【このいけであそんではいけません】



 毎年何人も行方不明になる池の立て札には、そう書かれていた。

 溺れて沈んだきりなのか、遺体も見付からないという。

 でも、そんなに深い場所に行かなければ大丈夫、と少女は考えた。

 泳げる子が調子に乗って深い場所まで行ったから溺れたんだ。浅い場所で遊ぶだけなら平気。

 そう思っていた少女は、何の警戒心もなく水着姿になり、浅い水際で遊んでいた。

 途端に、池の中央がごぼり、と隆起した。


「……っ?!」


 顔を出したのは蛙である。しかし、サイズは尋常ではない。大人よりも大きい。

 ターゲットを見定めたように、少女へ目がけてまっしぐらに泳いでくる大蛙。

 恐怖に草むらのほうへ駆け出す少女。その細い足へ、ピンク色の舌が巻き付いた。


「あぅっ!」


 足をとられて転ぶ少女。舌はしゅるしゅると足首から太股まで巻き付いて、引っ張ろうとする。

 素肌に触れるグロテスクな生暖かさに顔が青ざめる。引っ張られまいと両手は必死にそこら辺の草を掴むが、 ぶちぶちと抜け千切れてしまい、ずるずると少女の小さい体は引きずられていく。


(いや、助けてっ……助けてっ……!)


 叫ぼうとしたが、恐怖のあまり声が出ない。大きな音を立てようと地面をばんばん叩くも、大した音にはならない。
もっとも池は森の奥深くにあるため、多少叫ぼうが暴れようが、人が通りがからない限り聞こえるはずはない。

