せ付けられては恐れを抱いてしまうらしい。
 俺が一歩足を進めるごとに、キュイは後ずさって行く。
 この調子だと無駄な戦闘は避けられそうだなと内心胸を撫で下ろしながらも、顔には好戦的な笑みを浮かべる。
 恐怖に脅えるキュイが、小石に足をとられ転ぶ。その衝撃でマスクが落ちて、おかっぱ頭の少女の顔が現れる。
 露出してしまった若い女の素顔を、泣きそうに歪めていることすら自覚できないほどに心が折れかけた、倒れたキュイを俺は満足げに見下ろす。
 なんか、傍から見たら性犯罪者みたいな絵面のような気がするが考えたら負けだ。
 後は、ダメ押しに脅しつければ、こいつの心は折れる。

「どうした? 宿命のライバルさんよ?」

 嘲るような口調と共に、右腕に集めたエネルギーを放出し、それを落ちたマスクに撃ち込んでやる。
 その一撃は、俺たちの戦闘服と同じ素材で作られているらしいマスクを一瞬で蒸発させ、キュイに短い悲鳴を上げさせる。

「どうした。かかってい来ないのかよ。それなら、こっちから行くぜ」
「い、いやーっ!!」

 俺の言葉が引き金になったのだろう。恐怖に理性をなくしたキュイは、悲鳴と共に無数のエネルギー弾を作り出し撃ち込んでくる。
 その威力たるや、戦闘力だけなら少し前の俺と同等だっただけあって、地をえぐり海を割り爆発で空を赤く染め上げるほど。
 もし、地面に向けていれば、この星そのものを破壊するに足るもので、今の俺と言えどまともに食らえばひとたまりもなかっただろう。
 そう。まともに食らえばの話だ。

「やったの?」

 呆然と、そんな言葉を呟く女の肩を、俺は背後から叩いてやる。

「戦闘力が上がったということは、スピードも上がったということだ。あんな攻撃があたるはずがないだろう」

 俺の言葉に、少女は恐怖のあまり涙まで流す。そして、俺は笑う。
 これで、こいつの心は折れた。もう俺に戦いを挑んでくることはない。
 もっとも、こいつ一人の心を折ったからと安心できる状況でもないわけだが。

「……ベジータ」

 おや、心を折ってやったはずのキュイが、何か言ってきた。

「確かに、アンタは強いわ。わたしなんかよりずっと。でも、それでフリーザ様に勝てるつもり!?」

 痛いところを付かれてしまった。
 確かに、この程度の戦闘力の上昇では、あのガキには到底及ばないだろう。
 だが……、

「戦って勝つ必要なんかないんでな」

 この言葉だけで、キュイは俺の考えを理解する。
 本当なら、知らせないほうがいいのだが、もう心が折れたコイツには教えても問題ないだろうと思ったのだ。
 だが、それが失策であったと気づくのは、これより少し後の話になる。

◆◇◆◇◆

「ベジータを押さえに行かせたキュイが、やられたようですね」

 くつくつと喉を鳴らす上司の姿に、側近の配下であるドドリアとザーボンは顔を見合わせると、ため息を漏らす。

「楽しそうですね」

 皮肉を込めた言葉に、フリーザは「楽しいですからね」と笑って答える。

「それで、キュイは無事なんですか?」

 そう尋ねたのは、旧型のスカウターでベジータの戦闘力を測っていて、それを爆破してしまったザーボンである。
 それに対して、スカウターの通信機能も駆使して、ベジータとキュイのやり取りを盗聴していたフリーザは、「ええ」と答える。

「いくらなんでもキュイを殺されては、わたしもベジータを許すわけにはいかないことを、理解しているんでしょうね。まったくの無傷ですよ」
「それは良かった。こんな、くだらないことで命を落としたりするのは、あまりにも救いがありませんからね」
「くだらないですか、ベジータはこの上なく真剣になっているでしょうに」
「まあ、当事者ですからね」

 当事者とは程遠い位置にいるドドリアは同情を禁じえないなと心の中で呟くが、実のところ自分だって同情されるべき立場にいることは自覚してはいる。
 なにしろ、フリーザがドラゴンボールで願いを叶えて被害を被るのはベジータ一人であるが、その過程であるドラゴンボール探索につき合わされているのだから、無関係面をしていられない。
 それに、と顔を動かせば、こちらに敵意に満ちた視線を向けているナメック星人の若者が三人いて、その足元にはフリーザ軍の戦士が数人倒れている。
 こんな、フリーザの気まぐれでやってきた星で命を落とした者たちまでいるのとなれば、帰った後の人事の業務を考えると頭が痛くなってくる。

 はあ、とため息を吐いた瞬間、一瞬前までいた位置を光弾が通過したことを確認するが、それを撃った張本人には自分の姿は突然に消失したように見えただろうなと思いつつ、ドドリアは目の前にあるナメック星人の若者の背中に抜き手を打ち込む。

「なにィッ!!」

 あまりにも簡単な仲間の死に驚愕の声を上げる若者たちは、自分たちの実力に自信があったのだろう。
 実際、フリーザ軍の精鋭を蹴散らせる3000もの戦闘力があるのだから自信を持つのも当然であろうが、フリーザやその側近を相手取るには実力が足りなすぎた。
 何人ものフリーザ軍の兵士たちを倒した彼らは、三人が十人だったとしてもドドリアに傷一つつけられない程度の実力しかないのだから。

 だから、ナメック星人のことなど、すでに頭から消し去ったザーボンはフリーザに向かい口を開く。

「にしても、ベジータは随分と戦闘力を上げたようですね」
「そうですね。わたしのスカウターは、24000もの戦闘力を拾いましたよ」
「それは……、ドドリアや私よりも上だと言うのですか?」
「ええ。ですから、わたしと直接対峙しなければ、何とかなるだなんて甘い夢を見ているようですね。しかも、調子に乗ってスカウターの通信機能のことを忘れて、自分の方針まで話してくれましたよ。
 まったく24000程度ならドドリアさんとザーボンさんの二人でかかれば倒せない数値ではありませんし、今から作戦が失敗して悔しがるベジータの顔が楽しみですよ」

 Sだな。
 そんな心の声は口には出さず、ザーボンはフリーザを観察する。
 敗北感に打ちひしがれるベジータの表情を夢想するフリーザのマスクの下の顔は、頬は紅潮し、瞳は潤み、思わずといった感じで口に入れた中指には舌を絡めてしまい、そこから涎が垂れている。
 それは、十に満たない見た目の少女であるというのに、男の劣情を刺激せずにはいられない色気をかもし出す表情であったのだが、生憎とそれは異相の宇宙人のマスクに隠されており、そのマスクの下の素顔を知らないというか、そもそもそのマスクこそが素顔であると思い込んでいる者たちには、ただただ気色悪いだけであったという。

 なお、スカウターの存在に気づいたナメック星人の老人の手により、その愉悦に満ちた顔が凍りつくのは、この数秒後である。



[17376] ドラゴンボールクエスト ベジータの大冒険
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/03/26 21:02
 前回までのあらすじ

 なんだかんだあって、フリーザの野望をくじくためにナメック星にやってきたベジータは、そこで黒髪おかっぱ美少女をイジメて涙目にしたのであった。
 あと、美少女戦士キュイが仲間になった。



「あんたバカでしょ」

 そんな事を言ってくるキュイに、俺は反論の言葉を持たない。
 俺の目的はフリーザの目的の阻止であり、そのためには自分の方針を知らせないことが重要であったのだが、迂闊にもキュイに対してそれを口にしてしまったのだ。
 いや、すでに心の折れたこの女は今更俺に敵対する根性はないのだが、困ったことにスカウターが通信機になっていることを俺は失念していた。
 キュイのスカウターはぶっ壊れているからいいが、俺自身の持ってきたスカウターが現役なのだから、自分の間抜けさに呆れるしかない。
 まあ、過ぎたことはいい。
 今は、どうやってフリーザに先駆けてドラゴンボールを確保するかだ。
 全宇宙探しても万単位の戦闘力を持つ戦士が十数人しかいないというのに20万まで戦闘力を測れるとかいう、どこに需要があるのか疑問を感じる新型スカウターがあるかぎり俺の行動は筒抜けだ。
 通信機能のおかげで、俺自身の戦闘力が24000まで上がるということが分かったのは僥倖かもしれないが、これはザーボンやドドリアには一対一なら勝てるが二人がかりで来られると危ないということが俺とフリーザの両方に知れたということで、歓迎できる事態なのかどうかは疑問の余地がある。

「大丈夫よベジータ。わたしとアンタの二人なら、ザーボンとドドリアくらいなら何とかなるわ」

 胸の前に持ってきた両拳を握り締めたキュイが言うが、こいつは何を張り切ってやがるのか。

「というか、どうして仲間面してるんだ、お前は?」

 聞いてみたら、何を考えているのか俯き顔を赤くして両手の人差し指をちょんちょんとくっつけながら、ごにょごにょと言っているが、俺の耳に聞こえるほど大きな声にはならない。
 まあいい。仲間になったフリをして俺を油断させようとか考えるような奴じゃないし、フリーザ本人はともかく、ザーボンとドドリアの二人を相手にしなければならない可能性を考えると、コイツの手が借りられるのはありがたい。本人には、なんとなく言いたくないが。

「で、これからどうする気なのよ?」

 もう気持ちを切り替えたらしいキュイが言ってくるが、どうしたものだろう?
 いや、目的ははっきりしているんだが、そのために何をやればいいのかというのが思いつかない。
 はたしてドラゴンボールとは、どうやって探せばいいのだろうか? そもそも、どんな形をしているのかも分からんものをフリーザはどうやって探す気なのだろうか。

「どう思う?」
「わたしに聞いてどうするの?」

 そうなんだよな。
 仕事は、戦闘力に頼った力押し一辺倒で、ザーボンやドドリアみたいに秘書としてフリーザと行動してるわけでもないキュイは、俺以上に頭を使う分野に向いていない。
 こんな時、ナッパがいてくれれば話は早いんだが、ないものねだりをしてても仕方がない。

「とりあえず、その辺りの洞窟とかに無いか探してみるか」
「そうね。探し物はダンジョンを探索するのが一番よね」

 めでたく意見も一致したことだし、俺の考えに間違いはないようだな。
 では、まず洞穴を探すところから始めよう。

「よし! では、行くか」
「ええ!」
「いや、バカだろ。お前ら」

 む。急に失礼なことを言ってきやがるのは、どんな姿をした何者だ。
 振り向いてみると、そこには後ろから見たら妖怪、毛羽毛現に見えそうなほどに髪を伸ばしまくった男が一人。

「なんだ、ラディッツか。なんで、ここにいるんだ? もう、怪我は治ったのか? お前が完治してるならナッパもだろ。奴はどこだ?」
「いっぺんに聞くなよ」
「じゃあ、ナッパはどうした?」

 あいつがいれば、頭脳労働は丸投げできるんだが。

「仕事が溜まってて、来れないってさ。俺たち三人しばらく仕事をサボりまくってるから」

 なるほど。そんな、ナッパを放ってきたラディッツは鬼だな。俺もだが。

「じゃあ、お前は何をしにきたんだ?」

 俺の手伝いに来たわけではないだろう。
 こいつに俺のためにフリーザを敵に回すような勇気はないし、あったとしても大猿に変身してすらキュイにも勝てそうに無い程度の戦闘力しかないラディッツにできることなど高が知れている。この星には月が無いから大猿になれないしな。
 そう思ってたら案の定。

「この星には、カカロットが来てるだろ。いーや、今は来てなくても必ず来るに違いない。だから、今度こそあいつを叩きのめして俺をお兄ちゃんと言わせてやるのだ」

 そんな理由だった。
 なんで、カカロットがわざわざこの星に来るんだとか、そもそも地球にこんな星まで来るだけの科学力があるのかとか、俺が負けた相手にラディッツごときが勝てると思っているのかとか、突っ込みどころが多すぎて逆に言葉が出てこんな。

「おっと、言いたいことは分かる。なんでカカロットがこの星に来るのか分かるのかってことだろ」

 それだけじゃないがな。

「ベジータは忘れていてるかも知れないが、俺たちが地球に行った時に、カカロットの仲間を何人かをぶっ殺したじゃないか。それで、その中にナメック星人もいた」

 あったな、そんなことも。やったのはナッパで、その時お前はヤなんとかいう奴にボコにされてひっくり返ってたけど。

「俺が思うに、そいつが死んで地球のドラゴンボールが使えなくなったんだろうな。で、死んだ奴らを生き返らせるために生き残った奴らがナメック星のドラゴンボールを使うために来たんだと思うんだ」
「筋は通ってるな。しかし、地球人に他所の惑星に来るだけの科学力があるのか?」
「あったんだろうな。でないと、奴らがこの星に来ている説明がつかん」

 なん…だと…。

「どういうことだ?」
「あん? ベジータも、スカウターでフリーザ様たちの会話を盗聴してたんじゃないのか?」

 盗聴、言うな。その通りだが。

「それじゃあ、見慣れない宇宙船が来たってんで偵察に行かせた奴らが、戦闘力1500くらいの奴ら二人にやられたって話は知ってるか?」

 聞いたような聞いてないような、そんな雑魚や雑魚にやられる奴らのことなんかどうでもいいし覚えがないな。

「そいつらが地球から来た奴らだと俺は思っている」
「なんでだ?」
「そいつら、最初はゴミみたいな戦闘力だったのが、急に上がったんだとよ。わざわざこの星にやってくる、戦闘力のコントロールができてフリーザ軍の精鋭を一撃で倒せるような宇宙人なんて他に考えられないだろ」

 なるほど、言われてみればそんな気もしてくるな。願望混じりのこじつけにも聞こえるが。

「話はわかった。けど、なんで俺たちに合流してるんだお前は?」

 ラディッツの目的からすると、俺じゃなくフリーザに合流しても問題なさそうというか、ソッチの方が目的達成に有利なんじゃないか? カカロットがどう頑張ってもフリーザにだけは勝てないだろうしな。
 思ったことを聞いてみたら、「別にそんなつもりはないぞ」と答えてきた。

「この星に来たら、たまたまベジータが近くにいたんで見に来ただけだからな。今から、フリーザ様に合流するつもりだ」

 じゃっ。と、右手を上げて去っていこうとするラディッツは、何歩か歩いた後にスパンッと足を蹴り上げられてうつぶせに倒れ、腰の上をキュイに馬乗りにされて腕を捻り上げられ取り押さえられる。

「って、何やってんだお前は」
「それは、こっちのセリフ。なに、黙って見送ってるのよ。わたしたちはフリーザ様より先にドラゴンボールを探さなきゃいけないんだから、向こうの人手は削らなきゃダメでしょ」

 そういえば、そうだな。
 ラディッツは、ここで半殺しにして転がしておくか。

「いやいやいや、俺一人くらい放置しても問題ないから、って痛い痛い痛い、やめて離して許して、って、それ以前にこのやけに戦闘力の高そうな巨乳美少女さんは、どこのどちらさまですかぁー?」
「案外と余裕があるようだな。あと、誰も何もキュイだろうが」
「え? キュイって、あのドジョウとオコゼの相の子だろ。あの脳筋バカと、この美少女さんと何の関係がって、アッー! 折れる折れる、人の関節はその方向には曲がらないようにできてるんです!」

 おや? ラディッツは、キュイのアレがマスクだって知らなかったのか。

「普通は知らないわよ。知らせる意味がないし」
「そういえば、そうだ。しかし、なぜ俺は知らされている?」

 尋ねてみたら、赤くした顔をプイと逸らされた。なんなんだ?

「ラブコメってないで助けてくれー!」
「しかし、助ける理由もないしなー」

 あと、ラブコメってなんの話だ?

「そうよ! それにコイツ、わたしたちのことバカって言ったし」

 それもあったな。

「いやいやいや、バカなのは事実……って痛い痛い痛い。だってドラゴンボールを探すのに、洞窟探索とかバカだろ。ナメック星人が作ったんだから、連中から聞き出せばいいじゃねえか。てか、フリーザ様はそうしてるだろ」
「そりゃそうだが、それだとフリーザたちとかち合うかもしれないだろ」
「そうよねー」

 頷きあう俺とキュイ。意見の一致を見た辺り俺たちは間違っていないと思う。

「どんだけバカなの、あんたら。何のためのスカウターだよ」
「いや、フリーザの現在地とか調べるとスカウターぶっ壊れるし」
「フリーザ様の戦闘力数値を表示しなきゃ済む話だろ。一定以上の数値を持つ相手の座標だけを表示してろよ」
「それだと、フリーザ様とナメック星人の区別がつかなくならない?」
「フリーザ様たちは移動してるだろ。移動しないのがナメック星人ってことで区別がつくだろ」
「そういえば、そうね」

 感心した様子で、キュイが手を離す。

「ラディッツって、実は頭が良かったのね」
「まったくだ」
「それ、褒めてないよな。絶対、バカにしてるよな」

 しかし、何を怒っているのやら。

「まあ、いいさ。教えてやったんだから、ここは見逃してくれるよな、な」
「まあいいけど、フリーザがお前を受け入れてくれると思ってるのか?」
「え?」
「ほら、俺もお前もスカウターが健在だろ」

 俺の言葉に、ラディッツが口ごもる。
 気づいたらしいな。てか、察しのいい奴だ。本気で頭がいいのかもな。迂闊な言動の多いバカだけど。
 スカウターが通信機になっている以上、俺たちのやり取りはフリーザに筒抜けになっているのだ。
 となれば、ラディッツが余計なことを言ったのもフリーザは、すでに知っているはずである。

「フリーザ様って、戦闘力の高い相手には甘いけど、低い相手には容赦ないわよね」
「だな。俺たちが反抗しても、反逆ってほどでもないから、大した罰もないだろうけど、ラディッツだといらん口を滑らせただけでも即死刑とかやりかねん」
「マジで!?」
「マジも大マジ」
「俺とキュイだと、せいぜい飯抜きくらい……フリーザ軍脱走しようかな」
「ないない。サイヤ人に食事抜きとか死んじゃうから、ベジータには別の罰でしょ。ラディッツは餓死するまで拘束とかあるかもだけど」
「やっすいな俺の命」
「そういうわけだから、俺たちにつけ。それなら後で取り成してやる」
「それで俺、生き残れるのか?」
「わたしたち二人で頼めばなんとか……」

 ぼそりと呟いた、「なるといいなぁ」というキュイの言葉は聞かなかったことにしよう。

「それなら、仕方が無い……のか?」

 首を捻るラディッツだが、まあ他の選択肢はないはずだ。あっても潰そう。
 戦闘には役に立ちそうに無いコイツも、ナッパがいない今は頭脳労働で役に立たないこともないと分かったし、ここで抜けてもらうわけにはいかないからな。
 かくして俺たち三人は、フリーザの邪悪な企みを阻止するために力を合わせることになったのだった。


「そういえば、フリーザ様の目的って何だ?」
「知らないのか?」
「ここに来る宇宙船に乗る直前までメディカルルームで寝てたんだぞ。知ってるわけがないだろ」
「そうか、実はフリーザの目的は全サイヤ人の性癖をロリコンに変えることだ。これは、なんとしても阻止するべきだろう?」
「確かに。俺の愛は、カカロットのみに向けると魂に誓っているからな」
「…………」



[17376] 乙女はベジータに恋してる
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/03/28 21:24
 前回までのあらすじ

 暴虐なロリばばあ、フリーザに立ち向かうためにベジータ、キュイ、ラディッツの三人は力を合わせることにしたのだった。
 あと、適当なナメック星人の村を襲ってドラゴンボールをゲットしました。
 七つ集めなければいけないという情報は、ラディッツがスカウターで盗聴してました。




「というわけで、素直にドラゴンボールのことを話さなかった奴らを皆殺しにして、ゲットしたわけだ」
「いえーい!」
「わー、すごいすごい、ぱちぱちぱち」(棒読み)

 むやみやたらとテンションの高いキュイはともかく、やる気の無いラディッツの反応が気になるが、今は気にしないでおこう。

「で、このドラゴンボールだが」
「うん」
「捨てます」

 ぽいっと、ボーリングフォームで海に投げ込む俺。
 ドブンッと水面に落ちたオレンジ色のボールは、そのまま沈んでいってすぐに見えなくなる。

「これでもうフリーザはドラゴンボールを集められなくて、願いも叶えられないわけだ」
「ミッションコンプリートだね」

 イエーイと右手を上げて、キュイとハイタッチ。
 
「いや、だからバカだろお前ら」

 ラディッツの呆れたようなため息。
 なんでだ?

「だーかーらー、俺たちのスカウターは通信機になっているのを忘れるな! どう考えても、俺たちのやり取りはフリーザ様に筒抜けなんだから、捨てたって後から探しに来るだけだろ」
「おいおい、俺たちがドラゴンボールを海に沈めたことは分かっても、海のどこかは俺たちしか知らないんだぜ」
「そうよ。ラディッツが口を割らないかぎり見つかりっこないわよ」
「その通り。いかにラディッツが口の軽いヘタレでも、一発殴って記憶を失わせておけば、もうフリーザに知られることはない」
「信用ないな俺! 俺が口を割らなくても、スカウターで俺たちの現在地を調べれば一目瞭然だとは思わないのかお前らは」

 あっ、と声をそろえてしまう俺とキュイ。

「言われてみればその通りだな」
「でも、隠す以外どうしろっての? 持ち歩いてたんじゃ、最後にはフリーザ様に取られるだけよ」
「壊せばいいだろ。こっちは、ドラゴンボールに叶えたい願いなんかないんだから、破壊すれば済む話だろ」

 その発想は無かった。

「お前、頭良いな」
「サイヤ人のくせに、頭がいいってどうなの」
「俺の頭がいいんじゃなくて、お前らがバがぁ……」

 閃くキュイの右拳と、吹き飛ぶラディッツ。
 口は災いの元って言葉を知らない辺り、ラディッツも立派にサイヤ人だな。
 それは、ともかく。

「草の根分けてもドラゴンボールを探しだすぞ二人とも! 海を」
「まかせて!」
「……」
「返事はどうしたラディッツ」
「……俺が一万超えの戦闘力で殴られて、無事でいられると思っているのか? しばらく、動けねえよ」

 サイヤ人の癖に、鍛え方の足りん奴だ。サイヤ人のタフネスさが無けりゃ、命がないくらいに戦闘力の開きがあるのも事実だが。
 しょうがないので、二人で探すことにする俺とキュイ。しかし……、

「なぜ脱ぐ」

 戦闘服を脱いで、何のためなのか下に着ていた黒いビキニの水着姿になって、無駄にでかい胸を強調する黒髪おかっぱ少女のキュイに、そう尋ねてしまった俺は間違っていないと思う。

「なんでって、服を着たまま海に入るなんて気持ち悪いじゃない」

 何を当たり前のことを言わんばかりの表情で返してくるが、そういう問題か?
 そもそも、俺たちの戦闘服はそういう問題をクリアするように特別な素材でできてるんじゃないのか?

「やめとけベジータ。女の理屈に男は勝てないようにできてるんだよ」

 ほんの数時間前まで、キュイが俺たちと同じタイプの宇宙人の女だってことを知らなかったくせに、分かったようなことを言う奴だ。
 とはいえ、そんなくだらないことで言い合っても仕方が無い。ここは、ドラゴンボール探しに専念しよう。

 そうして海に潜った俺たちが、遠くから聞こえる爆音に気づくのは数時間後のことであった。
 ちなみに海流にでも流されたのかドラゴンボールは見つからなかった。



「なんだ今の音は?」

 海から上がってすぐの質問に、まだキュイに殴られたダメージが回復していないラディッツは、しかし慌てもしないでスカウターを操作するのを止めて、こちらを向く。

「断言はできないが、フリーザ様が襲ったナメック星人の集落から逃げ出した奴がいるっぽいな」
「なぜ、そう思う?」
「お前らが海に潜っている間、俺がただ寝転んでいたと思ってるのか?」
「ああ」
「もちろん」
「……フリーザ様がコッチに来るようならすぐに逃げられるようにスカウターで動きを探っていたんだが、ナメック星人に襲撃をかけている時に急に通信が途絶えて、その後に、そこから離れる反応が四つあったんだよ」
「へえ。でも、それだけじゃナメック星人が逃げだしたかどうかは分からないんじゃないの?」
「それだけならな。けど、三つの反応が先で、もう一つが後を追うような形だったんだが、しばらくして先を行ってた反応のうち二つが消えて、それからあの爆音が聞こえてきたんだ。他には考えられないさ。ああ、あと追ってた方の反応は、戦闘力から考えてドドリアだと思うぞ」

 なるほどな。
 しかし、ホントに察しのいい奴だ。なんで、いままで、それを発揮しなかったのか疑問だが、今はそれどころじゃないな。

「行くぞ二人とも!」
「どこに?」

 キュイが、そんな察しの悪いことを聞いてくるので、ちょっと説明してやろう。

「ドドリアが一人でいるってことは、今がチャンスってことだ。あいつを先にボコっとけば、ザーボンが来ても今の俺なら楽に倒せるからな」
「わー。ベジータまで、かしこーい。どうなってるのサイヤ人」

 こいつとは、一度きっちり話をつけてやらないといかんな。
 今は、時間が無いからやらんが。
 気を取り直して、スカウターの示すドドリアのいる場所に行こうとしたら、今度はラディッツが、行かないと言いやがった。

「どういうつもり? まさか、今更フリーザ様につくつもりじゃないでしょうね」

 俺の心を代弁したかのようなキュイの言葉に、ラディッツは違うと言うように手と首を振る。

「やらねえって。お前らに取り成してもらわないと命が無いわけだしな。単に、さっきキュイに殴られたダメージが回復してないのと、ドドリア相手じゃ俺の戦闘力だと足手まといにしかならないってだけだ。 それに、お前ら俺が死にかけても助ける気とかないだろ?」

 まあ、自分の身も守れないようなサイヤ人に生存価値はないしな。

「把握した。行くぞキュイ!」
「うん!」

 かくして、俺とキュイはドドリアを探して飛ぶのであった。



 上空高くに立つ俺とキュイが見下ろす位置の海上に、ピンク色のトゲトゲ頭デブの宇宙人ドドリアはいた。
 何か、ブツブツ独り言を言っているようだが、そんなことはどうでもいい。
 スカウターを持っていれば、俺の接近に気づけたはずなのに、そんなそぶりがないということは、そういうことなのだろうか。

「どうするの?」

 小さく尋ねるキュイにニヤリと笑いを返して、俺は両足からドドリアに向かい急降下を始める。
 スピードと体重を乗せた一撃は、なんら警戒していないドドリアの後頭部に突き刺さり、奴は何が起こったのかも理解できないまま、下方の海に墜落する。
 サイバイマンレベルの戦闘力なら、頭が潰れて死んでいるであろう一撃だったはずだが、さすがにフリーザの側近。ドドリアは、突然海中に沈められたことの方が衝撃だったらしく、後頭部のダメージを無視し咳き込みながら陸地に上がる。
 まあ、今の一撃で終わるとも思っていなかったから、どうでもいいがな。
 そうして、陸地に上がったばかりで膝をついたドドリアの前に、俺はキュイを従えてゆっくりと降り立つ。

「おっ、お前!?」

 驚愕の声を上げたドドリアは、俺を見て……、見てない?
 なんでだと、ドドリアの視線を追うと、俺の斜め後ろに降り立った水着姿の女を見ていた。

「って、なんで水着のままなんだよ! お前は」
「しょうがないでしょ! 着替えてる暇なんかなかったんだから」

 豊満な胸を隠すように両手を組み、顔を赤くして言ってくるが、だったら最初からそんな格好になるなと言いたい。

「どういうことだ、キュイ。お前がベジータに素顔をさらしているなんて」
「別に良いでしょ。ドドリアには関係ないじゃない!」

 俺を無視して言葉を投げつけるドドリアと、それに受けて立つキュイ。
 二人は俺のことを完全に無視して言い争う。
 なんでだ?

「ああ、オレには関係ない。だが、フリーザ様が聞けばどう思うかな?」
「それは……」

 チラリと俺に視線を向けるキュイ。
 なんだよ。何の話してるのかわかんねえよ。

「今のわたしはベジータのために戦ってるんだもん。フリーザ様なんて関係ない!」

 何かの宣言のように叫ぶと、キュイは握り締めた右拳にエネルギーを込める。

「この、バカ娘が!」

 迎え撃つために、ドドリアが前に出した両手の平にエネルギーを集める。
 キュイの拳から放たれたエネルギー弾をドドリアは左手に集めたエネルギー波で相殺してかき消し、同時に右手に集めたエネルギーを解き放つ。
 ドドリアり右手から放たれたエネルギー波は、無形の衝撃波となって敵を吹き飛ばすが、のけぞったキュイはそのまま仰向けに倒れるように見せて、両手で地を叩き一回転して立ち上がると、その勢いで地面をすべり土煙を上げるも、そのまま構えを取る。

 いや、なんでこいつらが戦ってるんだよ。
 ここは、俺がドドリアと戦うところだろ。キュイがドドリアに勝てるはずもないしな。戦闘力的に考えて。
 とはいえ、タイマンに首を突っ込むのもなー。
 とか考えてたら、早くも決着がついてしまった。
 と言っても、実力差によりキュイがドドリアに叩きのめされたというわけではない。
 キュイの着ていた水着のブラの肩紐が切れて、胸を隠そうと両手で押さえ、しゃがみ込みまでしたせいで戦えなくなったのだ。そんな格好で戦うからだバカが。
 だからと言って、そこでドドリアが振り上げた手を収めるはずもなく、動きの止まったキュイの顔面を打ち砕かんと拳が走る。
 そして……、

「ベジータ!」

 なにやら嬉しそうな顔のキュイが、俺の名を呼び見上げてくる。
 俺に、拳を受け止められたドドリアが、いぶかしげに俺の名を呼ぶ。

「お前が、キュイを庇うとは思わなかったんだがな」

 ドドリアの言葉に、まったくだと思う。
 本来、俺にとってキュイは、ただの顔見知りというだけの相手であり、どこで誰に殺されようと知ったことのないはずの存在である。
 だが、

「今は、仲間だからな」

 そう言ってやるとキュイが顔を赤らめ、ドドリアが俺たち二人を見比べるが、なにか勘違いしてないだろうな。
 俺は、仲間は大事にする主義なだけだぞ。
 ラディッツとかでも、死なれるとチームが残り二人になって自分が苦労することになるだけだしな。
 まあいい、こいつらが何を考えていようと俺がやることは変わらない。
 受け止めた拳を、握り力を入れていく。
 ドドリアの拳は俺の手に余る大きさだが、それに握力だけで指を食い込ませていく。
 そのままなら、その拳は俺の手の中で、ぐしゃぐしゃに潰れていただろうが、さすがに黙ってされるがままでいてはくれない。
 ドドリアは拳を引くと共に後ろに下がり、俺はキュイを庇うように前に出る。
 もちろん他意はない。だから、嬉しそうな顔をするなキュイ。
 そんな俺たちに何を思ったのかは知らないが、ドドリアはため息を吐いた後、改めて俺に向き直る。

「ベジータ。お前、フリーザ様に逆らう気か?」
「今回はな」

 あのチビには、色々不満があるのも事実だが、だからと言って逆らおうとは思ったことはない。
 彼我の戦闘力を比べて、逆らっても無駄なのが歴然だからというのもあるが、そもそも逆らうことに意味がないのだ。
 なにしろ、俺は目先の問題を腕力でしか解決できない、戦うしか能のないサイヤ人だ。
 そんな俺が、軍全体の利益を考えて動いているフリーザに逆らってみたところで、代案が出せるわけでもないのだからしょうがない。

 だが、今回だけは違う。
 何が違うって、今回のフリーザの行動には、軍の利益だとかそういうものが一切考慮されていないのだ。
 俺を子供にすることの、どこにそんなものがあるというのか。

「というか、組織のトップと側近やら直属の戦士たちが、総出で仕事放り出してこんなとこ来てんじゃねえよ」
「ちゃんと有給休暇申請して、受理されたぞ」
「すんな! 休みは、もっと自分のために使え!!」
「有休消化しろと言われても、戦ってるのが好きだからとか言って休まないサイヤ人に言われてもな。いや、お前ら三人のチームだけは、有休消化しきってるが」
「何? 休暇をとった覚えがないぞ?」
「休んでなくっても、働いてなければ同じなんだよ。その辺の書類はナッパに提出させてるから、帰ったお礼を言ってやれ」

 そうだったのか。世間ってのは、世知辛いもんだな。

「それはともかく、業務じゃないってなら、邪魔しても文句を言われる筋合いはないよなー。ドドリアさんよ」
「しまった!」

 慌てて口を押さえているが、もう遅い。
 言質は取ったし、これで俺にはドラゴンボール集めを邪魔しても、罰を受ける心配はないわけだ。ラディッツには、教えないでおくが。

「というわけで、遠慮なく叩きのめさせてもらおうか」
「何が、というわけなのかわからんが、お前が俺に勝てると思っているのか?」
「へっ、強がるなよ。スカウターで俺の戦闘力を見……、そういえばスカウターをつけてないようだが、ひょっとして旧型使ってたか?」
「いや、ナメック星人にぶっ壊された」
「そえか……。とにかく、あんたをぶっ倒して豚のような悲鳴を上げさせてやるよ」
「やってみな!」
「応っ!!」

 ダンッ、と地を蹴ったのは、ほぼ同時。
 戦闘力で勝っていたとしても、肥満したドドリアの肉体は初動で俺に叶わない。
 ましてや、戦闘力の逆転した今では、結果は歴然。
 俺の拳が吸い込まれるようにドドリアの顔面に激突し、その結果として奴の拳は勢いをなくし、こちらには届かない。

「なんだと!?」

 驚愕の声を上げたのはドドリアだが、驚いたのは俺も同じ。
 今の一撃に手加減はない。
 拳の威力が体重に依存するとはいえ、戦闘力で勝るはずの俺の一撃をまともに受けて、言葉を発する余裕があるというのは、どういうことなのか。
 もっとも、驚いたからどうだというわけでもない。
 俺たち戦闘民族サイヤ人は、驚いたからといって戦いの手が鈍ることがない種族なのだから。
 打撃による苦痛に顔を押さえるドドリアの、がら空きになった腹に拳を打ち込むが、肥満した肉を殴り続けてもどういうわけか効きが悪い。
 キュイ辺りから見れば、一方的に押しているように見えるのだろうが、ダメージの蓄積が感じられない現状、このまま続けていてはこっちが疲労するだけかもしれん。
 ならばと、ドドリアの背後に回り、両の手を掴み取り捻り上げ動きを封じる。
 打撃の効果は薄くても、これなら戦闘力に劣るドドリアに振りほどくことは不可能だ。なんか、ぷにぷにしてて掴みにくいが。

「どうした、ドドリアさんよ。あんたの実力はこんなものか」

 言ってやると、ドドリアは苦痛と悔しさに顔を歪める。
 今まで自分より下に見ていた者に、急に上位に立たれればそれは当然のことだろう。
 ああ、その気持ちは俺にもよく分かる。カカロットめ。
 それはともかく、しばらくしてドドリアは、その顔に不敵な笑みを浮かべる。

「それで、オレをどうする気だ? いくらなんでも殺してしまえば、フリーザ様に敵対することになるぞ」

 まったく、その通りだ。
 業務外のドラゴンボール集めの邪魔程度ならともかく、側近の配下を殺害までしてしまえば、フリーザは俺を許すまい。
 だが、それなら殺しさえしなければいいということ。

「殺せないなら、お前を屈服させてしまえば済む話だ。キュイのようにな」

 ニヤリと笑ってみせる俺に何を感じたか、ドドリアはキュイに視線を向けて、その途端に肉体から抵抗をしようという意思を消す。
 いや、マジで何を考えたんだろうな。俺は、キュイの心を折った自覚はあるが、なんで仲間になっているのかはいまいち理解してなかったりするのだ。

「なるほど、そういうことか……」

 どういうことだ? と思ったが、なんなとなくドドリアを拘束する手を離す。
 もし、これでまた攻撃してきたとしても、俺には容易く打ち倒せるのだということを、お互いに理解しているのだから。

「そういうことなら、しかたないな」

 ため息を一つ吐いて、ドドリアは戦闘服を脱ぎ始める。って、なんでだ?
 プロテクターを脱ぎ、アンダースーツを脱ぎ、背中に手を伸ばし、ジジィーッという音が聞こえる。
 なんだ?
 そして、ドドリアの背中が割れ、そこから一人の女が姿を現す。って、なんだと!?

「着ぐるみ!?」

 驚いている様子からすると、キュイも知らなかったみたいだな。
 しかし、俺たちの知っているドドリアが着ぐるみで、中身はピンクの髪を背中に流したキュイより胸のでかい女だったなんて、考えもしなかったな。打撃が効きにくかったのも、そのせいだったんだろうが。
 中が暑いせいか、白いビキニの水着だけを着たの汗まみれの女は、にこりと笑って俺のプロテクターにも手をかけ、それを脱がそうとする。

「って、待て! 何をする気だ?」
「何って、ナニだろ?」

 口調はそのままに、しかし声たけは女らしい甘ったるいものに変わったドドリアが返してくるが、何を言っているのか俺には理解できない。

「キュイにもやったことを、オレにもするんだろ?」
「だから、何を!?」
「そりゃ、男が女を屈服させるって言ったら、アレしかないだろ」

 顔だけ見ると、たれ目で気の弱そうな女なのに、トンでもないことを言いやがる。

「いや、キュイはともかく、あんたが女だなんて知らなかったんだがな俺は」
「え? そうなのか」
「うん。私も知らなかった」

 コクコクと頷くキュイに、ドドリアはふむと人差し指を頬に当てて考え込む。

「とすると、勘違いだったか。まあいい」

 呟くと、今度は俺のアンダースーツを脱がしにかかりやがった。

「だから、何をする気だ?」
「だから、ナニをするんだよ。立場上、キュイのようにベジータの手伝いをするのはマズイが、ベジータにレイプされて言うことを聞かされていると言えば言い訳もつく」

 それって、すっごい悪人だな俺。別に善人を気取る気もないけどよ。
 というか、ズボンを脱がすな! パンツに手をかけるな!

「だめーっ!!」

 おお、キュイ。今ほど、お前の存在をありがたいと思ったことはないぞ。

「ベジータの童貞は、私が貰うの!」

 ぶふぅ!! 何を言ってやがる。というか、なぜ俺のトップシークレットを知ってるんだ。

「ん? それなら、お前も参加すればいいだろう」

 そんな事を言って手招きするドドリアと、それならという顔をしてこちらに来るキュイ。てめぇら何を考えてやがる。

「どうすればいいの?」
「ちょっと、ベジータを押さえてくれ」
「こう?」

 背中からキュイが、俺の手を押さえにかかり、背中に豊満な胸が押し付けられてぐにゃりと潰れるのがわかる。
 そんな程度のことに動揺してしまう自分が憎い。
 慌てた拍子に、手から力が抜けてドドリアの手でパンツもろともズボンがおろされる。
 やめろォ!!

