助産師がビタミンKを与えなかったのが原因で生後2カ月の長女が出血症で死亡したとして、山口市の母親(33)が同市の助産師に約5640万円の損害賠償を求める訴えを山口地裁に起こしたことが分かった。厚生労働省の研究班は新生児の血液を固まりやすくするためビタミンKの投与を促しているが、助産師は代わりに、自然療法を提唱する民間団体の砂糖製錠剤を与えていた。
訴状によると、母親は09年8月に女児を出産。生後約1カ月ごろに発熱や嘔吐(おうと)などを起こし、急性硬膜下血腫(けっしゅ)が見つかった。入院先の病院はビタミンK欠乏性出血症と診断し、10月に亡くなった。
厚労省によると、ビタミンKは本来、体内にあるが、胎児には蓄積が少なく生成力も弱いため不足しやすい。不足すると頭蓋(ずがい)内出血や消化管出血などを起こし、生後1カ月前後の乳児に多くみられるという。
同省の研究班は89年に発表した報告書で、「出生直後と生後1週間、同1カ月の計3回、ビタミンKを経口投与させること」との指針を提示。現在は医学従事者向けの教科書にも記載され、認知されているという。
民間団体によると、錠剤は、植物や鉱物などを希釈などした液体を砂糖の玉にしみこませたもの。訴状によると、助産師は母子手帳にビタミンK2のシロップを投与したと記載していたが、実際には錠剤を3回与えていたという。助産師は毎日新聞の取材に「錠剤には、ビタミンKと同じ効用があると思っていた」と話している。
昨年10月、助産師から今回の死亡事故の報告を受けた日本助産師会(東京)が、民間団体にビタミンKの投与を促したところ「『ビタミンKを与えないように』とは指導していない」と答えたという。【井川加菜美】
毎日新聞 2010年7月10日 西部朝刊