 1mほど引きずられた時、手の届く範囲に細い木の幹があった。咄嗟に両手で掴む。

 鉄棒にぶら下がった状態を横向きにしたような格好になる。蛙はさらに力を込めるが、幹はびくともしない。

 諦めてくれれば……と淡い期待を抱いたが、蛙は少女の想像よりも賢かった。

 足に舌を巻き付けたまま、のし、のしと蛙自身が近づいてきたのだった。

 逃げられるはずもない。かといって幹は離せない。蛙はすぐ足下まで来てしまう。


ぱくっ。


 水着姿で露出した両足をくわえられ、足の裏から腿までぬるっとした感触に支配される。


「やあぁぁぁっ! やめて、食べないでぇっ! お願い!」


 ようやく声が出せるようになったものの、泣き叫んでも誰にも届くはずがない。

 もぐもぐと少女の身体は蛙の大口の中へ沈んでいく。

 固い蛙の口が身体を挟むたび、少女の恐怖は増し、パニック状態に近くなる。

 と、蛙の口が止まる。顔の横についている大きな目が、幹を掴んでいる少女の両腕を睨む。

 何を考えたのか、腰まで食べたためにフリーになった舌を、少女の身体の舌から這わせていく。


「あふっ?! んぁ、ひゃ、ひゃめえへへへへへへへへへへっ!」


 舌の先端が、バンザイ状態で固定された少女の脇の下を舐め始めた。

 皮膚の薄い脇の下にはしる刺激に、一瞬握る手が緩む。が、すぐに立ち直る。

 どこで知識を得たのか、蛙は少女の無防備な脇の下をくすぐることで、手を離させようとしている。


「やだやだ許してぇぇっ! わきダメぇっ、だめっくはははははははははっ!!」


 笑い転げながらも、ぎゅっと幹を握り締める。

 蛙の舌はざらついている上にぬめっとした唾液に覆われている。それが刺激に弱い肌を擦るだけで、
気持ち悪さを上回るくすぐったさを感じてしまう。

 目を見開き、涙も涎も垂らしっぱなしで笑い叫ぶ少女。赤に染まった顔の裏には、恐怖があった。

 さらに蛙は、鼻先にある少女の脇腹へ両手を伸ばし、ぐにゅぐにゅと揉み始めた。


「うぁん!? ひゃふわっだめ゙ぇぇぇーーっ!! いひひひひひひひひひっ!!」


 脇の下を舐め回されるのとは違う刺激は、少女にさらなる苦痛を与えた。

 ボールのように丸い蛙の指先が、水着の上から肋骨をぐりぐりぐりと執拗に揉みほぐす。

 マッサージのような動きだが、少女にとっては拷問でしかない。

 びくびくと全身を痙攣させて耐えるが、蛙の胃中に沈み込んだ下半身にも異変が起きていた。


「くっっははははははははあはははははははっ!! あひがもっもまなひれっへははははっ!!」


 水着着用のために晒された両足は、今や蛙の胃の中にある。すべすべとした生足が胃壁に触れた途端、 肉が収縮してぎゅうっと下半身を締め付けてきた。

 びっしりと小さいでこぼこが生えた肉壁が、少女の白い足を付け根から指の股まで揉み揉みし始めたのだ。

 にゅるにゅるの胃液がローションの役割をし、肌と胃壁の摩擦を潤滑にし、気持ち悪さとくすぐったさを倍増させる。

 足をばたつかせても蛙の腹や背中がゴムのように伸びるだけで、すぐに締め付けられてくすぐり地獄へ戻ってしまう。

 全身を襲うくすぐったさに大暴れすると、腰をくわえていた蛙の固い口がもぐもぐと動き、抵抗を抑えようとする。


「無理っむりむりもぉ無理ぃぃやだああぁぁぁぁぁーーあっくぁはははははっ!!」


 必死に幹を握り締めて耐えるが、笑い声が叫びに近くなってきている。

 汗が全身から噴き出し、舌のねっとりとした唾液と混じり、全身を濡らす。

 助けも来ない。逃げる術もない状況で、これ以上は保たない。保つはずがない。

 それならもう楽になろうと、汗でぬるぬる滑る両手を、命綱である幹から離した。

 待ってましたといわんばかりに蛙は、少女の体をもぐもぐと呑み込む……はずだった。


「なっなんでぇぇひへへへはははははっ!? もぉ離したっはなしたよ離したのにいぃひゃあははははははははっ!!」


 蛙は、両手を離した少女を少しだけ引き込むと、また元のようにくすぐり責めを続けだした。

 くすぐり殺されるより食べられてしまうほうがいい、と思って手を離した少女は、半狂乱になって叫び笑う。


「い゙や゙ぁははははははははははっ!!! ぎゃひゃあはははははははははあっあっがっーーーっ!」


 吐くばかりで吸えていない肺の酸素は出尽くした。喉は叫び続けて枯れ始め、叫び声は獣じみてきた。

 少女は、何で? どうして? と頭の中には「?」しか浮かばず、逃げることも抵抗することも考えられなくなっていた。

 全身がびくびくと激しく痙攣し、無茶苦茶に何かを掴もうとする手は草をぶちぶちと引きちぎるのみ。

 あれほど暴れていた両足も脱力し、肉壁に揉みほぐされるままにされていた。


「ゔあ゙ぁ゙ぁぁーーーっ…ぁ…っ…ひぃ…っ…ひっ……っ!? ぁ゙…っ……ぁ゙……っ!!」


 金魚のようにぱくぱく開く口からは、笑い声も聞こえなくなっていた。涎と涙でぐちゃぐちゃになった顔は青ざめ、 くりくりとした愛らしい目に光はなく、焦点すら定まっていない。

 笑い声なのか叫び声なのか、ただ引きつった声だけが喉から漏れる。

 意識がもう途切れる、その直前だった。

 蛙のくすぐり責めが突然止み、瞬時にして彼女の体は蛙の口内へ吸い込まれた。

 抵抗する力は当然、無い。

 するすると少女の小さい体は、蛙の狭い胃の中へ収まった。

 布団で包まれたように息苦しい。しかし、なんとか呼吸をするだけのスキマはあった。

 ひいひいと弱々しい呼吸を繰り替えてなんとか生き繋いだ少女、その頭にどろりとしたものがかけられる。

 胃液だ。白くて黄色がかったねばねばしている。どろどろと流れて少女の綺麗な髪を汚し、全身を汚す。

 そして、胃液を全身へ擦り込んで消化を早めようとしたのか、胃壁がまたもや動き出した。


「うがっ!? あがぁひゃはははははははひぃぃぃぃっいひひひひんくくくくくくくくくくくっ!!」


 前述の通り、胃壁の内側は小指の先ほどの突起がびっしりと生えている。

 そんな肉壁が少女の全身へ吸い付き、ブラシで擦るようにもぐもぐと蠢いていた。

 全身に覆い被さる、くすぐったさの分厚い衣。それに包みこまれ、折角吸い込んだ酸素を破竹の勢いで吐き出す少女。

 みるみるうちに顔が赤くなり、笑い顔には苦痛と絶望が満ちていく。


「ゔあはははははははははっ! も゙ぉやだぁっ! 死ぬしぬっくくくくくくはははははひゃひゃひゃひゃひゃ……!」


 水着の上から肉壁に揉み揉みされるたび、布地がじわじわ薄くなってきている。余計にくすぐったくなってくる。

 さらに少女の敏感な部分、お尻や胸、秘部などにも執拗に吸い付き、満遍なく突起が擦り続けている。

 それらの行為は幼い彼女にとっては快楽ではなく、ただくすぐったさでしかない。

 そしていよいよ獲物を沈黙させるつもりか、肉壁がさらに収縮し、彼女の顔を押し付けるようにめり込ませた。


「んむっ!? んーーーっ!! んぐむむんんんんんっ!!! んぐぅぅぅぅぅーーーーっ!!」


 吸うも吐くもできなくなり、パニックになる少女。しかし強力に締め付ける肉壁からは逃れられない。

 口を開けた途端に突起が潜り込み、隙間から胃液がどろどろと流れ込んでいく。

 喉にひっかかり、胃に溜まる。かあっと胃の中から熱くなっていく。

 吐き出そうとしても口を塞がれ、ごぶっという鈍い音で逆流し、鼻からどろりと垂れてしまう。


「んぐっ! んぐぅぅっ……ぐぶっ!! んぐぐぐっくっんんんっ……!」


 にゅるにゅると胃液を全身に擦り込まれ、体内にも流し込まれ、内外からじわじわ食べられていく。

 擦られすぎたためか、それとも消化されてきているのか、全身の肌がひりついてきた。


「んっ……お…っ…ん…………っが……ごぉっ……!」


 くすぐられながら鼻と口を覆われ、完全に大蛙の胃の中で死を待つ状態で固められてしまった少女。

 大蛙は彼女をゆっくりと消化しながら、再び獲物を待ちかまえるために池へどぼんと落ちた。

 大きく水面が揺れた。その波紋もゆっくりと落ち着き、また静かな池へと戻った。






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