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ここから先は、XXX板に移動しろと言われそうな内容なので、削除しました
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◆◇◆◇◆

 フリーザが口を開いたのは、ナメック星人の村において、そこで命を落とした兵士たちを埋葬していた時である。
 いや、穴を掘ったり、遺体を埋めたりしていたのは、部下の兵士たちで、フリーザ本人はお茶なんぞをすすっていたわけだが。

「ザーボンさん」
「何でしょう?」
「一発、殴らせてくれませんか? 力いっぱい」
「嫌です。死にます」

 それは残念ですと、何を見るでもなく空に顔を向けているフリーザの顔に感情を感じさせるものはない。
 いやまあ、その顔は作り物なのだから当然なのかもしれないのだが、フリーザ軍脅威の科学力は、人造の顔に人と同じ表情をさせることなど造作もないのである。
 その技術を、もっと他のことに使えば良さそうな気もするが、それを言っても仕方がない。
 今は、なぜフリーザがあんなことを言ったのかを考えるべきであろうとザーボンは思う。
 さもなくば、本当に殴られることになりかねない。上司の気まぐれで撲殺されるなんてごめんなのだ。

 フリーザは気分屋ではあるが、理由なく部下を撲殺しようと考えるほど幼稚な思考の持ち主ではない。そう思いたい。
 では、どうしてなのかと考える。
 多分、機嫌が悪いのではないか思うが、だとすれば、その理由はなんなのか。
 この惑星に来てから、ずっとフリーザは機嫌が良かった。
 特に、ベジータが追ってきたと聞いた時など、踊りだしそうなほどに喜んだものである。
 その顔が不快に歪んだのは、ナメック星人の生き残りにスカウターを破壊された時と、そいつらを皆殺しにしていた時に正体不明の二人組が乱入して来て、ナメック星人の子供を一人かっ攫って行った時だろうか。
 いや、あの時切れてたのはドドリアだけだったかもしれないが。
 そうして、ドドリアがそれを追いかけていったのだなと思ったところでもふと気づく。

「そういえば、ドドリアの奴、なかなか帰ってきませんね」

 ぽつりと呟いた、思い付きから生まれた言葉に反応するように、ぱきりとフリーザの手の湯飲みが砕けた。
 ああ、これかと納得すると共に、疑問も生まれる。
 いつまでも帰ってこないのは問題だろうが、それだけでこうも苛立ちをあらわにするというのも不可解な話である。
 もしかして、別な理由もあるのではないかと考えた時に、フリーザがまた口を開く。

「いえ、別にドドリアさんが何をしたというわけでもないのですがね」

 言いながらも、視線は空に向けられたまま。

「なんといいますか、お気に入りの玩具を身近な誰かに盗られたというか、片想いの相手を親友と思っていた誰かに寝取られた少女の気分というか、そんな感じの不快感が湧いてきまして」
「恋人を親友に寝取られた経験が?」
「ザーボンさん。口は災いの元ということわざをご存知ですか?」
「すいません。それで、私を殴りたくなったと?」
「ええ、あなたも、わたしにとって身近な人ですから」
「そうですか……」

 そんな理由で、撲殺されたのではたまらないなとため息を一つ。

「早く帰ってきてくれよドドリア」

 口の中だけでザーボンが呟いたその頃、フリーザのお気に入りが、身近な誰かに性的な意味で食べられていたりしたが、もちろんそんなことを知る由もなかった。



[17376] ご愁傷さまベジータくん
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/04/02 21:07
 前回までのあらすじ

 激しい激闘のすえ、ベジータは、ふわふわピンクの髪のムチムチお姉さん、ドドリアをついに腰が立たなくなるまでに追いやり新たに仲間に加えたのであった。
 ちなみに少し前まで処女。



「うーっ、まだ股に何か挟まっている感じがする」
「ああ、話には聞いていたが、まだ異物感が残っているな」

 生々しい会話をするな。
 というか、人を逆レイプしておいて、自分も初めてだったとかどういう了見だ。

 そう。
 いま、海──どうも、淡水っぽいのだが、他に言いようがない──で汗を洗い流しているビキニ水着の二人は、ついさっきまで処女だったのだ。
 キュイの方は、わからないでもない。
 この少女の方は、お互いに子供の頃から知っていて、男っ気がまったくなかったことを俺は知っている。俺と同年代の女を少女というのもなんだが、実際15~6の小娘にしか見えないんだから仕方がない。
 そもそも、性別が女だって事も、あまり知られていないしな。
 しかし、ドドリアの方はどうなんだ。
 この女──だと今日初めて知ったわけだが──は、俺がガキの頃からフリーザに仕えている年齢不詳の宇宙人だ。
 しかも、男を押し倒すような奴が処女だとか、誰に想像できようか。
 いや、俺が知っているドドリアは着ぐるみの方だし、若い状態が長く続くサイヤ人の俺が見ても、この女の見た目は若すぎる──地球人なら20代前半くらい──し、実は中身は代替わりしていて代々フリーザに仕えているのだとか言われても納得できてしまいそうだ。

 そんな事を考えながらぼんやりと二人を見ていたら、少女が何を勘違いしたのか恥ずかしそうに頬を赤く染めて水に体を隠し、女は俺が何を考えていたのか理解しているのか、こちらに苦笑を向けてきた。

「いや、オレもこの歳になるまで処女を守ろうなんて考えていたわけじゃないんだが、フリーザ様の側近なんてやってるとな」

 やってると、なんだと言うのだ。あと、この歳というのを具体的に聞くのは地雷だろうか。

「あの人、ああ見えてオレよりもずっと年上なんだ。具体的に言うと、オレが物心ついたころには、もう今の姿だった」

 いや、あいつサイヤ人なら10歳かそこらの見た目だから、もう今の姿だったとか言われても、お前とそれほど歳が違うようには聞こえん。

「そんな年齢なのに、あの人はまだ処女なんだ。信じられるか?」

 お前が、処女だってことよりはな。
 というか、あのガキが何年生きてるロリばばあか知らんが、あの見ためで非処女だったら、ソッチの方がビックリだ。

「年長の上司が処女なのに、部下が男を作ったり、処女を捨てたりとか気まずいだろ?」

 同意を求めるな。俺に、どんな反応を求めているんだ。

「オレの着ぐるみやキュイのマスクも、フリーザ様の命令なんだ」

 そいつは初耳だ。

「オレの方は、キュイと違って偽装のための男言葉も年季が入りすぎて、素に戻っても直らなくなったしな」

 ということは、昔は女言葉だったのか。まあ、どうでもいいけど。

「思うに、フリーザ様は自分より年下の奴が男を作るのが気に入らなくて、オレやキュイに変な仮装をさせているんじゃないだろうか」

 そうかよ。それなら、サイヤ人の女も実は滅んでなくて、変な扮装させられて生き残ってるかも知れないな。
 てか、いい加減、行き遅れの愚痴なんか聞きたくないんだが。

 そもそも、これでまたフリーザの人員は削れたが、まだ奴の目的を阻止したというわけではない。
 のんびりしている間に、あのガキがドラゴンボールを集めてしまっては、貯金もないのに仕事をサボってここまできた甲斐がないではないか。

「というわけで、そろそろラディッツと合流しようと思う」
「えー?」
「なんでだ?」

 不満そうな顔をするなキュイ。
 不思議そうな顔をするなドドリア。

「俺たちが、こんなことをやっているのは何のためだ?」
「なんのためだ?」
「フリーザの邪魔をするためだよ」
「そういえば、そうだったな」
「忘れていたかったわ」

 忘れるなよ。

「そのためには、ラディッツと合流する必要がある」
「なぜだ?」
「自分で言うのもなんだが、体力バカの俺やキュイは頭を使うのに向いていない。ナッパがいない以上、ラディッツに頼るしかないのだ俺たちは」
「そうか、ナッパは……。惜しい奴を亡くしたんだな」

 死んでねえよ。勝手に殺すな。

「でも……」

 どうしたキュイ?

「ドドリアが仲間になったんなら、ラディッツいらなくない?」
「おおっ!!」

 ぽんと手を打つ俺。
 ドドリアは、フリーザの秘書なんかもやってるんだし、ラディッツより頭を使う仕事に向いてるはずだ。
 戦闘力に至っては、比較にもならんしな。

「あー、そりゃダメだ」

 なんですと?

「何故だ?」
「オレは、ベジータにレイプされて無理やり従わされてるって形だからな。主導で、動くわけにはいかん」

 ちっ、使えるようで使えん女だ。
 じゃあ、やっぱりラディッツと合流するしかないか。



「よう、おかえり」

 水の中から、頭だけ出してラディッツが言ってくる。
 俺がいない間、海に沈めたドラゴンボールを一人で探していたらしい。まめな奴だ。

「しっかし、遅かったな。俺はまた、新しく仲間を増やして、それで俺の事なんかいらなくなったんじゃないかと思ってたぞ」
「ハハハ、ソンナハズナイジャナイカ」
「なぜ、目を逸らす?」

 鋭い奴め。

「まあいいけど。それで、キュイはどうしたんだ?」

 ああ、あいつなら、あんまりスピードを上げると、結んだだけのブラの肩紐がまた切れるからって少し遅れて、って帰ってきたな。
 俺が空を見上げると、ビキニ姿の二人の女が、ここに降り立とうとしていた。

「誰だ?」
「キュイだろ。もう忘れたのか?」
「じゃなくて、もう一人の方。あの女は誰だよ!?」

 ああ、そりゃわからないよな。

「見ての通り、フリーザ様の側近の配下。ドドリアだ」

 俺の隣に降り立っての本人の自己紹介に、ラディッツは顎が外れんばかりに驚愕する。

「マジで?」
「マジだ。っていうか、キュイって前例があるのに驚きすぎだ」
「いやいやいや、キュイと一緒にするのは無理があるだろ。あのピザがどうして、このムチムチ姉ちゃんになるんだよ」
「着ぐるみを着てたそうだ」
「それに、ドドリアって言ったら、俺やお前の親父より更に、年上のはずだぞ。こいつは若すギャフッ」

 桃色頭の女に殴られ、盛大に吹っ飛ぶラディッツ。
 バカが。地雷を踏みやがった。
 しかし、そこまで年長だったとは。

「ベジータ。なにか、余計なことを考えてないか?」
「別に」

 首を振る俺。
 戦って負ける心配がないとはいえ、今の状況で無用な諍いをしようとは思わない。

「声は!?」

 手加減でもされていたか、即座に立ち直って問いを重ねるラディッツ。
 タフな奴だ。
 考えてみれば、地球で二回ボコられて、ここでもキュイに殴られてのダメージの蓄積でパワーアップしてるのかもしれんな。
 まあ、ラディッツの雀の涙程度のパワーアップなんぞに興味はないが。

「声なら、キュイも変わってるだろ。それに、フリーザも」

 何気なく答えてやると、また驚愕の表情になる。今度は、なんだ?

「まさか……、フリーザ様も女……、なのか……?」

 そっちも知らなかったのか。
 こくりと頷いてやると、大きく口をあけて硬直しやがった。
 そこまで驚くほどのことかね。

「そりゃあ、ベジータは子供の頃からフリーザ様の変装のことを知ってたからそう思うんだろうが、普通はこんなものだ」

 うーむ。しかし、なんでラディッツはフリーザのことを知らなかったんだか。
 フリーザ軍でも、知ってる奴の方が少ないってのはわかるんだが、このことを俺は隠してた覚えはないんだが。

「あえて、説明もしなかったんだろ? そりゃあ、話しててもフリーザ様のことだと気づかずに聞き流すさ。ベジータだってオレの性別に気づいてなかっただろ」

 いや、それは気づくほうがおかしいだろ。俺たちの知ってるドドリアが着ぐるみのガワだったとか、中身が若い女だったとか、普通は気づかん。

「そうか? ナッパは気づいてたぞ」
「なんだってー!!」

 お、ラディッツが再起動した。

「じゃあ何か、フリーザ様やキュイやドドリアが女だってことを知らなかったのは、チームで俺だけってことなのか? そうなのか? 俺だけぼっちなのか?」

 ドドリアのことは、俺も知らなかったがな。
 というか、この調子で実はザーボンも女だったとか言い出さないだろうな。

「そうなるな。といっても、フリーザ様のことは、ベジータにだけ知らせることになってたし、現時点でこのことを知っているサイヤ人は、お前たち三人くらいのものだろう。自分で気づいたナッパが異常なだけで、気にするようなことじゃない」

 そうだな。俺も、フリーザやキュイが女だってことを隠してたら、自力では気づけなかったであろう自信があるしな。
 というか、

「なんで、ナッパは気づいたんだ?」

 俺も言おうとしたことを、ラディッツなんぞに先に言われてしまった。
 欝だ。やけ食いでもしよう。

「それは、ナッパがサイヤ人らしからぬ洞察力を持っているとしか言いようがないな。お前たちが、事務仕事を押し付けすぎたんじゃないか?」

 おや、なにか香ばしい匂いが。
 ああ、ラディッツが海に潜ってる時に捕獲した魚や、その辺に転がってる緑色の原住生物の肉を焼いたのか。用意のいい奴め。ありがたく頂こう。

「いや、俺は押し付けたことがないぞ。率先して手伝ったこともないが」

 肉うまー。そういえば、地球から帰ってから、何も喰ってなかったな。
 キュイとバトルったり、ドドリアを相手に汗を流しまくったりと、カロリー消費しまくったし補給しないとな。

「なら、その分ベジータが押し付けまくったんだろうよ。そもそも、あいつがペンを持ってるところとか見たことあるか?」
「ないな。そもそも、ベジータは読み書きができるかどうも怪しいと俺は睨んでいるんだが」

 焼きあがったのは、全部片付けたけど食い足りないな。材料はまだあるし、自分で焼くか。
 んー、この生焼けの緑色の二足歩行生物、美味いな。
 生でもいけるんじゃないか?

「さすがに、読みは大丈夫だろ。そうじゃないとスカウターも使えん」
「あー、確かに。でも書く方は怪しいぞ」

 こっちの、人より大きな魚とかはさすがに焼かないと食いにくいし、焼いてる間にちょっと火にあぶった生肉を腹に入れてよう。

「あの二人、仲がいいね」

 胡坐をかいて腿肉を齧っていた俺の隣に、すとんと座ったキュイの言葉に、ん? と、顔を上げると、何の話をしているのか、なにやら盛り上がっている様子のラディッツとドドリアが視界に入った。
 二人の表情からして楽しい話題のようにも見えないが、たしかに仲が悪いようには見えないな。
 だから、どうだとも思わないわけだが。

「そうだな。そんなことより、お前も食うか?」

 焼きあがった小さめ──といっても、人間の腕ほどもある──の魚を渡してやると、なぜか顔を赤くして、「うん」と頷き、小さく開けた口でもそもそと食べ始める。
 むう。マスクがないだけなのに、何故キュイの仕草の一つ一つが、謎に満ちて見えるのか。
 まあ、考えてもしょうがないな。今は、次の戦いに向けて腹を満たそう。



 十数分後。

「ちょっと待てよ。いくらなんでも、全部食う奴があるか。俺は、全然食ってないんだぞ」

 そんなラディッツの声が響いたのは、俺が食事を終えて仮眠を取ろうとした頃の話。
 うるさいし眠いので、とりあえず殴って黙らせた。

◆◇◆◇◆

「ザーボンさん。ギニュー特戦隊に連絡を」

 唐突に告げられた言葉に、宇宙の帝王を自称するフリーザの側近であるザーボンは驚愕する。

「何故ですか? あの連中を呼んだりすれば、どんなことになるか……」
「とんでもないことになるでしょうね。ですが、わたしには予感があるのです」
「予感……ですか?」
「ええ。何か強大な力を持つ者が目覚めつつあるという予感です。あるいは、ベジータを押さえに行ったキュイが敗れ、今度はドドリアさんも帰ってこなくなったのは、その前兆ではないかと、わたしは考えています」
「それは……」

 考えすぎではないかという疑問を口に出そうとして、ザーボンは思いとどまる。
 だとしても、彼にとってフリーザの言葉は絶対なのだ。反論などするべきではない。
 だから、口に出すのは別の事。

「その目覚めつつある力とは、ベジータなのでしょうか?」
「そうかも知れませんし、違うかも知れません。サイヤ人には、千年に一度現れると言う超戦士の伝説がありますが、それが事実か迷信かまでは、わたしも知りませんしね」

 答えるフリーザの顔には、笑みが広がっていた。
 それは、ベジータがそうだったら面白いのになと言わんばかりである。

 それは、千年前に現れ、銀河中を暴れまわったという戦士の伝説。
 フリーザもザーボンも、そんな伝説を信じているわけではないが、もし事実なら何を持ってしてもその目覚めを防ぐべきであろうと考えていた。
 ただ、どう考えてもベジータはないだろうなとも考えていたが。

「そのための、ギニュー特戦隊ですか」
「そういうことです」

 そして、ザーボンは母星に通信を送り、しばらく後にこのナメック星にある五人を乗せた宇宙船がやってくることになるのである。
 全宇宙に、その名を轟かせるギニュー特戦隊が。



[17376] 自由人ベジータ
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/04/08 21:11
 前回までのあらすじ

 戦いにおいて、もっとも重要なのは食料の補給である。
 その原則に従い、ベジータとキュイはタップリと栄養を補給したのであった。
 ラディッツとドドリアは食いっぱぐれた



「さて、次はザーボンを何とかしようと思うわけだが、何か考えはないか?」

 問いを向けると、ラディッツが何やら恨みがましい顔で睨んできた。なんだ?
 とりあえず、こちらも視線を合わせていてやったら、しばらくして視線を外してため息を吐く。
 だから、なんだというのだ。

「なんだラディッツ。言いたいことがあるなら、さっさと言え」
「特に言いたいことが、あるわけじゃないさ。ただ、俺は飯を食ってなくて力が出ないんで、一緒には行けないぞ」

 なんだ、そんなことか。

「そんなもの、最初から期待してないから気にするな。だいたいドドリアの時も、お前は置いていっただろ。一緒に来ても足手まといになるんだから、無理しなくていいぞ」

 ん? 今度は、しゃがみこんで地面にのの字を書き始めやがった。なんなんだ。

「まあ、今回、お前は頭脳労働として頑張ればいいじゃないか」

 言いながら、ビキニ水着の女、ドドリアがラディッツの頭をポンポンと撫でる。
 ああっ!! 余計なことを。
 しゃがみこんでいたラディッツは、ゆっくりと顔を上げて、その目に桃色頭の女の顔を映すと、その両目から涙をあふれさせる。

「え?」

 ドドリアが、何がどうしたのかと疑問の声を上げるがもう遅い。

「ドドリアーっ!!」

 叫びと同時のラディッツのタックルをドドリアは避けられない。
 戦闘力に、十倍以上の差があっても、体重は男であるラディッツの方が体格や筋肉のぶん重い。
 とっさのことで、ラディッツを受け止められなかったドドリアは、そのまま押し倒されてしまう。

「あーあ、こうなると長いんだよな」

 押し倒した女の胸に顔をうずめて、その後に何をするかと思えば、しゃくりを上げて泣き出しすというラディッツの奇怪な行動に、キュイがどういうことかと尋ねてきた。

「これ、どういうことなの?」

 まあ、隠すようなことでもない。いつもの戦闘服を着て、ビキニ水着姿ではなくなったキュイに教えてやろう。

「見たまんまだ。こいつが、弱虫ラディッツって呼ばれてるのは知ってるだろ」
「主に、あんたとナッパが呼んでるあだ名だよね」
「細かいことは置いとけ。その呼び名から分かるとおり、こいつはイジメられっ子でな。それで長い間友達もいなくて寂しい思いをしていたらしくて、落ち込んでる時に誰かに優しくされると、こう感激のあまり抱きついて泣き出すんだよ」
「こうやってって……、他にも誰かにやったの、コレ」
「俺とナッパが、よくやられる。一発ぶん殴ってやれば早いんだが、それやると死にかけてなかなか目を覚まさなくなるから、急いでるときなんかは、かえって手間なんだよな」
「そりゃあ、ベジータの腕力で殴られればねー」
「話は、わかったが、これはどうすればいいんだ?」

 下からの声にそちらを見ると、いい年した男に押し倒されているのに、恥じらいの一つも見えないうんざりした顔の女が、こちらを見ていた。

「ずいぶんと、冷静だな」
「ようするに、図体がでかいだけのガキなんだろ。いちいち、恥ずかしがってられるか」

 余裕のある女だな。これが、キュイなら動かなくなるまで殴っているところだろうに。
 まあ、その方が助かるが。

「とりあえず、泣かしといてくれ。俺は、ちょっと出かけてくる」
「どこに?」
「適当にぶらぶらするだけだ。あんまり一ヶ所にいたら、フリーザが来ないとも限らないだろ。俺一人ならともかく、キュイやドドリアまで一緒なのをほっといてくれるとも思えんし」
「ああ、それなら多分大丈夫だ」
「なぜだ?」
「ナメック星人に、スカウターが壊されたって言っただろう。あれ、オレのだけじゃなくて、全部壊されたんだよ。だから、今はオレたちがどこで何をしてるとか、フリーザ様は把握できていないはずだ」

 そいつは、ありがたいな。

「それでも、運悪く遭遇とかもありうるし、ちょっとフリーザの動向を探ってくるか」
「あ、わたしも行く」
「そうだな。じゃあ、キュイと二人で行ってくるからラディッツを頼む」
「別に構わんが、単にこいつを押し付けたいだけじゃないだろうな?」

 それもあるが、細かいことだ。気にするな。




「おや?」

 俺が、そんな呟きを漏らしたのは、そろそろ一時間くらい経つし、ラディッツたちの所に戻ろうかと思った頃である。

「どうしたの?」
「いや、ちょっとフリーザたちの動きを探ってたんだが、どうもザーボンが単独行動をとってるっぽい。なんでだ?」
「フリーザ様たちの動きをって、あんたスカウターに触ってないじゃない」
「ん? 俺は、地球でスカウターなしで相手の戦闘力や位置を知る技を覚えてきたんだが、言わなかったか?」
「聞いてないわよ。大体、そんな便利な能力があるなら、スカウターいらないじゃない。なんで、持ってきてるのよ」
「なんでって。そりゃあ、フリーザたちの動きを盗聴するためだが?」
「ばか?」
「なんで、そうなる?」
「今はフリーザ様たち、ナメック星人に壊されてスカウター持ってないじゃない」
「言われてみれば、その通りだな。じゃあ、壊して捨てるか」

 顔から外し、力を入れて握ろうとしたところで、待ったがかかる。なんでだ。

「あんたは、スカウターいらずでも私には必要なの。使わないならよこしなさいよ。それとも、その技を私にも教えてくれるの?」

 むう。言われてみると、渡したほうがいい気がしてきた。
 教えるのも手間だしな。というか、見て覚えろとしか教えようがないんだが、言ったら怒りそうだよな。
 ということで、素直に渡す俺。

 受け取ったキュイは、顔に装着しようとして一度動きを止めると、顔を赤くして顔をにやけさせる。

「どうした?」

 聞いてみたら、すでに空中にいるのに飛び上がって驚いてみせて、「なんでもない」とか、「勘違いしないでよね」とかまくし立ててきた。異星人の考えることは分からん。

「それで、ザーボンのことなんだが」
「え? ああ、ザーボンね。覚えてる覚えてる。で、なに?」
「なんで、単独行動をとってるのかという疑問なんだが」
「なんでって、スカウターがないからでしょ」

 スカウターを装着して、なにやら照れ笑いを浮かべながらの言葉に、俺は疑問を顔に浮かべる。
 なぜ、スカウターがないとザーボンが単独行動をとることになるのか?

「そういえば、ベジータは戦闘の天才だけど、それ以外はバカだったわね」

 はーっと、ため息を吐いてみせてくるキュイ。
 脳筋であることは認めるが、お前にだけは言われたくないんだがな。

「いい? フリーザ様たちは、スカウターでこの惑星に点在するナメック星人を見つけて、そいつらからドラゴンボールを強奪していたの。これは、わかるわね?」

 お前は、俺をどれだけバカだと……。

「ところが、今はナメック星人にスカウター壊されてしまった。ベジータならどうする」
「そりゃあ、スカウターなしで相手の戦闘力を探る技で……」
「それ以外で!」
「えーと、母星に連絡してスカウターを持ってきてもらう」
「それだけ?」
「他に、何かあるのか?」
「……」

 なぜ、可哀想な子を見る目で、俺を見る?

「……あのね。他にドラゴンボールを探している競争相手がいないならそれでもいいけど、そうじゃないでしょ」

 なん…だと…。

「フリーザたちの他にも、ドラゴンボールを集めている奴がいるというのか!?」
「あんたよ!」
「へ?」
「あんたっていう妨害者がいるから、フリーザ様たちは急いでドラゴンボールを集めないといけないの。スカウターが届いても、乗せた宇宙船が撃ち落される可能性もあるでしょ」
「いや、さすがにそこまではやらんぞ。死人が出たら、洒落にならんし」
「わたしは、フリーザ様が考える可能性の話をしているの」

 そうか。
 俺は、そこまで悪人だと思われていたのか。間違っちゃいないが。

「そういうわけで、みんなで手分けして探すことにしたってことでしょ。多分だけど、ザーボン以外にも単独行動をとってる人がいるんじゃない?」

 なるほど。言われてみれば、他の奴らもいるな。戦闘力がしょぼすぎて気づかなかった。
 しかし、

「その妨害者に襲撃されることを考えないのか? はっきり言って、今の俺ならザーボンだって倒せてしまうぞ」
「考えたってしょうがないじゃない。ドドリアがいなきゃ、ザーボンがいてもいなくても、あんまり変わらないんだし」

 それもそうだ。

「だったら、ザーボンはほっといてもいいかな?」
「そうでもないんじゃない? ザーボンをほっとしたら、ナメック星人の集落を見つけたら単独で襲撃してドラゴンボールを手に入れるだろうし、他の雑魚にしたって見つけてフリーザ様に知らせられたら、困るでしょ」

 言われてみれば、ごもっとも。じゃあ各個撃破と行くか。

「ところで、ザーボンが実は男装している女だってたことはないよな?」
「知らないわよ」

◆◇◆◇◆

 フリーザの部下であり、アプールという名を持つその宇宙人は、その光景に驚愕を隠せないでいた。
 アプールの使命は、ナメック星人の集落を探し、見つけたならそれをフリーザに知られることである。
 同じ命令を受けたものは少なくはなく、そのうちの誰かが村を見つけるのは当然のことであるのだから、それが自分だったとしても不思議なことではない。
 だが、それが襲撃を受けた後の廃墟となると想定外であるし、死体は転がっていないが、代わりに身を食された後の白骨が一ヶ所にまとめて捨てられているというカニバリズムの後な光景が広がっていれば、誰だって驚くのではないだろうか。
 しかして、一番にアプールを驚かせたのは、それではない。
 なんと、白骨の近くには仰向けに倒れた女がいて、その上にのしかかって、大きな胸に顔をうずめている男がいるという、性犯罪の真っ最中にしか見えない事態が進行していて、なんか男の方は見覚えがあるというか自分の着ているのと同じ戦闘服を着ていたりするのだから、それは驚愕のあまり思考が真っ白になって停止しても無理はないのである。
 ただ、我に返ったあとでこうも思う。

「何故に、私は縛られているのでしょうか」

 それは、茫然自失としていた時に、女が寝転んだままでその辺にあった石を拾い投げつけた結果、それの直撃を顔面に受けて気を失ったアプールが、その後で縛り上げられたためであると本人だけが自覚していなかった。 

「いや、フリーザ様に、ここのことを報告されると困るしな」

 砂糖菓子のような甘い女の声なのに、男のような口調の言葉に顔だけを動かしてそちらを見ると、そこにはウェーブのかかった桃色の髪を長く伸ばした水着姿の女がいた。

「えーと、どちら様で?」

 フリーザの名を口にする辺り、同僚なのだろうとは思うが、こんな女に心当たりはない。
 というか、レジャー先に出かけた後でもあるまいに、ビキニ水着で過ごすような狂った知り合いはいないのだ。
 自分の上司であるドドリアに中の人が存在すると知らないアプールは、その女がそうなのだなどと考えもしない。

「まあ、その辺りは流せ」

 今度は男の声が聞こえたのでそちらを見ると、そこには見知った種族であるサイヤ人の中でも、三番目くらいに有名な男がいた。主に、悪い意味で。

「ラディッツじゃないか。ということは、この女はお前のツレか?」
「まあな」

 答える男は、なんだか苦いものを噛んだような表情だったが、その理由はアプールにはわからない。
 それに、今は先に確認をしておかなくてはならないことがある。

「フリーザ様に報告されたら困るってのは、どういう意味だ?」
「そりゃあ、俺たちがベジータの手伝いをさせられているからだ」

 言われて、そういえばそうだったなと思う。

「お互い、大変だな」
「まったくだ」

 今回のフリーザの思いつきからくる行動は、配下の自分たちには迷惑極まりないものだし、それの阻止を手伝わされているラディッツも似たようなものであろう。

「で、私はこのまま縛られてればいいのか?」
「そうだな。フリーザ様が目的を達成するか、失敗するまでそうしててくれ」
「了解」

 答えて、体から力を抜く。
 この給料も出ないバカバカしい使命をサボれるなら、縛られて転がされていることに文句を言うこともあるまい。
 ただ、一つ気になることがあるとすれば、

「お前ら、さっきは抱きあって何してダワッ」

 女の踵が、鳩尾にめり込み、変な声を上げてアプールは意識を失った。



[17376] ベジータに女神の祝福を
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/04/11 20:22
 前回までのあらすじ

 スカウターを失い、ドラゴンボールを探す手立てを失ったかに見えたフリーザだったが、人海戦術でナメック星人を見つける方針に切り替えた。
 それを察知した、ベジータとキュイは、フリーザの配下を各個撃破していくことを考え、ついにフリーザの側近、ザーボンとの対決に臨むのだった。



「えーと、ザーボンは、と」

 今、ザーボンの戦闘力を感じる方向へ向けて全力で飛んでいる俺は、フリーザ軍で働く戦闘を好むサイヤ人の一般的な戦士。
 強いて違うところをあげるとすれば、現在フリーザに逆らっているとこかナー。
 名前はベジータ。

 そんなわけで、キョロキョロと挙動不審な感じで、周囲に視線を動かしてナメック星人を探している俺たちサイヤ人──というか地球人によく似たタイプの容姿をした薄い緑色の肌をした宇宙人、男のくせに長く伸ばした濃い緑色の髪を首の後ろで三つ編みにしたザーボンの前に立ちはだかったのだ。

戦わないかやらないか?」

 フランクに尋ねてやったら、なぜかザーボンではなく、キュイがその言葉に反応して両手で顔を隠して嬉しそうに「キャーッ」と歓声を上げる。
 何か間違ったか? まあ、いいや。

「そういうわけで、今度はお前を叩きのめしに来た。覚悟しやがれ」
「なにが、そういうわけなのか知らないが受けて立とう。そして、お前を差し出してフリーザ様に機嫌を治してもらう」

 なんだそれは。あのガキ、何か怒ってるのか? 嫌なことでもあったのか?

「まさか、ベジータがフリーザ様に逆らったから?」

 後ろから聞こえたキュイの声に、ああ、そうかと思った俺は、それが如何にマズイことなのかにすぐに気づいた。
 なぜなら、俺がフリーザに逆らえるのは、何か致命的なことをしでかさないかぎりは許されると理解しているからだ。
 あいつを本気で怒らせてしまえば、俺の命など芯の尽きた蝋燭の火よりも儚いものでしかないわけだし。
 しかし、幸いなことに、ザーボンはそれには首を振る。

「それは最初からわかっていたことだし、フリーザ様はそれを楽しみにしていた側面もある。今更、そんなことで不機嫌にはならんさ」

 なるほど、それは安心……、していいのか?

「じゃあ、まさかわたしのことで?」

 ああ、キュイが俺に協力しているのも、マズイと言えばマズイな。

「それも違う。いや、素顔を曝して一緒に行動していることを知れば、心中穏やかではないだろうが、それが原因なら顔には出さないだろうさ」

 プライド高いからなぁ、と続くその言葉の意味はよくわからんが、これもセーフならわざわざ突っ込んで質問する必要もないだろう。

「じゃあ、なんでだ?」
「一言で言うと、ナメック星人にスカウターが破壊されたからだ」

 なんと? そう言えばドドリアにそんな話を聞いた覚えがあるが、それは機嫌を損ねるほどのことかと思わなくもない。
 そんな考えが顔に出ていたらしく、ザーボンは苦笑と共に俺の疑問に答えてくれる。

「そもそも、フリーザ様はドラゴンボール探しをゲームか何かのように認識しているふしがある。まあ、失敗しても実害があるわけでもないから当然なのだがな」

 その代わり、成功したら実害があるよな。俺に。

「で、ベジータの妨害もゲームを盛り上げる程度のものだと認識して過程を楽しんでいたわけだが、ここに来て過程を楽しめない事態に陥った」
「というと?」
「スカウターがないと、全体の把握ができないだろう? それに、残りのドラゴンボールというかナメック星人を探すにしてもスカウターなしだと、全員で固まって行動しても効率が悪いし、だからといって自分が直接動けば、留守の間にベジータにドラゴンボールが強奪される可能性があるから、本人は留守番をしていないといけない。これでは、過程を楽しむことができないだろう?」

 なんというか、ガキの理屈だな。

「あと、それら以上にナメック星人の村を襲っていた時に、いきなり蹴りを入れて来た奴らを追いかけて行ったドドリアが帰ってこないのが大きいな。あの後、良くわからん理由で不機嫌になってたし、あと私とドドリアがそろっていればベジータが襲撃してきても何とかなるから、フリーザ様が自分でドラゴンボール探しに出かけることもできたのだ」

 あー、ドドリアね。うん。それは、お気の毒様。

「ん? 何か、知ってるのか?」
「イイエ、ナニモシリマセンヨ」
「なぜ片言になる?」
「いや、それよりもいきなり蹴りを入れてきた奴らって何者だ?」
「それを、調べるためにドドリアは飛んでいったんだ。私が知るか」

 それもそうだ。
 そういうことは、教えておけよピンクヘアーめ。
 まあ、いいや。
 それだけ聞ければ充分だ。そろそろ、本題に入ろう。

「フリーザが、俺のことで怒ってるんじゃないならそれでいい。てめえも、ぶっ倒してやるよ」
「ふん、私も倒すときたか。キュイを倒したくらいで調子に乗るなよ」
「おいおい、キュイと戦ってたときの俺の戦闘力を見てないのか?」
「見てはいないな。旧式を使ってて、壊れたから。ただ、聞いたところによると24000まで上がったそうだ。故障じゃないなら、大したものだ」

 へー、24000まで上がっていたのか。なんとなく、ドドリア、ザーボンを超えた自覚はあったが、数字で示されると感慨深いものがあるな。
 とりあえず、完全に優位に立ったとわかった以上、やるべきことは一つだ。

「故障じゃないさ。なにしろ、あんたの相棒のドドリアも倒させてもらったからな」

 ニヤリと不敵に笑ってやる俺。
 後ろで、えー? という顔をするキュイ。
 いや、言いたいことはわかるが自重しろ。ここで、押し倒されたのは俺のほうだとか言ったら、締まらんだろうが。
 ていうか、今のキュイの顔、ザーボンに見られてないだろうな。

「なんだ。やっぱり、ドドリアのことを知ってるんじゃないか」

 マイガッ。
 キュイの顔は見られなかったようだが、ドドリアのことがばれたっ!!

「知られたからには、なんとしても口を塞がせてもらうぞ」
「自分で、ばらしたようなものじゃない」

 黙れ。

「まあ、ドドリアのことは後で追求するとして、とりあえず叩きのめさせてもらうぞ」
「ん? ドドリアの話を聞いたくせに、まだ俺に勝てる気でいるのか?」
「私をドドリアと一緒にするなよ」
「大して違わないさ。俺にとってはなっ!!」

 ダンッと、地上なら足型を残したであろう踏み込みで空中を蹴る。
 そこから生み出される速度は、二万近い戦闘力を誇るキュイですら視認を不可能とする神速。

「こいつが避けられるなら、避けてみやがれッ!!」

 言葉と共に顔面を狙い、打ち込む拳は牽制の一撃。
 いくら戦闘力で勝っていたところで、簡単に勝たせてもらえるとは俺も思っていない。
 まずは、このパンチを防いだところでできる隙をつく。

 バコンッ。

 そんな、気の抜けた音が響く。

「あれ?」

 どこかから、そんな疑問の声が聞こえてきた気がしたが、それは俺の口から出ていた。
 なんでだ?
 首を捻っていたら、後ろから興奮した声が聞こえてきた。

「すごいっ。まさか、あのザーボンを一撃で倒すなんて」

 うん。俺もビックリだ。
 まさか、牽制のパンチがまともに決まるとは思ってなかった。ひょっとして、俺ってキュイとやりあった時よりパワーアップしてるのか?
 しかし、別に心当たりは……、ドドリアとのアレか? なんとも締まらん話だな。

「やるじゃないか」

 起き上がり、鼻血を垂らしながら、そんな事を言うザーボン。
 おっ、生きてたか。まあ、最初から殺す気なんかないというか、死なれでもしたら俺が一番困るだけなんだが。

「だが、この程度で私を倒せると思っては困るな」

 どこからか取りしたティッシュを千切り、それを鼻に入れると拳を振るい殴りかかって来る。
 しかし、

「遅いな」

 つまらんなと思いつつ、余裕を持ってそれを避け、戦闘服に守られた腹に一撃を入れる。

「ぬおおぉぉっ」

 悶絶し、腹を押さえるザーボンはマジに弱い。

「もう、やめろ。お前じゃ俺には勝てん」

 どう考えても、ドドリアの方が強かったしな。
 そう言ってやると、しばし愕然としたザーボンは顔を伏せ体を震わせる。
 もう、心が折れたのか?
 と思ったら、今度は笑い出した。恐怖のあまり、狂ったか? 意外と脆い奴だったんだな。

「見事だ。これでは、キュイはもちろん、ドドリアが勝てなかったのも頷ける」

 おお、正気だ。

「で、もう諦めたのか?」
「バカを言え。私の真の姿を見せなければ勝てないと理解しただけだ」
「真の姿だと?」
「そうだ。宇宙には、お前たちサイヤ人が大猿になるように変身する種族が存在する。そして、私もそういうタイプの宇宙人だと言うことだ」
「サイヤ人と同じだと!?」
「ああ。だが、お前たちのように不必要に巨大化したりはしないがな」
「じゃあ、どうなるって言うんだ」
「ただ、姿が変わってパワーアップするだけだ」
「なんだと? だったら、何でもっと早く変身しなかったんだ」
「それは、見せたくなかったからだよ。あまり、人に見せられる姿ではないのでな。だが、ここで敗北するくらいなら、私は真の姿を見せて勝利することを選ぼう」

 その宣言の後、ボンッと音を立て、爆発するようにザーボンの戦闘服の胸元が膨らむ。
 と同時に、腰の辺りが逆にキュッと締まり、尻もドンッという音がしそうに大きくなる。

 女になったーっ!?

「この姿を見た以上、ただでは帰れないと思えよ!」

 声も高くなったザーボンは、驚く暇を与えるつもりもないのだろう。さっき俺がやったことの焼き直しのように空を踏み蹴り、その拳を俺の顔面に突きこむ。

「ぐっ」

 苦鳴が漏れる。衝撃に、視界が白くなる。体が仰け反る。
 この拳の重さ。間違いなく、今のザーボンの戦闘力は俺よりも上だ。

「くそっ!」

 視界が戻るのを待たず、ザーボンのパワーが感じる位置へと拳を振るう。
 だが、一瞬後には、ザーボンは俺の背後に移動し、背中に蹴りが打ち込まれる。

「がはっ」

 呼吸が詰まったような声を上げて俺は地上に落下し、地に伏した俺の前にザーボンは降り立つ。

「ふむ。どうやら変身で戦闘力に差がつきすぎてしまったようだな」

 余裕の表情で言うザーボンの言葉に間違いはないようにも聞こえる。
 だが、そんなはずはない。

「だあっ!」

 起き上がり、即座に気合の声と共に右の掌から解き放ったエネルギー弾は、ザーボンに当たったかに見えたが、それはすでに移動した後に残った残像を貫くのみ。
 あまりのスピードについていけないキュイが息を呑むのが聞こえたが、俺にとっては想定内のことでしかなく、一瞬の停滞もなく立ち上がり、振り向きざまに裏拳を放つ。
 今の俺は、相手の気を探ることで目だけに頼らずに相手の位置や動きを把握することができる。
 そんな能力は、フリーザほどに戦闘力に開きがあれば無意味なのだろうが、ザーボン程度の相手の動きなら問題なく把握できる。
 そう。俺以上のスピードで動いていても、ただ戦闘力の高さに頼っただけの単純な動きなのだ。
 俺の蓄積された戦闘経験とサイヤ人の戦闘民族としての本能に、気を読む能力を持ってすれば、その動きを捉え先の動きを予測し対応することも不可能ではない。
 ないのだが、裏拳は身をのけぞらせたザーボンの前髪をかすめるにとどまり、奴の蹴りが俺の横腹に食い込む。

 くそっ。集中さえすれば、対応できないスピードじゃない。
 倒せない相手じゃないんだ。
 だけど、俺が攻撃をするたびに高速で体を動かすザーボンは、その勢いでぼよんぼよんと胸を揺らしやがって、意識がそっちに行ってしまう。
 なんで、ノーブラで戦ってやがるんだあいつは。
 いや、ちょっと前まで男性体だったのが女性体に変身したんだから、ブラジャーとかつけてたらそっちの方が嫌だが、これでは目のやり場に困ってまともに戦えん。
 それ以前に、ちょっと前までは女の裸を見ても平静でいられたのに、ドドリアとの一件以来、女の体の一部分が気になってしょうがない。

 アホなことを考えている間にも、ザーボンの攻撃で俺の体にダメージが蓄積していく。
 気を探る能力を覚える前なら、胸に目をやらないように気をつければなんとか戦えたのかもしれないが、今の俺には目を閉じようが戦闘服の上からだろうが、ザーボンの胸が柔らかく形を変え、右に左に上に下にダイナミックに弾んでいるのがわかってしまう。
 戦闘中に、触ったら気持ちいいだろうなとか、そんなことを考えてるとか、もうダメかも知れんね。

「なんだ。私の胸が気になるのか?」

 ばれたーっ!!

「戦うことにしか興味がないと思っていたが、いつの間にかそちにら興味を持つ歳になっていたか。なんなら触ってみるか?」

 そんな事を言って、胸の下で腕を組み両の乳房を持ち上げてみせるザーボン。
 くっ、心揺れる自分が憎らしい。

「私の胸は、キュイのとは一味違うぞ。なにしろ人妻だからな」

 な、なんだってーっ!!

 そんな言葉の間も、ザーボンの攻撃は停滞を見せず、驚愕のあまり動きが止まった瞬間の下腹にめり込んだ拳に俺は仰向けに倒れることとなる。

 地に横たわり、空を見上げることになった俺は、ここまでだなと冷静に、そう思う。
 考えてみれば、ザーボンの変身を知らなかった時点で俺の計画は最初から破綻していたのだ。
 俺の気を探る能力が完全に開花したのは、キュイやドドリアとヤっている間のことで、それがなければ戦闘力で大きく上回るザーボンに勝つなど不可能であったろう。
 そして、気を探れる今は、その能力ゆえに人妻の色香を遮断できなくなっている。
 もう、どうしようもないのだ。
 負けを認めた俺は、体から力を抜くと大きく深呼吸をした後で目を閉じた。



「どうやら、諦めたようだな」

 男の声が耳に届く。
 ザーボンの奴、男に戻ったらしいな。しかし、こんな珍妙な宇宙人と結婚したってのは、どんな奴なんだろう。
 腰に手を回され、体を持ち上げられる。
 間違いなく、男の筋肉質な腕だな。などと考えた瞬間、爆音が響き、俺の体は地面に落とされる。何が起こった?

「どういうつもりだ?」

 問う声に、何の話だろうと目を開けた俺は、両の手をザーボンに対して突き出したキュイと、足元のえぐられた大地を目撃する。

「ベジータは、渡さない」

 そんな宣言をする少女の顔は、絶対に勝てないとわかっている相手を前にしても、決して退くまいという決意が満ちていた。
 何考えているんだろうな。

「ベジータは渡さない、か。まったく、力ずくで言うことを聞かされているわけではないとは思っていたが、何を考えているのやら。
 で、どうしようと? ベジータを打ち負かした私に、お前が勝てるとでも思っているわけではあるまい」

 まったくだ。キュイじゃあ、変身してないザーボンにだって勝てないだろうに。

「そんなの知ってる。わたしじゃ、ザーボンには勝てっこないってことくらい、言われなくてもわかってる」

 顔を伏せ、自分の無力さを認めるキュイは、「でもっ!」と、顔を上げる。

「ベジータは負けない! あんたになんか負けてない!」

 何を言っているのやら。
 俺と同じことを思ったのだろう、ザーボンの顔が呆れたような表情になる。

「ベジータなら、とっくに私に負けてそこに転がっているだろう」
「そうね。だけど、ベジータは負けない。絶対に立ち上がる!」

 何を根拠に、そんな夢を見ているんだこいつは。

「だって、約束したから。ベジータは誰にも負けないって、そう約束したからっ!!」

 約束? いつ、そんなものしたよ?
 そもそも、顔を合わせると憎まれ口ばかり叩いてくるキュイと、俺が何かの約束をするなんてことがありえるのだろうか?
 なんとなく、キュイに目を向けて、泣きそうならいに怖いくせに、歯を食いしばって絶えている少女の顔を見て、そういえばと思い出す。



 それは、俺たちがまだ子供で、キュイは異相の宇宙人のマスクをつけていなかった頃の話。
 歳も戦闘力も近かった俺たちは、当時よく組み手をやっていた。
 もちろん、組み手は俺が連勝していたわけだが、一度引き分けたことがあった。
 その時に、キュイが言ったのだ。

「よーし、次は絶対にわたしが勝つんだから」

 いや、無理だ。
 そう思った俺は、口にも出しても、そう言った。
 俺にとってキュイとの組み手は鍛錬以上の意味を持たず、だから勝利するということにこだわりはなかった。
 だからこそ、引き分けたのだ。勝つ気で戦って俺が負けることなどありえないのだ。
 実際、その後も俺の連勝が続いたし。

 だけど、子供だったキュイには、俺の言い分など言い訳か何かに聞こえたらしい。
 だから、俺は言ったのだ。

「俺は、お前には負けないし、お前以外、ドドリアやザーボン、それにフリーザ様にだって負けやしない。戦ったら勝ってやるさ」

 もちろん、その当時の俺が自分の実力を過信していたというわけではない。
 フリーザはもちろん、ドドリアやザーボンと戦っても勝ち目がないことなど、理解していた。
 では、見栄を張って嘘を吐いたのかというと、それも違う。

「そりゃあ、今の俺の戦闘力じゃあ、あいつらには勝てないさ。でも、負けないことはできる。戦わなきゃいいんだからな。でも、いつか戦うときが来たなら、俺は絶対に勝つ。大人になったら、俺は今よりずっとずっと強くなるんだからな」

 それは、フリーザとの戦闘力の差が、絶望的なほどに大きく開いていると気づかなかった子供の戯言。
 そんなものを、俺はキュイと約束していた。



 懐かしい記憶を引っ張り出している間にも、キュイがザーボンに立ち向かい、しかし敵わずボロボロになっていた。
 くだらない約束を信じて、勝ち目のない戦いに望み傷つき倒れ、それでも何度でも立ち上がる少女をバカだなと俺は思う。
 もちろん俺はそんな約束のことを忘れていたし、キュイの方だって別にいまだに覚えていたというわけではないのだろう。
 ただ、フリーザたちに立ち向かい、約束を守っているかのようにドドリアや変身前のザーボンを超えた実力を見せつけた俺が、自分の目の前で倒される様を見て、唐突に思い出したというところなのだろうとは思う。

 だけど、

「バカは、サイヤ人の専売特許だ」

 上体を起こすだけで、全身に激痛が走る。
 立ち上がると、筋肉が悲鳴を上げて倒れろと俺に命令する。
 だけど、負けられないよな。逃げるのはありでも、ぶっ倒されて終わるような負けかただけはダメだ。
 そういう約束だからな。


 そうして、俺はキュイを背中に庇い、ザーボンの前に立った。



[17376] 大魔獣激闘 ベジータ
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/04/17 20:30
 前回までのあらすじ

 ザーボンに戦いを挑んだものの、無様にも敗北したベジータは、しかし自分のために傷だらけになっても戦う少女の姿にキュンとするのであった。
 エンディング分岐に『キュイルート』が発生しました。




「さあ、ニラウンド目の始まりだ」 

 パシリと、左の掌に右の拳を打ち付ける。
 それだけでも、体中の筋肉や関節が悲鳴を上げるが知ったことではない。

「今度は、ベジータか。まったく、そんな体で私に勝てるとでも思っているのか?」

 面倒だと言わんばかりのザーボンに、さあなと俺は答えてやる。

「勝てると思うかどうかは問題じゃない。俺は勝つ。それだけだ」

 その宣言を、虚勢とでも思ったかザーボンは苦笑する。

「まったく、サイヤ人という奴は……。次は、意識も残らないくらいに痛めつけるとしよう」

 そう言って、側頭に向けて蹴りだされた右足を、俺は左腕一本で止める。

「舐めるなよ。さっきのダメージがあるからといって、変身もしないで倒せるほど俺は弱くないぞ」

 そもそも、さっき立ち上がれなくなったのも肉体的なダメージよりも、精神的な敗北感によるものが大きい。
 心が折れていなければ、変身前のザーボンの攻撃を止めるくらいなら難しくはない。
 といっても、体にダメージが残っているのも事実で、今の体力では変身前のザーボンにすら勝てるかどうか怪しいんだが。
 ようするに、普通に戦って俺が勝つのは無理ということで、だから俺は策を練らなくてはいけない。
 俺の考えた策が当たるかどうか、それはまだわからない。だけど、他に俺が勝つ方法など思いつかなくて、だから最初から選択の余地などないのだ。

 とりあえず、俺の挑発は通じたらしく、ザーボンはその身を女身に変化させる。
 それによって上昇した戦闘力は、俺のそれを大きく上回り、ただでさえ低かった勝率をどうしようもないところまで下げてくれる。
 だけど、ゼロではない。ゼロではないなら、どうとでもなる。

「どうした。かかってこないのか?」

 そんな事を言うザーボンは、自分からは仕掛けてこない。
 さっきは、万全の体調だった俺に圧勝したのだ。
 満身創痍の俺になど、注意を払う必要を感じないのは当然であろう。
 それは強者としての余裕であるが、同時に油断でもある。
 俺は、そこに付け込む。

 戦闘力で勝る相手に勝つ方法はある。
 実際、地球人共は戦闘力でサイバイマンに劣っていたのに、それを倒したのだ。ついでにラディッツも。
 まあ、ナッパには勝てなかった辺り限界はあるのだろうが、それでも戦闘力の優位を覆すことは可能だ。
 重要なのは戦闘力のコントロール。
 見よう見まねな上に、使い始めて間もない俺に、細かいコントロールをする技量はない。
 だけど、できるのだから、使うまでだ。

 膝を曲げ、体を前のめりに倒す。
 それは、結局のところ立ち上がったのは、ただのやせ我慢で、体力の限界が来てしまったというふうに見せる芝居で、あまりにもあからさますぎて、ザーボンには見抜かれたのかもしれない。
 だけど、それでもいい。それが見抜かれても、次の行動までは予測できるはずがないから。
 曲げた右膝にエネルギーを集中する。肉体を強化し、瞬発力をあげる気と呼ばれるそれを、体内で爆発させる。
 限界を超えた爆発力を生み出した右足が、ブチリと音を立ててそれがもう使い物にならなくなったことを教える。
 足の裏が大地を踏み抜き、足跡を残す。
 そこから生み出された速度は、万全の時のそれを容易く凌駕する。
 だが、それでも変身後のザーボンには対応不可能な速度ではない。それもわかりきったことだ。
 だから、俺は前傾の姿勢を更に前に倒し、もはや後ろに流れる地面しか見えない体勢でザーボンの足元に迫る。
 頭がザーボンの足に激突したとしても、それを視認することが不可能な状況など、気を探ることを覚えた俺には何の問題もない。問題があるのは、相手側。

「なんだと!?」

 気づいたか。
 普段、常に男性体の姿でいたために、気づいてなかったであろう女性体の持つ特徴。
 無駄に大きな乳房に、足元の視界を妨げられているという現実は、気を探ることのできないザーボンには致命的な弱点になる。
 こんな事態を想定したことはないのだろう。一瞬どうするか迷ったザーボンは飛び上がり距離をとろうとするが、それをこそ俺は狙っていたのだ。
 一瞬の迷いが生んだ初動の遅れが、俺の伸ばした腕がザーボンの足首を掴むことを成功させる。
 足を掴まれたことは理解しても、それが視界の外で起こったことであれば、対応に迷いが生まれる。
 その迷いを俺は見逃さない。
 奴が次の行動を決める前に、俺は体を動かす。
 ザーボンの足を掴んだからといって、俺の体を前に進ませる勢いがなくなるわけではない。
 必然的に、ザーボンの足は後ろに引かれることになり、迷いの晴れない女の体はうつぶせに倒される。
 倒れたザーボンは、自分の体重と地面で大きな乳房をぐにょりと潰すことになるが、いまの俺はそんなものには惑わされない。
 まあ、そんな余裕がないだけなんだが。
 なんにしろ、今の俺にはザーボンの持つ人妻の色香はなんてものは通じないのだ。

 倒れた女の背を、俺の足が遠慮も容赦もなく踏みつける。
 傍から見れば、とんでもない極悪人の図に見えそうだが、まあ今に始まったことじゃないな。悪人じゃないサイヤ人なんていないし。
 もっとも、ザーボンと俺の戦闘力の差では、混乱させることはできても、大したダメージは与えられない。
 と言っても、それが目的の行動ではあるのだ。
 ザーボンが冷静さを取り戻せば、俺に勝ち目はない。
 そうでなくても、俺の体は限界だ。時間をかけていては勝てる目はなくなる。

 右手を体の横、胸の高さに構えて、そこに気を集中させる。
 それを、そのままに倒れているザーボンに放てば大きなダメージを与えられるのだろうが、それで倒せるとも思えない。
 自身のダメージを鑑みれば、この一撃で倒せなくては意味がないのだ。
 だから、更にその身に残る全ての気を右腕に集める。
 この一撃で決める。それだけを考える。他のことなど考えてやらない。
 一本だけで体重を支えていた左膝から力が抜ける。
 倒れた女にかぶさり、圧し掛かるにように、体を落とす。
 その瞬間、ザーボンが体を転がし仰向けになり、俺の姿を視界に入れる。
 ザーボンが拳を握る。
 寝転んだ体勢のままの動作だが、それでも俺を倒すには充分な威力を放つだろう。
 だが、俺は怯まない。
 当然だ。
 俺は、それを予測していたのだから。
 そもそも、残りカスの体力を集めたような攻撃だ。背中に打ち込んだのでは、戦闘力に勝るザーボンを倒せる道理がない。
 狙うのは、急所への一撃。
 それが決まれば俺の勝ち。
 向こうの攻撃のことは考えない。そんな余裕はないから。
 考えるのは、最後の一撃を入れることだけ。
 そんな覚悟が見て取れたのか、女の眼に脅えの色が浮かぶ。
 攻撃を捨てて、身を守ろうとした女の腕の間をすり抜けて、俺の残った全ての気を込めた右腕はザーボンの腹に激突し、そのエネルギーを開放した。

 さて、これで倒せてなかったら、もうおしまいなのだが。
 崩れ落ちる体をそのままに、そんな事を思いながら見たザーボンの目には光がない。

「やったか」

 ため息と共に吐き出した言葉の後、土の感触を味わうことになると思われた俺の顔は、ふにょんと柔らかく、しかし弾力もある何かに受けとめられる。
 なんだ? と柔らかく形を変えるそれの上で顔を動かしてみると、すぐ近くに意識のないザーボンの顔があることに気づく。

「なんだ。ザーボンの胸か」

 そう呟いた俺は、そのまま完全に体の力を抜いて、両の乳房の間に顔を埋める。
 なんというか、大きくて柔らかい感触は疲れきった体に心地よく、そのまま眠ってしまおうかという気になり、身を任せたくなる。
 ついでに、勝利の達成感に顔が緩み笑みの表情になる。
 それが、傍目には女の胸に顔を埋めてニヤニヤしているように見えるなどと思い至る余裕が今の俺にあるはずもなく。
 すぐに誰かの土を蹴る音に気づき、そちらを見ると、なんか顔を真っ赤にして怒り、走ってくる途中のキュイと目が合った。

「この、人を心配させておいて、スケベぇーー!!」

 そんな、なんだかわからない叫びの後、全身に強い衝撃をうけて俺は意識を失った。

◆◇◆◇◆

「よく食う奴だな」

 そんな、感心とも呆れとも取れる言葉に、人間一人くらいなら丸呑みにできそうな巨大魚の丸焼きを食べながら、そうか? と答える。
 いや、口にものを入れながらの返事だったので「ふぉうか?」という意味のわかりにくい言葉だったが。
 ちなみに、三匹目。

「俺たちサイヤ人は戦闘民族だからな。エネルギーの消耗が激しい分、大量の食料が必要になるんだよ」

 まあ、そこだけ聞けばもっともらしいんだが。
 と、白いビキニ水着を着て、桃色の髪を背中に流した垂れ目の女、ドドリアは思う。

「それなら、食べる量と戦闘力が比例しているべきじゃないのか」

 それなのに、戦闘力で十倍以上も上の自分よりよく食べるのはどういうことだ?
 とっくに食事を終え、指についた油などを舐めとるという、なんだか見ようによっては性的な行動をしながらのそんな当然の疑問に、ピタリと食事の手を止めたラディッツは、くるりと半回転すると、地面にのの字を書き始める。

 ああ、戦闘力が低いことを気にしてたんだな。

 思いつつも、別に悪いことを言ったななどと反省はしない。
 戦闘力至上主義とでも言うべき思想の蔓延するフリーザ軍では、弱い者に同情する心を持った博愛主義者など存在しないのだ。
 もっとも、ラディッツも実のところ、言われるほど弱いというわけではない。
 ただ単にベジータというフリーザ軍で十本の指に入る実力の戦士とチームを組んでいるために、比較され弱いのだと見なされているというだけの話である。
 そのことを、組織を取り仕切る側の人間であるドドリアは、もちろん知っていたが、それを言って慰めようとも思わない。泣かれると、うっとおしいし。

「それにしても、ベジータとキュイはまだ帰ってこないのか」

 ちょっと偵察に行くと言って、そのまま中々帰ってこない二人は、どうしたのだろうかと考える
 まあ若い男女なのだから、どこか物陰でしっぽりずっぽり励んでいるとも考えられるわけで、それなら自分が文句を言う筋合いでもないのだろうが、フリーザにでもうっかり遭遇してしまった可能性を考えると、ちょっと心配になってくる。
 だからといって、探しに行くのもなんだしなと見上げた視界に、意識のない誰かを抱えて飛ぶ誰か。

「噂をすればってやつか」

 呟き、降りて来た少女を見て、おや? と思う。
 おかっぱ頭の少女は、右手に抱えていた男を地面に置くと、次に十歩ほど歩いて左手に抱えていた女を降ろす。
 男の方は、なぜかボロボロになっているが、ベジータだとわかる。
 しかし、女の方は誰なのだろう。
 見覚えのない顔というわけでない。
 むしろ、見飽きたと言ってもいいくらいに見覚えのある顔ではある。
 だが、自分の知っている相手は男であり、性別が違うのだ。

「誰だこいつ? あと、ベジータはどうして気絶してるんだ?」

 そんな当然の疑問に、なぜか少女は焦った様子で目を逸らすので、どうしたものかと意識がない様子のベジータを見て、次に女を見る。

「なんか、ザーボンに似てるな」
「まあ、ザーボンだからね」

 少女の答えに、ドドリアは頭上に疑問符を浮かべる。
 自分やフリーザやキュイが女だったのだから、実はザーボンが女だったとしても不思議はない。
 とは思わない。
 自分たちは、偽装のためのマスクやら着ぐるみやらを使っていたが、ザーボンはそんなものを使っていなかったのである。
 例えば胸のふくらみを誤魔化すだけなら、それでも問題はないが、肩幅やウエストのくびれ。喉仏の有無や、男女の違いから来る顔立ちの微妙な差異などは、簡単に誤魔化せるものではない。
 さて、どういうことかと考えていると、いつの間にか立ち直ったらしいラディッツが、隣に来て女を見下ろし口を開いた。

「あれ? こいつ、ナッパの嫁さんじゃないか?」

 その言葉に、たっぷり一分は時間が止まった。

「どういうことっ!?」

 キュイに胸倉を掴まれ、ガックンガックンと頭を揺らされたラディッツは、即座に意識を低迷させるが、それで許すほどキュイの驚きは軽いものではない。

「さあ、今すぐ話すか息の根が止まってから話すか、好きなほうを選びなさい」
「落ち着け」
「だってだって、この人がナッパのお嫁さんとか、一体どういうことなのよ。サイヤ人は、20年以上前に女がいなくなってから全員独身でしょ。そうじゃなきゃだめなの。ベジータも独身で童貞なの」
「前の方は、同意見だから落ち着け。その調子で揺さぶってたら、話を聞くどころの話じゃないだろう」

 そう言って目を向けた先には、すでに意識を失ったらしく、白目を剥いて口の端から涎をたらすラディッツの姿。
 流れた涎が、胸元を掴む手に垂れかけて、「きゃっ、汚い」と可愛く声を上げて投げ捨てる少女を、酷い奴だななどとドドリアは思う。口には出さないが。
 なんにしろ、別に怪我をしたわけでもないのだから、冗談みたいな回復力を持つサイヤ人なら、すぐに目を覚ますだろうと待つこと数分。
 案の定、介抱するまでもなく目を覚ましたラディッツに、二人は先の言葉について質問をする。

「いや、だからこの女ナッパの嫁さんだろ。前に結婚写真とか見せてもらったし」
「写真?」
「ああ。あいつ、ああ見えて愛妻家なんだよな。写真をいつも持ち歩いて、仕事に行くときなんか『おれ、この戦いが終わったら奥さんに手料理を振舞うんだ』とか言ってるんだよな」
「それは……」
「なんで、まだ生きてるのかしら」
「え? なんで?」
「いや、それは置いとけ。というか、混乱してきた。一度話を整理しよう」

 まずは、とドドリアはキュイに顔を向ける。

「お前がベジータと一緒に行ってから何があったのかを説明しろ。

◇◆◇

「なるほど。つまり、この女はザーボンが変身したものだったのか」

 広い宇宙には、変身して戦闘力を高める種族も少なくはないわけだが、自分の相棒がそれだとは知らなかったなとドドリアは思う。
 まあ、ドドリアの方だって、実は自分は着ぐるみを着た女だなんてことを教えていないので、お互い様なのではあるのだが。

「それで、変身してパワーアップしたザーボンを、ベジータがなんとか倒したものの、自分も力尽きて倒れた」
「うん」
「そして、倒れこんだ先がザーボンの胸の中だったから、渾身のエネルギー弾で吹っ飛ばしたと」

 そんな確認のための言葉に、キュイは身を縮こませる。
 まあ、そんな理由で満身創痍の相手を吹き飛ばすなど、褒められた話でないことは自分でも理解はしているのだろう。
 だからと言ってキュイを責める気はドドリアにはない。
 文句をつけることに意味など無い。
 なんといってもキュイは、若い娘なのに戦うことしか知らないのだ。多少、自制心に乏しくても仕方がないと言えよう。

「それで、ほっておくわけにも行かないから二人とも連れて帰ってきたら」

 と、ラディッツを見る。

「ザーボンがナッパと結婚していることが判明したと」
「んー。確かに、この女はナッパの嫁さんだけど、本当にザーボンなのか?」
「そうじゃなきゃ、そもそもこの星に来ている理由がないだろ。て言うか、顔だってそっくりだろうが」
「そりゃ、そうだけどさ」

 納得がいかないというように、首を揺らす。

「オレとしては、ナッパが結婚してたという話の方が眉唾なんだがな。そもそも結婚したサイヤ人がいるなんて聞いたこともない」
「そりゃ隠してたしな」
「そうなのか?」
「ああ。俺が知ったのも偶然だったし、口止めもされて……」

 ピタリと動きが止まったラディッツに、ドドリアはため息を吐く。

「わかった。オレたちも、黙っててやるから続きを話せ。な」
「絶対だぞ!! 絶対に言うなよ!! バレたら俺はナッパに殺されるんだからな!!」

 泣きそうな顔で自分より身長の低い女性の肩を掴んで懇願している姿が、なんだか別れ話をされて必死によりを戻そうとしている甲斐性なしの旦那みたいだなぁなどとキュイは思ったが、口には出さなかった。

「わかったから続き」
「ああ。で、誰にも言わないって約束したら、今度は事あるごとに嫁さん自慢をしてくるようになってな。それでまあ、ナッパの嫁さんの顔とかバッチリ覚えちまったってだけの話だ」
「なるほど」

 ふむ。と、ドドリアは空を見上げる。

「どうするの?」

 そんなキュイの疑問に、どうもしないとドドリアは答える。

「考えてみれば、ザーボンが女に変身しようが、ナッパと結婚してようがオレたちには関係ない話だ。ザーボンをどうするかについても、ベジータに任せるべきだろう」
「でも、ベジータは、このまま永眠しそうな大怪我してないか?」

 指で突いてみても、うめき声すら上げないベジータを見下ろすラディッツの言葉に、キュイが申し訳なさそうな顔になるが、それを慰めていられる余裕すらなさそうな重傷であったりする。

「まあ、このままベジータに死なれても困るし、メディカルマシーンを使おう」
「ん? 惑星フリーザに帰るのか?」
「いや、オレたちがフリーザ様と一緒に乗ってきた宇宙船に付属しているのをこっそり使おう」
「それは、大丈夫なのか? フリーザ様もいるだろ」
「なせばなる。なんとか見つからないように頑張れ!」

 そう言って、ドドリアはキュイを見る。

「わたし?」
「そうだ。人数が多いと見つかりやすくなるだろ。お前が責任を持ってベジータをメディカルマシーンまで連れて行ってやれ」

 言われ、キュイは傷つき倒れたままのベジータに目をやった後、うんと呟き握りこぶしを作って気合を入れる。

「わかった。じゃあ、言ってくるね」
「おう。頑張れ」

 そんな応援の言葉を受け、キュイはベジータを抱き上げてフリーザの宇宙船を目指して飛ぶのであった。お姫様抱っこで。



[17376] ベジータ・ストライク 天からの逆襲
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/04/23 20:28
 前回までのあらすじ

 傷つき力尽きたベジータを救うため、メインヒロインのキュイは、危険を顧みず彼をフリーザの宇宙船にあるメディカルマシーンへと運ぶのであった。
 そして、完治したのでさっさと、脱出した。



「にしても、不覚をとったものですね」

 空中に浮かぶ座布団に正座する矮躯の上司の言葉に、青年は申し訳なさそうな顔になる。

「いえ。別に責めているわけではないのですよ。ようは、それだけベジータが強くなったというだけのことなのでしょうからね」

 そんな事を言うフリーザは、本当に楽しそうな顔をしていて、確かに叱りを受けることはなさそうだなとザーボンは思う。
 ただ、自分が出て行く前は機嫌が悪かったはずのフリーザが何故だろうと考える彼は、さっき目を覚ましたばかりで状況がいまひとつ理解できていない。

 ベジータと戦い、変身してパワーアップしたにもかかわらず、敗北した彼をここに運んできたのは、彼と同じくフリーザの配下であるアプールという名の宇宙人である。
 それは、治療が終了した後のベジータたちを逃がすための囮として使われただけなのだが、そんなことは本人も知らないことだ。
 ベジータの仲間と思われる女に気絶させられ縛り上げられて、しばらく放置されていたと思ったら、今度は事情を知らされることもなくザーボンそっくりの女をフリーザのところ運べと言われたり、それが実はザーボン本人の変身した姿だったなどと知らされて、一番混乱しているのは彼なのかもしれない。
 そんなわけで、混乱する両者を置いてけぼりにしたまま、上機嫌なフリーザは言う。

「そうそう、言ってませんでしたね。まもなく、ギニュー特戦隊が予備のスカウターを持ってナメック星に到着するそうですよ」

 その言葉に、ザーボンの顔からは血の気が引く。
 つまりは、それがフリーザの機嫌がいい理由であったのだ。

◆◇◆◇◆

 軽く握った拳に、これまで感じたことのないほどのパワーがみなぎっていることがわかる。
 突き出す拳が空を裂き、拳圧の作る風が海を割る。

「凄い……」

 自分でも思った言葉を、キュイが口にする。
 ああ。本気で凄いな。サイヤ人は死にかけて蘇るとパワーアップするって話は聞いていたが、ここまでとはな。
 地球に行った時も死にかけたが、あの時は気のコントロールでのパワーアップに目が行ってたから気づかなかった。
 この調子で何度か死にかければ、今以上に強くなれると思うと試したい気持ちになってくる。
 やらないがな。
 死にかけるということは一歩間違えれば死ぬということで、異常なほどに生命力の高い俺たちサイヤ人でも、瀕死の状態になればそのまま死んでしまうことの方が多いのだ。
 今のままでも、フリーザ以外になら負けない自信があるし、瀕死からの復活によるパワーアップを多少繰り返したところでフリーザに勝てるほど強くなれるとは思えない。その前に、本当に死ぬのがオチだ。
 ならば、バカなことを考えていないで、今の戦闘力でフリーザを出し抜く方法を考えるべきだろう。

「というわけだが、考えはないか?」

 とりあえずラディッツに丸投げしてみると、「簡単に言うな」と返ってきた。
 雑魚のくせに口答えとはいい度胸だ。ちょっと教育してやろうか。
 ボキリと指を鳴らしてやろうとしたところで、「ただ、ちょっと気になることがある」と言ってきた。なんだ?

「スカウターで、一万以上の奴の位置だけを拾ってたんだが、どうもおかしいんだよな」
「というと?」
「まず、ここにベジータとキュイとドドリアがいるだろ」

 それでと、ラディッツはある方向を指さす。

「あっちには、フリーザ様の宇宙船が有って、戦闘力の反応が二つある」
「フリーザとザーボンだな。それが、どうかしたのか?」
「いや、問題はもう一つ、というか二つ反応があることなんだよな」
「なに?」
「ほら、あっち」

 と、指さしたのは、フリーザたちのいる場所とは、まったく別の方向。

「二つ反応があるんだよな。それで、一つは動いてなくて、もう一つは凄いスピードでこっちの方に飛んできてるんだけど何者なんだろうな?」

 なるほど、確かにそんな反応があるな。
 スカウターは壊れる可能性があるからとキュイに使わないように言ってから、気を探って強さを調べてみる。
 って、なんだこの戦闘力は。

「どうしたの?」

 わずかに動いた俺の表情に気づいたのか、キュイが聞いてきた。

「二つの戦闘力を探ってみたんだが、どうも気になる」
「戦闘力を探った?」

 今度はラディッツが問いかけてきた。
 そういえば、気を探る能力についてキュイにしか話してなかったかな?
 とりあえず、地球で覚えたスカウターいらずの能力だと簡単に説明をしておいて、話を続けることにする。

「この二つの戦闘力だが、こっちに飛んできてる方はキュイより弱く、もう片方は今の俺と同等の戦闘力だ」
「え?」
「何?」
「そんなバカな!」

 キュイ、ラディッツ、ドドリアの順に驚愕の声を上げる三人。やっぱり驚くよな。
 全宇宙規模で活動するフリーザ軍にすら、一万の戦闘力を超えるものは少ない。
 もちろん、戦闘が高いことでも有名なナメック星人であれば、そういうものがいても不思議ではないが、それでも今の俺と同等、つまりはドドリアやザーボンを凌ぐほどの戦闘力の者が存在するなどありえない。
 なにしろ、フリーザ軍内ですら、二人を超える戦闘力の者などフリーザ本人を除けば、突然変異で生まれた異能の戦闘力を持つ五人組しかいないほどなのだ。
 いくらナメック星人でも、そんなレベルの者が存在しているはずがないし、いれば噂にくらいはなっていていいはずである。
 もっとも、その辺りの考え方はフリーザ軍の戦力を過信しすぎているだけなのではないかという気もするが。

「まさか! カカロットかっ!!」

 急に声を上げ、よしっ! と飛び立とうとするラディッツをとりあえず叩き落とす。

「何をするんだベジータ。俺には、カカロットに兄の偉大さを教え込んで、兄チャマと呼ぶよう教育するという使命があるのだ」
「落ち着け。あと、お前は偉大じゃないし返り討ちにあうだけだから教育もできん」
「う……。しかし、男には勝てないとわかっていてもやらねばならない時が……」
「心配しなくても、それは今じゃない。あと、どっちの戦闘力もカカロットじゃない」
「そうなのか?」
「まあな」

 別に確信があるわけでもないが、間違いはないと思う。
 俺が身につけた気を探るという能力は、ただ相手の強さを測るだけでなく、個々人や種族の持つ特徴をも把握することができるらしいのだが、それで判断するに、そいつらからは俺やラディッツとは違った気配を感じるのだ。
 いくらカカロットが変わり者のサイヤ人でも、実の兄であるラディッツとまったく違う気配だなどということはあるまい。
 というか、大きい方の気配は信じ難いことにナメック星人臭いんだがな。

「カカロットじゃないなら何者なんだ?」

 俺に聞くな。

「見慣れない宇宙船に乗ってきた二人組がいたって話がなかったっけ。そいつらじゃないの?」

 おお。よく、そんな話を覚えていたなキュイ。俺は、すっかり忘れてたぞ。

「そりゃあ、ないだろ」

 なぜだドドリア。

「そいつらの戦闘力は1500だったはずだし、多分スカウターをぶっ壊してくれたナメック星人を皆殺しにしてたときに、オレに蹴りを入れて、ナメック星人のガキを連れて逃げた奴らだ。戦闘力が違いすぎるし、ベジータみたいに戦闘力をコントロールして隠してたにしても、そんなに強けりゃフリーザ様はともかく、一人で追いかけてたオレから逃げる必要はない」

 いや、ナメック星人じゃない方はお前より弱いから逃げる理由はあるぞ。っていうか、俺が襲撃をかけたときに一人でいたのには、そういう事情があったのか。

「参考までに聞くが、そいつらはどんな奴らだった?」

 とりあえず、特徴を聞いてみたら間違いなくカカロットの息子と仲間の地球人だった。
 うーむ。となると、後で殴りに行くのは確定として、今はどうするべきか。

「こっちに飛んで来てる方を見に行ってきたらどうだ? 敵だとしても、キュイより弱い相手ならベジータが負ける心配もないだろ」

 まあ、そうだな。
 しかし、こいつカカロットじゃないとわかったら、自分も行こうって気がまったくなくなったな。
 別について来いとも思わんが。役に立つわけでもないし。

「じゃあ、行くか」
「そうね」

 顔を向けて声をかけた俺に、キュイが当然だという顔で頷く。
 そして、ドドリアがニヤニヤと笑う。

「ほーう。キュイにだけ、そういうことを言うわけだ」
「なにか問題でもあるのか?」

 言ってやったら、つまらなそうな顔で見てきた。なんだ?

「あー、まったくツマラン男だ。ちょっとはキュイを見習え」

 言われてキュイを見ると、何故だか両頬に手を当てて、キャーキャー言ってる少女が一人。
 ホントに、わからん奴らだ。

「いいから行くぞ」
「うん!」



 俺たちがなし崩しに拠点にしていたナメック星人の村跡の方向に向かっていたと思われた何者かは、当たり前の話だが別の場所を目指し飛んでいた。

「で、結局地球人だったわけだ」
「そうなの?」

 尋ねてくるキュイに頷いてみせた俺は、まだこちらに気づいていないハゲチビの地球人に顔を向けて、さてどうしようかと考える。
 後で殴りに行こうとは思っていたわけだが、こんなにすぐだと気分が乗らないというかなんというか。
 とはいえ、どういうわけかドラゴンボールらしきものを持って飛んでいるのだから見逃す選択はない。

「それじゃあ、ぶん殴ってドラゴンボールを取り上げるとするか」

 左手を右肩にあて、右腕をブルンブルンと回し、首をコキリと鳴らして呟いたところで、突然にハゲチビが速度を上げる。

「おや?」
「なんか、こっちに気づいたみたいな急加速ね」

 いや、こっちに気づいたんだよ。
 あっちは、スカウターを使わなくても俺たちの位置がわかるからな。俺も集中すればわかるが。

「行くぞ」
「うん」

 告げて飛ぶ俺の後を、キュイが追ってくる。
 あのハゲチビも信じられないほどに戦闘力を上げたが、それでも俺はもちろんキュイにも遠く及ばない。
 追いつくのに、それほどの時間はかからないだろうという安易な予測は、しかし予想だにしないイレギュラーの登場によって覆されることになる。
 というか、この空高くから感じる五つの異常に高い戦闘力はなんだ? ハゲチビも気づいたらしく、チラチラと空に顔を向けてるし。
 なんか、かなり嫌な予感がしてきたぞ。

 その予感が正しいと気づくのは、少し後の事。

◆◇◆◇◆

 ベジータがドラゴンボールをもった地球人を見つけた少し後の事。

 その日、五つの流星がナメック星に落ちた。
 それが、ギニュー特戦隊と呼ばれるフリーザ軍の特殊部隊を乗せた個人用宇宙船だと知る者たちの、ある者は歓喜し、ある者は恐怖する。

「ようやく、来てくれましたか」

 宇宙の帝王を自称するフリーザは、五つの宇宙船に笑みを向ける。

「ついに、来てしまった」

 フリーザの側近を務めるザーボンは、頭を抱える。

「さてと……」

 フリーザ直属の戦士であるアプールは、懐から取り出したハチマキをキュッと頭に締めて、戦闘服の上からハッピを着て、ペンライトなんかを取り出したりする。

「よしっ!」
「何が、よしっ! だ」

 ザーボンが蹴りを入れるが、蹴られたアプールはまったく気にしない。
 そんな間にも宇宙船の扉は開き、五つの人影が姿を現す。

「リクーム!!」 

 オレンジ色の燕尾服に身を包み、前分けにした若草色の髪を両方の耳の下で結んだ少女が、にこりと笑った顔の横で、人差し指と中指を立てたポーズをとって、ウインクする。

「バータ!!」 

 こちらは青い燕尾服を着た茶色の髪ショートカットにしたボーイッシュな少女が、中性的な顔をキリリと引き締めて名乗る。

「ジース!!」 

 金髪を膝にも届かんばかりに伸ばしている赤いドレスの少女が、手櫛で髪を長しながらクールに流し目を送る。

「グルド!!」 

 深い緑色のドレスを着て、金髪を両サイドでまとめてツーサイドテールにした背の低い少女が、元気良く笑顔で右拳を掲げて宣言する。

「ギニュー!!」

 銀髪を背中に流し、大胆にも豊満な胸がこぼれそうなほどに大きく胸元の開いた黒いドレスを着た女が、首の後ろに両手を回し乳房を強調するポーズをとる。

「みんなそろって ギニュー特戦隊!!!!」

 そう。彼女たちこそが、フリーザ軍広報のプロデュースにより、全銀河にその名を轟かせる戦うアイドルグループ、ギニュー特戦隊である。

 なお、今回ここにやってきたことにより、彼女たちのスケジュールに狂いが生じ、呼び出しをかけたフリーザの側近であるザーボンが後で関係各所に頭を下げまくることになったり、スケジュール調整に書類仕事が得意なナッパが何故か手伝わされたりするのだが、それはちょっとだけ先の話である。



[17376] 泣くよベジータ
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/04/29 19:56
 前回までのあらすじ

 なんだかんだで、死にかけてパワーアップしたベジータは、ドラゴンボールを持った地球人を発見したので、取り上げてやろうと思うのであった。
 同じ頃、フリーザ軍最強の部隊ギニュー特戦隊がナメック星を訪れていた。



「よう。前に会ってから、あんまり時間も経ってないのに、随分と力をつけたじゃないか」

 思いつく限り、最高のフレンドリーさで話しかけたやったのに、なぜだかビビッて後ずさるハゲチビ。
 何故だ?

「べべべ、べジータ。なんでお前が、この星に!?」

 それは、こっちのセリフなんだがな。
 いや、ラディッツの予想を信じるなら、死んだ仲間を生き返らせるために来たんだろうが。

「そんなことはどうでもいいから、さっさとそのドラゴンボールよこしなさいよ」

 そして、俺が何を言うまもなくそんなことを言い出すキュイ。なんという頼もしさだ。

「お、女の子?」
「そうよ、女よ。だから何?」
「いや、なんで女の子がベジータと一緒にいるんだよ」
「何よ。わたしがベジータと一緒にいちゃ、悪いって言うの?」
「いや、そんなことは……」

 ぼそぼそと「俺には彼女がいないのに、なんでベジータなんかに」とか、ハゲチビが言っているが、何か勘違いをしてないか、コイツ。
 まあ、どうでもいいんだがな。

「くだらないことを話してないで、さっさとドラゴンボールをよこせ」

 空から降りてきた五つの戦闘力が、フリーザと合流したみたいだし、こんなことをやってる間にも奴らがこっちに来たらどうするよ。
 チラリと、フリーザたちのいる方向に顔を向ける俺に気づいたのだろう。ハゲチビが顔色を変える。

「げっ。あの、新しく来たデカイ気もお前らの仲間なのか?」

 どうなんだろうな?
 同じフリーザ軍の同僚だけど、このドラゴンボール争奪戦では敵だということになるが。
 もっとも、

「どっちにしろ、お前の敵なのは確かだな。会えば、確実に殺されるぞ」
「うわーっ、やっぱりー!!」

 なんか、のた打ち回り始めたな。

「面白いから、このまま見てようか」

 実に魅力的な発案だな、キュイ。確かに、人の頭よりも大きいオレンジ色の球体を抱きしめて、ゴロゴロ転がり回って絶叫を上げるハゲチビは面白い見世物だと思う。

「が、時間がないからな」

 ゴロゴロ転がるハゲチビを蹴ると、サッカーボールのように吹っ飛んで、ドゴンッとその辺の大岩にぶつかりめり込む。

「正気に戻ったか?」
「ああ、うん。でも、もーちょっと優しくして欲しかったな」
「甘えるな。俺だって、お前の味方じゃないんだからな」
「そりゃそうだけどよ」

 ぶつぶつ文句を口にした後、「じゃあ、あの連中が来る前に俺は逃げるから」とハゲチビは飛び立つ。
 そして、俺は人の頭くらいの大きさの岩を持ち上げる。

「待てぃ!」

 投げつけた岩は、ハゲチビの後頭部に命中し、見事に撃墜する。

「うん。我ながらいいコントロールだ」
「何しやがるーっ!!」

 おお、元気がいいな。一万を超える戦闘力は伊達じゃないというところか。

「済ました顔してるんじゃねえ! 死んだらどうする!!」
「どうって、別に」
「わたしたちは困らないわよね」

 なあ、と顔を見合わせる俺とキュイ。

「ああ、そうでしょうともよっ!」

 畜生っ! と泣き言を吐いて走り去ろうとするハゲチビ。
 よっこいしょと、自動車くらいの大きさの岩を持ち上げる俺。

「だから、待てと言うに」

 放物線を描いて飛んだ大岩は、ドンッと音を立ててハゲチビを下敷きにする。

「殺す気か……」
「別に、そんな気はないぞ。死んでも構わないとは思ってるが」
「ひでぇ……」
「そもそも、ドラゴンボールを持って逃げようとしなければ、俺も見逃してやってるんだが」

 今回に限ってはという注釈がつくがな。

「けどよ。ここで、お前らにドラゴンボールを渡したんじゃ、俺たちは何のためにナメック星まで来たってんだよ」

 知るか。てか、俺たち?

「そういえば、なんで一人でいるんだ? お前、確かカカロットの息子と一緒なんじゃなかったのか?」
「げっ、なんでそのことを」
「俺は何でも知っている。例えば、貴様の目的が、俺たちの殺したナメック星人を蘇らせて、地球のドラゴンボールを復活させることなのもな」
「そんなことまでっ!!」

 おお、図星か。ラディッツの予想が当たっていた。

「それがわかっているなら、見逃してくれても……」
「だが、断る。俺としては、ぜひともそいつを渡してもらわねばならん」
「こいつを渡したら、見逃してくれるのか?」
「もちろんだ」
「…………」

 しばし考え込んだハゲチビは、何かを決意した顔になる。

「お前らは、このドラゴンボールを何に使うつもりなんだ?」
「誰にも使えないように、ぶっ壊す」
「……なんで?」
「いろいろと事情があってな」

 遠い目をしてみたりする俺だが、すぐにそんな場合ではないことを思い出す。

「そういうわけだから、渡さんというのなら今すぐ貴様ごと消し飛ばしてやってもいいと考えている」

 いやもう、さっさとそうしてしまおうか?
 そんな思考が頭の片隅をよぎった時、ハゲチビが慌てた様子で口を開く。

「わかった、渡す。渡すから、その前に」
「その前に?」
「助けてくれ」

 大岩の下敷きになったハゲチビは、力なくそんなことを言うのであった。



「見つけたわよぉ、ベジータぁ」

 地平線の彼方にいても聞こえるのではないかと思えるほどに、良く通る声が俺の耳に届いたのは、ハゲチビ地球人の上に乗った大岩を拳の一撃で砕いた直後である。
 声の方向に顔を向けて視界に入るのは、切り立った崖のように見える高台に立ち、それぞれにポーズをとった五人の女たち。

「しまった! ハゲチビからドラゴンボールを取り上げるのに集中してて、こっちの警戒を忘れてた」
「うん。ベジータって、ホントにサイヤ人よね」

 この女は、何を当たり前のことを言ってやがるのか。
 いや、そんな場合じゃないな。

「あの女どもは」
「ギニュー特戦隊ね」

 やっぱりか……。

 ギニュー特戦隊。
 それは、フリーザ軍で最強を誇る戦うアイドルたち。
 本来戦うことにしか興味を持たないサイヤ人にまで美しき戦乙女たちと呼ばれ、多くのファンを魅了しているのだから、その人気の高さは半端なく、更に言えば芸能方面に興味のない俺でもその名を無視できないほどに奴らの戦闘力は高い。
 はっきり言って、一対一でも俺が勝てる相手ではなく、仮に勝てたとしても全宇宙のファンたちにリンチされること確定な恐るべき連中だ。

「ねえ、ベジータ。わたし、どっちを応援したらいいのかな?」

 キュイ、お前もか!!
 つまり、なんだ。俺は、自分より強い奴ら五人を相手に、たった一人で立ち向かわなければいけないということか?
 特戦隊のファンの数を考えれば、敵は二億四千万、挑むは八匹の狼たち!! より絶望的な物量差だが。
 いや、地球人のハゲチビがいたか!?

「かっ、可愛い!」

 ダメだ! 鼻の下伸ばしてやがる。
 敵は五人。味方なし。役立たずが二人。どうする俺?
 いや待て、考えろ。自分の目的を思い出せ俺。
 俺の目的は、フリーザの目的を阻止すること。つまりは、ドラゴンボールを集めることが不可能になればいいわけで、別に無理に奴らと戦う必要はない。

「破壊しろーっ!!」

 俺の叫びに、自失していたハゲチビは何を考えることできず、命令に従い右腕を振り上げる。
 その拳が、ドラゴンボールを砕かんとした瞬間、五人の女の一人、深い緑色のドレスを着て金髪を両サイドでまとめた小さな少女が口を開く。

「あたしねー。実は、男の子より女の子の方が好きなのー」

 語尾が間延びした、舌ったらずにも聞こえる少女の言葉に、たっぷりと一分は時間が止まる。
 そして、時間が動き出した時、ハゲチビの拳は空を切り、その手にあったはずの球体は、小さな少女の両手に抱えられていた。
 なんだ? なにが起こった?

「そういえば、聞いたことがあるわ。ギニュー特戦隊のロリっ娘グルドは、カミングアウトで時間を止められる能力があるって……」

 戦慄した顔のキュイの言葉に、俺は思う。

「いや、その能力はアイドルとしてどうなんだ?」
「アイドルだから、時間も止められるほどの衝撃を生み出せるのよ!」

 そりゃそうかもしれんが、なんだかなぁ。
 バカな会話をしている間に、五人の中で一番年長であろう銀髪の女が小さな少女から球体を受け取って、「あら?」と声を上げる。

「これって、フリーザ様の言ってたドラゴンボールじゃなぁい?」
「そうね。ベジータは、手に入れた一つは海に沈めて隠したと聞いてたけど、いつの間にか回収してたみたいね」

 赤いドレスの少女の答えは、実は正しくはないが、ここで訂正しようとは思わない。というか、したらバカだろう。

「あ、それは、こっちの地球人が持ってた奴で、ベジータが海に沈めたのは、まだ見つかってないわよ」

 バカがいたっ!!

「キュイーーーーっ!!」
「え? なに? どうして怒ってるの?」

 うおっ、自分が何を言ったのか理解してねえ!

「あらぁ、ありがとう。キュイ」
「え? わたしのこと知ってるの?」

 銀髪の女の言葉に、なにやら嬉しそうな顔になるキュイに、そして今度は青い燕尾服の少女が話しかけてくる。

「そりゃあ、君はフリーザ軍でも十本の指に入る最強の戦士の一人だからね。知らないはずがないよ。それに、ぼくたちのコンサートに来てくれたこともあるだろ」

 軽くウインクしてくる少女に、夢見るような笑顔でへたりと腰砕けになるキュイ。もうダメだな、こいつは。
 しかも、アイドルのコンサートに行ったりしてたのか、この女。

「ということは、次は海を探すのかしら? あたくし、嫌よ」
「服が汚れちゃうもんねー」

 オレンジ色の燕尾服の少女の言葉に、小さな少女が頷く。
 いい身分だよな、こいつら。

「じゃあ、わたしが……」
「お前は、もう黙れ」

 ていっと首の後ろに打ち下ろした手刀で、キュイの意識を刈り取る。

「随分ね。今はあなたの仲間でしょうに」

 ああ、今この瞬間以外はな。
 て言うか、お前まで非難の目を向けるなハゲチビ。

「で? お前たちの用事はこれで終わりか?」

 多分、違うだろうなと思いつつの言葉に、女たちはまさかと笑う。

「フリーザ様の、わたくしたちにした命令は、あなたの手に入れたドラゴンボールの回収ぅ」

 銀髪の女が、右手に持った球体を掲げ持つ。

「そして、イレギュラーの排除」

 赤いドレスの少女が、ハゲチビに目を向ける。

「ベジータについたキュイの拘束」

 俺にすら、反応できない速度で接近していた青い燕尾服の少女が、意識を失い倒れた少女の体を抱き上げる。

「終わり」
「なのー!」

 オレンジ色のの燕尾服の少女と、元気良く右手を上げたグルドが言う。
 って、ちょっと待て。

「俺のことはいいのか?」
「特別、どうしろとは言われてないよ」
「そうね。適当に遊んできていいとは言われているけど」
「遊ぶ?」
「そう。あたくしたち……」

「リクーム!!」 

 オレンジ色の燕尾服に身を包み、前分けにした若草色の髪を耳の下で結んだ少女が、左手を腰に当て、上げた右手は途中で肘を曲げ広げた手の甲を額に当てる。

「バータ!!」 

 こちらは青い燕尾服を着た茶色の髪ショートカットにしたボーイッシュな少女が、剣を構えるかのように右手の手刀を正面に構える。

「ジース!!」 

 金髪を膝にも届かんばかりに伸ばしている赤いドレスの少女が、笑顔で小首を傾げ、開いた右手の人差し指を頬に当てるポーズをとる。

「グルド!!」 

 深い緑色のドレスを着て、金髪を両サイドでまとめてサイドポニーにした背の低い少女が、両手を腰に当て、意味もなく誇らしげな顔で胸を張る。

「ギニュー!!」

 銀髪を背中に流し、大胆にも豊満な胸がこぼれそうなほどに大きく胸元の開いた黒いドレスを着た女が、前に出した両手の指を絡め、手のひらを前に出すポーズで、何気に二の腕で豊かすぎる胸をぐにゃりと歪める。

「みんなそろって ギニュー特戦隊!!!!」

 声をそろえての、宣言。

「は、あなたたちも知っているように、フリーザ軍最強の戦士たちの部隊よぉ」
「だけど、実戦に投入される機会はあまりないわ」
「なぜなら、ぼくたちはアイドルの仕事を優先しなくちゃいけないからね」
「だれど、あたくしたちは戦士」
「戦うのが好きなのー」
「だからね、あなたには期待しているのよベジータ」

 そう言うと、女たちはニタリと狂気を感じさせる笑みを顔に浮かべたのだった。



[17376] 逆境無頼ベジータ
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/05/02 19:03
 前回までのあらすじ

 地球人が手に入れたらしいドラゴンボールをカツアゲしようと考えたベジータだったが、そこに現れた美少女戦隊によって阻止されてしまう。
 なんやかやあってベジータはオデコ少女リクームと、ハゲチビ地球人クリリンはロリッ娘グルドと戦うことになるのだった。
 ギニュー隊長は、フリーザにドラゴンボールを届けに行きました。



「それじゃあ、始めようかしら」

 前わけにした若草色の髪の間から覗いた額をテカらせ、明るく笑顔で宣言する少女を見てこれから戦おうとしているのだと察することができる人間は少ないだろう。
 もっとも、気で相手の戦闘力なんが理解できるようになった今の俺には、相手の戦意が手に取るようにわかるわけだが。

 しかし、他に手がないものかと俺は考える。
 単純に戦闘力だけを見れば俺に勝ち目はないが、俺たちにフリーザとの間にある絶望的なほどの差はない。
 言ってみれば、変身したザーボンとの戦いの焼き直しのようなものだ。
 ザーボンと違い、デコ女の胸は致命的な死角を作ってしまうような大きさはないが、逆にこちらがそれに気をとられて隙を作る心配もない。
 勝算は充分にある。
 だが、こいつに勝てば、それで済むという話ではないのが問題だ。
 この場にいないギニューを差し引いても、特戦隊の数は四人。
 一対一を四度繰り返せばいいというのであれば何とかなるかもしれないが、おそらくそうはならないだろう。
 ギニューを除く奴ら四人の実力に、大した差はない。
 そいつらを一人倒しただけなら、まぐれだとでも思ってくれるだろうが、二人まで連続で倒してしまえば間違いなく奴らから油断はなくなり、次は二人がかりで俺を潰しにくるだろう。
 そうなれば、終わりだ。
 いくらなんでも、戦闘力で上回る相手を二人同時に相手して勝てると思うほど、俺は慢心してはいない。
 もちろん、負ければそれまでだから戦うのならば勝つ以外の選択肢はない。
 ならば、戦わず逃げればいいのかというと、それも上手くいくとも思えない。
 さっきキュイを拾い、今もその身を抱き上げている青い服の少女バータの移動速度は俺のそれを大きく上回る。
 逃げて逃げ切れるはずもなく、正面から戦うならともかく逃げてる背中から攻撃なんぞされてはたまったものではない。
 他の三人にだって、単純な移動速度じゃ敵わないだろうし、全員に追いかけられでもしたら事態は余計に悪くなるだけだしな。
 それ以前に、キュイを置いて逃げるのもどうかと思わなくもないが、ここは非常時だ。取って食われるわけでもなし、我慢してもらおう。

 それはともかく、勝ったら手詰まり。負けたら終わり。逃げるのは論外。
 さあ、どうする俺。
 考えろ。頭脳労働は自分の仕事じゃないなんて甘えたことを言ってられる段階じゃないぞ。
 この逆境を、どうにかして乗り越えるんだ。

「と言うわけで、ちょっとタイム」

 右手を前に出しての制止に、今まさにかかってこようとしていたリクームが、つんのめってすっ転ぶ。

「何なのよ。急に」

 顔を土で汚して怒鳴る姿は、アイドルとしてどうなんだろうと思いつつ、俺は時間稼ぎのための言葉を紡ぐ。

「いや、ちょっと考える時間が欲しい。ええと、あれだ。このまま戦っても俺に勝ち目はないから作戦タイムをくれ」
「そんなの、考えても考えなくても結果は同じじゃない」

 喧嘩とかそういうのとは縁がなさそうなキョトンとした顔で、勝利宣言する少女。
 なんか、ムカつくんだが。

「いやほら、結果はわかっていても多少苦戦したほうが面白いだろ。戦いってのは、相手に歯ごたえがある方が面白いもんなんだし」
「えー? あたくしは、戦うのが好きなんじゃなくて勝つのが好きだから、どっちでもいいかなって」

 この女……。
 いや、落ち着け俺。冷静さを失ったら終わりだ。クールになれ。

「お前は良くても、ギャラリーは違うだろ、な」

 言って指差す方向には、リクームの仲間の三人の少女たち。
 彼女たちの中の赤い服の少女、ジースが指差されたことが不快だったのか、少し表情を歪めつつも口を開く。

「そうね。久しぶりの戦いを譲ったのだから、一方的なだけじゃ見てて面白くないわね」

 よしっ!! 話に乗って来た。

「その点は、ぼくも同意かな。でも、あんまり待たされるのも困るかな」

 む。バータは、ちょっと厳しいな。
 しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
 この困難を乗り越えるための策を考える時間を作るために、更なる時間稼ぎの方法を考えるのだ。
 何か間違ってる気もするが、余計なことを考えている余裕はない。

「大丈夫か、ベジータ。なんか、凄い汗かいてるぞ」

 ああ、普段使わない頭をフル回転させてるんで、今にも知恵熱がでそうだ。
 まったく、本来敵のはずの地球人にまで心配されるとは、俺も焼きが回ったもんだな。
 ん?
 後ろに顔を向けると、さっき俺に声をかけてきたハゲチビ地球人が。
 そういえば、俺の後は、こいつがギニュー特戦隊のチビと戦わなきゃならないんだよな。うーん。

 ポクポクポク、チーン。

 閃いた。

「先に、こいつとグルドの勝負を片付けよう」
「ええ~っ!?」

 なんかハゲチビが驚いてるが、どうでもいいしシカトしよう。

「これなら、順番が変わるだけだから、待たされる心配もないだろ?」
「確かに」

 よし。バータも乗った。

「というわけで、頑張れ」

 ポンと肩を叩いて激励してやったのに、何故か顔を血の気の引いた蒼白に変えるハゲチビ。
 どうしたんだ?

「ちょっと待てよ!!」

 ん? なんだ? 今は、ちょっと気分がいいから、何でも答えてやるぞ。

「なんで、俺が戦わなきゃならないんだよ!」

 何を言うかと思えば、頭の悪い質問だな。

「文句なら、あいつらに言え。以上っ」
「以上っ。じゃねえだろ! どうして、俺が先に戦うことになってるんだよ!」

 そんなもの、俺があいつらと戦いたくないからに決まってる。

「まあ聞け。俺が地球に行った時、お前は戦闘力で圧倒的に劣っていたにもかかわらず、ナッパといい勝負をしていた。何をやったか知らんが、あれから更にパワーアップしたお前なら、奴らとだっていい勝負ができるはずだ」
「無茶言うなよっ! あの時は、俺一人で戦ってたわけじゃないし、それでも最終的には悟空が来てくれなかったらやられてたんだぞ」

 そういえば、あの時もそうだったように、この星でもこいつカカロットの息子と一緒にいたはずだよな。というか、そもそもカカロットは来てないのか?
 とりあえず、聞いてみるか。

「なら、仲間を読んだらどうだ? 戦闘力の差から考えて、カカロットの息子と二人がかりでもあいつらは文句を言わないと思うぞ」

 こいつ、気を上手くコントロールしてるから、本当は一万越えの戦闘力があるなんて知られてないだろうしな。
 知ってても、一万やそこらじゃ奴らの行動は変わらんだろうが。

「無理だよ。今の悟飯は俺よりずっと弱いんだから、あんな強い奴らとの戦いに引っ張り出せるもんか」

 なんか、おかしなこと言ってないか、こいつ。

「そういえば、前に戦ったときはお前とあのガキだとあっちの方が少し上だったよな。それにナメック星に来てからもほとんど互角の戦闘力だったはずなのに、それがどうして急に逆転したんだ?」
「俺、悟飯とは別行動してて、さっきまでナメック星人の最長老様と会ってたんだ。それで眠っている潜在能力ってのを開放してもらって物凄いパワーアップしたんで、それで悟飯も潜在能力を開放してもらえばベジータとだって互角に戦えるだろうと思ったから急いで合流しようと思ってたんだ」

 その前に、俺に会ってしまったと。
 間抜けな奴だ。
 しかし、ナメック星人にそんな隠し芸があったとはな。俺も、やってもらえばパワーアップできるのかね。そもそも、やってくれないだろうけど。

「もう一つ質問。カカロットは、どうしてるんだ? この星には来てないみたいだが」
「今、この星に向かってるところだよ」

 つまり、一緒に来なかったってだけの話か。ラディッツが聞いたら喜びそうな話だな。
 しかし、

「なんで、別々に来るんだ?」
「俺たちが出発した時点じゃ、悟空はお前にやられた怪我が治ってなかったんだよ」

 そういうことか。軟弱な奴め。
 となると、俺が今頼れるのは、このハゲチビだけか。

「いいか。よく聞け」

 両肩に手を置き、そこを掴む手に力を入れてやる。

「勝てとは言わん。そこまでは期待しない。だから、刺し違えろ。その命と引き換えにしてでもだ!」
「なに無茶言ってんだよ」

 無茶なものか。

「どのみち、負けたらお前の命はないんだ。だったら、勝ち目もないんだし、一人でいいからあいつらを道連れにしろ。俺のために」
「お前って、清清しいほどに自己中心的なやつだよな」
「よく言われる」

 主に、ナッパとラディッツに。

「できないとか言うなよ。無理なら、できる限り時間を稼げ。あっさり負けたりしたら、俺の手で念入りにぶっ殺してやるからな!」
「最悪だーっ!!」
「まだーっ!!」

 む。待ちくたびれたグルドが呼んでるな。
 堪え性のないガキだ。
 まあ、癇癪を起こされても困るしな。

「よし行け。死んでも負けるなよ!」

 バンッと背中を叩いてやる。

「ムチャクチャだ……」

 呟き、戦いに赴くハゲチビの背中からは、何故だか哀愁が漂っていた。



「では、始めっ!」

 ジースの戦闘開始の合図と共にハゲチビが気を開放し、その真の実力を顕にする。

「彼、戦闘力が一万を超えたよ」
「なんですって?」

 驚愕の声を上げる、バータとリクーム。
 それはいいのだが、何故こいつらは茶菓子を待ちだしてビニールシートに座り込んでくつろいで観戦してやがるのか。

「戦闘力が一万を超える戦士も、それをコントロールできる種族も珍しいのに、それを両方兼ね備えた相手に、こんなところで出会うなんて思っても見なかったわ」

 ポッキーを食いながら解説するなジース。あと、いま飲んでる紅茶はどうやって用意した。

「でも、あの程度じゃグルドには勝てないよね」
「そうね。でも、少しは楽しめるんじゃないかしら」

 むう。やはり、ハゲチビが勝てるとは考えんか。
 俺も同感だが。
 冷たいことを考えている間に、ハゲチビが両手に気を集め、それを放出する。
 ラディッツやナッパなら、その一撃で命を落とすであろう攻撃を、グルドは笑みを持って迎え、口を開いて言葉を紡ぐ。

「あたしに、女の子の良さを教えてくれたのは、バータなんだー」

 時間が止まる。

「ぐわーっ!!」

 いつの間にか、自分の真横に移動していたグルドに殴り飛ばされるハゲチビを、俺は見ていない。

「なに?」

 悪びれもせず、不思議そうに見返してくるバータは、ポテトチップを食べながらも、膝に乗せたキュイを手放さない。
 そういうことなのか?
 左手でポテチを口に運びながらも、開いた右手で意識のないキュイの顔を撫で回しているのも、そういうことなのか?
 なんか、キュイを置いて逃げると後でまずいことになりそうな気がしてきたぞ。

「なんで俺ばっかりーっ!!」

 ん? ハゲチビがやられたのか? もうちょっと頑張れよ。
 おお、マウントポジションでフルボッコにされてる。
 しかし、なぜ抵抗しない? グルドは他の奴らに比べれば戦闘力も低めだし、アイドルだけに実戦経験も少ないから、時間を止めるとかの能力を使ってない状態なら、もうちょっと戦えると思うんだが。

「無理だって。俺に女の子が殴れるわけないだろーっ!!」

 ハゲチビの叫びに、グルドの手が止まる。
 ああ、なるほどそういう事情があったのか。
 振り上げた手を止めたグルドは、ハゲチビに目を落としニッコリと笑って口を開く。

「ねー。お兄ちゃんってー」
「え、なに?」
「バカでしょー」
「ぎゃーっ!!」

 言葉と共に振り下ろされた拳が、ハゲチビに悲鳴を上げさせる。
 まあ、そうなるよな。
 普通に戦っても勝ち目のないような自分より強い相手に、女だからとか負け惜しみを言ってもバカにされるだけだ。
 しかし、思いのほか役に立たん奴だな。
 もうちょっと粘って他の奴らの注目を集めてくれれば、その隙に逃げる手も考えられたんだが。
 キュイを置いていくのはまずいし、考えてみたらスカウターで探されたら終わりだからやらないけど。
 さて、どうしたものか。
 悩ましく頭を捻っている時、ふと意識の片隅がどこか覚えのあるような気のする戦闘力を感知した。
 ラディッツ?

「クリリンさーんっ!」

 叫びと共に放たれた光弾がグルドを狙う。
 はっきり言って、直撃しても大したダメージにならないであろう程度の威力しかない攻撃だったが、とっさのことであり気を感知することのできないグルドは、慌ててハゲチビの体から降りて、エネルギー弾を回避する。

「誰ーっ?」

 不機嫌ですという意思を込めた叫びを口にしたグルドが顔を向けた方向には、ハゲチビよりも身長の低い一人のガキ。

「カカロットの息子か」

 おおかた、ハゲチビが戦っている気配を感じて心配して駆けつけたんだろうが、勝てもしないのに飛び込んでくるとか頭の悪いガキだ。

「カカ……誰?」

 俺の呟きを耳にしたリクームの問いに、地球を攻めに行って、そのまま帰化したサイヤ人の息子だと教えてやる。

「ふーん。サイヤ人にも変わり者がいるんだね」

 まったくだが、この期に及んでもキュイを撫で回す手を止めないお前ほどじゃないと思うがな、バータ。

「でも、どうして急に出てきたのかしら?」
「そりゃあ、あのハゲチビが地球人だからだろ」
「つまり、仲間がいたというわけね。他にもいるのかしら」
「どうだろうな。後からカカロットも来るような話を聞いたが」
「ふーん。それで、その三人はベジータの仲間なのかしら?」
「いや、それはない」

 むしろ、敵だな。
 なんだかんだ言っても、俺はフリーザ軍の戦士だ。
 地球人と馴れ合う気はないし、フリーザ軍と手を切るつもりもない。
 そのことを教えると、ジースは「そう」とだけ呟いて、こちらに興味をなくしたように紅茶の入ったティーカップを口に運ぶ。

「ベジータの味方じゃないのなら、別に殺しちゃってもいいのよね?」
「そりゃそうだ」

 言って、また顔を向けると、すでにグルドに叩きのめされて倒れたガキがいる。
 ハゲチビと違って、潜在能力の開放とやらをやってなくて自力が違うからなぁ。

「助けに行くなら今よ?」

 行かねえって。
 さらば、地球人のハゲチビ。そして、カカロットの息子よ。
 お前たちのことは忘れない。三日ほど。
 何となく黙祷してやる俺。ん?

「どうかしたの?」
「いや、あっちの方から何か近づいてこないか?」

 俺が指差した方角に顔を向けたジースは、そちらを見たままスカウターを操作する。

「確かに、何かが近づいてきてるわね。戦闘力5000ほどの何かが」

 5000か。そういえば地球で始めて会った時のカカロットの戦闘力も、そのぐらいだったな。
 そう思ったときには、そいつは信じられない速さでここに現れ、グルドを張り倒し危機に陥っていた二人を救い出していた。

 前に戦ったときには、俺を超えてみせたサイヤ人であるカカロットが。



[17376] 超音戦士ベジータ
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/05/08 22:51
 前回までのあらすじ

 ギニュー特戦隊に追い詰められピンチに陥ったベジータは、運悪くその場にいたクリリンを人身御供に差し出すことで、危機を脱する。
 そうして、代わりにピンチに陥ったクリリンは、助けに来た悟飯もろとも倒されるが、あわやと言うときに、ついに満を持して孫悟空が現れ二人を救うのだった。
 あと、何気にキュイの貞操もピンチだった。



「んもー。あなた誰ー? なんで邪魔するのー」

 ぷうと、頬を膨らませ両手をばたばた振って怒る背の低い少女を、カカロットは無言で静かに見下ろす。
 それは、自身の強さを自覚し、全銀河に名を轟かせるアイドルでもある少女には馬鹿にされているように思える態度であるらしく、必然的にグルドは怒りを爆発させる。

「黙ってないで、なんとか言ってよー!」

 叫びと共に、エネルギー弾を放つガキは、本当に相手の言葉を聴く気が有るのか疑わしい。
 なんにせよ、5000程度の戦闘力の者なら倒せてしまうであろう一撃を、カカロットは片腕の一振りで弾き返す。

「え?」

 呆然と呟いたグルドは、跳ね返された自身が放った光弾が目前に迫っても、回避のための行動がとれない。
 これは、死んだかなと思ったところで、別の誰かが動いたことに俺は気づく。
 そいつは俺の目にすら止まらぬ神速で移動し、グルドの襟首を掴むと、その体を引っ張り元いた場所まで戻った。
 それは、ギニュー特戦隊の中でも、スピードに特化しているらしい戦士バータであり、その手で救い出されたグルドはポテンッと地に落とされ、尻餅をついて目を白黒させる。

「ビックリしたー」

 直撃してたら、そんなことを言ってられなかったろうに、暢気なガキだな。

「あれが、戦闘力5000だって?」
「そのはずよ」

 疑わしそうな口調で言うバータに、ジースはスカウターを確認しながら答える。

「スカウターに反応がないということは、戦闘力をコントロールできるというわけでもなさそうなのだけど……」
「いや、戦闘力をコントロールしてるぜ」
「え?」
「ただ、一瞬なんでスカウターじゃ拾えてないだけだ」
「…………」

 なんだ、親切にも教えてやったのに、その懐疑に満ちた目は。

「それが事実だと仮定して、どうして、そんなことがベジータにわかるんだい?」
「俺はスカウターなしでも、相手の強さや居場所がわかる能力を覚えたからな。精度は劣るが、一瞬でも戦闘力が上昇すればそれを感知できる」
「へえー」

 半眼でこちらを見てくるバータは、あからさまに俺の言葉を信じていないようだ。いいけど。

「それじゃあ参考までに聞くけど、あいつの戦闘力はどのくらいまで上がったのかしら?」
「お前たち以上、ギニュー以下ってところだな」

 それも、さっき上昇した分だけの話で、それ以上に上がらないとは言い切れないわけだが、それは言わない。言っても意味がない。

「嘘だっ!!」

 案の定、四人は信じてたまるかと言う目つきで、俺とカカロットを睨みつける。
 まあ、当然ではある。
 ギニュー特戦隊はアイドルではあるが、自分たちがこの宇宙全体を見渡してもフリーザを除けば最強の戦士たちであるという自負がある。
 現実には、この広い宇宙には他にも奴らより強い戦士がいても不思議ではないと俺は思っているが、そんな仮定と少女たちの持つ矜持には、何の関連もない。

「あたしたちより強い人なんか、フリーザ様しかいないもん!」

 立ち上がり、地を滑るように飛びかかり殴りかかったグルドの拳は、寸前で移動したカカロットを捉えきれずに空を切る。
 殴りかかったグルドはもちろん、離れたところで見ているだけの他の三人の目ですら捉えきれないその動きが俺に見えるはずもなく、しかし気を感知する能力ゆえにどこに移動したかはすぐにわかった。

「大丈夫か二人とも?」

 そんな声に、そちらを向いたグルドが見たものは、自分を無視してガキとハゲチビに懐から取り出した豆を食べさせるカカロットの姿。
 何を思って、そんなものを食べさせようと考えたのかは知らないが、それが自身を戦士でもあると自認するグルドの誇りを、どれだけ傷つけたか俺にだって想像ができる。
 なんとなく、カカロットにはわかってない気がするが。
 顔を真っ赤にして憤ったグルドは必勝の技を使おうと口を開く。

「まずい。あいつまた時間を止めるつもりだ」

 そんなハゲチビの言葉の直後には、カカロットが瞬間移動でもしたかのようにグルドの背後に出現しており、手刀が一閃していた。

「わりぃ。なんか知らねえけど、クリリンがマズイみたいなこと言ってたから、つい攻撃しちまった」

 ちっとも悪いことをしたと思っていないであろう笑顔の謝罪だが、首の後ろへの一撃で気絶したグルドには、あまり関係のない話であろう。
 にしても、あそこまでの瞬間移動じみた速度で動けるのなら、俺なんかから見れば時間を止められるのと大して変わらんな。
 しかし、カカロットの奴、前に戦ったときからは信じれないほどに強くなったな。
 仲間のハゲチビもあっという間に伸びたけど、あっちはナメック星人に潜在能力を開放してもらったとかだから、同じに考えちゃいかんだろうしな。

「お前らなら勝てるか?」

 なんとなくの俺の問いかけに、三人は一瞬だけ沈黙する。
 そして、

「当然よ。私たちより強い人間は、フリーザ様だけなのだから」
「あいつも、スピードには自信があるみたいだけど、ぼくの宇宙一のスピードには敵わないはずさ」

 即答できなかったのは、自分でもそのことを信じ切れていないからなのだろうか。
 なんにしろ、自分たちよりも強い者の存在を認めるわけにはいかない少女たちには、それ以外の答えを口にするわけにはいかないようだ。

「あたくしが、あいつの化けの皮を剥がしてあげるわ!」

 リクームが、自身の発する声を置き去りにする速度で持ってカカロットに迫る。
 その細い繊手に大岩をも砕く力を秘めて拳を振るう。
 それを、カカロットは余裕の顔でかわす。
 顔を狙った拳を上体を反らすだけで回避し、次いで振り上げられた蹴り足を、掌打で弾き軌道を変えて空を切らせる。
 もちろん、それでリクームが攻撃の手を休めることはないが、それもどれひとつとしてカカロットへの打撃には繋がらない。
 全ての攻撃に空を切らせながらもカカロットは拳を握り、その手を引く。

「終わったな」

 俺の言葉が届くよりも速く、カカロットの拳がリクームの下腹に突き刺さる。
 その一撃は、俺の見立てでは六万を超えただろう。
 それだけで、若草色の髪の少女は膝をつき、大地に崩れ落ちる。

「な、なんなんだよ。あいつは」
「カカロットだ」

 思わず口にしてしまったという感じのバータの疑問に、俺が答えてやる。

「生まれてすぐに地球に送られて記憶を失い、そこで子供まで作って帰ってこなくなった、サイヤ人の裏切り者だ」
「ありえないわっ!!」

 ジースが声を荒げる。

「サイヤ人が、素のままで私たち以上の戦闘力を持てるはずがないわ」

 同感だ。
 大猿になるでもなく、そこまでの戦闘力を持てるのはサイヤ人の中でも俺くらいのものだろうと思ってたんだがな。
 カカロットはアレか? 千年に一度サイヤ人の中から現れるという伝説の金色の戦士か? たしか、スーパー……、なんだっけ?

「それに、あいつは女じゃないか! サイヤ人の女は二十年以上前の反乱事件で滅んだはずだろ!!」

 叫ぶジースが指差す先には、腰まで届く黒い髪を首の後ろで一つにまとめた女、カカロットがいた。

 ジースの言うことは正しい。
 確かに、当時の事件でサイヤ人の女は全滅した。
 少なくとも、記録ではそうなっている。
 しかし、カカロットが地球に送られたのは、その事件の起こった当日。事件の真っ最中だ。
 カカロットの親はその事件の時に命を落としているし、残った唯一の肉親のはずのラディッツも別の惑星を攻めていて不在。
 そんな事情で、組織には地球に送られたという記録すら残っていなかったのである。
 おそらく、ラディッツが唐突にカカロットのことを思い出さなければ、俺も女のサイヤ人が生き残っていたことなど一生涯、知る機会はなかっただろう。
 もっとも、俺はもちろんラディッツすら、実際に会うまでカカロットが女だとは知らなかったわけだが。
 なにしろ、カカロットが女であったという記録すら組織には残されていないのだから。
 まあ、そうでなければ、ラディッツはもっと早くカカロットを回収しようと考えていたに違いない。
 あのマザコンがカカロットに拘ったのは、会って初めて妹であると知り、更には二十年以上前に死んだ母親にそっくりに育ったと理解したからだったのだから。

 それは置いといて。

「で、どうするんだ? あいつがサイヤ人かどうかなんて、お前らには関係ないことだろう」

 重要なのは敵か味方かであり、カカロットの正体が何者かなど、ここで論ずる意味は無い。
 俺の問いに対するは沈黙。
 難儀な奴らだ。
 リクームが一撃で倒されたことを考えれば、残った二人でかかっても勝ちめが薄いことは予想できる。
 しかも、こいつらにはここでカカロットと戦わなくてはならない理由がない。
 カカロットの戦闘力なら、ギニューの欠けたこいつらを皆殺しにするのは容易く、しかしグルドにしてもリクームにしても、気絶させただけで命を奪っていないことから考えて、こちらから攻撃などせず逃げ出せば、あいつは見逃すだろう。俺以外は。
 さすがに、仲間を何人か殺して、その後は死闘を繰り広げたことのある俺まで見逃してくれるとは思えないからな。

 それはさておき、逃げれば済む話なのに特戦隊の二人が逃げられないのは、プライドの問題である。
 俺も、正直なところフリーザやギニュー相手ならともかく、カカロットから逃げるというのは業腹ではあるが、そんな屈辱は後で晴らせばいい。
 あの規格外の実力も、下級戦士であるカカロットが身につけられるというのであれば、俺にも得られるはずだ。
 問題は、そんな思い切りがジースとバータにあるかどうかだが。

「そんなの決まっているわ!」

 赤いドレスの少女が、掲げた左手の上に破壊の力を秘めたエネルギー球を作りだす。

「ぼくたちギニュー特戦隊に、後退はない!」

 青い燕尾服の少女が、トンッと地を蹴り空に浮かぶ。

 戦う気か。
 まあ予想通りではあるな。

「いくわよ!」

 ジースが、左手の上のエネルギーボールをバレーボールのように弾き、カカロットに向けて飛ばす。

「いくよ!」

 バータが、その神速を駆使して弾丸のようにカカロットに飛び掛る。

「よし!」

 俺は、さすがにカカロットとやりあうには邪魔になると地に置かれたキュイを抱き上げ、さっさと離脱する。
 うん。どっちが勝っても得も損もない戦いに付き合うつもりにはなれないな。
 アバヨッ! と口には出さず、心の中で叫んだ俺はこの時、後先をあまり考えていなかった。
 バータにも勝てないだろうが、今の自分の出せる音速を置き去りにする最高速度で飛び立った俺は、しかし、その直後にドラゴンボールをフリーザに届けて帰ってきたギニューと遭遇してしまった。

「お早いお帰りで」
「スカウターから、不穏な会話が聞こえたものぉ。ギニュー特戦隊と戦える実力を持った戦士とか、放って置けないでしょ」

◆◇◆◇◆

「それで、ドラゴンボールはこの海のどこかに沈んでいるんですね」
「まあ、そういうことだな」

 宇宙の帝王を自称するフリーザの問いに、サイヤ人の下級戦士ラディッツは、特に緊張もなく答える。
 これがどういう状況なのかといえば、ギニュー特戦隊の到着と共に届いたスカウターを使って、ラディッツとドドリアが一緒にいるのを発見したフリーザが、二人を捕獲し知る限りの情報を吐かせた後だということである。

「では、探してきてください」
「へーい」

 命じる言葉に答えたのはラディッツ一人だが、フリーザの言葉は彼一人に向けたものではなく、アプールを初めとして生き残りの兵士たちがドラゴンボールを求めて海に潜る。

「しかし、物怖じしない人ですね」

 消耗品であるサイバイマンに近い程度の戦闘力しかなく、軍の頂点に立つ自分に逆らいドラゴンボール探しを妨害しているベジータに従っていたくせに、悪びれもせず対等であるかのような口を利くラディッツにフリーザは苦笑する。
 もっとも、最初捕獲したときには涙を流し土下座までして命乞いをしていたのだから、胆力があるとかではなく、ただ単に口の利き方を知らない馬鹿なだけなのであろうが。
 なんにしろ、兵士たちはみんな海中に潜り、岸辺にはフリーザが残される。
 といっても、それはベジータが海中に沈めたドラゴンボール探索に参加しないのがフリーザ一人だということを意味しない。
 例えば、それは海の近く廃墟と化した集落に残った建物の中に転がされた水着姿の女であったり、それを見張る男だったりした。

「思うんだが」
「なんだ?」

 呟きに答えた男に、女が言う。

「半裸の女を縛って、それを見下ろしているとか、ものすごく犯罪くさい絵面だな」
「ふざけたことを言ってる暇があるなら、フリーザ様にする言い訳でも考えたらどうだ?」

 呆れたように言う男は、フリーザの側近の配下であるザーボンであり、特に工夫もなくグルグル巻きに縛られて転がされている女は、同じくフリーザの側近であるドドリアである。
 なぜドドリアが、このような状況になっているのかといえば、ラディッツと同じようにベジータに協力していたことが判明したため、拘束されることになったからである。
 それは本人に言わせれば、力ずくで従わされていただけのことであり、フリーザを裏切るつもりなどさらさらなかったということになるが、世間一般ではそれは立派な裏切りと呼ばれることだろう。

「しかしなあ……」

 困ったように、ドドリアは天井を見上げる。
 彼女の計画では、レイプまでされて言うことを利かされていた自分に、フリーザは同情し許されていたはずである。
 そのために、長らく未開通だった処女地をベジータに開拓させまでして、そのことを正直に告げたというのに、ラディッツはあっさりと許され、自分はこんな目にあっているというのは理不尽な話である。

「ベジータにというのがマズイのだということに気づくべきではないか?」

 そう言われてもと、ドドリアは困り果てる。
 彼女の知る限り、フリーザのベジータへの対応は、からかうのが面白い玩具に対するそれであり、自分の話を聞いて考えるのは弄るネタができたという程度のものであるはずであったのだ。
 それなのに、そのことを話していたら、どんどん不機嫌に表情を歪め始め、最後には無表情な顔で自分を縛り上げて閉じ込めろとザーボンに命じるなど、想定外にもほどがある。

「お前も、女心のわからない奴だな」

 見た目は、無駄に色気が溢れているのにと、大きく膨らんだ乳房や、ムチムチとしたお尻を呆れた顔で見下ろしたりするが、当然ながらザーボンの目に欲情の色はない。

「女心と言われてもな」

 もう何十年も着ぐるみで姿を偽り、男として仕事一筋で過ごしてきた自分にそんなことを言われても困るというものである。

「そりゃ、お前は結婚して嫁さんになっているくらいだから女心の機微もわかるんだろうけど……」

 そう言った瞬間、ドゴンッと音がして建物の壁に穴が開いた。
 何が起こったのかと、そちらを見れば、そこにはなにやらこちらを睨みつけてくる矮躯の宇宙人が一人。

「ザーボンさんが結婚していたなんて初耳ですね。詳しく話を聞かせていただきましょうか」

 そう言ったのは、二人の上司たるフリーザであり、この後ザーボンは運命の理不尽さを味わうことになるのであった。



[17376] スーパーベジータ伝説
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/05/15 21:50
 前回までのあらすじ

 ついに現れた孫悟空に、手も足出せず倒れるグルドとリクーム。
 それでも負けてたまるかと、立ち向かうジースとバータを尻目に、さっさと逃げだそうと企んだベジータだったが、そこにギニューが現れたことにより、計画はあっさりと水泡に帰すのであった。



「へぇ」

 腕組みをしたギニューが、ジースとバータを軽くあしらうカカロットを見て小さく笑う。

「あれじゃあ、グルドやリクームが手も足も出せずに倒されるのもしかたないわねぇ」
「わかるのか?」

 俺の問いかけに、ギニューは「もちろん」と頷く。

「まったく、楽しませてくれそうだわぁ」

 口元には笑みを、目には戦意を浮かべて銀髪の女は前に出る。

「ジース。バータ。あなたたちは、下がりなさい! そいつの相手は、わたくしがするわぁ」
「隊長?」

 名前を呼ばれて、初めてギニューがいることに気づいたらしい二人が振り返る。

「あの……、私たち……」
「言わなくてもいいわぁ。そいつには、あなたたちでは勝てない。それは、見てればわかるからぁ」

 自分なら勝てるという言外の自信を隠さず、ギニューは前に出る。

「でも、あいつはサイヤ人なんだよ」
「そうねぇ。つまり、わたくしたちと同じ突然変異の天才戦士ってことってことね」

 くつくつと喉を鳴らして笑う。

「あいつの戦闘力は、わたくしの見たてでは85000って、ところかしらぁ」
「そんな!」
「認めなさい。あいつの相手はわたくしがするわぁ」

 まあ、ギニューの言い分は妥当なところだな。
 それで、ジースとバータはガキとハゲチビの相手をするわけだ。

「じゃ、頑張ってくれ」

 シュタッ、と右手を上げて立ち去らんとする俺の前に、バータが立ちふさがる。
 なんぞ?

「逃げたいなら、キュイを置いていってくれないかな。忘れてるかもしれないけど、ぼくたちの任務にはその娘の拘束も入ってるんだからさ」

 そういえば、そんなことを言ってたな。
 とはいえ、こいつに預けていくと何となく後で厄介なことになりそうだし、考えてみたらドラゴンボールを沈めた海の場所をキュイが喋ったりしたらまずいことになる。
 困ったものだと悩む俺を、バータは何をするでもなく黙って見つめてくる。

「ジースは、そっちの二人を頼むよ」

 俺から顔を背けて、そんなことを口にするバータのそれは、余裕を通り越して油断の域だろうとは思うが、お互いの戦闘力を考えるまでもなくキュイを抱えて腕のふさがっている今の俺に、その隙をつくのは不可能だろう。
 はっきりいって、キュイを抱えたままでバータと戦うのは無理だと自覚しているが、不思議とその気にはなれない。
 そして、バータの方も俺ごとき、いつでも倒せるという余裕があるのと、ギニューとカカロットの戦いが気になるのか、自分から攻撃を仕掛けてくる気はないらしい。
 どうしたものかねと、単純な戦闘力でグルドを大きく上回るジースを前にどう戦うか決めあぐねているガキとハゲチビに顔を向け、次にギニューとカカロットを見る。



 素の戦闘力では上を行くと思われるギニューの攻撃を、スピードで勝るカカロットが回避する。
 俺ならかすっただけでも戦闘不能になるであろう攻撃の数々をカカロットは紙一重でかわし、バータをすら上回るスピードにギニューは遅れることなくついていく。

「バケモノどもめ」

 俺の呟きに、バータは笑みを浮かべる。
 そんな言葉は聞き飽きたと、むしろ褒め言葉だとでも言うように。

「にしても、余裕だな。俺や、あっちの二人はともかく、カカロットがギニューを倒したらどうしようとか思わないのか?」
「隊長が倒される? ありえないね」
「随分な自信だな?」
「そりゃ、そうだよ。あのサイヤ人の戦闘力が本当に85000あったとしても、ギニュー隊長はそれを大きく上回る120000だ。負ける道理がないね」

 なるほど、確かにあの二人から感じる戦闘力はそんなものだろう。
 だが、それだけで判断すると痛い目を見るのが地球の奴らの怖いところだ。
 俺たちフリーザ軍の戦士がスカウターで相手の戦闘力を測るように、奴らは気を読み相手の戦闘力を探る。
 つまり、カカロットは今の自分の戦闘力ではどうあがいてもギニューには勝てないことを理解しているはずである。
 なのに、あいつの顔に焦りはない。
 自分だけでなく、仲間まで危機に陥っているこの状況で、平常心を保っている。
 それどころか、ギニューと戦っている今の時点ですら、スカウターで拾えないほどの一瞬にだけ戦闘力を上げているのだ。
 これで、奥の手を隠していないはずがないではないか。

 そんな、俺の考えが伝わったわけでもないだろうに、中々つかない決着に痺れでも切らしたか、チビ二人を相手にしていたはずのジースが、エネルギーボールを作り、それをカカロットに投擲した。
 本来なら、そんなものは余裕で回避も防御もできたであろうカカロットも、ギニューの相手をしながらではそうはいかない。
 それに、無駄な体力の消耗を避けるためにだろうが、攻撃や防御の一瞬以外、戦闘力を抑えているカカロットは、直撃しても無傷で済ませられる程度のはずのジースの攻撃が致命傷になりかねない。
 俺なら、余裕で死ねる威力だがな。

 慌てて回避したエネルギーボールは背中をかすめ、そこでカカロットはギニューに捕まってしまう。

「卑怯だぞ。お前ら」

 カカロットの息子が叫ぶが、この場合ジースを押さえられなかった奴らに問題があるよな。
 なんにしろ、戦闘力で勝る相手をスピードで翻弄していたカカロットも、これで一巻の終わり。
 ってことには、ならないんだろうな。
 羽交い絞めに捕まったカカロットの肉体内で気が廻る。
 来たな。多分、俺との戦いで見せた事のある戦闘力を倍化させる能力だ。
 俺の見ている間にも、カカロットの体内の気は膨れ上がり、ついに爆発……。
 する前に、ギニュー自らがカカロットの体を開放した。なにゆえ?

「おめえ、どういうつもりだ?」

 カカロットの問いが俺の耳に届く。
 だよなー。まったく同感だ。
 だけど、それには答えずギニューはジースの名を呼ぶ。

「余計なことはしないでちょうだい!」

 それは怒声。
 何でか知らんが、ギニューはジースに腹を立てているらしい。

「せっかく、楽しめそうな戦いなんだから、邪魔をしないで欲しいのよねぇ」

 両手を胸の前で交差させて笑うギニューは、本当に嬉しそうな顔をしていた。

「それと、あなたも早く本気を出してくれない? せっかく今までに経験のない素晴らしい戦いができそうなんだからぁ」

 ああ、そういうことかと、俺は得心する。
 こいつらにとって、戦いは遊びなんだよな。
 生まれついての高い戦闘力のおかげで負ける心配がないから、負けたらどうなるかもとかの想像力も足りない。
 だから、カカロットにしても手強いだけで最終的には勝ちが約束された相手としか思ってないんだろう。
 それは言ってみれば、フリーザ軍に所属するサイヤ人も含む全ての戦士に共通する思考でもあるが、万が一にも自分が負ける可能性がないと思っているのはこいつかフリーザくらいのものだろう。
 それを理解したわけでもないだろうに、カカロットが「うん」と頷く。

「わかった。おめえは、フェアな奴みたいだし、オラの力を見せてやる」

 やっぱり、なんか勘違いしてるなと、俺が倒さなくてはならないはずの相手であるバータそっちのけで見ていると、カカロットの身中の気が膨れ上がり爆発的に増大していく。

「界王拳」

 ポツリと呟いた言葉を俺は聞き逃さない。
 そういえば、戦闘力を倍化させるときに口にしてる言葉だよな。そういう名前の技なのかね。

「いいわぁ、あなたの戦闘力は85000まで上がるはずよぉ」

 ピピピと音を上げるスカウターの、上がっていく数値を見るギニューの顔は満面の笑み。
 カカロットの強大に過ぎる気は体内だけに収まらず、そこからあふれ出し着ている武闘着を波打たせる。
 高まる戦闘力は留まるところを知らず、ついにはブチリという音の後、ギニューのそれをも超える。
 って、ん? ブチリ?

「こっ、これはっ!?」

 スカウターを覗くギニューの口から驚愕の言葉が漏れる。
 まさか、自分の戦闘力を超える相手がいるなんて考えたこともなかったんだろう。

「バストサイズ100オーバーですってぇっ!?」

 何を言ってるんだ? こいつは……。

「そんな!? フリーザ軍一の巨乳を誇るギニュー隊長でも98センチ、100には足りないのに」

 いや、お前も何言ってるんだよと、バータの視線を追えば、たゆんと揺れるカカロットの両の乳房。
 ああ、あのブチリって音はサラシかなにが千切れた音だったんだな。
 多分だけど、ジースのエネルギーボールが背中をかすめたときに切れ目みたいなのができて、次に気を開放したときの内圧に耐え切れなかったんだろう。
 だから、どうしたとも思うが。
 そんな中、今のは一時的な強化だったのだろう、戦闘力を先ほどの半分まで落としたカカロットが、ふうっと息を吐いた後で口を開く。

「最初に言っておく。瞬間的に出せる色気はまだまだこんなもんじゃねえ」

 カカロット、お前もか……。
 そして、一時の放心から覚めたギニューが驚愕の表情のまま口を開く。

「このバストサイズに、戦闘力。まさか、あなたが千年に一人現れるという伝説のサイヤ人、スーパーモデルなの!?」

 なんだよ、スーパーモデルって。勘弁してくれ……。
 俺、もう帰っていいか?
 疲れてるみたいなんで、とりあえず頭がすっきりするまで睡眠を取りたいんだが。

◆◇◆◇◆

「千年に一度サイヤ人の中から現れると言われる伝説の戦士の話を知っていますか?」

 海中に沈められたドラゴンボールを見事に発見してきたラディッツを、唐突なフリーザの言葉が迎えた。

「ああ、スーパーサイヤ人の話か」
「は? なんですか、スーパーサイヤ人というのは?」
「え? だから、千年に一度現れる伝説のサイヤ人のことだろ?」
「ええ、伝説のスーパーモデルの話ですが……」
「……」

 おや? っと二人は顔を見合わせる。

「もしや、サイヤ人とそれ以外では、同じ伝説の戦士の話が、別の伝わり方をしているのもしれませんね」

 そんな推論に、なるほどとラディッツは頷くが、フリーザの方は不機嫌に顔を顰め、声を出した者をジロリと睨みつける。

「いつ、わたしが発言を許可しましたか?」
「申し訳ありません」

 素直に謝罪するのは、ピンクの髪をした水着姿の女と背中合わせに縛り付けられているザーボンである。
 なぜ、そんなことになっているのかラディッツは知らないし、知りたいとも思わないが。

「それで、別の伝わり方をしてるって、そっちとこっちじゃどう違ってるんだ?」

 空気をまったく読まない、だからこそ苛められっ子だったラディッツの質問に、そうですねとフリーザは顎に手を当てて考える。

「そちらの話を先に聞かせていただいてもよろしいですか?」

 尋ねる言葉に、構わないと了承したラディッツは、サイヤ人の中に伝わる話をする。
 といっても、それは千年に一度現れる伝説の戦士であり、闘争と破壊を好む、全宇宙最強の存在であり、それがスーパーサイヤ人と呼ばれているというだけの短い話でしかないのだが。
 それに対して、ふむと小さく頷いたフリーザは、次に自分たちに伝わる話を口にする。
 それは、千年も前に現れて、全宇宙を震撼させた悪鬼の伝説。
 他に比肩する者のいない絶世の美貌と男であれば誰もが情欲を抑えられない豊満な肢体を持った女の姿を鼻にかけ、それに対抗できそうな美女を見つければ、やはり比肩する者のいない絶大な戦闘力で排除していった、最悪の存在であり、スーパーモデルと呼ばれた者の伝説。
 それがサイヤ人であることは有名であったが、千年に一度という話は、サイヤ人の間に伝わる伝説の戦士の伝承を聞いて知ったことである。名称が違うとは今始めて知ったが。

「なんで、食い違ったんだろうな?」
「さて? 自らの惑星外で暴れまわったスーパーモデルだけは伝説の戦士たちの中でも異端なのか、それとも、それ以前の戦士も同じだったのに外惑星に出てこなかったために外では伝わらなかったのか。それは、何千年でも生きていける種族にでも尋ねてみなければわからないことでしょうね」

 そんな種族がいればの話ですがね。と何十年も幼い少女のままの姿を隠している種族であるフリーザは締めくくった。

「で? なぜ突然、そんな話を?」
「いえ、もしベジータがスーパーモデルになったら、女性に変身でもするのかなと思いつきまして」

 答えと共に視線を動かしたフリーザは、ザーボンを見下ろしていた。

「なるほど、そのときは指でも差して笑ってやろう」
「そうですね」

 答えると共に、フリーザの素顔である少女の顔を隠した異相のマスクは、ニタリと悪者臭い笑みを浮かべたのだった。

────────────おまけ────────────

 四方の、どこに顔を向けても水平線しか見えない小島に建った、カメハウスと呼ばれる家に、その老人は住んでいる。
 かつては、天下一の武天老師と呼ばれた彼の朝は早い。
 弟子に取った若者たちに、自分たちの師匠は毎日ゴロゴロしていても体を鈍らせることなく、これほどの実力を持っているのだと思わせるだけのために、弟子が起きるよりも早くに鍛錬をしておくことを目的としてのものだ。
 その弟子たちは、とっくに自分を越えているのだとか、今現在カメハウスに弟子は一人もいないとか、宇宙船に乗って別の惑星に行った弟子が気になり自分自身がカメハウスから出て、宇宙船の開発者の自宅にお世話になっているわけで、よそ様の家を勝手に鍛錬に使っているとか、色々あるわけだが、だからと言って自分の肉体を錆びつかせようとは思わない。
 武天老子とは、そういう老人である。
 と言っても、今以上に強くなろうと言う若さもすでに燃え尽きているわけで、それは老人にとって朝の体操のようなものでしかない。

「ふんっ!」

 気合の声と共に拳を突き出す。
 踏み固められた地面に、靴の形の穴を作るほどの踏み込みで肘を出す。
 体を回転させ蹴りを放つ。
 ただ、それだけの単純な動き。
 だが、その突きや蹴りが、一秒間に百を超える速度で行われていると知れば、まさに武術の神と呼ばれるに相応しいものであると人は納得することだろう。
 それを、きっかり一時間続けた後に、彼は鍛錬を終える。
 それでも、武天老師の老人らしからぬ鍛え上げられた肉体は、うっすらと汗ばんでいるだけで疲労の色が見えないと知れば、世の武道家は嫉妬の炎に身を焦がすに違いない。

 毎日の鍛錬を終えた後、老人は汗を拭き、自分に用意された寝所に戻る。
 もはや、完全に目も覚めているが怠惰な老人を演じている以上、早起きな自分を知られるわけにはいかないのである。
 そうして布団に寝転がり、枕元に用意したエッチな本を取り出して顔をにやけさせている間に、彼以外にも、この家にお世話になっている者たちが目を覚ます。
 基本的に、この家には所有者である壮年の夫婦と、その二人の子供であるブルマと言う名を持つ人間と、そのボーイフレンドのヤムチャと、変身能力を持った豚と猫の計四人と二匹が暮らしているのだが、今はブルマとヤムチャはいなくて、その代わりだとでも言うように、老人と、老人のかつての弟子の娘が滞在していた。
 自分に次いで早起きな人間の気配に気づきつつも、怠惰な自分としては、もう少し後で起きるべきだろうと誰にともなく言い訳をして血走った目でエッチな本を凝視していた老人は、その後しばらくして「みんな、起きるだーっ」と女性の声がして、やっと布団から体を持ち上げる。

「朝っぱらから元気じゃのう」

 自分のことを棚にあげたその言葉に、しかし老人の朝の鍛錬を知らない女性は呆れた顔になる。

「なにさ言ってるだ。悟空さや悟飯ちゃんなら、とっくに起きてる時間だべ」

 そんなことを言うのは、かつては老人の弟子であった牛魔王の娘として生を受け、数年前には別の弟子と結婚して息子を設けたチチという名の女性だ。
 現在、彼女の息子と伴侶は、いつもはカメハウスで過ごしている、老人のもう一人の弟子や、宇宙船を作った人物を父にもつ人物と共に、ナメック星という異星に赴いており、息子を心配した彼女は、宇宙船との通信機もある、この家に居座っていたりしたのだ。
 もっとも、自分の家が我が子の友人のたまり場にされるのは、この家の家主にとって日常茶飯事であるらしく、だらだらごろごろしているだけの老人も、勝手に台所を使って食事の用意をしている女性も、特に嫌な顔をされたりはしない。
 なんにしろ、朝食のために起き出して、食卓の前に座りつつも女性の胸やら腰やらに目を向けた老人は、はあとため息を吐く。

「なんだ、じいさん。ため息なんか吐いて」

 ウーロンと言う名の喋る豚の言葉に、「だってなぁ」と老人は返す。

「やっぱし、おなごには付いてるべきではないとは思わんか?」
「なんだ。まだ、そんなことに拘ってんのかよ。逆に考えろよ。むしろ、ついてるから良いんだって」

 そんな返答に、うーむと唸って老人は女性に目を戻す。
 チチと言う名の、その女性はとても思い込みが激しかった。
 何しろ、何年も前に一度会っただけの相手と結婚の約束をして、それを律儀に守ることに一片の疑いも持たないほどである。
 相手が結婚の意味を知らなかったとか、そもそも実は女同士であったとか、そんなことは彼女にはなんの障害にもならない。
 女同士で、子供はどうするつもりだと言われたときにも、「ドラゴンボールを使えば、いいだ!」と力強く宣言してしまうほどである。
 最初、彼女は老人の弟子である孫悟空を男にするつもりだったらしいが、それは神の能力を超える願いだと言われ、自分に棒を生やすことにしたらしい。
 それを使用して、本当に子供ができてしまった辺り恐るべきではあるが、そんなことよりも女性の股間に汚らわしきバベルの塔が建っているというのは老人には許容し難かったりするのだ。

「じいさんは、考え方が古すぎるんだよ。今は、男の娘だって需要がある時代なんだぜ」

 そんなウーロンの言葉に、老人は天を見上げ、ポツリと呟くのだった。

「もう、わしの時代は終わったということか……。天下一の武天老師と呼ばれた頃が懐かしいわい」

 その背中には、旧き時代を生きた漢の哀愁が漂っていた。



[17376] それゆけ! 惑星戦士ベジータ
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/05/22 20:24
 前回までのあらすじ

 ついに始まった孫悟空とギニューの戦い。
 激戦の中、規格外なまでの戦闘力を見せ付けた悟空に、ギニューは彼女を伝説のスーパーモデルではないかと疑うのであった。



「なんてことなの! まさか、スーパーモデルが現実に存在したなんて」

 ギニューの上げた驚愕の声が辺りに響き渡り、その叫びを聞いてバータが額に汗を浮かべる

「アレが、伝説のスーパーモデル……。確かに、女のぼくから見ても押し倒したくなる……。いや、むしろ押し倒してほしくなる美貌だけど」

 いや、お前は単にそういう趣味なだけだろうと思ったが、もはや突っ込む気にもならん。

「退いてくれ」

 カカロットの言葉に、ギニューが何を言われたのかわからないという顔をする。

「おめえが言ってるスーパーモデルがなんなのか知らねえが、これでオラに勝てないことはわかっただろう。おめえは、フェアな奴だし女に乱暴なことはしたくねえ。ここは大人しく退いてくれ」

 相変わらず甘い奴だな。
 そう思ったのは俺だけではないらしく、ギニューが別の意味で驚愕の表情になる。

「乱暴はしたくない? どういうことなの? 伝説のスーパーモデルは闘争と破壊と新人いびりとライバルの蹴落としを好む、悪女のはず!」

 もう、その話はいいよ。勘弁してくれ。

「そう、そうなのね。あなたは、まだスーパーモデルになりきれてないのね。フフフ、でも充分。スーパーモデルじゃなくても、わたくしよりもはるかに強く美しくバストサイズも大きい。気に入ったわぁ」

 急に笑い出したギニューは、なんだか変身する前のザーボンを思い出させる。
 こいつも、変身型の宇宙人だったりするのか? 何か違う気もするが。
 なら何だろうと考えている間に、ギニューが自らの纏うドレスの胸元に手をかけ、それを引き裂く。
 ぶるんっと揺れる乳房が目に入ろうとしたところで、俺の視界を何かが塞ぐ。なんぞ?

「見るなーっ!!」

 顔面を襲う衝撃と、聞きなれた声。

「目が覚めてたのか?」
「今、起きたの!」

 問いかけに答えたのは俺が胸の前で抱き上げているキュイで、俺の視界を今も塞いでいるのは、こいつの拳であったということである。
 戦闘力に二倍以上の差ができてると思われる現在、大して痛くもないがな。

「目を覚ましたんなら、降りろ」
「言われなくても降りるわよ。でも、今はダメ。見ちゃダメなんだから!」

 むう。意味がわからん。
 どうしたものかと悩んでいると、ギニューの声が聞こえてきた。

「チェーンジ!」

 むっ、これは変身の掛け声か? やはりギニューは変身型の宇宙人だったのか。服を破ったのは変身のためか。どんな姿だ。キュイはいつまで俺の顔面に拳をぶつけたままでいる気だ。

「ウフフフフフゥ、手に入れたわよぉ。この体ぁ」

 カカロットの声が聞こえる。なんだ? なんで、ギニューみたいな口調になってるんだ?

「おい!」
「ダメ!」

 そうか、ダメか。なら、しかたないな。

「え?」

 キュイが驚いた声を上げるが、もう遅い。俺の手はキュイの体から離れ、支えるものがなくなった、その身は重力に引かれるままに地に落下する。

「いったーい。急に落とさないでよ。お尻打っちゃったじゃない」

 自業自得だ。
 で、カカロットとギニューはどうしているのやらと顔を向けた俺は、不可解なものを目にした。

「どういう状況だ?」

 俺は、思わず呟いてしまう。
 カカロットとギニューが、向かい合っているのは、キュイに殴られる前に見ていたのと同じだが、自分で服を破ったくせにギニューは呆然とした顔で大きすぎる乳房を隠そうとするように両手を胸の前で組み、対面にいるカカロットは、右手の甲を左頬に当てて高笑いをしていたのだ。
 これは、状況がつかめなくても、当然だろう。

「あれが、ボディチェンジ……」
「知っているのか、雷──キュイ!」
「聞いたとこがあるわ。ギニュー特戦隊の隊長、ギニューには他人と体を取り替える能力があるって」

 なんだ、その反則臭い能力は。

「時間を止める能力に比べたら可愛いものだと思うけど?」

 そりゃそうだが、あれは何か違う気がするぞ。

「しかし、そんな能力があるってことは、ギニューは今までにも誰かと体を取り替えて生きてきたのか?」
「どうなんだろ? わたしも結構長い間、特戦隊のファンやってたけど、そんな話は聞いたことがないわね」

 むう。
 ならば、アイドルデビューする前に取り替えた誰かの体をずっと使ってるということだろうか?

「何を考えているか大体想像がつくけど、それは大きな勘違いだよ」

 バータに、心を読まれた!?

「しかし、なぜそんなことが断言できる?」
「わかりきった話だよ。体を取り替えるってことは、全能力を交換するってことだよ? 他人の体なんか使ってたら、ボディチェンジの能力も使えなくなるってことじゃないか」

 なるほど、理にかなった説明だ。

「チェーンジ!」

 おや? またギニューの声が聞こえたなと、キュイやバータに向けていた顔を、そちらに向けると、顔を真っ赤にして胸を押さえているギニューと、ほっとした顔のカカロットがいた。今度は何が起こった。

「あああ、あんた何を考えているのよ!」

 怒鳴っているのは、口調からしてギニュー本人のようだな。しかし、何があった?

「何って、オラの体を返してもらっただけだろ」

 済ました顔でカカロットが答えているが、どういうことなのか誰か説明をくれ。

「ボディチェンジは全能力交換だから、体を交換する能力も相手側に移っちゃうんだ。だから、あのサイヤ人にボティチェンジをやりかえされたんだろうね」

 なるほど、礼を言うぞバータ。

「しかし、そんなに簡単に使えるものなのか?」
「できるよ。ぼくらもオフのときに隊長と体を取り替えてもらって遊んだりしたことがあるけど、簡単だったし」

 アホな遊びをするアイドルもいたもんだな。
 あと、羨ましそうな顔をするなキュイ。

「使えるようで使えん能力だな。それで、やり返されたことに顔を真っ赤にして怒ってるってわけか」
「それもあるけどね」

 他にもあるのか? メンドクサイ奴だな。

「ボディチェンジは、相手に向かって大きく両手を広げて叫ぶんだ」

 ふんふん。

「それで、今はギニュー隊長のドレスは破れてて、ああして隠そうとしてても、見えちゃいそうだろ」

 そうだな、あんまり大きいのも大変だ。

「じゃあ、あの状態で両手を広げたらどうなると思う?」

 そりゃあ……。

「想像しちゃ駄目ーっ!!」

 またしてもキュイの拳が俺の顔面に突き刺さる。

「お前な……」
「アイドルは汚れなきものだから、そういう目で見ちゃ駄目なの! それに、ベジータはわたし以外の女の裸なんか想像しちゃだめなの!」

 お前は何を言っているんだ。

「いちゃつきたいんなら、よそでやってくれないかな?」

 いちゃついてねえよ。
 とりあえず、キュイの拳を顔から引き剥がして、バータに話しかけてみる。

「で、自分の体でもろ出しにされて怒ってるってのか?」
「そういうこと」
「でも、先にやったのはギニューじゃないのか?」
「そうだよ。でも、隊長がやった時は男の人には見えない角度だったしね」

 男?
 どういうことかと思った俺をバータは促して、別の方向に顔を向ける。
 そちらにはジースがいて、その対面にはカカロットの仲間の二人もいるのだが、ハゲチビの方は前かがみになって顔を押さえ、足元の地面を血に染めていた。

「あれは、ひょっとすると?」
「鼻血だね」

 やっぱりそうか。
 鼻もないのに器用な奴だ。

「しかし……」

 もう一度、カカロットたちに視線を移す。

「結局、ギニューは何をやりたかったんだ?」
「もちろん、体を取り替えたかったのさ」
「すぐに取り返されてるじゃないか」
「うん。そこが不思議なんだよね。あのサイヤ人はボク以上のスピードだし、戦闘力も18万もあるんだから、その体を使えば体を取り返す余裕なんか与えずに取り押さえることができたはずなんだけど……」

 服を破っておけば、自分の体じゃなくても恥ずかしくて動きが鈍るはずだしね。と、バータは続けた。

 そういうことか。
 多分。カカロットのあの戦闘力は、気を操ることで倍加したもので、素の戦闘力はギニューより低いんだろう。その上、カカロットは恥じらいとかそういう意識が鈍かったんで、ギニューは取り替えた体で元の自分の体を持つカカロットを取り押さえようとして失敗したというわけだ。

「だが、どうして取り押さえようと思ったんだ?」

 気に入ったとか言ってたし、体を取り替える能力なんて、この先二度と役に立つ機会があるとも限らないのだ。なら、そのまま倒しても良かったのではなかろうか。
 素の戦闘力だとギニューの体の方が戦闘力は上だから、どっちにしろ失敗しただろうが。

「隊長が、どんなに気に入ったとしても、それをファンの皆が喜んでくれるかどうかは別の話だからね。それに、生まれたときから付き合ってきた自分の体なんだ。そんなに簡単に処分できるはずがないじゃないか」

 なるほど、把握した。実に意味のない能力だ。

「しかし、そうなるとギニューの勝ちは絶望的なんじゃないか?」

 体を交換する能力なんて、それがバレていればより戦闘力の高い者になら対抗することは可能な程度のものだ。
 しかも、今はギニューは服が破れてて本来の機動ができない状態で、成功したとしても素の戦闘力は相手であるカカロットの方が低いと来ている。
 まあ、最後の方のは、わざわざ説明したりはしないが、それでも俺の言いたいことは理解できるはずだ。

「そうだね」

 ため息とともに言葉を返してくる。

「どうも、ギニュー隊長でもあいつは、どうにもできそうにない。それに……」
「それに?」
「フリーザ様が、帰ってくるように言ってる」

 スカウターを、トントンと人差し指でつつく。
 そうなのか? と、元々は俺が持っていたスカウターを装着したキュイに顔を向けると、こちらもコクンと頷いた。

「今回の、ぼくたちの任務は三つ」

 言って、バータは人差し指から薬指までの三本の指を立てる。

「ドラゴンボールの回収は、もう終わっている」

 薬指を折り曲げる。

「イレギュラーの排除は、フリーザ様もスカウターであいつの戦闘力を見て、特戦隊が五人がかりでかかっても勝ち目が薄いからもういいと言ってる」

 中指を曲げる。

「つまり、あとはキュイを連れて行くことだけなんだけど、邪魔はしないよね?」

 質問のような口調だが、それは反論を許す気のない要請だった。

「あいつも、ぼくたちが引き下がるのなら手を出す気はないみたいだしね。邪魔をするなら、僕はもちろん、ギニュー隊長と戦うことになるよ。もちろん、きみ一人でね」

 人差し指を突きつけてくるバータに、俺は答える言葉を持たない。
 馬鹿か俺は。
 カカロットの方が強ければ、あの甘い女が敵であるギニューたちを見逃そうとするのは予想できたことだ。
 そうなれば、カカロットの味方と言うわけではない俺は、自分一人で特戦隊と戦わなければならなくなるわけだ。

「えーと、ベジータ?」
「いやいい、気にするな。お前は、特戦隊と一緒に行ってサインでも貰ってろ」

 言って手を振ってやると、キュイは喜んでいいのか悲しむべきかわからないとでも言いたげな、複雑な顔をしてみせた。
 こいつも、わからん奴だな。
 まあ、元々俺は一人でフリーザの目的を阻止するつもりだったのだし、海に沈めたやつがフリーザに見つからないことを祈りつつ、残りのドラゴンボールを探すとしよう。

「あと、フリーザ様からの伝言だけど、ラディッツが海に沈んでた最後の一個を発見したから、邪魔したければ急いだ方がいいって」

 オイーッ!! もう詰んでるじゃねえか。
 俺が、特戦隊とぐだぐだやってる間に、ラディッツがフリーザに捕まってたのかよ。それだとドドリアもだろうが。
 ドラゴンボールがもう集め終わってるなら、あとは正面から対決するしかないじゃねえか。しかも、一人で。
 勝ち目がない上に、そんな時間の猶予があるかも疑問だし。

「終わった……」
「えーと、ベジータは小さくなっても可愛いと思うよ」

 慰めのつもりかキュイ。

「諦めるのなら、それでもいいけど、戦うんなら急いだほうがいいよ」
「いや、急いでどうにかなるもんでもないし」
「そうかい? 彼らを上手く利用すれば、何とかなるかもしれないよ?」

 そう言って、バータはハゲチビたちやカカロットに視線を動かす。

「どういうつもりだ?」
「フリーザ様は、あの連中を配下に欲しがってるみたいだよ。まあ、三人中二人が一万越えの戦闘力で、そのうち一人はギニュー隊長の上を行くんだから当然かもね」
「つまり?」
「上手く言いくるめて仲間にしなよ。ひょっとしたらフリーザ様の目的を阻止した上で、念願のチーム増員も叶うかもしれないよ」

 なるほど。
 しかし、そんなに都合よくいくものだろうか?
 悩んでみたが、そう簡単に答えが出でるはずもなく、その間にバータはギニュー、ジースと合流し、気絶したままのグルドをバータが、リクームをジースが抱え上げて、キュイを連れて行ってしまった。



[17376] ベジータのおしごと
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/05/29 21:27
 前回までのあらすじ

 孫悟空とギニューの戦いは、悟空の優勢勝ちに終わった。
 しかし、そんなことをしている間にフリーザはすでにドラゴンボールを集め終わっていたのだ。
 どうするZ戦士たち。

 注)ベジータはZ戦士ではありません。



「というわけで、一時休戦と言うか、手を組まないか?」
「いや、何がというわけなのかわからないんだが」

 むう。頭の回転の悪い奴だな、ハゲチビ。そういうときは、意味がわからなくても、ノリで答えとけよ。

「まあ、早い話がフリーザからドラゴンボールを奪取するのに協力しようって話だ」
「なんで、俺たちがベジータなんかと協力しないといけないんだよ!」

 いちいち、攻撃的な調子で返してくるな、このハゲチビ。俺に、何か恨みでもあるんだろうか?
 なんて、あるわけないよな。会うの二回目だし、気のせいだろう。

「なぜ協力しなければいけないのかと言えば、そうしないと俺もお前たちもフリーザには勝ち目がないからだ」
「そうなのか? オラ、自分で言うのもなんだが、物凄く強くなったと思うんだが」

 確かに、カカロットの奴も信じられないくらいに強くなりやがったよな。だが……、

「強さの次元が違うんだよ。はっきり言ってやろうか? 今のお前でも、フリーザと戦えば一瞬で殺されるだけだ」

 俺の言葉に、カカロットたち三人は沈黙し、少ししてハゲチビがおずおずと口を開く。

「いくらなんでも、それは大げさなんじゃ……」
「願望でものを言うな」

 そう思いたがるのも、わからなくはないがな。

「さっきカカロットが戦ったギニューはフリーザ軍のナンバー2だ。だが、ギニューが百人いたとしてもフリーザには傷一つつけられないだろうよ。お前に同じことができるかカカロット」

 俺の言葉に、カカロットは一瞬考え込み、それから口を開く。

「いやー。無理だと思うぞ。多分、半分も倒さないうちに体に限界が来てやられちまう」
「そうか……」

 半分近く倒せるのか。バケモノめ。

「そんなわけだから、俺と手を組め」
「でも、ベジータと手を組んだからって、フリーザを倒せるとは限らないじゃないか!」

 こっちも反抗的な、カカロットの息子の言葉に俺は呆れる。

「馬鹿か、お前は。俺たちが手を組んだからってフリーザを倒せるわけがないだろ」
「って、それじゃあ手を組んでも意味ないじゃないかよ」
「そうでもないさ」

 そもそも、今回の場合はフリーザに勝つために、奴を倒す必要はないのだ。
 必要なのは、いかに目的を達成するかだ。

「お前たちの目的は、ドラゴンボールを使うことだろう?」

 俺の問いに、三人は首を縦に振ることで肯定する。

「そして、俺の目的はフリーザにドラゴンボールを使わせないことだ。つまり、奴らからドラゴンボールを奪い取りさえすればフリーザを倒せなくても、俺たちの勝ちというわけだ。そういう意味で、俺たちの利害は一致する」

 実際のところ、俺としてはドラゴンボールを破壊すれば目的は達せられるので、必ずしも奪う必要はないのだが、それは黙っておく。

「そういうわけだから、人手は多いほうがいいとは思わないか?」
「確かにそうかもしれないけど……。そもそも、どうしてベジータはフリーザがドラゴンボールを使うのを阻止したいんだ?」

 ついに、その質問が来たか。ラディッツの時みたいに適当に誤魔化すか?
 いや、それだと後でフリーザ軍に勧誘するときに支障をきたすな。
 ここは、正直に教えておこう。

「知ってるかどうかわからんが、フリーザはチビだ」
「それは、知ってる」
「遠目にだけど、飛んでるところを見ましたからね」
「へえー。そうなのか?」
「それで、俺の方が身長が高いんだが、それで上から見下ろされるのが気に入らないらしくてな」
「……」
「俺を子供に戻して身長を下げようとしているらしい……。って、何故こけている?」

 ひっくり返ったハゲチビとガキに言ってやったら、今度は勢い良く起き上がってきた。

「そんなくだらないことに、ドラゴンボールを使おうとしているのかよ!」
「そんな理由で、ナメック星人さんたちは殺されたんですか!」
「ベジータより低いって、そうとうチビなんだな」

 よし、カカロットは後で殴ろう。

「フリーザがドラゴンボールを集めた理由が、くだらなかろうが何だろうが、やることが変わるわけじゃない。願いを叶えたければ俺に協力しろ」
「けどさ。悟空はともかく、俺や悟飯が役に立てるのか? 俺たちじゃ、フリーザはもちろんギニュー特戦隊って連中にも手も足もでなかったんだぞ」

 悟空? ああ、カカロットが地球で使ってる名前だったな。
 良く自分を理解しているハゲチビの言葉だが、そんな心配は無用だ。

「誰か一人が、ドラゴンボールを奪取して逃げられればいいんだ。頭数が多いに越したことはない」
「えーと、逃げられなかったらどうなるんだ」
「そりゃあ、な」

 手刀で喉を掻き切るような仕草をしてみせてやる。

「……もう一つ質問なんだが、逃げ切れるもんなのか?」
「気休めと事実の、どっちが聞きたい?」
「ようするに、無理なんだな?」

 まあな。
 向こうには、宇宙最強なフリーザと、素の戦闘力なら今のカカロット以上のギニューと、スピードだけならギニュー以上のバータと、時間を止める能力者なグルドがいる。
 逃げ切れるかは、カカロットで五分と五分。他の二人は捕まるのが前提の囮ぐらいしかできないだろうし、俺の方は集中して狙ってくるだろうから多分逃げ切れないだろう。

「いやだーっ!!」

 うおっ、何だ急に?

「うわーっ死にたくない!! 逝きたくないー!」

 死の恐怖に耐えかねたのか。
 人間の精神なんて脆いもんだな。
 土下座でもしているように、膝をつき、土を掴むハゲチビは実に見苦しい。

「ちきしょー。なんで、こんなところで死ななきゃならないんだよ。まだ、結婚だってしたことないのにーっ」
「結婚できてたら、死んでも良かったのか?」
「それはそれで、いやだー」

 めんどくさい奴め。

「まあ、どうしても死にたくないって言うなら、方法がないこともないぞ。それどころか、ドラゴンボール奪取に失敗しても後で使わせてもらえるかもな」
「へ?」

 おお、間抜けな顔だ。

「なんだよ。そんな方法があるなら、さっさと教えてくれよ」

 あっさり立ち直って、馴れ馴れしく肩まで叩いてきやがった。なんか、ラディッツみたいな奴だな。

「で、どうすればいいんだ?」
「フリーザ軍に入れ」
「……」
「……」
「……」

 なぜ黙る?

「なんで、そうなる!?」
「そうだぞ。それに、その仕事はやらないって、ちゃんと兄貴って奴に断ったじゃないか」

 ふむ。唐突すぎたかな。

「そう深く考えるな。お前たちには、殺されるかフリーザの配下になるかの二択しかないってだけの話だ。シンプルだろ?」
「だから、なんでその二択しかないのか説明しろよ!」

 下らんことを気にする奴らだな。

「いいか、フリーザは見た目はガキで中身はワガママなガキだ」
「そうなのか?」
「そうなんだ。だから、思いつきで行動するし、それの邪魔をする奴に容赦がない。人を殺すことにも禁忌がない」

 まあ、その辺りは俺も変わらんが。

「ところが、奴は同時に宇宙規模の大組織のトップでもあるから、組織に有用な人材には甘いところがある。でまあ、フリーザ軍にも滅多にいない一万越えの戦闘力のハゲチビ……」
「クリリンだ」
「……クリリンや、年齢からは考えられない戦闘力を持つガキ……」
「悟飯です」
「……悟飯や、ギニューの上を行く実力者のカカロット……」
「オラ、孫悟空だ」
「……カカロットなら、フリーザ軍に入って働けば、大抵のことは許してもらえるわけだ」
「なんで、オラだけ……」

 お前のことは、カカロットで登録済みなんだよ。ラディッツが、地球に行く前にな。いらんところでマメなやつだよな、あいつも。
 ともかく、

「そんなわけで、フリーザ軍に入るんなら今回の件も許してもらえるはずだ」
「でもよぉ」
「それと、入らないって言うんなら今すぐ逃げ出したとしても後からフリーザが殺しに追いかけることになるぞ」
「なんで?」
「お前ら、この星に来てすぐにフリーザ軍の奴を二人ぶっ倒しただろ。こっちにはメンツってものがあるんだ。組織の奴をやられて、犯人をほっとけるわけないだろ。あと、ドドリアに蹴り入れて逃げたりもしてるしな」
「そんなぁ……」
「それに、ギニューに勝てる奴を放置しておくのも組織としてはまずい。フリーザ本人にしか抑えられない奴がいて、それが味方じゃないなんて、面倒の種にしかならないからな」

 懇切丁寧に、ハゲチ、クリリンに説明してやったわけだが、やはり納得しがたいといった顔で考え込んでいる。

「でも、悪者の仲間になるなんて嫌ですよ」

 今度は、ガ、悟飯が不満を言ってきたが、やれやれと俺は首を振る。

「だったら、素直に殺されるか?」
「いや、オラたちがフリーザって奴を倒せば何とかなるだろ」
「ならねえよ。何度も言うが、今のカカロットでもフリーザには万が一にも勝てん」

 もはや、選択肢などないと自覚してほしいものだ。

「でもよー。お前らの仕事って、何の罪もない人を皆殺しにする仕事だろ? そんなの俺たちに務まるわけないじゃないか」

 なんだ、そんなことが引っかかってるのか。

「なら、お前たちは悪人しかいない惑星を攻める仕事を回してもらえばいいだろう」
「へ? そんな星があるのか?」

 そりゃあ、あるさ。
 まさか、世の中には善人と悪人の戦いしかないとでも思ってるんじゃないだろうな。
 善人同士や悪人同士の殺し合いなんて、宇宙には腐るほどあるぞ。

「そうじゃなくて、悪人しかいない星なんてものが、本当にあるのか?」

 そっちか。

「そりゃあ、あるさ。このナメック星みたいに善人しかいない惑星の真逆の星がな」

 そもそも、この宇宙には悪でなくては生き残れない種族も存在する。
 例えば、サイヤ人だ。
 戦闘民族であるサイヤ人は、戦うことに関しては天才的な閃きを持つが、反面それ以外のことに関してはまったくの無能である。

「それは、カカロットも同じだろう? それとも、何か手に職持って働いているのか?」
「うっ……」

 やはりな。
 戦う以外に能がなく、しかも人の何十倍もの食料を摂取しなければ生きていけないサイヤ人には、まともに働いて生きていけるだけの収入など見込めない。
 自分が食べる分は狩りをして手に入れるという手もあるし、だからこそカカロットは地球で仲良くやっていられるのだろうが、それは他にサイヤ人がいない環境だからに過ぎない。
 仮に、今生き残っているサイヤ人全員が改心して、フリーザ軍を抜けて地球に行ったとする。
 そうなると、戦うしか能のないサイヤ人たちは定職にも付けず、狩りをして食べていくことになるが、人の何十倍もの食料を必要とする種族が、いっせいに狩りを始めれば、数年で野生の動物など食い尽くしてしまうことになる。
 そうして、サイヤ人は選択を迫られることになるのだ。
 悪党に戻り食料を強奪するか、静かに餓死していくかを。
 つまり、サイヤ人とは生まれながらにして、悪になることを宿命付けられた種族なのだ。
 もっとも、サイヤ人はカカロットのような例外を除けば全員が、奪い、壊し、踏みにじる事を喜びとする悪党なので、自分たちが悪になるしか生きる術のない種族であるなどと、普通は考えないわけだが。
 俺も、ナッパに言われて初めて、言われてみればその通りだなと思ったクチだし。
 そして、この話には、カカロットたちにも関係のない話とは言えない。
 今地球にいるサイヤ人は、カカロットとその息子の二人だけだが、この先子孫を増やしていけば、そしてその子孫たちが高い戦闘力と多くの食事を必要とする二つの特徴を受け継いでいれば、そいつらは滅ぶか悪に堕ちるかの二択を迫られることになるのだ。
 ちょうど今、カカロットたちが死ぬかフリーザの配下になるかの選択を迫られているように。

 そんなことを話してやったら、三人は深刻な顔で黙り込んだ。
 考えたこともなかったって顔だな。
 実際、考えても意味のないことなんだが。
 悪を許せなければ自害すればいいし、生きたければ悪になればいい。
 そんなものは、生まれながらの悪である俺たちサイヤ人にはないも同然の選択肢だし、カカロットの方のも本当に俺の言った通りになるとは限らない上に、そうなるとしても、ずっと未来、俺たちがとっくの昔に死んだ後の話だ。
 自分が死んだ後に起こるかもしれない問題なんか、その時代に生きている奴らに考えさせればいいのだ。
 それに、今俺たちが考えるべき事は他にある。

「で、フリーザ軍に入る決心は付いたのか?」

 その決心をさせるために、どうでもいいことを話してやったんだから、さっさと決心してもらわないと俺が困る。

「でも……」
「でもじゃねえ。お前らと違って、俺はいつドラゴンボールでガキにされるかわからないんだよ。なんで、まだフリーザが願いを叶えないのか不思議なくらいなんだよ。ここでグダグタしてる間に、手遅れになったら許さんぞお前ら!」

 本気で、いまだに俺がガキにされてないのが不思議になってくるが、ギニューたちが立ち去ったときのバータの台詞からすると、ドラゴンボールを奪いに行ったところを叩きのめして、俺の目の前で願いを叶えようとしていると考えることもできる。
 だが、その想像が正しかったとしても、いつまでもここでグダグタしてたら、フリーザはドラゴンボールを使うだろう。堪え性のないガキだからな。

「確かに、フリーザの仲間になるかどうかはともかく、奴らに願いを叶えられるとオラたちも困るな」

 ようやく決心したか。って、オラたちも? 何でだ?

「ベジータは知らないかもしれないけど、ドラゴンボールは一度願いを叶えると一年間は石になって使えなくなるんだ」

 へえ?

「なら一年待てばいいんじゃないか?」

 死んだ奴だって、生き返れるのなら一年くらい待ってくれるだろうさ。

「あれ? そういえば、そうか?」
「ダメだ!」

 今度は、どうした。ハゲ、クリリン?

「それじゃあダメなんだ。あと一年も最長老様の寿命がもたない」

 最長老? 前にも聞いた名前だな。
 確か、ハ、クリリンの潜在能力を開放してパワーアップさせた奴だったかな。
 しかし、そいつの寿命がもたなきゃどうなるってんだ?

「まさか、ナメック星のドラゴンボールは……」
「そうだよ。最長老様が作ったんだよ!」

 だから、何の話をしてるんだ?

「そうか! 最長老様が死んだら、ドラゴンボールも消えちゃうから……」

 おお、そういうことなのか礼を言うぞ、ガ、悟飯。
 となると、ひょっとして、わざわざフリーザのところに行ってドラゴンボールを奪取しなくても、俺の目的は達成できるのでは?

「なんか、黒い事考えてないか? ベジータ」
「別に」

 意外と鋭いカカロットに、ごまかしの言葉を吐いて、とりあえず最長老とやらの戦闘力を探ってみる。
 えーと、クリリンが飛んできた方向だからアッチか……。

「あれ?」
「どうしたベジータ?」
「いや、戦闘力からすると特戦隊のギニューと他二人なんだろうが、その最長老って奴のところに向かってる奴らがいるぞ」
「え!!」

 声を上げて、その方向に顔を向けて気を探る三人。

「本当だ。なんで……」

 呟いた後、はっとした顔になるクリリン。

「わかったぞ! フリーザが、まだ願いをかなえてないのは、合言葉を知らないせいなんだ!」

 合言葉だと?

「そうか、そいつらはシェンロンを呼び出さなきゃいけないことを知らねえんだ!」

 シェンロン?

「ひょっとして、だから合言葉を聞き出そうとして?」
「多分、そうだ!」

 はぁ、と一息吐いて拳を握る。
 ゴンッゴンッゴンッという音を立てて、拳骨を三人の頭に落とす。

「話が見えん。説明しろ」
「はい……」



 コブを作って、涙目になって説明したクリリンによると、願いを叶えてくれるのはシェンロンという巨大な竜で、ドラゴンボールというのは、願いを叶えてくれるアイテムではなく、そいつを呼び出す道具ということらしい。
 だから、ドラゴンボールに直接願い事を言っても無駄ということだ。
 しかし、フリーザがそんなことを知るはずもなく、願い事が叶ったかどうか疑問があったので、生き残りのナメック星人である最長老のところに特戦隊を向かわせたというところか。

「まずいよ。あいつら最長老様が死んだら、ドラゴンボールがなくなることを知らないし。聞き出すついでに殺しちゃうかも」

 そいつは好都合だ。

「よし、オラたちも最長老様のところに行こう」
「おおっ!」

 カカロットの言葉に、元気良く同意する残りの二人。
 元気なことで結構だな。
 俺も行くけどな。都合よく、最長老が死んでくれるとは限らないし、情報だけ持って帰られたりしたら最悪だしな。



[17376] ベジータのなく頃に
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/06/05 20:35
 前回までのあらすじ

 フリーザ軍に入らないかと勧誘された孫悟空は、ギニュー特戦隊がナメック星の最長老に接近していることに気づき、返事は保留にしてまず、そちらに会いに行くことにしたのだった。



「どうも、間に合わなかったようだな」

 最長老の住む家というか、10/1スケールの小屋というか、そんな感じの巨人用住居の前に来ての俺の言葉に、カカロットたち三人は沈黙する。
 別に、何があったというわけではない。
 ただ単に、特戦隊より先に最長老の元にたどりつき、守ってやろうと急いできたはいいが、結局ついたのは連中より後だったというだけの話である。
 俺は、隙あらば抹殺する気満々だったがな。

「しかし、これはどういう状況なんだろうな?」

 俺の呟きは、特戦隊に向けた疑問だ。
 特戦隊が先に来たなら、ドラゴンボールの使い方を聞き出して、すぐにとんぼ返りするか、聞き出そうとして勢いあまって殺してしまうかのどちらかだと思っていたのだが、どういうわけか、そうはならなかった。
 まあ、その辺りの疑問は中にいる奴らに聞けばわかるんだろう。
 とりあえず、鍵はおろか扉すらない無用心極まりない開きっぱなしの入り口から中に入ると、そこには大猿になったサイヤ人と肩を組めそうなくらいに巨大なナメック星人がいた。

「ふむ」

 右手に拳を作り、そこに気を集中する。

「待った待ったー!」

 俺に遅れて入ってきたクリリンが、制止の声をかけてくるが構わず俺は右手に集まった気弾を解き放つ。
 球形のエネルギー弾は、まっすぐに最長老に向かって飛び、あわや目的達成、勝ったッ! 第3部完! とガッツポーズを取りかけたところで、目標が腰かける椅子の隣に用意されたテーブルで紅茶を飲んでいた二人の少女の片側、青い燕尾服の少女が瞬時に移動し、光弾を受け止め握りつぶす。

「まったく、予想通りの行動とはいえ、最長老を殺そうとするなんて、とんでもないことをやってくれるわね」
「そっちも、予想通りとはいえ、最長老を守るなんて面倒なことをやってくれるもんだ」

 もう一人、赤いドレスを着た少女の、なんのつもりか膝に乗せたナメック星人のガキの頭を撫でながらそんな言葉に俺は答えを返す。
 つまりは、そういうことだ。
 先に、ここについた特戦隊は三人。ギニューが現在の俺と同じくらいの戦闘力の奴と一緒に、ここから少し離れた場所に行ってて、残りの二人のジースとバータが最長老の傍に残っているというわけである。

「リクームとグルドは、どうした?」
「あの娘たちなら、休んでいるわ。アイドルだもの、痕が残ったりしたら大変でしょ」

 なるほど。納得の理由だ。
 それは、さておき

「お前たちが守ったって事は、知ってるんだな?」
「そちらも、いきなり攻撃をするということは、知っているというわけね」

 やっぱりか。最長老が死ねばドラゴンボールが使えなくなることを知っていれば、護衛を置こうとするのは自然なことだ。
 ましてや、俺のようなフリーザがドラゴンボールを使うことを阻止しようと動いている者がいるとなれば、そうしないほうがおかしい。
 といっても、今のは本気の一撃というわけではない。
 今ので死んでくれれば助かったのは事実だが、バータが何もしなければ、クリリンの更に後ろにいるカカロットが気弾を追い抜いていって止めていただけであろうことは容易に想像がつくのだから。
 それだけの戦闘力の差が、今の俺とカカロットにはある。
 しかし、

「結局、これはどういう状況なんだ?」
「質問は、もっと要点を絞りなさい。でないと、何を答えればいいのかわからなくなるわ」

 むう、要点か。
 脳筋種族のサイヤ人に無茶を言う女だな。

「まあ、ベジータが何を聞きたいかなんて、言われなくてもわかってるんだけどね」

 オイ!

「大体想像がつくでしょうけど、私たちは最初、ドラゴンボールの使い方を聞き出すために、ここまで来たわ。だけど、ここにいた若いナメック星人に、ここにいるのはドラゴンボールを作った最長老様で、この人が死ぬとドラゴンボールも消えるって言われたものだから、暴力を振るうわけにはいかなくなるし、他にいた二人から聞き出すにも万が一にも最長老様を巻き込むわけにはいかないでしょ。それで、最長老様を巻き込むわけにいかないのは、向こうも同じだったから、その若者に隊長が場所を移して聞き出すことにしたわけ」

 なるほど。

「お前たち二人が残ったのは、俺が来たときのためか?」
「そう。本当に来るとは思わなかったけどね」

 そうだろうとも。
 普通に考えれば、もはやフリーザがドラゴンボールを集め終わった現在、俺がこんなところに来る理由も時間もないのだから。
 最長老を殺して、ドラゴンボールを使えなくするというのも実は現実的ではない。
 なぜなら、カカロットが邪魔をするのがわかりきっているのだから。
 では、最長老を守ろうという意志すらない俺が何故ここに来たのかと言えば、クリリンが前に言っていた情報が理由だ。
 最長老には、人の持つ潜在能力を開放し、パワーアップさせることができると言う。
 クリリンは悟飯の潜在能力を開放して俺に対抗するつもりだったようだが、どうせ最長老の所に行くなら、それで俺やカカロットを強化すればいいと、ここに来るまでの間に話し合った。
 それで俺とカカロットがパワーアップしたとしても、フリーザに勝てるとは思わないが、強くなるに越したことはない。
 カカロットは、自分は前にもそういう薬を呑んだことがあるから効果があるかどうかわからないと言っていたが、試して損があるわけでもない。
 本音を言えば、俺個人としてはカカロットのパワーアップがない方が都合がいい。
 カカロットより強くなれれば、最長老を始末して終わりにできるからな。
 ただ、その場合は俺のパワーアップもなくなるであろう事情があったりして悩ましい話だ。
 その事情が何かというのはさておき、もちろん、そんなことをジースやバータに説明してやるつもりはないというか、むしろ知られるとまずい系の話なので、おれは黙ってクリリンを促す。

 この計画はジースとバータに聞かれるわけにはいかないが、何も言わずに最長老に察しろというのも無茶な話だ。
 しかし、最長老には言葉を介せずとも、相手の頭に手を置くだけでその記憶を読み取る能力があるという。
 なんだ、その能力はと思ったが、カカロットにもできるのだから、ナメック星人にできて不思議はない。
 何故、カカロットにそんな能力があるのかは謎だが。
 それはともかく、潜在能力の開放も同じ手順を踏む必要があり、だからこそ開放後に最長老の命を奪おうなどという悪巧みは、あっさりと看破されることが容易に予想できるわけで、だからこそ俺を抑えられるカカロットのパワーアップがなければ、俺の潜在能力の開放もやってもらえないだろう。
 その辺りの情報を特戦隊に知らせずに、こちらの要求を最長老に伝えることができるのはありがたい。
 あいつらも、自分たちの潜在能力を開放しろとか言い出したらどうしようもないからな

 ゴクリと唾を飲む音が聞こえる。
 俺や特戦隊の二人に注目されながら、最長老に歩み寄るクリリンが立てた音だ。
 俺たちの中で最長老と面識があり、多少なりとも信頼されているのが奴一人なのだからこの役割は当然だが、敵である特戦隊に見られながらとなれば緊張するのも無理はない。らしい。
 その辺りの繊細さは、サイヤ人にはないのでいまいちピンとこないが。

「どうしました?」

 まるで彫像のように、それまで動かなかった最長老が口を開く。
 まあ、事態が掴めてないんだろうが。
 それを説明するためのクリリンであるが、呼びかけられ顔を上げた瞬間にハッとした顔になる。

「あの、何か疲れてませんか?」

 うん。確かに、疲れきった老人としか言えない顔をしてるが、今それを言うってことは、前に会ったときはもうすこし元気のある顔をしていたのかね?
 問われた最長老は、死に瀕した老人の声で、答えを返す。

「ええ。なんと言いましょうか、フリーザの目的を知って、私の子供たちは何のために死んだのかと思いまして……」

 なにやら意味ありげにこちらを見る最長老を、無視する俺。

「話したのか?」
「ええ。隠す理由もないもの」
「よく、信じたな」
「そうね。言葉で説明しただけなら信じてもらえなかったでしょうね」

 そう言って、膝の上のナメック星人のガキの頭に手を置いて、困った顔にさせて目を閉じるジース。
 それは多分、最長老が相手の記憶を探るときの動作で、つまりはそれで事実だと知らせたのだろう。
 って、微妙にやばいな。

「それで、どうしたんですか?」
「えーと、言葉で説明するより、こっちの方が早いんで」

 最長老に頭を差し出すクリリンに、ジースが目を細める。

「あら? 内緒話かしら」

 やっぱり気づいたか。
 ここで一戦交えることになるかと身構えた俺に、ジースが「何をする気かは知らないけど、邪魔をする気はないわよ」と言ってきた。
 何故に?

「ここで戦うと最長老様を巻き込んじゃうでしょ」
「それに、ベジータはともかく、そっちのサイヤ人には勝てそうにないからね」

 言って、バータがカカロットに視線を向ける。

「まったく、仲間じゃないとか言って行動を共にしてるなんてね」

 ため息を吐いて、そんなことを言ってくるが、そもそも俺に連中を勧誘しろと言ったのは、てめえだ。
 仲間ってわけでもないしな。
 俺の目的は、フリーザにドラゴンボールを使わせないことで、カカロットたちはフリーザを倒すと言う空虚な妄想をまだ捨ててない。

 なんにしろ、クリリンの頭に手を置いた最長老は、しばしの沈黙の後ため息と共に言葉を吐き出す。

「私は、あなたにある事実を告げなければいけないようですね」

 急にどうした。

「あなた方は、ドラゴンボールで一つしか願いが叶えられないと思っているようですが……、実は三つ叶えることができます」
「なんだってー!!」

 そうなのか。
 おっ、ジースとバータも驚いてる。

「三つしか、叶えられないのか。それじゃあ、ついでに全銀河の美少女の顔写真、住所氏名電話番号スリーサイズの載ったプロフィールメモ付きが欲しいという願いをするのはやめといたほうがいいかな」
「そうね。宇宙一美味しい紅茶を飲ませて欲しいという願いも自重したほうがいいわね」

 そんなことを考えてたのか。
 この分だと、他の奴らも似たようなことを考えてそうだな。

「つまり、あなたがたの目的である地球のドラゴンボールを復活させるという願いはフリーザと争わなくても叶えられるということです」
「それって……」
「別に、フリーザの配下になることを勧めているわけではありませんよ。ただ、そういう選択肢もあるということです」

 言って最長老は天井に目を向ける。

「悪に屈するのは悲しいことです。しかし、だからと言って必要もないのに戦いを挑み命を落とさなくてはならない理由はありません」

 ああ、確かに地球人にはフリーザに戦いを挑む必要はないな。
 こいつらは、正義感が強いのは確かだが、自分たちの目の届かないところで暴れる悪党をどうにかしようとするほど狂ってはいないし、フリーザの願いは地球人には何の関係もない。
 だが、それでも悪の側に立てと言われて素直に従う奴らではない。

「そうかもしれねえ。けど」

 カカロットが前に出て言う。
 悪に、屈することはしないという意思を込めて。

「けど、オラ戦ってみたいんだ。フリーザと」

 って、そっちの理由かよ。
 目を覚ませ、カカロット。
 素の戦闘力が9万程度のお前が、推定50万くらいありそうなフリーザに勝てると思ってるのか!

「そうですか。ならば、止めません。こちらへ……」

 いや、止めろよ。という俺の心の声が聞こえるはずもなく、呼ばれたカカロットと悟飯が最長老の前に立つ。ついでに、その横に並ぶ俺。
 パワーアップはしておきたいからな。
 最長老が、まず悟飯の頭に手を置く。
 さて、どんなことをして潜在能力を開放するのかと思った瞬間。
 ドンッ! という音が聞こえたような気がしたが、そんなことはなく、ただ悟飯の気が爆発的に増大していた。
 おお、すげー。何をやったのか、さっぱりわかんねー。
 グルドにボコにされて、その後にカカロットに救われたおかげで、かなりのパワーアップをしていたが、それが比較にならないほどに強くなりやがったな。
 へたしたら、俺より強くなったかも……。ないない、そこまで強くなられてたまるか。
 そして次に、最長老の手は俺の頭の上に移動し、そのまま通り過ぎてカカロットの頭に乗せられる。
 ああ、そうなるだろうと思ったよ。
 そして、コーラを飲んだらゲップが出るのと同じくらいに当たり前のことのようにパワーアップするカカロット。

「なん…だと…」

 開放された戦闘力の大きさは予想を大きく上回り、俺には一言を呟くことしかできない。
 それは、クリリンや悟飯も同じらしく、驚きすぎて声も出ないようだ。
 何故って、カカロットのパワーアップが桁違いにもほどがあったからだ。
 地球人たちほど気を探るのが得意でない俺からみて、今のカカロットの戦闘力はフリーザのそれを上回っているように感じる。
 俺の勘違いと言う可能性もあるが、それでも俺が到底届かない領域の戦闘力を手に入れたことに違いはない。
 すでに、サイヤ人では考えられない戦闘力に達していたカカロットが、更なる領域に昇るとか何の冗談だ。

「どうしたの?」

 そんな俺に、訝しげな顔のジースが聞いてくる。
 まあ、スカウターを使ってないと俺たちが何に驚いてるかなんてわからないよな。
 わかってもらっても困るが。
 ギニュー特戦隊が、このことを知って自分たちの潜在能力の開放もしろとか言ってきたら、洒落にならん。
 というか、フリーザがここのことを知って、潜在能力を開放したらとか考えたら怖すぎる。
 なんにしろ、最長老の潜在能力解放能力を話すわけにはいかないし、そもそも俺のパワーアップがまだだ。
 さっさと、済ませてしまおう。
 それで、上手くジースやバータより強くなれれば、力ずくでで押さえ込んでうやむやにしてやればいい。
 って、おや?

「何故、俺を羽交い絞めにする?」
「いや。最長老様が、そうしろって」

 だから、とりあえず従ったのだと言うカカロットから、最長老に視線を移す俺。

「いえ、あなたは用が済んだら、私を殺す気でしょう?」

 やはり、見抜かれたか。
 よーし、わかった。
 もうやらんから、離せ。
 てか、離れろ。
 でかい乳を背中に押し付けるな。
 俺の息子が、大暴れする前に離れやがれ!



[17376] ベジータの呼び声
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/06/12 20:06
 前回までのあらすじ

 最長老のもとにたどり着いた一行は、予定通りに潜在能力の開放でパワーアップを果たす。
 それはいいのだが、潜在能力を開放した孫悟空の戦闘力は、ベジータの予想を大きく上回り、後の予定が狂いそうな勢いだった。
 ついでに、ベジータもパワーアップした。



 最長老の潜在能力解放により、俺の戦闘力はフリーザとも互角に戦えるんじゃないかと思えるほどにアップした。
 これは、驚異的な話であるが、あまり嬉しくないのは何故だろうな。
 いや、理由はわかっているんだ。

 一言で言うと、俺の前に潜在能力を開放したカカロットが俺に大差をつけてパワーアップしたからである。
 俺が先なら、もうちょっとインパクトがあったのだろうが、後出しで負けてるとかピエロにもほどがある。
 しかも、カカロットがこれだけパワーアップしてしまうと逆に面倒なのだ。
 そもそも、カカロットはフリーザと戦いたがってるわけなんだから、そこそこ戦えるくらいにパワーアップしてもらえば、奴が戦ってる隙をついてドラゴンボールを奪取するなり破壊するなりの作戦が使えたんだが、本気でフリーザを倒せそうな戦闘力になられると戦わせるのは問題がある。
 何故って、カカロットにフリーザが倒されてしまうと俺が困るからだ。
 俺たちサイヤ人は、全員が戦うことしか知らない社会不適合者だ。
 はっきり言ってしまうと、フリーザとサイヤ人の関係は雇用主と労働者というより、飼い主と家畜のそれに近い。
 牛や豚じゃなくて、牧羊犬や猟犬だがな。
 それに不満を持たないのかと問われれば、別に、と俺は答えるだろう。
 そもそも、戦っていられれば幸せな戦闘民族なのだから、何もしなくても勝手に倒すべき敵を見つけてきてもらえるこの環境に不満を覚えるサイヤ人などいないのである。
 そんな俺たちが、指導者を失ってしまえばどうなるか。
 あまり考えたくはないが、仲間同士で最後の一人まで殺しあって滅びるとか、そんなオチだろう。
 そんな事態を迎えたいとは、まったく全然これっぽっちも思わないのである。
 甘いカカロットのことだから、フリーザを倒しても命までは取らないだろうが、死ななきゃいいってものでもない。
 フリーザは組織のトップなのだから、面子といものがあるのだ。
 仕事柄、組織外の者にやられて、そいつをそのままにしておけば業務に差しさわりが出るし、全宇宙最強の称号が他に移ってしまうのもまずい。

 では、どうすればいいのか。
 フリーザを、ここに連れてきてパワーアップしてもらうか?
 それは、あまりにも俺がピエロすぎる。
 やるとしても、ドラゴンボールを無力化してからだろうな。
 そもそも、最長老が同意するかも疑問だが。
 いっそ、俺がカカロットより強くなれてれば問題も少なかったんだが。
 それならフリーザが負けても、後で俺がカカロットを倒してしまえば話は済んだのだ。
 フリーザより強い奴がいても、それが配下にいるのならば、組織も揺らがずに済むのだからな。多分。
 しかし、そうそう世の中は上手く回らない。
 今、俺にできるのは、いかにしてカカロットとフリーザの対戦を阻むかに頭を悩ませることくらいだ、
 と言っても、しょせんは俺もサイヤ人。戦う以外の選択肢など思いつくはずがない。
 では、どうするかと言えば俺がフリーザと戦う。その隙に、カカロットたちはドラゴンボールで願いを叶えればいい。
 それが、ただ一つの選択だ。
 もちろん、勝てる保障があるわけではないが、負ける気もない。
 勝算がないわけでもないからな。
 サイヤ人は戦いの中で成長する種族だから、上手くいけばフリーザとの戦いが終わる頃にはフリーザを超え、カカロットすら超えている可能性もあるからな。
 うん。虫のいい考えだ。

 というわけで、まずはこの手に入れたばかりの絶大な戦闘力を使ってジースとバータを気絶させて、その後でカカロットたちに作戦を伝えるとするか。
 そう思った時。

「では、ドラゴンボールで願いを叶えるための方法をお教えしましょう」

 そんなトンでもないことを最長老が言った。

「なっなっなっなっなっ……」

 何を考えてやがる!
 その言葉と共に、一発ぶん殴ってやろうとした俺を、カカロットが肩に手をかけて制止する。
 なんだよ? 俺が最長老を殴り殺そうとしているようにでも見えたってのかよ。
 ああ、そのつもりだとも。
 そうすれば、問題が一つは解決するからな。新しい問題の方はどうにもならんが。

 そんな俺の内心を見抜いたわけでもないだろうが、カカロットに制止されて俺は悩む。
 やるべきか、やらざるべきか。
 やめとこう、今カカロットと戦っても瞬殺されるだけだ。
 気を収め、戦闘する気はないという意思表示をすると、カカロットが肩から手を離す。

「バカめ。かかったな!」

 瞬時に気を開放し、腰の横に構えた拳に身中にみなぎるパワーを集中する。
 これを解き放ち直撃させれば、最長老は跡形もなく消滅するだろう。
 ジースにすら感知不可能な速度で行われた俺のこの行動に、しかしカカロットが俺以上の速さで動き俺の腹筋に拳を突き入れた。



 はっ、俺は今まで何を?

「フリーザが俺を子供にする計画を立てたり、それを邪魔しようとナメック星まで行ったら地球人がいたり、過密スケジュールで忙しいはずのギニュー特戦隊が来たり、それ以上に強くなったカカロットが出てきたりする夢を見ていたような……」

「残念。それは現実だ」

 聞こえてきた「ハゲチビ」の声に、俺はそれが現実であったことを思い出す。
 畜生。現実逃避も許されないのか。

「ハゲチビのところだけ、声に出すな!」

 あー、うるさい。

「で、俺はどのくらい気絶した? 俺が寝ている間に何があった?」

 それを聞かないことには始まらない。
 まあ、俺が子供になってなかったり、ジースとバータはいなくなってるが、カカロットたちはいる辺りを考えるとそれほど時間は経ってないんだろうが。
 と思ったら案の定、俺が寝てたのは数分のことらしい。
 そうだろうとも、そうじゃなければフリーザが願いを叶えてしまってるだろう。
 って言うか、

「何をのんびりしてるんだ、お前らは?」

 叶えられる願いが三つあって、フリーザの願いがこいつらにとって阻止しなければならないものではないとはいえ、ここで悠長にしていていい理由はないだろうに。
 聞いてみたら、フリーザが願いを叶えることは不可能だと答えてきた。何故に?

「ドラゴンボールで願いを叶えるにはシェンロンを呼ばなきゃいけないって言っただろ?」

 言ったな。それは、覚えてる。

「最長老様は、あいつらにも、それを教えたんだけど、ここのドラゴンボールはそれだけじゃダメなんだ」

 ほほう。つまり?

「ここのドラゴンボールは、呼び出すのも願い事もナメック語で言わなきゃならないんだってさ。呼び出す方は呪文だって言ってナメック語を教えたけど、それだけじゃあダメだからな」

 なるほど。
 しかし、何故そんなことを?

「私のためだ」

 おや? 
 なにやら聞き覚えのない声に顔を向けると、見覚えのないナメック星人がいた。

「だれだ?」
「最長老様の護衛をやっているネイルさんです」

 またしても聞き覚えのない声がして、そっちを見ると俺が気絶する前にジースが抱いていたガキのナメック星人だった。

「つまり、どういうことだ?」
「言い換えると、ギニュー特戦隊に殺されそうなネイルさんを助けるために、ドラゴンボールのことを教えてお引取り願ったってことですよ」

 そういうことか。
 しかし、こうなるとフリーザは俺が何をしなくてもドラゴンボールで願いを叶えることができないんじゃなかろうか。
 願いをかなえるには通訳が必要で、しかし通訳がちゃんと願いを言ってくれるかどうかわからないからな。

 あれ?
 俺、なんでこっちにいるんだ?
 もう、フリーザについてもいいんじゃね?
 とはいえ、今戻るとカカロットと戦うことになるんだよな。ドラゴンボールとか関係なく。
 フリーザ軍の方針的に考えて。
 そりゃあ、カカロットとは決着をつける気でいるが今の圧倒的なまでの戦闘力の差を考えれば勝てるとはミジンコほども思えない。
 もちろん今は、であって将来は話が別だ。
 俺は、フリーザは超えられない壁の向こうにいると思っていた。
 しかし、それ以上の戦闘力を得たカカロットとの差が埋まらないとは思わない。
 同じサイヤ人であり、俺はエリートでカカロットは下級戦士なのだ。
 奴に到達できるのなら、俺が同じレベルにまで上がれない道理はない。
 もっとも、そんな将来の話を今しても意味はない。
 俺がカカロットを超えるためには実戦が必要で、今の俺の経験になるほどの相手となればフリーザしかいないわけで、カカロットとフリーザを戦わせないためにも、こっちで暗躍するしかないわけだ。
 しかし、どうするかね?



 願いを叶えるシェンロンが現れるとき、大地を光にて照らす太陽が姿を隠し、世界は夜に閉ざされるという。
 つまり、今はまだシェンロンは現れていないわけだが、だからと言ってのんびりしているわけにもいかない。
 フリーザたちに願いを叶えることは不可能だが、カカロットたちが願いを叶えるためには、何もせずにいるわけにはいかないのだ。
 その辺り、俺にはどうでも良かったりするが、何もせずカカロットとフリーザを戦わせるわけにもいかない。
 そんなわけで考えて出した結論が、フリーザたちがシェンロンとやらを呼び出した時に飛び込み、俺がフリーザと戦っている間にカカロットたちが願いを叶えるというものである。シェンロンというのは、地球のドラゴンボールで出てくる奴の名前で、ナメック星のは違う名前だとか言ってたが、そんなもん俺の知ったことか。
 ここで、カカロットがフリーザと戦うのは自分がやりたいなどと言い出したりしたが、そんなことをしたら対シェンロン用の通訳のナメック星人のガキ──デンデという名前らしい──をぶち殺すと言ってやった。
 俺の目的は、カカロットとフリーザを戦わせないことなのだから当然だ。
 ここで、俺を倒しておくという選択はカカロットたちにはない。
 俺を潰してフリーザの相手をカカロットがした場合、残りの二人でギニュー特戦隊やザーボンの相手をしなくてはならないのだ。
 その場合チビ二人に勝ち目はなく、デンデを殺されたり奪われたりする可能性が高く、願いを叶えるどころではない。
 というわけで、俺たちはまだフリーザのところにたどり着いていない特戦隊を追って飛ぶ。
 別に、先行するギニューたちに追いつく必要はないが、シェンロンを呼ぶタイミングには間に合ったほうがいいのだ。
 そして、現在の俺とカカロットは奴らより速いので、ちょうどいいタイミングで着くのも難しくはない。
 悟飯、クリリン、デンデの三人も、遅れないようにカカロットが引っ張ってるから遅れる心配はない。
 などと考えている間にフリーザたちの所に着いたようなので、気を抑えて隠れる俺たち。
 そして、ギニューたちはすでに情報を話した後らしく、シェンロンとやらを召喚する呪文が聞こえてくる。


  いあ! いあ! はすたあ! はすたあ くふあやく ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ あい! あい! はすたあ!


 何か不吉な響きのする召喚の言葉に応え、七つのドラゴンボールが心臓が脈動するように輝き明滅を繰り返し、風が吹き渦を巻く。
 風は強く吹き付けてくるのに、俺の体に絡みつき引き寄せようとする。
 周囲に向けて吹き付ける風が逆に雲を呼び、黒雲が天を閉ざし世界を闇に閉ざす。
 ドラゴンボールから生まれた雷が、大地から天に迸り闇を切り裂き、そこに巨大な影を浮かび上がらせる。

「見てはいけません!」

 鋭い声に、そちらを見れば、カカロットたちに向けて言葉を放つデンデの姿。

「この星では、シェンロンではなくHasturと言う名なのですが、アレは人の認識できる限界を超えた姿をしています。まともに見れば、正気を失う危険性があります!」

「はすたー?」
「Hasturです!」
「ハストゥール?」
「Hasturです!」
「はす……」

 言えんわ! もう、はすたあにしろ! フリーザたちも、そう言ってるみたいだし。
 それと、なに願いごとをしにくい造形に作ってるんだよ。しかも、俺をガン無視してクリリンたちに言うってことは、勝手に見て発狂してくたばれっていう意思表示かよ。気持ちはわかる。
 アレとやらは、闇に姿を浮かび上がらせ、巨体の半ば以上を隠した黒雲から名状しがたい不定形な姿を覗かせ、そのおぞましさでフリーザたちを金縛りにする。
 今行けば、なんの妨害もなく願い事を叶えられそうだな。

「と言うわけで行け!」

 告げて、フリーザたちの方に歩く俺。
 カカロットたちが無事に願いをかなえようが、どうしようが、事ここに至っては俺にはフリーザと戦う以外の選択肢などないのだから。



[17376] ベジータのススメ
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/06/19 20:06
 前回までのあらすじ

 孫悟空が、うっかりフリーザを超えてしまったと判断したベジータは、こいつらを戦わせてはいけないと考え、ついに自分が戦うことを決意したのだった。
 その頃、悟空たちはドラゴンボールにより呼び出された名状しがたき風の支配者に願いごとをしていた。



「どういうつもりですか?」

 隠れるでなく、堂々と正面から現れた俺にフリーザが、かけてくる言葉は当然のもの。
 俺に限らず、正面からフリーザに立ち向かって勝てる見込みのある者はない。
 そんなことはフリーザ本人を含め誰でも知っている常識であり、俺にできるのはフリーザに隠れてドラゴンボールを盗み出すか破壊することだけ。
 俺自身そう思っていたし、フリーザもそう考えていることは想像に難くない。
 だが、それもほんの数分前までの話だ。

「お前を、ぶっ倒してやろうと思ってな」

 首を振り、コキリと鳴らして進む俺を、あっけに取られた顔で見返したフリーザは、すぐにいやらしく笑みを浮かべた顔になる。

「本気で言っているのですか?」
「もちろんだ」
「ならば、正気ではないようですね」

 少しイジメすぎたでしょうか? 病院の手配は早めにしておいたほうがいいかもしれませんね。
 小声の、そんな独り言を漏らすフリーザ。
 同意して、気の毒そうな視線を向けてくるギニューとジースとバータ。リクームとグルドがいないが、宇宙船で休憩中か? ザーボンとドドリアもいないようだが。
 そして、世界中の誰が見捨てても自分だけは見捨てないぞという意志を込めて俺を見つめてくるキュイ。
 失礼な奴らだな、おい。
 まあ、俺でも他の誰かがフリーザを倒すとか言ったら同じような目で見るけどな。
 って、キュイの奴、普通にフリーザ側に戻ってやがる。
 当たり前のことのはずだが、なんだかショックだ。
 ラディッツもアッチにいるけど、それは気にならん。黒雲の中にいる奴を見てしまったらしく、気絶してるしな。
 まあ、それはいい。
 問題は、どうやってフリーザを戦う気にさせるかだな。
 向こうは、戦いにもならないくらいに戦闘力に差があると思ってるんだろうし、油断してるところをぶん殴るとかやったらマジギレしかねないからな。
 俺には、戦って勝つ気はあっても、本気で怒らせるつもりはないのだ。労働者の立場的に。
 そんなことを考えている間に、ふとフリーザが何かに気づいたような顔をする。

「なるほど、そういうことですか」

 そんなことを言うフリーザの視線は俺ではなく、その後方。いつの間にやら、はすたあ(だっけ?)を見上げる位置に立っているカカロットたちに向いていた。

「つまり、ベジータが囮になって、その隙に地球人が願いを叶えるという作戦なのですね」

 間違ってはいない。
 だが、それだけでもないんだがな。

「まったく、ない頭を絞ったものですね。では、私はギニュー隊長より強いというサイヤ人を叩きますので、誰かベジータの相手をしてあげてください」

 そう言って、俺の横を通ろうとするフリーザの前に立ちふさがってやる。

「なんのつもりですか?」
「お前は俺が倒す。そう言っただろう?」

 俺の言葉に、フリーザはため息を吐く。

「誰か、このバカに身の程を教えてあげてください」

 誰がバカだ。
 自覚していても、人に言われると地味に傷つくんだぞ。

 フリーザの命令に応え、前に出たのは青い燕尾服のショートカットの少女。
 バータか。普通に考えれば、俺を潰すには充分な戦闘力を持つ女だが、今の俺の相手をするには実力が不足している。
 そのことを、さっさと教えてやるのも一つの優しさだろう。
 そう思い、フリーザからバータに注意を移した瞬間、空気を震わせる異様な音波が周囲に響き渡り、同時に音ではなく直接頭に響く声が、ある言葉を伝えてきた。

『さあ、願いを言え。どんな願いでも三つだけ叶えてやろう』

 それは、天空に浮遊するはすたあの言葉。
 考えてみたら、あっちも願いをかなえるために出てきたのに、放置とかされたくないよな。
 ナメック語で願わないとかなえてくれないくせに、向こうの意思は言語に関係なく伝わってくるとかふざけた話だが。

「おっと、そうでした」

 今、気づいたと言わんばかりにフリーザが天を見上げ、口を開く。

「では、ベジータを子供に戻してください! 十歳くらいの頃の私より身長が低かった頃に!」

 わー、本気で言いやがった。
 死人を出したりと、ここまでに騒ぎが大きくなったのに、あくまでその願いとか最悪だ。

 そんな願いに対し、はすたぁは当然の如く何も答えない。
 何も知らないで聞けば、願いのバカバカしさに聞こえないふりをしているようにも見えるが、実際にはナメック語で言わなかったから無効になっただけだ。
 もちろん、そんな事実を知らないフリーザは、いつ願い事が叶うのかと、はすたぁと俺を交互に見比べ、そしてその間にカカロットたちの連れてきたナメック星人のガキが口を開く。

「────────!!」

 それは、人間には聞き取ることはできても、何と言ったのか認識できない奇怪な言葉。
 それを言語として認識したのだろう、はすたあが鱗に覆われた不定形な肉体をくねらせる。

「たやすいことだ。地球にいるピッコロというナメック星人を蘇らしてやろう」
「な?」

 自分の願いを無視したわけのわからない返答に、フリーザが驚愕する。

「どういうことですか!?」
「ああ、実はナメック語で言わないと、願いごとを聞いてくれないらしいぞ」
「そんなっ!! では、あのナメック星人のガキを……」

 フリーザがそう呟いた瞬間、はすたぁはスウッと姿を消し、同時に黒雲も消えて世界は太陽を取り戻し、ボトリボトリとドラゴンボールだったのであろう七つの石球が落ちてくる。
 なんぞ?

「最長老様に寿命が……」

 そんな声デンデのが聞こえた。
 ああ、そういうことか。
 しかし、最長老がほっといても勝手に死ぬ年齢だったとか、徒労感が半端ないな。
 俺、絶対ナメック星にくる必要なかったよな。結果論だが。

「うふっ」

 フリーザが、変な声を出す。

「うふふふっふふふふふっ」

 なんだよ、怖いぞ。

「こんな惑星までわざわざ足を運んで、配下を何人も犠牲にし、ギニュー特戦隊まで呼んで、その結末がコレですか……」

 そうだな、残念だな、あきらめれ。

「これはもう、あなた方をじわじわといたぶって、死の恐怖を存分に味わってもらわなくては、収まりそうにありません」

 なんでだよ。
 お前はゲーム気分でやってたんだから、勝っても負けても爽やかに終わらそうぜ。俺は、この上なく真剣だったけどな。

「さあ、バータさん。ベジータをやってしまいなさい。性的な意味ではなく」

 言い直すと、かえっていかがわしく聞こえるな。
 そんなことを考えてしまう現在の俺には、精神的な余裕というものがあった。
 なんだかんだ言っても、フリーザが今ではザーボンとドドリアを超えるに至った俺を殺害することはありえないし、もうドラゴンボールで子供にされる心配もない。更には……。

 たんっ。

 軽く地を蹴っただけの俺は、しかし宇宙一のスピードを自称するバータに視認できない速度で、その目前に迫り下腹に拳をめり込ませ、拳の一撃を受けた少女は一言の言葉を発することも出来ずに崩れ落ちる。

「へえ? 随分と実力を上げたようですね」

 バータを一撃で沈める俺の実力にも、フリーザは動じない。
 結局のところ、特戦隊ですらフリーザにとっては優秀な駒でしかない戦闘力ということなのだろう。だが、

「次は、お前だ!」

 俺は、違う。
 今の俺は、フリーザにも匹敵する戦闘力を身につけたのだ。

「まったく……」

 指を突き付けての宣言に、フリーザは肩をすくめる。

「目を覚ましてあげないといけないようですね」

 ドンッと蹴った土を爆発させるほどの勢いでフリーザが俺に迫る。
 まともに食らえば、人体などその一撃だけで地上から消滅させるほどの威力を秘めた拳を俺の左手が受け止める。
 その一撃で理解する。やはり、いまだにフリーザの戦闘力は俺を上回る。
 今の一撃はフリーザの本気ではない。
 にもかかわらず、受け止めた俺の左手からは骨が砕けそうなほどの痛みを伝えてくる。
 そして、同時にもはやフリーザとの差が絶対のものでなくなったことも理解する。
 そうでなくては、手加減したものとはいえ、フリーザの拳を片手で止められるはずがない。
 攻撃を受け止めた左手が限界を迎える前に、空いた右手に拳を作る。握った拳に気を集め、それを爆発させる。
 それは地球人が俺たちと戦ったときに使った、一瞬だけ戦闘力を上げる技。奴らは、これを使い千に届かない戦闘力でサイバイマンに打ち勝った。
 ならば、俺もこの技を使いこなせば戦闘力で勝る相手に打ち勝てるはず。

「だあっ!!」

 突き出す拳は、俺自身が食らったなら即死は免れない威力。
 それを、フリーザが空いた左手で受け止める。
 渾身の一撃を止められたことは微妙にショックだが、へこんでいる余裕は俺にはない。
 というか、気を抜けばその瞬間に拳は握りつぶされ、フリーザの拳が左手を突き破って俺を殴り殺すだろう。

 俺をねじ伏せようと両手に力を入れるフリーザと、そうはさせまいと死力をつくす俺の力が拮抗する。
 どちらが優位に立っているかなどは過ぎるほどに明らかだが、それは気を探る能力がなければわからないこと。
 このまま力比べをしていれば確実に俺が負けるだろうが、そんな持久戦をフリーザが望むわけがない。
 最強を名乗る者は、敵対する者を倒すのに互角の戦いなどをしてはいけないのだから。
 一瞬だが、フリーザの手から力が抜ける。
 それを合図に二人同時に地を蹴り、距離をとる。

「これで、わかったろう? 今の俺には、お前を倒せるだけの実力がある」

 離れるのがもう少し遅ければ、そこで勝負がついていただろうことなどおくびにも出さずに言ってやる。
 そうだ。今の俺なら、フリーザを倒せる。
 と言っても、奴が油断しているときに後ろから殴りかかれば何とかなるだろうと言う程度の勝算ではあるが。

「なるほど、今のあなたの戦闘力とギニュー隊長をも凌駕する、もうサイヤ人の力を借りれば私を倒せると言う算段ですか」

 いや、そんなつもりは更々ないんだがな。

「ですが、その考えは甘いと言っておきましょう。あなたも知っているように私は変身型の宇宙人です」
「え?」

 初耳な言葉に、聞き返してしまう俺。

「え?」

 同じように初耳なんだろうキュイとかの言葉が聞こえて来る。

「え?」

 俺の反応に困惑するフリーザ。

「えーと、聞いてますよね。ザーボンさんが変身したときとかに話の流れで」
「いや、聞いてない」

 ぶんぶんと首を振る。
 念のためにキュイに目で問いかけてみるが、あっちもぶんぶんと首を振る。

「…………」

 無言で見つめていると、フリーザは口の前に拳を持ってきて、コホンと咳払い。

「しかし、わたしの変身はザーボンさんとは違います」

 お、何事もなかったように話を続けるつもりだ。

「多くの宇宙人は、平常時に無駄に体力を消耗しないために変身というプロセスで戦闘形態になりますが、私の場合は強すぎる自分の力を抑えるために変身をするのです。
 わかりますか? そうしなければ手加減ができないのです。ですが、今その封印を解きましょう」

 フリーザが自分の頭に右手をかける。その意味はわかる。 
 それは、異相の宇宙人に見せかけるための覆面。
 本当に変身するのなら、それは邪魔にしかなるまい。
 マスクが外され、地に落ちる。

「また女の子だってー!?」

 マスクの下から現れた金髪の少女の顔に、クリリンの驚愕の声が聞こえる。いや、もう用事も済んだんだし帰れよお前らは。

 そんな外の声には構わず、フリーザは次に戦闘用プロテクターを脱ぎ、アンダースーツ姿になる。
 肌にぴったりと張り付いたアンダースーツは、フリーザの未成熟な肢体を浮かび上がらせる。
 瞬間、俺の視界が闇に閉ざされた。

「おい?」
「ダメ! 見るな!」

 目隠しして。そんなことを言ってくるのはキュイだ。
 しかし、さっきまでフリーザの傍にいたくせに意外に素早いな。
 まあ、気を探れる今の俺に目隠しなんぞ大して意味がないし、不意打ちとかフリーザがやるとも思えんから別にいいんだが。
 とはいえ、このままの状態もどうだろうと考えていると、フリーザの気が膨れ上がるのを感じた。
 おお、変身が始まったのか。正直、ガキの体に興味はないが、どんな変身をするのかには興味があるんで、目隠しを外してくれんものだろうか。

「絶対ダメ!」

 そうかよ。
 増大するフリーザの気が頂点に達し、次になにやら布がこすれる音が聞こえた後。いいかげん、この女ぶん殴ってやろうかと凶暴な思考が脳裏をよぎった時、フリーザの「もういいですよ」という声が聞こえて、手が外された。
 そうして俺が見たものは、金髪の女だった。
 その身長は俺より高く、風に流れる金髪は星々の輝きを宿したように煌き、両の瞳は空を映したような蒼。
 着ている服は、それまでのような無骨な戦闘服ではなく、水夫の服を改造したような黒の上着と、足首まで隠すような長いスカート。ついでに、両手には指貫グローブをはめている。
 はっきり言って、色彩だけなら変身前と同じなはずなのに、それは元のフリーザからは考えられない麗しさをもった女だった。服のチョイスはどうかと思うが。
 ただ……、

「胸だけ変わってないのな」

 そんな言葉を口にしたのは俺だったのかもしれないし、ラディッツかもしれないし、まだいなくなってない地球人たちのクリリンという可能性も考えられる。
 なんにしろ、自分が口に出したかどうかの自覚すら出来ない言葉を誰が出したかなど知る術はあるまい。
 と思っていたら、ラディッツが吹っ飛んだ。そうか、あいつだったか。いつの間に目を覚ましてたんだか。

 まあ、変身したフリーザがキュイ辺りでは比較にもならない美貌を持った女に変身したところで、これからやることが変わるわけではない。ほっぺたをつねるなキュイ。口に出してもないことで怒られる覚えはないぞ。
 俺がやることと言えば、フリーザを倒すことである。
 手も足も伸び、胸のサイズ以外は別人と言っても間違いはないほどの変貌を遂げたことなど俺にはどうでもいいことだ。
 もっとも、すでに俺の戦闘力では届かないところまでフリーザの戦闘力が上がっている気がするが。

 だけど、やるしかない。
 覚悟を決めるしかないなと思う。
 恐ろしいことに、変身した今のフリーザよりも上の戦闘力をカカロットが持っているのだから。

◆◇◆◇◆

「さて」

 赤いドレスの少女が倒れた青い燕尾服の少女を抱き上げ、カボチャを縦に半分ほど潰したような形の宇宙船に向かう。
 それは、仲間を思っての行動としては正しいが、敵を目前としての行動としては間違っているはずである。

「ちょっと、どこに行くつもり?」

 だから、そんなおかっぱ頭の少女の問いかけも当然のものであろうが、ドレスの少女は気にしない。

「この子を寝かせてきたら、お茶でも持ってくるわ」

 迷いなく言い切る少女に、おかっぱ少女は二の句が告げない。

「そっちのサイヤ人と地球人もいる? いるのなら、あなたたちの分も持ってくるけど」

 急に、話を振られハゲ頭の地球人が「へ?」と間抜けな声を上げる。

「えーと、俺たちって敵同士だよな……」

 そんな返答に、少女は「そうなの?」と真顔で応じる。

「ベジータにフリーザ軍に入るように勧誘されたんでしょ?」
「いや、されたけど入るとは言ってない」
「そう。じゃあ、あなたたちは私たちを皆殺しにするつもりなのかしら?」

 問われ、口ごもる。
 クリリンと言う名の地球人の彼は親友であるサイヤ人もそうだが、悪党を叩きのめすことに躊躇いを感じないが、殺すという行為に禁忌を覚えないわけではない。結果的に殺傷してしまった場合は、特に後悔も反省もしないが。
 しかも、その相手が敵意を見せてこない美少女ともなれば、なんだか自分たちの方が悪者のような気もしてくる。錯覚だが。
 そんな彼に何を思ったか、少女はなにやら納得した顔になると、そのまま宇宙船に入り人数分のティーセットとケーキの乗ったテーブルをそのまま運んでくる。

「えっと……」

 自分たちの戦闘力を考えれば、その程度は軽い荷物でしかないと理解できるが、やはり可憐な乙女が軽々とそういうものを運んでくる姿には、やはり違和感がある。
 更に、もう一度、宇宙船に戻ろうとした少女にアプールという名の異相の宇宙人が慌てた様子で駆け寄り話しかけ、すぐに宇宙船に走るとガチャガチャ音を立てて椅子を運び出してくる。
 すると、少女はアプールの用意した椅子に腰かけ、ティーカップに紅茶を注ぎ一口含むと、あっけにとられた顔のキュイや地球人たちに顔を向けて「どうしたの?」と首を傾げる。
 それを受けて、孫悟空の名を持つサイヤ人が、まあいいかと椅子に座りケーキを一口で食べると、紅茶も一息で飲み干してしまう。

「もっと食っていいか?」

 悟空のそんな言葉に、少女は少し眉を顰めた後、アプールに目配せし追加の茶菓子を用意させる。
 なんだかなーとクリリンは思ったりしたが、彼の親友はそういう人間であった。

「でもよ。オラたちは戦わなくていいのか?」

 そんな悟空の当然の言葉に、クリリンたちはもちろん少女の仲間であるはずのキュイやギニューまで、そうそうと同意するが、少女は不思議そうな顔をする。

「そちらには、ギニュー隊長より強いサイヤ人がいるのだから、戦うだけ無駄でしょ?」

 その通りではある。
 フリーザに次ぐ実力者であるギニューを圧倒的に上回る戦闘力を持つ相手に対して、戦いを挑むことに意味などない。
 とはいえ、馴れ合うのもどうだろうと思わなくもない。

「でも、フリーザはオラたちをぶっ飛ばしたいって怒ってたろ?」
「そうね。でも私たちにはどうにもできないわ。そうでしょう、ギニュー隊長?」

 問いかける言葉に、銀髪の女性は悔しそうに頷く。
 認めたくはないが、戦闘力で劣り、切り札のボディチェンジも有効ではない相手に彼女ができることはない。

「フリーザ様以外には、どうしようもない相手よ。こちらとしては、お茶菓子でもてなして、ベジータが叩きのめされるのを見物しながら足止めをするくらいしかできないわ」

 そんな言葉に、ギニューはなるほどと思い、部下である少女の隣に腰かける。

「俺たちが、あんたらをほっといて逃げたらどうするんだ?」

 クリリンの問いかけに、少女は「そうしたければ、どうぞ」と返す。

「でも、フリーザ様から逃げ切れるものなのかしら?」

 そんな疑問をぶつけられて、クリリンは沈黙する。
 ベジータも言っていたではないか。フリーザは地球にまで追いかけていき、自分たちを処分しようとするだろうと。
 見た目はともかく、その戦闘力は自分たちとは桁違いに高いフリーザに地球まで追ってこられてはたまらない。
 いや、今の悟空なら地球まで追ってこられても返り討ちにできそうな気がしないでもないが、それでも惑星一つを簡単に破壊できる相手に来て欲しいとは思わない。

「まあいいか」

 そんなことを呟いたのは悟空で、しょうがないなとクリリンや悟飯も腰かけ、ケーキを食べながらベジータの奮戦を観戦することにするのだった。



[17376] ベジータの選択
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/06/26 20:12
 前回までのあらすじ

 フリーザとの正面対決を決意したベジータだったが、フリーザは変身で戦闘力をあげることで、その心を折りにかかるのだった。
 しかし、ベジータがフリーザの次に倒さなくてはならない孫悟空は更に上を行っていたりしたので、あまり意味がなかった。



「ふふ、今のオレの戦闘力は100万を超えるぞ」

 金髪の女が言う。
 変身前のフリーザとは姉妹のように似た顔をしているが、ただでさえ見た目の年齢が違うのに口調まで変えられては、本当に本人なのか疑わしく感じる。変身するところも見れなかったし。

「そもそも何で、口調が変わってるんだ?」

 これから戦おうってのに我ながら緊張感のない疑問だが、負けたところで殺される心配もドラゴンボールで子供にされる心配もないとなれば、危機感などあるはずもない。
 まあ、もう一つフリーザとの戦いが楽しみだからというのもあるんだがな。
 戦いにもならないほどの差があった頃なら、間違っても戦おうなどと考えなかった俺だが今は違う。
 今の俺の戦闘力は、変身前のフリーザにも劣る。
 だが、それでも俺は負けないと決めた。
 そして、負けさえしなければ、どんな戦いもサイヤ人は最終的に勝利するのだ。
 対するフリーザは無言。
 しかし、別のところから答えが返ってきた。

「それは多分、大組織のトップがチビのクセにチンピラみたいな口調を使ってたら舐められるから、今までのは作ってたんじゃないか?」

 なるほど、事実かどうかはわからんが納得できる解釈だな。
 あと、さっきフリーザに吹っ飛ばされたばかりなのに、いつの間に復活したラディッツ。
 思ったよりタフだな。

 そんな動じた風もない俺に、フリーザが呆れたように口を開く。

「まあ、スカウターで拾える数値じゃないから実感できなくてもしょうがないか。見せてやろう、変身したオレの実力をな」

 言葉を吐くと同時に無造作に振られた右腕は、それだけで爆発のような衝撃波を生み出し、ただ立っていることすらできなくなった俺は空に逃れる。

「どうした? このくらいのこと、サイヤ人にだってできるぞ」

 嘲笑と共に吐き出される言葉は、威力の違いを考慮しなければ事実と言える。
 だが、同じことができるからこそ、生み出される破壊力の違いからフリーザと俺の戦闘力の差を見せ付けることになる。
 はっきり言って今の俺の戦闘力では、地球人のような多少の戦闘力の差を埋める気の運用をした程度では戦いにもなるまい。
 だが、勝つ術がないわけでもない。

「へえ?」

 地上に降りた俺に、フリーザが感心したような呆れたような声を漏らす。
 それは、圧倒的な実力差を持つ相手と正面から戦おうと言う暴挙にも見えたろう。
 だが、これは俺にとって必要なことだ。
 サイヤ人は、無自覚に気を操り息をするように自然に空を飛ぶことができるが、それをする余裕すらないほどの集中を必要としていたから。
 体内を巡るの気の流れを、完全に制御する。気を抑えるとか爆発させるとか言うレベルではない完全制御。
 それが、今の俺には必要だ。それで初めて、フリーザと戦える術を俺は手にする。

「界王拳……」

 そんな名前の技だったろうか。
 瞬間的にだが、自分の戦闘力を二倍三倍と上げていくカカロットの技。
 同じサイヤ人だ。下級戦士に過ぎない奴にできて、俺にできないことなどない。

「よし!」

 全身に巡る気を感知することで、上手く自分の戦闘力を倍化させることができたと感じた俺は、膨れ上がった気を身に纏い、フリーザに突撃する。
 倍化された戦闘力の生み出す踏み込みは、フリーザの予測する速度を容易く超え、繰り出す拳を防御する暇を与えない。
 俺の右拳が、フリーザの横っ面を打つ。
 身長は俺より高いが、戦闘力のわりに筋肉がついていない体は軽く、一撃で体を浮かせ吹き飛ぼうとする体に追いつき、腕を振りぬいた勢いのまま体を回転させて、追撃の回し蹴りを上段から落としてフリーザを地に沈める。
 隕石でも落ちたのかと疑う、クレーターを作るほどの衝撃。
 それでも、まだフリーザを倒せたという保証はない。
 倍化させた戦闘力のまま、ボールでも持つように構えた両の手の間に、全身の気を集めたエネルギー弾を作り出す。

「喰らえ!」

 解き放つ一撃は、今の戦闘力で出せる最高のもの。
 それが、倒れたままのフリーザに直撃し爆発する。

「やったか!?」

 思わず呟いた言葉は、そうであってくれという願望。
 今の一撃で倒せてなければ、さらに戦闘力を倍化させなければならないが、見よう見まねの界王拳はカカロットに比べ制御が甘いのか二倍程度の倍化で全身の筋肉が悲鳴を上げている。
 はたして、俺の肉体は何倍までの界王拳に耐えられるものやら。

「驚いたな」

 そんな言葉が、土煙の向こうから聞こえてくる。
 それはフリーザの声であり、そこに重大なダメージを感じさせるものはない。

「今の攻撃、変身前に喰らっていれば死んでいたところだ」

 土煙が晴れた後に姿を現したフリーザは、髪には土がつき、着ていた服が所々破れ、スカートもスリットのように裂けていたが、本人にはかすり傷程度の負傷しか見受けられず顔には勝利を疑うことのない笑みが浮かんでいる。
 つまり、二倍程度では変身後のフリーザは倒せないということだ。

「まいったな」

 泣き言を言いたい気持ちを抑えて、また気を操ることに集中する。
 フリーザの戦闘力は、自己申告によると変身前で53万で変身後は100万以上。
 つまりは、二倍になっているということで、本人の変身前なら倒せていたという発言を真に受ければ、今の変身後のフリーザを倒すには四倍の界王拳を使う必要があるということになる。
 まあ、殺す必要はないというか死なれたらまずいので三倍程度でも何とかなるのかもしれないが、二倍程度で苦痛を訴えている俺の筋肉は三倍にすら耐えてくれるかどうか疑問であるし、次はさっきのように油断はしてくれないだろうから、まともに攻撃を喰らってくれるとも思えない。
 だが、だからと言って諦めるわけにもいかないなと拳を握る。
 そんな決死の覚悟を前にしたフリーザがフンとつまらなそうに鼻を鳴らす。

「まだ、諦めないのか。オレに、勝てるとでも思っているのか?」
「さあな、俺はお前と戦って勝つ。ただ、それだけだ」

 そう。どう思ってるかなど関係ない。
 俺は、フリーザと戦う。そして、勝つ。それ以外の選択肢などないのだから。

「そうですか……」

 答えるフリーザは残念そうな顔。そして、やれやれと首を振りため息を吐くと、また口を開く。

「オレは変身型の宇宙人だ」

 言いながら、髪や服についた土を払い落とすフリーザに、そうだなと俺は頷く。

「そして、オレは変身をあと二回残している」

 なん……だと……。

「さあ、恐怖しろ。オレの圧倒的な力に」

 その言葉と共に、フリーザの肉体が膨張する。
 その細い手足が、薄い胸が、くびれた胴が、荒れ狂う気とともに膨れ上がる筋肉の鎧に覆われ始める。
 身を包んだ服は内圧に耐えかねてはじけ飛び、中から現れた肌に張り付いたアンダースーツが、二回の変身を遂げた後の逞しく筋肉の発達した肉体を見せ付ける。
 力を入れて握れば、それだけで折れそうだった二の腕を覆うは女の腰ほどの太さのある上腕二頭筋。あるのかないのか判断の難しかった薄い乳房は、鉄板を思わせる厚い胸板を覆う大胸筋に。華奢だった肩にはプロテクターでもつけているかのような三角筋。程々に肉のついていただけの柔らかそうな太ももは逞しい大腿四頭筋に覆われる。
 これまでと違い、見た目にも強そうな世紀末覇者的姿に変わったフリーザは、当然そこから発する気もさっきまでとは比べ物にもならない。

「では、次はこちらが攻撃をする番ですね」
「ちっ! 三倍界王拳」

 フリーザが一歩をこちらに踏み出そうとした瞬間に、とっさに戦闘力を倍化させて土を蹴って俺は空に飛び上がる。
 流石に戦闘力の差が大きすぎる。界王拳を使っても耐えられる保証はないし、そもそも使うだけで肉体にダメージが残るような技を防御に多用などしてられない。
 幸いと言えるのかどうかわからんが、体が大きくなり筋肉質な肉体になったということは、パワーは上がったが、その分スピードを犠牲にしているはずだ。
 とりあえず距離をとって……。

「おやおや、お久しぶりですね」

 人の形をした筋肉と言っても間違いではない気がしてくる金髪の女が、まるでずっと前からそこで待っていたかのような腕を組んだ落ち着いた姿で、そんなことを言ってくる。
 バカな。ここまでのスピードを出せるほどに戦闘力を上げたというのか?
 驚愕する俺に満足気な笑みを顔に浮かべると、フリーザは組んでいた手を解き、両手を体の前に持ち上げる。

「次は、わたくしが攻撃をする番だと言いましたよね」

 胸の前に持ち上げた手を突き出す。
 気を込めてもいない、ただそれだけの挙動。
 それだけの動作が生み出した衝撃波が俺の体に届き、戦闘服を貫き血を流させる。

「さあ、どんどん行きますよ」

 フリーザが、拳を握ってもいない力の入らない腕を続けて動かす。
 それだけで、銃弾の連射を喰らったように俺の体が傷ついていく。音速程度のスピードで飛ぶ弾丸なんぞなら、止めるも避けるも簡単で直撃しても傷一つつかない俺の肉体が、時間と共に傷ついていく。
 相手が、気弾を撃ってきているのなら、かわしようもあるかもしれないが、ただの衝撃波ではどうにもならない。
 まあ、気弾なら最初の一撃を喰らったところで、俺は死んでいたのだろうが。
 どうすればいい?
 そんなことを考えてしまった俺は、危機感が足りなかったのだろう。
 体を丸めて身を守っていた俺は、一瞬だけ攻撃が止んだことに気づいて青ざめた。

「四倍界王拳!」

 使うだけで自爆しそうなほどに戦闘力を倍化させた直後、衝撃が体を襲い落下する。
 それが、フリーザに蹴り落とされたせいだと気づいたのは、地面に激突した後だ。
 衝撃に一瞬息が止まった。ひょっとしたら心臓も止まったのかも知れない。
 戦闘力を四倍に上げてすら、まったく対応できないスピードと、今までの人生で味わったことのない最強の一撃。
 それでも、フリーザは手加減をしているのだと理解できてしまう。
 そうでなければ、俺の肉体は木っ端微塵になっていたに違いない。

 まいったな、勝てない。
 そんなことを冷静に思う。
 四倍でも及ばないフリーザの実力。
 しかも、二倍でも、体に負担をかける界王拳を四倍まで使った俺の肉体は、たったの一撃の蹴りを受けただけで、すでに限界を訴えている。
 だが、

「負けられないんだよ!」

 痛みなど知るかと身を起こす。
 ふらつく足に無理やり体重を支えさせる。
 そんな俺の前の大地に、ゆっくりと降り立ったフリーザが、訝しげに問う。

「何故、そんな傷を負ってまで立ち上がるのですか? わたくしには勝てないことくらい、もう理解できたでしょうに」

 何故だと? そういえば、どうしてだっただろうな。
 二回の変身を済ませた今のフリーザに、俺では勝ち目がない。
 しかも、フリーザはあと一回の変身を残しているのだ。
 実のところ、今のフリーザよりもカカロットの戦闘力は上を行ってたりするが、最後の変身のことを考えれば逆転してもおかしくないほどに二人の差は縮まっているので、もはや俺が頑張る意味は薄くなっている。
 なのに何故、俺は立ち上がった?
 朦朧とした頭を振る。
 揺れる視界は、フリーザを映し、次に何故かくつろいでいる様子で、お茶菓子を食べて、こちらを観戦しているキュイやカカロットを映し、もう一度フリーザを映す。
 そうだ。そうだった。そんなこと決まっているのだ。

「それは俺が……」



選択肢

「キュイが好きだからだ!!」   →キュイエンド『キュイのいた昨日、ベジータのいた明日』へ
「フリーザが好きだからだ!!」 →フリーザエンド『フリーザ 史上最強の嫁』へ
「カカロットが好きだからだ!!」 →悟空エンド『伝説のサイヤ人の伝説』へ


────────────おまけ────────────


「もう、みんな遅いわね。クリリンも悟飯くんも孫くんも何やってるのよ」

 そう愚痴を漏らすのは、クリリンや悟飯と共にナメック星にやってきた人物で、名をブルマという。
 元々、ナメック星への旅に大した危険な要素はない。そのはずだった。
 ナメック星人は温和な種族であり、そこへの旅に危険があるとすれば、それは宇宙船にトラブルがあった場合くらいのものであろう。
 そして、三人の乗った宇宙船には、ナメック星から地球までトラブルなしに飛んできた実例があり、それを安心設計の発明家企業カプセルコーポレーションで調査し修復したのだから、どこかで宇宙海賊かなにかにでも運悪く遭遇しない限り、危険などあるはずがない。
 だから、ブルマも安心して宇宙船に乗り込んだのだ。

 余談だが、この広大な宇宙に比して海賊というものは少ない。
 なにしろ、この宇宙にはフリーザ軍という凶悪な大組織がある。
 この組織は、並び立つものを認めない。
 当然だろう。フリーザ軍は営利組織だ。別な組織の存在など認めていては立ち行かなくなる。
 だから、宇宙海賊に限らず悪人の類は、よほどの小物か逆にフリーザ本人にでも遭遇しなければ敗れることのないほどの希少な強者たち以外は淘汰されることになるわけである。
 よって、ブルマたちが途中の道で危険な目にあう可能性は低く、実際にあわなかった。
 なのに、目的地たるナメック星で、この宇宙で一番危険な組織であるフリーザ軍と遭遇してしまったのだから、間違っても幸運とは言えない。
 おかげで、宇宙船が壊されたり洞窟に隠れなければならなくなったりとろくでもない事態に陥り、愚痴が口から出る機会が増えてしまった。
 それでも、他に誰かがいれば退屈もせずに済んだのだろうが、一行の目的はこの星のドラゴンボールを集め願いを叶えることなので、共に宇宙船に乗ってきた二人はそっち関係で出て行ってしまい、ブルマは一人で待つことになってしまった。
 この事態は、ブルマにとって誰よりも信頼に値する友人である孫悟空が来れば解決するはずであると信じていたのに、いつまで待っても自分に会いに来る様子がない。

「いっそ、あたしもドラゴンボールを捜しに行こうかしら」

 そんなことを言ってみるが、フリーザ軍の荒くれ者がいるかもしれないと思うと、足が止まる。
 だって、しかたがないではないか。

「うっかり出かけて、あたしの、この魅力的な姿を見た荒くれ者に襲われたら怖いじゃない!」

 テカテカと光を反射する鋼のような硬度を思わせる筋肉に、逸物だけを隠す褌だけを身に纏ったスキンヘッドの大男が、岩をも一撃で粉砕できそうなほどに鍛え上げられた両腕で自身の肢体を抱きしめ野太い声で叫ぶ。
 だからと言って、男たちに相手にされなかったりすると、逆に激怒するブルマは、どこに出しても恥ずかしくない立派な漢女おとめであった。



[17376] フリーザ 史上最強の嫁
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/07/10 20:07
 前回までのあらすじ

 実は、あと二回の変身を残していたフリーザの見せた第三形態に手も足もだせずに倒れたベジータ。
 しかし、ベジータは立ち上がった。
 そして、なんかカミングアウトした。



「フリーザが好きだからだ!!」

 叫び、気合と共に、その体に力を入れる。
 目の前にいるフリーザが、なにやら呆けた表情になるが、それでも俺には届かない領域にある戦闘力から感じる威圧感が減じることはない。
 当然であろう。俺と奴には、それほどの戦闘力の差があったのだから。

 俺がフリーザに惹かれ始めたのは、まだ幼かった頃のこと。
 初めて会った時、その瞬間から俺は奴が自分など到底及ばない存在だと理解していた。
 だから憧れた。
 絶対の力を持った孤高の存在。そんなものに憧れないサイヤ人などいるものか。

 その日から、しばらくの間、戦いは俺の目的ではなく手段になっていた。
 サイヤ人は、戦いを好みそれを目的に生きる生き物だ。
 だけど、俺のそれは自分を高めるための手段に過ぎなくなった。
 戦い、力をつけ、いずれフリーザに並ぶ存在となる。それが、俺の目的だった。
 俺が、現実を知らない子供だった頃の話だ。

 俺がどう頑張っても、俺が最高の天才でも、結局はサイヤ人ではフリーザには届かない。
 大人になって、そのことに気づいてしまった。
 だから、俺は自分の気持ちを封じた。
 忘れて、なかったことにした。
 自分が、負け犬だと認めるのが悔しかったから。
 自分には、フリーザの隣に立つ資格などないと認めるのが悲しかったから。

 だけど、ここナメック星で力をつけて、そんな俺を軽々と超えたカカロットを見て、フリーザの横に立つという夢が幻想ではないことに気づいて、現金なことに過去に封じた想いが蘇った。
 フリーザが好きだと思い出してしまった。

「だから俺は……。お前に負けてやれない」

 拳を握る。五倍まで上げた界王拳で増幅した体中の力を、両の拳にだけ集中させる。

「お前に勝てないことなんか、最初からわかっている。だけど、俺は諦めるわけには、心を折るわけにはいかないんだよっ!!」

 全てを賭けた拳をぶつけに走る俺を、何故かフリーザは棒立ちで迎えた。

◆◇◆◇◆

 幼い頃から、フリーザには強大な戦闘力があった。
 それは、鍛えたとか突然変異的な天才戦士だからとかそういう特別な理由はなく、ただ単にそういう種族だったからである。
 もし、その種族が数を増やしていれば、この宇宙の他の種族はすぐに駆逐されていただろうが、宇宙にとって幸いなことに強大な力と長い寿命を持つその種族は出生率が低いのか、フリーザの知る限り自分以外では母と姉しか存在しない。
 父親の存在は、フリーザの記憶にはない。
 それゆえに、後にフリーザが宇宙最強を名乗ったことに異を唱える者は出現しなかったわけだが、それは彼女にとって必ずしも幸せなことではなかった。
 長ずれば宇宙最強の力を持つことを喜べても、幼い頃には強大に過ぎる力は疎ましいものでしかない。
 子供は、弱く脆い。
 だからこそ、幼い頃には常に限界まで力を出し尽くして遊ぶことができる。友達と遊び、笑い合い、喧嘩もできる。
 だが、それがフリーザには許されなかった。
 幼い頃には、すでに惑星すら容易く破壊できる力を持たされた幼子に、全力で遊ぶ自由はない。
 ちょっと叩いただけの力加減で、大人の戦士を即死させる手加減のできない幼子に、他の子供と遊ぶ権利はない。
 家族以外には、指一本触れることも許されない孤独な幼子。それが、幼少期のフリーザであった。
 しかも、その家族すらフリーザのそばにはいてくれなかった。
 母のコルドは、当時立ち上げたばかりの企業──故郷の惑星をなくし、放浪するしかない不幸な宇宙人に、環境のいい惑星を売るという、今のフリーザ軍の活動の前身だ──の経営に忙しかったし、姉はと言うと腐っていたので原稿が忙しくて妹の世話どころではなかった。伊達政宗×片倉小十郎は至高。

 力を抑える方法がまったくなかったわけではない。
 宇宙には、戦闘力をコントロールする種族がいたし、彼女の種族は力を抑える方向の変身と言うものも可能ではあったのだ。
 もっとも、戦闘力のコントロールは、元々はより強力な力を引き出すための技術であるし、あまりにも強大に過ぎる彼女の戦闘力を抑えるの簡単なことではなかった。
 そして、変身で力を抑えるのは、まだ体が育ちきっていない頃にやると、体に強い負担がかかり健全な成長を阻害してしまう。
 簡単に言えば、本来の姿に戻ったときに、全力の力に自分の体が耐えられない脆い肉体になってしまうというものだ。
 だが、フリーザは実行してしまった。
 そうする以外に、孤独を埋める方法を知らなかったから。
 おかげで、後にこの事実を知った母は、娘の暴挙に後悔の涙を流したという。
 そして姉は、ショックのあまり南雲薫×土方歳三に乗り換えたという。

 なんにしろ、これで幼い少女の孤独が埋められたかと言うと、そんなことはなかった。

 一回目の変身では、その身の内よりあふれ出る力を外に出さないために、全身が分厚い筋肉の殻に包まれることとなった。
 それは力を抑えると共に、強大に過ぎる力に見合う肉体への成長を阻害する。
 しかも、本来の力を封印したその姿の持つ戦闘力は、それでも他の種族に比べれば大きすぎた。
 ついでに言えば、筋肉に包まれた巨体は当時の彼女の年齢からは、過ぎるほどに大人びていて子供として過ごすなど不可能であった。

 二回目の変身では、その筋肉を無理やり縮め殻の持つ力を弱めた。
 だが、その筋肉は少女の本来の力を無理なく封じるものだったのだ。
 ゆえに、無理な封じは本来の姿に戻るだけで、肉体に負荷がかかる呪いじみたものになり、またその力の封じは最初の変身ほどのものにはなりえなかった。
 
 そして、三度目の変身。
 これ以上は、もはや本来の姿に戻るだけで命にも関るダメージを受けかねない無理な変身を済ませた少女は、年齢よりは少しだけ大人びた姿をしていた。

 その時、三回も力を抑える変身をしても、まだ他の種族なら最強の戦士を指一本で塵も残さないくらいに消してしまえるだけの戦闘力を保持している自分をフリーザは発見した。
 こんな危険な幼女と友達になれる児童が存在するだろうか。いや、いない。
 そんな児童がいたら、幼い少女に、遊んでいるときにうっかり友達を殺してしまったというトラウマを植えつけていたに違いないのだ。
 つまりは、全てが無駄だったと言うこと。
 そんなわけで、ひたすら孤独なだけの人生を仮初めの姿でズンズン驀進したフリーザは、ある頃に伝説の戦士を生み出した種族、サイヤ人が配下になる機会を得た。
 この時に、なんの期待も持たなかったと言えば嘘になる。
 今更、自分たち以上の最強伝説を持つ種族に出会ったからといって意味などない。
 自分はもう孤独に脅えていた子供ではないのだ。見た目はともかく。
 それなのに、自分と対等の存在を期待してしまった。
 そして落胆した。
 サイヤ人は強力な戦闘力を持った戦士ではあっても、力を抑えた自分にすら到底届かない程度の存在でしかなかったのだ。
 もはや、サイヤ人など組織を回す歯車の一種としか考えなくなった頃、少女は少年と出会った。

 少年は、サイヤ人最高の天才と呼ばれていた。
 といっても、しょせんはサイヤ人。宇宙最強の呼び名を冠する少女には、とうてい及ばなかったわけだが、その少年は言ったのだ。
 待っていろ。自分は、もっと強くなる。いつかは、少女と並び超えてみせると。
 身の程知らずな言葉に、少女は少年に悪意に満ちた愉悦を感じる。
 ならば、遊んでやろう。遊びで試してやろうと少女は言った。
 それは、本当に子供がやるような遊びだった。
 だからこそ、少女がやれば相手を殺してしまう遊戯だった。
 その遊びに、少年は生き延びた。
 命を落としていても不思議ではないほどの傷を負いながらも、笑って言ったのだ。次は負けないと。
 その瞬間に、少女は自分が何を欲していたのかに気づいてしまった。
 それを自分に与えられるのが、目の前の少年だけだと決めてしまった。
 この、自分にはとうてい及ばない脆弱な少年に負けを認めてしまった。

 それが、何年も変わらぬ、少女の想いの正体。 

◆◇◆◇◆

 防御を忘れた様子で棒立ちになったフリーザの横面に、俺の全力の一撃が激突する。
 身長も体重も、優に俺を凌駕するであろう筋肉の塊のような女が、まともに受けた衝撃に回転するように吹っ飛ぶ。
 これで倒せなければ、もはや勝ち目などないであろう会心の一撃を喰らったフリーザは、もんどりうって倒れピクリとも動かない。
 その、たった一撃で、俺の体は限界を迎えた。だが、

「ふざけるな。立て、フリーザ!」

 俺は叫ぶ。
 ここでフリーザが立ち上がれば、俺の勝ちはないだろう。
 だけど、こんな勝利を俺は望んでいない。
 俺の目的は実力でフリーザを倒すことだ。
 そうでなくて、宇宙最強の称号を持つ女の隣に並べるものか。
 俺には最速にして渾身の一撃でも、不意打ちでもないかぎりフリーザには回避も防御も可能なレベルでしかない。
 何を考えて、まともに喰らったのかわからないが、こんな譲られるような勝利に価値などあるものか。

「まったく、困った人ですね」

 フリーザが呟きと共に顔を上げる。
 打撃のダメージもそうだが、脳を揺らされたせいでふらつく体を立ち上がらせる。

「倒れているところに追い討ちをかければ勝てたかもしれないというのに、何を考えているのやら」

 愚痴るような言葉とは裏腹に、フリーザの顔には笑みが広がる。
 そうしてたとしても、自分の負けはなかったとでも言いたいのか。なめやがって。

「変身しろ!」

 俺の言葉に、フリーザの笑みが驚きに取って代わる。

「本気で言っているのですか?」

 ああ、本気だとも。
 最後の変身をするまでもなく、フリーザの戦闘力は俺が勝てる領域にはない。
 まして、界王拳の乱用で俺の肉体はボロボロだ。戦闘力は、平常時の半分にも届かないだろう。
 最後の変身を済ませたフリーザに勝てる見込みなど、万に一つどころか億に一つもない。
 だが、それがどうした。
 フリーザの本当の力を、正面から打ち破れなくては意味などないのだ。
 そんな俺の考えなどを知るはずもないフリーザは、少し考えてから「いいでしょう」と返してきた。

「光栄に思いなさい。真の姿のわたくしと戦えるのは、あなたが初めてですよ」

 フリーザが、最後の変身のために体に力を入れる。
 奴が最後の変身を終えたとき、決着がつくのだ。
 もちろん俺は勝つつもりだが、その術がないのも事実。さて、どうしたものかな。
 今更ながらの頭の悪い思考をする俺だったが、その時カカロットが声をかけてきた。

「ちょっと待てよ!!」
「なんです!?」

 返事を返すフリーザにカカロットは言う。

「せっかく、全力を出すんなら、ベジータを回復させてからの方がいいんじゃないか? 今のままじゃ、ベジータを倒すのなんて変身にかかる時間より早く済んじまうことになっぞ」

 まったくその通りだが、ここでメディカルマシーンに数時間篭るとか間抜けなことができるか。

「ベジータ。こいつを……」

 と、カカロットが投げてよこしたのは……豆?
 畑の肉でどうしろと?

「食ってみろー」

 むう。そういえば、悟飯とクリリンに豆を食わせて回復させてたような記憶があるな。
 しかし、戦闘中に自分だけ回復するとかありなのか? その場合は、フリーザも回復するべきじゃないのか?
 あっちは、無傷かつ疲労なしだが。

「いいですよ。何をしようと、わたくしが勝つことに違いはありません」

 余裕に満ちた声で、フリーザが言う。
 なんか、そう言われるとこの豆、食べる気なくすな。食べるけど。
 俺の指よりも小さい豆を口に入れる。
 噛み砕き嚥下すると同時、外傷はもちろん断絶した筋肉が繋がり、不思議なことに消耗した体力まで回復する。
 なんだこりゃ? 便利なんだが、副作用とかないだろうな。

「では、こちらも最後の変身をさせていただきますよ」

 改めてフリーザが体に力を入れる。
 体内で高まる気が渦を巻き、内圧が肌を震わせる。
 荒れ狂うパワーが、ただ立っているだけで大地すら砕き世界を震撼させる。
 なんというか、よくこれほどのパワーが一人の人間の中に納まっているものだと感心していると、ピシリと音を立ててフリーザの皮膚が罅割れた。
 て、おい。自爆でもするのか?
 バカなことを考えている間にも、フリーザの体の亀裂は広がり、その肉体は乾かした泥人形のように砕け落ち始める。
 そして、

「家族以外に見せるのは初めてじゃないかな? ボクの本当の姿をね」

 砕けた巨体の中から、その女が姿を現した。
 また、口調が変わるのかと言う話は置いといて、そいつは今までのフリーザとは決定的に違う存在であった。
 見た目の年齢は、キュイより少し下くらいだろう。
 これだけは残ったアンダースーツから覗く肌は血管が透けそうに白く、筋肉のついていない腕や足は触らなくてもわかるほどに柔らかさを伝えてくる。
 しかし、その顔に浮かぶ不敵な笑みは、どういうわけか短くなった髪と相まって、少年のような活発さを思わせる。
 そして……、

「で、でかい……」

 聞こえてくる信じられないと言いたげなクリリンの声に、俺は無言で同意する。
 そうだ。最後の変身を済ませたフリーザは、それまでからは考えられないくらいに大きかった。肉体の特定部位が。

「どこを、見て言ってるんですか!」

 そんな怒声が聞こえた瞬間には、もうクリリンが吹っ飛んでいた。

「え? 一体何が起こったんですか?」

 何故、隣に座っていたクリリンが突然吹っ飛んだのか理解できていない悟飯が疑問の声を上げるが、茶菓子を食ってる奴らで答えを返せる者はいない。
 いや、カカロットだけは、むしろ何故そんな問いが出てくるのかという方向で疑問を感じていたようだが。
 別に、超常現象が起こったわけではない。
 ただ単に、クリリンの言葉が気に入らなかったらしいフリーザが、指先から小さなエネルギー弾を撃ちだして、奴に一撃食らわせただけの話。
 ただ、それがあまりの超スピードだったので、奴らにはクリリンが突然爆発したようにしか認識できなかったのだ。
 だが、俺にはわかった。見えていた。
 フリーザが、人差指に集めた気弾をクリリンに向けて解き放つ一連の動作が。
 それはつまり、回復した俺の戦闘力が更に高まったことを意味する。
 自分の肉体から、おそらく最後の変身を済ませる前のフリーザが相手なら、確実に勝てていただろうというほどのパワーを感じる。
 気を込めた右腕を振る。
 今の自分の力を確認することを目的とした腕の一振りは風を巻き、竜巻にも似た現象を生み出し偶々腕の延長線上にいたラディッツを吹き飛ばす。

「わざとだろー!」

 いけるな。

「じゃあ、仕切りなおしと行くか」

 両手に握った拳を、腰の高さに構える。体内の気をコントロールし、戦闘力を引き上げる。
 界王拳は、まだ使わない。
 あれは、自分よりも圧倒的に強い者と戦うのに有効な技だが、長期戦には向かない。
 どの程度に戦闘力を倍化させればフリーザを倒せるのかの把握が出来ないうちに乱用しては、さっきの繰り返しにしかならない。
 もっとも、それで出し惜しみをしていて負ければ元も子もない。
 だから、気を燃やし界王拳なしで自身の戦闘力を最大限まで高める。
 極限まで上げた戦闘力でも、今のフリーザのスピードを目で追うことは不可能に近い。そして、それは気だけに頼っても同じこと。
 ゆえに、五感の全てを研ぎ澄ます。
 フリーザの挙動、呼吸の一つ、心臓の鼓動すら逃すまいと誓う。

「わぁ。最後はボクっ娘なのねぇ」
「ロリッ娘、美少女、ガッツと来て、最後はボーイッシュなのに胸は大きいボクっ娘だなんて、流石はフリーザ様ね」

 そんなギニューとジースの会話も、今の俺の心には響かない。
 俺の目も耳も、フリーザにだけ集中しているのだから。

「そっちから、かかって来ないのかい?」

 フリーザの言葉に、俺は答えない。
 口を開く程度の集中の乱れも、敗北に繋がると判断しているから。

「じゃあ、ボクからいくよ」

 フリーザの、構えるでもなく垂らされた右腕が動く直前、奴の右肩がピクリと動いたと見えた時点で地を蹴り横に一歩を踏み出す。
 瞬間、さっきまで俺が立っていた場所を通り過ぎた後方で爆発が起こる。
 速いな。
 そうは思うが、想定以上というわけではない。界王拳なしで対応できないほどではない。
 だから、攻撃直後の隙が出来ることを願って、足を止めることなくフリーザに走る。
 距離は、三歩も足を進めれば拳が届く至近の距離。それが遠く感じるほど俺の足は遅く、フリーザは速い。
 一歩目で、わずかに俺から逸れていたフリーザの指が動く。
 二歩目を強く踏み込み、跳んだ俺の足の下を光弾が通過する。

「だあっ!!」

 気合の声と共に繰り出す飛び蹴りは、宇宙一のスピードを自称するバータにすら回避を許さない超超高速の一撃。
 それが、何の抵抗もなくフリーザの体を貫通する。
 つまりは、それはフリーザの残像であり、奴はすでに移動しているということ。
 カカロットたちと戦う前であれば、今と同じ戦闘力を持っていたとしても対応できなかった高速移動に、気を探ることで相手の位置を掴めるようになった俺は、即座に体を捻り向きを変えると、そちらに飛びかかる。

「見えてるぞ!!」

 実際のところ視認は不可能に近い速度だが、気を読み取ることにより、フリーザの動きを見切ることは可能だ。
 だからこその反応速度に、流石にフリーザも一瞬あっけに取られたらしく動きが止まり、そこに俺の手刀が襲う。
 断言できる。
 この時の俺の一撃は、どうやっても避けられないタイミングだった。
 フリーザが動こうとした瞬間には、俺の手刀は間に紙の一枚を挟むことも出来ないほどに接近し、奴の首の体温を感じることすら可能なほどだった。
 なのに、俺の手刀は空を切った。まるで、残像に惑わされていたかのように。
 どういうことなのか理解は追いつかないが、気を消せないフリーザが今いる位置を探ることは可能だ。
 顔を少し傾ければそれだけで、両手を胸の前で組み余裕の笑みを浮かべる少女の姿が見える。
 なんだか、胸のふくらみが邪魔そうだがな。本人も誰にも見せてなかった姿とか言ってたし、大きい胸に慣れてないんだろうが。

「ちょっと、本気を出したら追いつけないみたいだね」

 フリーザが笑う。
 つまりは、そういうことだ。
 最終形態になったフリーザにとって、今の俺のスピードなど止まっているようなもの。
 俺がどう隙を突こうと、必殺のタイミングで攻撃をしようと、フリーザにしてみれば余裕を持って回避できる速度でしかないということ。
 迂闊な話だ。
 二回のフリーザの変身は、巨大化によるパワーを増やす方向のものであり、その戦闘力に比べればスピードの上昇は控えめであったはずだと言うことを忘れていた。
 最後の変身を済ませたフリーザには、その前の姿のような鈍重な筋肉はついていない。
 筋肉を落とし戦闘力が上がっているのなら、そのスピードの上昇が戦闘力とは比べ物にならないほどものであることなど容易に想像がついたはずだと言うのに。

「どうしたんだい。もう、かかってこないのかい?」

 追撃をかけられない俺に、フリーザが問う。
 その表情には、勝利を確信した笑みが浮かんでいた。
 いや、違うな。フリーザは常に勝利を確信している。
 こいつの興味は勝敗ではなく、俺がどこで敗北を認めるかにしかない。舐められた話だ。

「……界王拳」

 戦闘力を倍化させる。
 まだ、フリーザの底が見えていない今、肉体の負担が激しいこれを使うことは、勝利を諦めるに等しい。
 だが、他に手はない。
 これなしには、戦いにもならないのだから。
 足を曲げ、倍化させた戦闘力で右足に集中した気を爆発させ、地を蹴り拳を握ってフリーザに飛びかかる。
 自身に可能な限界など、遠くに置き去りにした速度で迫る俺を、さすがのフリーザも余裕を持って回避することなどできない。
 絶対の自信という油断があったために、拳の一撃を受け止めざるをえなかったフリーザは、感心したように俺を見返す。

「思ったより、パワーアップしてたようだね」
「……まあな」

 離れ、界王拳を解いて答える。
 単純に、戦闘力が上がっているだけではない。その前の戦闘で、界王拳の扱いに慣れたのだろうか。体への負担も今までより小さくなっている。
 だが、足りない。
 今の一撃を受け止められたときの、フリーザの気を探ることで理解してしまった。
 奴の真の力の前には、今の俺では二倍や三倍の界王拳を使ったところで戦いにもならないことを。

「何を笑っているんだい?」

 少女が問う。
 笑ってするだと? 俺がか?
 フリーザから注意を逸らさないように気をつけながら、自分の口元に手を当てる。
 そして、気づく。その口端が笑みの形につり上がっていることに。
 ああ、そうだ。俺は、圧倒的な戦闘力を持つフリーザと戦えることに歓喜している。
 闘争を好むサイヤ人の本能が、絶対の強者と対峙できることに喜びを感じている。

「まさか、その程度のパワーアップでボクに勝てると思っているのかい?」

 呆れたような、そんな見当違いの言葉に、別な笑いがこみ上げる。
 この状況で笑っている俺を見て、そう思うのは当然なのかもしれない。
 まったく、本気を出していない自分の動きを捉えたくらいで増長するとは、なんとも愚かなことだ。そんなふうに思われているのだろう。
 だけど、それは間違いだ。
 俺は、とっくに勝ち目がないことを理解している。
 理解した上で、宇宙最強だと確信できる相手と戦えることが楽しくてならないだけだ。
 そして、こうも思う。

「勝ってやるさ」

 万が一にも、勝てるなどとは思わない。だけど、負けるつもりもない。
 そうでなくては、楽しくないではないか。
 戦いは、勝つつもりでやるからこそ面白いのだ。

「まったく。君は、もう少し身の程というものを知るべきだね」

 タンッと軽く土を蹴っただけのフリーザが、さっきの俺のそれを上回る速度で俺に襲い掛かる。
 そこから繰り出される拳をかわし、カウンターの右拳をフリーザの左頬に突き入れる。

「え?」

 衝撃で吹き飛ぶフリーザは、何が起こったのかわからない。そんな顔をしたまま、そこら辺にあった岩山に突っ込み、それを破壊した。
 別に何をしたというわけではない。
 二倍の界王拳では対応できない速度に対し、三倍の界王拳で応じカウンターを決めただけの話だ。
 界王拳どころか、気のコントロールのことも知らないフリーザでは、突然スピードを上げた俺に困惑もするのも当然なのだろう。
 もっとも、本当に驚かせただけで、ダメージを与えた様子もないのが情けない限りだ。
 吹き飛ばされた自分の激突だけで周囲の地形を変えるほどの攻撃の直撃をくらったフリーザは、すぐに何のダメージも受けていないような顔で立ち上がり、殴られた頬を不思議そうに触りながら戻ってくる。

「よく、わからないな。戦闘力をコントロールしているようだけど、変化が突然すぎる。どんな裏技を使ってるんだい?」
「教えると思うか?」
「早めに、言っておいた方がいいと思うよ。でないと、手加減をミスって殺してしまうかもしれないし」

 大真面目にそんなことをいう少女に、俺は笑ってしまう。
 俺が三倍の界王拳を使っても、フリーザにとっては、まだまだ戦いにもならないお遊びに過ぎないというのだから。
 そして、それを俺は認める気はない。

「五倍界王拳」

 おそらく、限界であろう高さまで戦闘力を引き上げる。
 そうしなければ、戦いにならないというのなら、やらない選択は俺にはない。

 一歩を踏み出し、至近で握った拳を突き出す。
 下腹を狙った一撃は、フリーザが伸ばした手に止められる。
 ふん、やっぱりか。
 握られた手を引くが、がっちりと掴まれた拳は動かず、逆に俺の体が引き寄せられる。予定通りだがな。
 右腕を引くことでフリーザに向かい移動する体に乗せて突き出す左拳が、フリーザの横っ腹に打ち込まれる。

「このっ!」

 ダメージはなさそうだが、不覚を取ったことに怒りを感じたのだろうフリーザが怒声と共に繰り出した拳が、俺のガードした両腕の上を殴りつける。
 その威力は、五倍の界王拳を使っていたとしても、まともに受ければ両腕をへし折り顔面を砕いてくるほどのもの。
 だから、俺はその衝撃に逆らわず、それどころか自ら後ろに飛んで威力を殺す。
 それをやってすら、拳を受けた腕の骨にヒビを入れたであろう一撃だ。
 もし、フリーザが俺の右拳を受け止めた手を離さずに殴りつけていれば、片腕でしかガードできず後ろに下がることも出来なかった俺は、顔面を砕かれて死んでいただろう。
 だけど、そのことにフリーザは気づかない。気づけない。
 その理由を俺は知っている。
 フリーザは、戦いを知らないのだ。
 当然だろう。奴は、どんな相手でも指一本で倒せる戦闘力を持っている。
 どれほどの戦士が相手でも、戦いにならないのだから、経験を積めるはずもないし、必要もない。
 だから、こちらの攻撃を考えなしに受け止めたり、ちょっとした小手先の技に対応できず、こちらをしとめる機会を逃したりもする。
 もっとも、それはフリーザが手加減に慣れていないことも意味するので、こちらにとっていいことばかりとも言えない。
 さっきの一撃だって、まともに喰らえば死を免れぬ威力であったが、フリーザには俺への殺意など欠片も存在しないわけで、ただ単に手加減を失敗したのだ。
 しかも、手加減をミスったことをフリーザは自覚していないのだから性質が悪い。
 だからと言って、ちゃんと手加減をしてくれなどと情けないことを言うわけにもいかないわけだが。

 両の拳を握り、全身に力を入れる。
 カカロットに、おかしな豆を貰う前なら二倍の界王拳でも、悲鳴を上げていた筋肉には不思議なほどに負担がない。フリーザの拳を受けた左腕は、骨にヒビが入ったらしく、しばらくは使い物になりそうにないが。
 格闘戦では素人と言って間違いのないフリーザは、その上自分の力に振り回されているらしく、俺が気を探る技能を持ってることもあって、先の行動を予測し対応しやすい。
 それを踏まえても、五倍の界王拳では足りないらしいな。
 スピードには先読みでついていけても、肉体の強化が追いついていない。
 今のままでは、こちらの攻撃では直撃を食らわせてもダメージを与えられそうにないし、向こうの攻撃は防いだつもりでも、肉を裂き骨を砕いてくるのだ。
 これでは、勝てる道理などあるはずがない。
 では、十倍くらいに上げればいいのかとも思うが、それでもフリーザの戦闘力には追いつけそうにないし、自滅するだけの予感もする。

「それでも、勝つ気があるならやらないわけにはいかないんだがな」

 口に出すことで、決心を固める。
 界王拳を五倍に押さえておけば、フリーザが自分の強大に過ぎる戦闘力に慣れるまで、傍目には互角にも見える戦いができるだろう。
 だけど、それは敗北までの時間を稼ぐだけでしかない。
 それでは意味がない。俺の望みは、フリーザに勝つことなのだから。
 もっとも、だからと言って十倍界王拳を乱用しようとも思わない。それで自滅しては何の意味もないから。
 だから、やるべきは一瞬で勝負をつけること。
 まったく、界王拳を使わず時間をかけて隙をうかがおうという決心はなんだったのやら。

「六倍界王拳」

 踏み出した右足で大地を蹴る。
 接近する俺を、フリーザは右の手刀で薙ぎ払おうと迎え撃つ。

「七倍界王拳」

 踏み込んだ足に力を入れて跳躍。
 足の下を衝撃波が通過し、それが後ろの山を上下に切断する。
 直撃してたら即死してるんだが、また手加減をミスりやがったな。

「八倍界王拳」

 フリーザの追撃が繰り出される前に、空を蹴るように加速する。
 それを迎え撃とうとフリーザが拳を構える。
 たとえ、界王拳を使っていても奴の攻撃は、ただの一撃で俺に致命傷を負わせる。
 というか、拳が当たらなくても衝撃波だけで死ねる。
 とはいえ、限界を突破した無茶な界王拳を使っているせいか、回避行動を取る余裕はない。

「九倍界王拳」

 左の掌から、気弾を撃ち出す。
 後一歩分進めば、手も届く至近の一撃だが、フリーザにとっては避けるも防御するも簡単なそれ。
 だが、どちらを選んでも構えが崩れる。その隙を俺がつく。
 どっちだ? それによって、次の攻撃の種類を変えようとした俺にフリーザが笑う。
 フリーザは避けない。そんなものでは、ダメージなどないと言わんばかりに、拳を構えた姿勢を崩さない。
 気弾が、直撃する。
 それが爆煙を生み、両者の視界を閉ざす。
 気を探れる俺には、視界が利かないことに大した意味はない。
 そうしてわかったのは、フリーザがそのまま拳を振るおうとしているという事実。
 界王拳を使っての全速移動をしている俺には、奴の拳を回避するのは難しい。視界が利かなくても、その軌道を予測して拳を振るえばいい。自分も、無防備に攻撃を喰らうことになるが、正面からの打ち合いなら、戦闘力で大きく勝るフリーザが負けるはずがないという考えなのだろう。
 それに、考えてみれば俺が気を探ることで視界に頼らず、相手の位置を探れることをフリーザは知らないはずだから、この状況なら避けられるはずがないと考えるのは当然だ。
 そこに、俺は付け入る。

「十倍界王拳」

 呟きと共に更に上昇した戦闘力でもって、軌道をずらす。
 もし、視界が閉ざされてなければ、即座に突き出す拳の軌道を修正し、俺の体を打ち砕ける程度の小さな軌道修正。
 それでもって、フリーザの拳をかいくぐる。
 俺の顔の横を白い拳が通過する。
 かするギリギリの拳が、風圧で俺の頬を切る。

「くたばれ!!」

 十倍に高められた気の全てを、右の拳に込めて突き出す。
 それは、防がれたり回避されれば、全ての体力を使いきり指一本動かせなくなるほどの全力の一撃で、しかも慣れてきたとはいえ、やはり十倍の界王拳は肉体への負担が半端なく、どちらにせよこの攻撃が不発に終われば勝ち目はなくなるとわかっていたので、躊躇いはない。
 俺の全体重を込めた拳が、意外なほどに柔らかいフリーザの体に突き入れられる。俺の拳も砕けたから、錯覚なんだろうけど。
 俺の全ての力を込めた一撃を受けたフリーザは、あっさりと吹き飛び途中にあった岩を貫通し、その後ろにあった海に落ちて、大きな水柱を立てた。
 しばらく待ってみる。
 フリーザは、浮かんでこない。
 やったのか?
 正直、今のは会心一撃だった自信があるが、それで倒せたと信じるには、あまりにもあっけなすぎる。
 ただ、実際もう体も限界なので浮いてくるなよなとも思う。
 いや、でも浮いてこないのは困るか。
 地上だったら、気絶していてくれても問題はないが、水中で気絶して溺れられても困る。
 ちょっと不安になったので、フリーザが落ちた海に近づこうと足を踏み出そうとして、視界が低くなったことに気づく。

「あれ?」

 呟いた言葉の後、今度は景色が横倒しになる。そして、気づく。
 あー、なるほど。足に力が入らなくて倒れたのか。
 まずったな。フリーザが気絶してたら助けなきゃいけないし、そうじゃなかったら俺が負けたことになってしまうじゃないか。
 身を起こそうと両腕に力を入れるが、指一本動かない。
 それどころか、どんどん体から力が抜けていく。
 フリーザは出てこない。体が動かない。
 どうしたものかと考えて、ふと思い出す。
 そういえば、この近くではキュイやギニューたちが観戦しているはずだし、いざとなったらフリーザを助けに来るだろう。
 だから、俺の勝ちでなんの問題もないのだ。
 徐々に意識も遠のいていく。
 あ、そういえばフリーザの気を感知すればいいのを忘れて……。

◆◇◆◇◆

「終わったみてえだな」

 女が呟く。
 その声に、ベジータとフリーザの規格外の戦闘力のぶつかり合いに言葉のなかった者たちも口を開いた。

「えっと、どっちが勝ったんだ」
「それは、フリーザ様に決まってるわぁ」

 禿頭の男が口に出した疑問に、銀の髪の女が即座に答える。

「だって、フリーザ様に勝てる人なんて、この宇宙には存在しないものぉ」

 それは、根拠としてどうなんだと思うが、禿頭の男──クリリンは、口に出しては何も言わない。
 どちらが勝ったにしろ、それが宇宙最強の存在であろうことには同意できるほどに、二人も戦闘力が飛びぬけていることを実感できるからだ。

「じゃあ、なんで浮かんでこないんでしょう?」

 この場では最年少の少年──悟飯の言葉に、銀髪の女ギニューが口ごもったとき、ザパリと水面から、金の髪の少女が自ら首を出す。

「ほぉら、やっぱりフリーザ様が勝ったじゃない」

 得意げなギニューの言葉は正しく、ベジータは気を失った以上、勝者はフリーザに決定している。
 だけど、金髪の少女は中々水から出て来ようとせず、緊張した面持ちで倒れたベジータを見つめる。
 どうしたのだろうと、観戦している者たちが疑問を感じ始めた頃、フリーザは口を開く。

「ベジータ! ちゃんと、気絶してるかい!!」

 なんだその質問は、と皆が思ったが、とりあえず黒髪の女──孫悟空が「気絶してるぞ」と返すと、ようやく少女は水中から姿を現した。
 海中から上がった少女は、当然ながら全身を濡らし、水を滴らせていた。
 そして、少女の肢体を包むは肌にぴったりはりついたアンダースーツのみである。
 それが何を意味するのかと言えば、水に濡れたアンダースーツがうっすらと透けてしまっていて、恥ずかしそうに胸と股の間に添えた手がなければ、乳房の頂点にある出っ張りや下腹部の陰りが見えてしまうということだ。
 海に落ちたフリーザが浮かんでこなかった理由が、自身の全力の一撃のダメージのせいではなく、そんなものだったとベジータが知れば、無力感に膝を折ることになっていたに違いない。
 そんな少女の肩に、黒いマントが掛けられる。
 それは、赤いドレスを着た金の髪の少女のやったことであり、アプールという名の異相の宇宙人が「流石ジース様、気配りの淑女だ」などと言っていた。
 マントで体を隠したフリーザは、倒れたベジータのところまで歩くとそこで膝を折り、さらりとその顔を撫でる。

「何を笑っているんだろうね」

 呆れたような調子の言葉だが、そのま表情は優しい。

「フリーザ様に勝ったと思ったんじゃないかしら」

 ジースの答えに、「そうかもね」とフリーザは笑う。
 この恥ずかしい格好をどうしようかと海中で考えている間に、自分が勝ったのだと思い込んだベジータがそのまま気を失ったというのは道化じみた話だが、別に馬鹿にする気はない。
 そもそも、フリーザの真の姿を引っ張り出しただけでも、充分に誇るに値するはずである。
 よいしょと、ベジータの背中と膝の下に手を添え持ち上げたフリーザは、茶菓子を食しながら自分たちの戦いを観戦していた者たちに顔を向ける。

「それで、キミたちはどうするつもりだい?」

 その問いは、悟空たち地球から来たものたちに向けられたものだ。
 もはや、ドラゴンボールがない以上、フリーザと地球人たちに争う理由はない。ベジータとやりあうことで、気も晴れた。
 とはいえ、地球から来た三人はフリーザ軍からみて放置するには危険なほどに戦闘力が高く、向こうもナメック星人に味方しているところから考えて、こちらに敵意を持っていないとも考えにくい。
 そんな考えからくる問いに答えたのは、悟空である。

「オラ、おめえと戦いてえ」
「それは、ボクたちが許せないってわけかい?」
「いや、オラつええ奴と戦いてえだけなんだ」

 それは、いかにもサイヤ人らしい発想で、フリーザは少し呆れる。
 同時に、一つの考えを思いつく。

「では、賭けをしないかい」
「賭け?」
「そう。ボクが勝てば、キミはボクの配下になるんだ。いい考えだろ?」
「オラ、おめえらみたいな悪い奴らの手下になる気はねえぞ」
「なら、勝てばいい。君が勝てば、ボクは何でも言うことを聞いてあげよう。もう悪いことはしないと約束してもいい」

 それは、自分が負けるはずなどないという絶対の自信から来た言葉であるが、悟空が断るはずなどないことをフリーザは確信している。
 どのみち、悟空には戦わないと言う選択肢がなく、お互い自分が勝つと思っているのなら、落とし所を用意することに損はないのだから。
 そうして、悟空は少し考えてから答える。

「わかった。じゃあ、戦うのはいつにする?」
「おや? 今すぐ戦う気はないのかい?」
「いや、だって、おめえベジータと戦って弱ってるだろ」

 その言葉に、フリーザは目を剥いて驚く。
 実際、今のフリーザは弱っていた。
 彼女の肉体は、幼い頃より長きに渡って殻に守られ、まったく鍛えられていない。
 ベジータとの戦いで見せた実力は、本来の二割程度だ。なのに、それだけで界王拳を使った後のベジータように、少女の肉体には負担がかかっていたのだ。

「仮にボクが弱っていたとして、そのほうがキミには都合がいいんじゃないのかい? 今のままでも、キミよりボクの方が強いよ」

 そんな言葉に、悟空は笑う。

「かもな。けど、オラは本調子のおめえと戦いてえんだ」

 それは、いかにもサイヤ人らしい考えで、フリーザは笑うしかなかった。

◆◇◆◇◆

「どうしてこうなった」

 呟いてみる。
 それで、現状に変化が起こるわけもなく、俺はぼんやりと膝の上に座った金髪の少女を見る。
 それは、俺たちの組織の頂点に立つフリーザであり、豊満な乳房を押し付けるように俺に抱きついている。
 本当に、どうしてなんだろうなと嘆いてみるが、それで現実が変わるわけでもない。

 何ヶ月か前にナメック星に行った後、フリーザ軍の戦力は増強された。
 それは、フリーザ本人を除けば最強であったアイドル戦士ギニューを凌ぐ実力者を含め、何人もの強力な戦士の勧誘に成功したからで、その一人はあれから更に実力を上げて、今ではフリーザすら超えているのではないかという実力者に成長していた。
 それはいいのだが、それ以来俺は実戦に出させてもらえていない。
 いわく、フリーザの旦那に下っ端がやるような仕事をさせるわけにはいかないとのこと。
 いや、確かに俺はフリーザが好きだし、向こうも同じ気持ちだったことを喜びこそすれ嘆く筋合いはないのだろうが、闘争と破壊を生きがいとするサイヤ人に戦うななどというのは拷問の一種ではなかろうか。
 ついでに言えば、俺に組織経営の能力があるはずもなく、フリーザたちが働いているのを黙ってみているだけと言う、実にやりがいのない仕事である。
 俺がいるせいでフリーザの仕事がはかどってなかったり、どういうわけだかドドリアが休暇を取っていたりで、何故だかとばっちりを受けてこっちの仕事に回されて書類仕事をさせられてるナッパよりはマシなのかも知れないが、それでもサイヤ人的には不満を感じるのは仕方がないではないか。
 ちなみに、ラディッツは現在のフリーザ軍ではギニュー特戦隊を超える最強のチームで働き、弱虫の名をほしいままにしている。

 まったく、どうしたものかとため息を吐きかけた俺の視界いっぱいに、フリーザの顔が広がる。

「どうしたんだい? ボクとこうしてるのに不満でもあるのかい?」

 普段は自信たっぷりのその顔には不安の色があって、一番の問題は自分の心だよなと俺は内心だけでため息を吐き、フリーザの背中と頭の後ろに手を置き顔を接近させていった。



[17376] キュイのいた昨日、ベジータのいた明日
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/07/10 20:06
 前回までのあらすじ

 実は、あと二回の変身を残していたフリーザの見せた第三形態に手も足もだせずに倒れたベジータ。
 しかし、ベジータは立ち上がった。
 そして、なんかカミングアウトした。



「キュイが好きだからだ!!」

 叫び、気合と共に、その体に力を入れる。
 キュイの驚きを込めた視線を背中に感じる。
 あと、他数名の紅茶を吹いたらしい音も聞こえる。
 だけど、そちらを見るわけには行かない。そんな余裕はないのだ。
 俺の目の前には、なんか静かに怒っているフリーザがいるから。
 こりゃあ、勝てないなと思うが、キュイが後ろで俺を見ている限り、無様な姿は晒せないという思考が頭を占める。



 俺がいつからキュイに惹かれていたのかなど、自分でもわからない。
 少なくとも、この星に来る前まで、奴のことなどなんとも思っていなかったはずだ。
 あと、押し倒された時からでもないはずだ。ドドリアのことは、どうとも思ってないし。
 なのに、今ではキュイのことが頭から離れない。
 自分でも、不思議だとは思う。
 あいつとの付き合いは長い。
 父、ベジータ王のフリーザへの反乱の後、反逆者の息子である俺の身柄は他の生き残りのサイヤ人たちとは離されることになった。なぜか、ナッパは一緒だったが。
 それは、俺の身を守る意味もあったのだろう。
 父の行動に怒りを持ち、すでに鬼籍に入った彼の息子である俺に不満をぶつけたいと思ったサイヤ人は少なくなかったはずだ。
 当時、すでに父を超える戦闘力を持つに至っていたとはいえ、その頃の俺はまだ子供であったのだ。
 そんな俺が、周囲全てが敵であるという状況で無事でいられたとは考えにくい。
 だが、そうしてサイヤ人から引き離された俺は、孤独な幼年期を過ごすことになる。
 もっとも、戦っていられれば不満を感じることのないサイヤ人には、孤独を厭う弱い感情は存在しない。
 しかし、フリーザ軍の中でも希少なほどに高い戦闘力を持っていた俺は、それがためにつまらない任務で万が一の事態が起こっては困るという配慮の元に、子供の頃は激戦区に送られることがなかった。
 生死をかけた戦いの中にこそ、喜びを感じるサイヤ人である俺がだ。

 俺がキュイと出会ったのは、そんな頃のことだ。
 同じく高い戦闘力を持つ幹部候補で、歳も近い子供たち。
 そんな二人の第一印象は、お互いに最悪に近いものだったと記憶している。

 初めて会った時のキュイの第一声は、「あんたは、わたしの子分にしてあげるわ」だった。

 今にして思えば、それは希少な戦闘力の高さに目をつけられて、周囲から引き離された寂しい心をもてあました幼い少女が、同じくらいの歳の子供と仲良くなりたくて口にした、精一杯の言葉だったのだろう。
 だけど、サイヤ人であり、同じくらいに幼かった俺に、それを理解することはできなくて。

 返した言葉は、「俺に勝ったら子分にでも何でもなってやるよ」だった。

 その後の勝負の結末は、俺の圧勝。
 そして、なら自分が子分になるといったキュイの言葉に、俺は不要と返した。
 当時の俺の望みは、限界まで体力を使い切る死闘であって、仲間だのなんだのを必要だとは考えていなかったのである。ナッパもいたし。
 だが、これにキュイが傷つかなかったはずがない。
 勇気を振り絞っての言葉が、行動が、あっさりと否定されて面白いはずがないのだから。

 その日からキュイは俺のライバルを名乗るようになった。
 そして、何度も戦いを挑んできた。
 もちろん、そのたびに俺はあいつを叩きのめしてやったのだが、そんなことを繰り返しているうちに俺の心に、無自覚にではあったが不思議な感情が生まれていた。
 それは、キュイにだけは、自分の無様な姿を見せたくないというものだ。
 今までは、その望みが叶わなかったことはなかった。
 俺に勝てるような戦闘力を持ったものはフリーザ軍にも滅多にいないし、それ以外になど皆無といってもいい。カカロットには負けたが、キュイには見られてないし、特別な感情が生まれる前だったからノーカウント。
 そして、フリーザ軍で俺よりも強い奴らは、基本的に忙しくて俺の相手などしている暇などない。
 だから、俺はキュイ本人を含めて誰かに負ける姿を、見せずにいられた。

 そして、それはこれからも続けなくてはならないのだと、今の俺は自覚していたのだ。



「だから俺は……。あいつが見ている限り、お前にだって負けてやるわけにはいかないんだ。フリーザっ!!」

 叫びと共に、界王拳を使う。
 四倍で届かないなら、五倍に上げればいい。
 万全の体調ですら、耐え切れるとは思えない五倍界王拳を今の体調で使うのは自殺行為なのかもしれない。
 だけど、無茶は承知だ。
 そのくらいはしないと、フリーザに勝つなど夢のまた夢だ。
 そうして、自滅覚悟で限界まで戦闘力を上げた俺は、フリーザに顔を向け……。

 そこにオーガの姿を見た。

◆◇◆◇◆◇◆

「ここは、どこだ?」

 ベッドで寝ていたらしい俺は、そんなことを呟いてみた。
 誰に質問したというわけでもない、答えを期待しないものだったのだが、女の声での返答があった。

「売れ残りの惑星に作った、わたしの家だけど?」
「キュイ?」
「そうよ」
「なんで、ここに?」
「わたしの家だから」

 むう。なんか、話がかみ合ってないぞ。

「そもそも、どうして俺たちはここにいるんだ?」

 そうだ。確か、俺はフリーザと戦っていたはずなんじゃ……。
 うおお、思い出そうとすると頭が割れるように痛い。

「ああ、無理しちゃダメよ」

 寝かしつけてくるキュイに、どうも逆らうことのできる体調ではないみたいなので、言われるまま大人しく横になることにするが、やはり疑問は解消しておきたい。

「なあ、俺ってフリーザと戦ってたよな。あれってどうなったんだ?」

 聞いてみたら、不思議そうな顔をされた。

「覚えてないの?」
「思い出そうとすると、頭が痛くなる」

 答えてやると、なんだか乾いた笑い声を上げて、「そりゃそうよね」と言ってきた。いや、マジで何があった?

「うん。簡単に言うと、ベジータはフリーザ様に負けたのよ。そりゃあもう、完膚なきまでにボッコボコに」
「ほう」
「あれは、なんか地獄絵図って感じだったわね。ベジータはボロ雑巾みたいになるし、フリーザ様は鬼みたいな形相で泣きながらベジータ殴り続けるし、みんな引いてたわ」

 そりゃすげえ。よく生きてたな俺。

「なるほど。それで、その後はどうなったんだ」

 やっぱりフリーザとカカロットが戦ったんだろうけど、どっちが勝ったのか気になるからな。
 そんな俺の疑問は案の定で、両者は戦い最終的に最後の変身を済ませたフリーザが勝利したとのこと。
 やっぱり、俺がフリーザと戦った意味はなかったわけだ。
 徒労感はあるが、ちょっとホッとしたかな。最終形態がどんだけ強かったのか見れなかったのは残念だが。
 で、カカロットたちはどうなったのかといえば、普通に地球に帰ったとのこと。
 なんでも、俺を殴って殴って殴りまくった後、なんかもう色々とどうでも良くなって、わざわざ配下にするための交渉とかする気にならないとか言ってたそうだ。
 なんだろうな。俺を殴って仕事のストレスでも解消したのか?
 って、考え込んでたら、急に黙ってこっちを見つめてくるキュイ。どうかしたか?
 まさか、でかい口を叩いておいて、あっさりフリーザにやられたことで、何か言いたいことでもあるんだろうか?

「あ、あのね、えーとね……」

 しばらく待って口を開いたと思えば、はっきりしない口ぶり。ホントどうした?

「ベジータね。フリーザ様と戦ってるときに、凄いこと言ったでしょ」

 やっぱりそれか、確かにフリーザを倒してみせるとか大言が過ぎたか。
 しかしだな、

「確かに、今の俺では、フリーザを倒すなんて無茶かもしれん。だが……」
「じゃなくて!」

 ん?

「わたしのこと、す、すすすす……」
「酢?」
「好きだって言ったでしょ!」

 怒鳴るような言葉を聞き、しばらく考えた俺は、そういえばと思い出す。

「言ったな。それがどうした?」

 疑問を口にしてみたら、顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。なんだ?

「あああ、あんた、どうして、そうあっさりしてるのよ!」

 どうしてって言われてもな。

「俺が、キュイのことが好きだってことに、なにか問題でもあるのか?」

 耳まで赤くして、また黙り込むキュイ。なにを考えてるのかさっぱりわからんな。
 まあいい。他にも疑問はあるし、そっちを先に聞こう。

「それで、なんで俺はここで寝てるんだ?」

 フリーザに負けたのはわかったが、キュイの所有物らしい家のベッドに寝ている事情がわからん。
 そんな当たり前の疑問に、キュイは言いにくそうに目を逸らす。

「えーと、落ち着いて聞いてね。ベジータは、ものすっごくフリーザ様を怒らせちゃったの」

 まあ、あいつに逆らって色々邪魔したからな。つっても、実害がない程度に抑えたはずだが。

「それで、もうベジータの顔なんか、二度と見たくないって言って」

 左遷されたと?

「解雇するから出て行けって」

 ほほう。クビとな。

「…………」
「…………」
「なんだってーっ!!」

 叫ぶ俺、耳を押さえるキュイ。

「なんで、そうなる!?」
「だから、すっごく怒らせちゃったからだって。殺されなかっただけ、ラッキーと思わなきゃ」

 いや、そうなのかも知れんが、お遊びの邪魔をしたからクビとか、理不尽にもほどがあるだろ。
 邪魔しないと、今頃俺はガキにされてたんだし。
 そんな考えを言ってみたら、キュイは、わかりやすく大きなため息を吐き出した。なんだ?

「ベジータって、ホントにもう……。ううん。そんなこと、わたしもフリーザ様もわかっていたわよね」

 なんだ? 何を一人で納得してやがる。

「いいの! それで、行くあてもないし、とりあえず退職金で売れ残りの惑星を安く買い取って、そこに家を建てて住むことにしたのよ」

 へー。ってアレ?

「ここ、お前の家なんだろ?」
「そうよ」
「でも退職金って?」
「わたしも解雇されたもん」

 なるほど。って、オイ!

「いいのよ。ベジータは何も考えなくて、鈍感なんだから」

 バカは言われなれてるが、鈍感は初めてだな。しかも、意味がわからん。
 とはいえ、そこを質問しても答える気はなさそうだ。

「なら、これからどうすればいいんだろうな」

 俺もキュイも戦うことしか知らず、フリーザ軍の外の世界を知らない世間知らずだ。
 そんな俺たちが、これからどうやって生きていけばいいのやら。

「うん。それは、大事なことだと思う。でも、今はもっと大切なことがあると思うの」
「もっと大切なこと?」

 どういうことかと見ていると、キュイはまた顔を赤くすると目を逸らす。

「どうした?」
「こっち見ないでよ」

 顔を見ないで話をしろって? バカ言ってんじゃねえよ。

「ああ! もう、うるさい!!」

 俺の頭に手を回し、胸に抱きしめる。

「おい?」

 顔を上げようとするが、ぎゅっと俺の頭を抱きしめてきて胸の中に埋める。

「だから、見るな! 恥ずかしいことを言おうとしてるんだから」

 何を言おうとしてるのか知らんが、こっちの方が恥ずかしいんじゃなかろうか。
 そう思ったが、とりあえずキュイの言葉を聞くことにする。

「あのね。ベジータは、わたしのことを好きって言ってくれたでしょ。わたしも、ベジータが好き」

 頭を抱く腕に力を入れてくる。

「だからね。少しの間でいいから、わたしと二人っきりでいて! それでしばらくは、い、いちゃいちゃしよう」

 そんなキュイの言葉は、俺の思いもしなかったもので。
 なぜだか、嬉しくなった俺は、強引に頭を上げて恥ずかしそうに目を逸らそうとしたキュイの顔を捕らえ、その唇を奪った。

◆◇◆◇◆

「あの子を代わりに?」

 異相の宇宙人の扮装をした少女の問いに、男は黙って首を縦に振る。
 男の傍には、幸せそうに微笑むお腹を大きくした女性がいて、なんだかムカついた少女はフンと目を逸らし、視線を戻す。
 少女と男と女性が、そろって見ている方向には十歳くらいに見える少年がいて、大人の戦士たちと組み手をしていた。

「あの歳で、戦闘力が二万近い。お買い得だとは思わないか?」
「そうですね。でも、父親も、その父親も、わたしに逆らい戦いを挑んだ人間だということを考えると、簡単には雇えませんね」

 もちろん、あなた自身もねと告げる言葉に、男は痛いところをつかれたと困った顔になる。
 なにしろ、あそこにいる少年は彼の息子なのであり、彼自身は少女に逆らって戦いを挑んだ張本人なのだから。
 とはいえ、男は長らく収入がないので、ここで雇ってもらわないと財政的に大ピンチだ。
 最初は、夫婦二人で雇って貰おうと思っていたのだが、妻が身重であると判明したので本人の希望もあって息子と共に求職に来たわけである。

「まあ、使えなかったり気に入らないと思ったら、すぐに追い出してくれても構わないさ」

 俺も、あいつもなと言う言葉に少女は、ふむと考え込む。
 長らく前線から離れていたとはいえ、男の実力は他の多くの戦士たちと比べれば桁違いに高い。少女の知る限り、男に勝てるだけの戦闘力を持つものなど、少女本人を含めても片手の指で足りるほどしかいない。
 感情的には、まだこの男を復職させるのに躊躇いはある、というか男の隣で微笑んでいる女性を見ると、忘れたはずの怒りが蘇ってくるが、組織のトップとして考えれば男ほどの実力者を、いつまでも遊ばせておく手はない。
 というか、そもそも彼はもちろん、その妻もまた少女の率いる組織では十本の指に入る実力者で、二人を解雇し放逐してしまったのは間違いだったと言うしかないのだが、その辺りは過ぎたことだと割り切ることにする。

 ただ、男の息子に関しては思うことがある。

「あなたの息子である以上、あの子にも激戦区に行ってもらうことになりますが、かまいませんか?」

 本来であれば、高い戦闘力を持つ子供は将来性を買って危険の少ない仕事が回されるかトレーニングのみで実戦は免除されるものだが、男の息子の場合はそうはいかない。
 親子二代に渡って、組織のトップである少女に逆らった血筋であることを考えれば、下手に安全な場所に置けば仲間であるはずの者たちに命を狙われることになりかねない。
 いや、激戦区でも男やその息子に対する周りの対応は変わるまい。
 男本人であれば、仲間に後ろから撃たれたとしても傷一つ負わず相手も殺さずに済ませられるだけの圧倒的な戦闘力を持っているが、息子の方はそうはいかないはずだ。
 そんな考えから来る問いに、男は「かまわない」と笑って答える。

「自分に自信があるのはけっこうですが、まだ幼い実の息子にも同じ扱いを求めるとは冷たい話ですね。やはり愛する妻以外との間にできた子供では、対応も杜撰になるのですかね」
「その話は、もうやめてくれよ……。その件では、何度も怒られたんだから」

 頭を抱える男の声は苦渋に満ちている。

「ていうか、あれは俺のせいじゃねえ!」
「次は、責任転換ですか。なんとも見苦しいですね」
「ちくしょう。ああ言えばこう言う……」

 しかし、少女の言葉は事実であり、男の反論は弱い。
 男の隣に立っている妻は現在、新しいを宿しているが、それは彼女にとって初の子供であり、男の息子である少年は別の女性が産んだ子供である。
 だが、そこに浮気がどうのと言う話はない。
 そもそも、息子が産まれるに至る行為をしたというか、された時には妻となる女性も共にいて、二人して彼を押し倒したのである。
 それが、後に妻となった方には当たらず、もう一人の方の女性が搾り取った種だけが芽吹いたからと言って、彼に罪はあるまい。
 とはいえ、この手の行為で孕んだ側と孕ませた側では男が責められるべきであるのだろうが。
 そんなわけで責任を取れとばかりに、少年は母たる女性によって生まれてすぐに男とその妻に押し付──預けられた。
 女性が男に対して、どんな感情を抱いていたのか、それは誰も知らない。
 はっきりしているのは、女性がお腹を痛めて産んだ我が子より、仕事を優先したと言うことくらいであろう。育児費は毎月男の所に送られていたが。
 それは、ともかく。

「あいつが、望んだことなんだよ」

 男は、少年に視線を戻して言う。

「フリーザ軍に入ることをですか?」
「いや、宇宙最強の女に会いたいんだそうだ」
「え?」
「宇宙最強の嫁さんを貰うんだとさ。なんで、あいつがそんなことを言い出すようになったのか、心当たりはないか?」

 薄く笑いながらそんなことを言う男に、一度男が家族と暮らす惑星にこっそり降りたことのある少女、フリーザは黙って顔を背ける。

「それで、ええっと、そうだ奥さんの方は、これからどうするのですか?」

 あからさまに話を逸らしにかかる少女に、男は肩をすくめて妻に目配せする。

「わたしは、こんな体だから、大人しく家で待ってようかと思います」
「いいんですか? この仕事は一度始めたら年単位の時間が必要になります。それですと、旦那さんとは数年単位であえなくなりますよ」

 意地悪く問いかける少女に、女性はふんわりとした笑みを顔に浮かべる。

「十年間ずっと一緒だったんです。それに、この子がいますから少しくらい会えなくても寂しくありません」

 その優しい微笑みは、母となる者の余裕に満ちていて。
 少女は、なんかムカついた。

「へ、へえー。でも、その間に愛情が冷めるかもしれませんよ。ほら、長距離恋愛は長続きしないっていいますし」
「今更ですよ。それに、その時はもう一度好きになって貰えばいいだけです」

 女性と男は、子供の頃からの知り合いであるが、二人が男と女の関係になったのは、出会ってから長い年月を経てからだ。
 女性は、子供の頃から男に好意を抱いていたが、男の方は違う。
 元々、それほど身近な人間ではなかったせいだろうか、男が好きになったのは美しく成長した後の女であり、子供だった頃の女に対しては知人という程度の認識しかなかった。
 つまりは、男の中で子供の頃と、今の女では別人のようなものなのである。
 だから、女は男の自分への愛情が冷めたとしても、慌てないでいられる自信がある。
 自分の男への愛情は冷めない。
 ならば、男の愛情が薄れたならば、もっといい女になって改めて自分のことを愛させればいいのだと女は思っていた。

 それは、男にとって都合のいい話でありすぎて、少女には真似のできない考え方だったのだけれど。
 だからこそ、少女は両手を上げて女性に降参するしかないのだった。


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